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第二章
人魚になるのに何年?
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「ねえ、カナンさん。2人の子供、いつ人魚になるの?」
今日は時間に余裕があったから、俺はカナンさんの執務室に顔を出していた。
向こうの世界のことを知りたいカナンさんと、こっちの世界のことを知りたい俺とで、時間が合ったときにちょくちょく話をしてるんだ。
その時に、ふと疑問に思ってたことを聞いてみた。
この間カナンさんとナギさんで島にハネムーンに行って帰ってきたら、光る玉を抱えててビビった。
ソフトボール大の卵型の、緑色に淡く光る玉。
しかもそれが子供なんだと~。
そんなに簡単に子供が出来るのもビックリだったけど、出来た瞬間に生まれるっていうのには更にビックリだよ。
いや、後で子供の作り方聞いたら簡単じゃなかったけどな。
抜かずの5発とか6発って、ナンデスカソレ。
き、鬼畜じゃんか。
エキス玉渡しておいて心底良かったと思ったよ。
ナギさん死んじゃうよっ。
「え~、俺の心配は~?」
とかふざけたこと言ってるカナンさんには
「エロ魔人は余裕だったでしょ」
とバッサリ切ってやった。
「あはは、まあね~。俺は朝まででも余裕でぶち込みまくれるからね。ナギ相手なら」
「ひいっ」
目がマジです~。
だめだこりゃ、エロ鬼畜魔人に昇格。
「光の玉はね、2年かけて子供になるんだよ」
「ええっ、2年?」
ほえぇ~、そんなにかかるのか。
「そそ、生まれた時は片手に乗るくらいの大きさで、毎日ミルクを与えて2年後にはこれくらいになるんだ」
これくらいとカナンが示したサイズは、ちょうど人間の赤ん坊くらい。
「人間の赤ちゃんと同じくらいなんだね」
「おっ、そうなのか?」
新情報だったらしく、カナンさんが食いついてきた。
「ええっと、リリィの世界は1ヶ月が25日で、12ヶ月で300日だっけ。ってことは600日かぁ」
わ~、大変だなぁ。
「人間の子供はどれくらい?」
「あ~、確か十月十日って言うから、半分くらいかな」
「300日強か。やはり体内で育てると栄養供給が良いからなのか……種族の違いか…」
ぶつぶつ言いながら、カナンさんはメモを取るのに余念がない。
「2年も毎日ミルクをあげて育てるのは大変だね~」
「だから孵化施設が必要なんだ。そこで子供…光の玉を一括で管理して、ミルクやりとか発育状態とかも見守る訳。ただミルクは2~3日に1回でも大丈夫だ。まとめてあげても影響は出ない」
あ、成る程ね。
確かにその方が効率も良いし、間違いもないな。
病院の新生児室?みたいなもんか。
皆共働きで仕事してるから、家に置いとくのは心配だもんな~。
「ほうほう。でも、ミルクは絶対に親のじゃないとダメなの?」
もしも2年経つ前に親に何かあったら、その子はミルクがもらえなくなってしまうよね?
しかも両方の親のミルクが必要なんだよな?
片方だけだと、栄養が偏ってしまうのか?
「他の親のミルクでも育つことは育つ。ただ、体が弱くなる場合が多いな」
ふと、カナンさんの表情が少し曇ったように見えた。
ん~、なんだろう?
「何か、あるの?」
気になって聞いたら、カナンさんが珍しく言い淀んでる。
極秘の話なのかなぁ?
じじぃ~っと見つめると、知の守護者様はやれやれといった感じで苦笑した。
「ナオ様はポヤンとしてるようで、結構敏いよねぇ」
ポヤンって。
うぅ、否定出来ないわ。
勘だけれど、多分これはディープな話だ。
でも、聞けるならば、ちゃんと聞いておきたい。
「俺に話せることだったら、聞いておきたいな」
少し考えていたカナンさんは、扉に近づいてロックをかけた。
そ、そんなにディープな話?他の人には絶対に聞かせられないような?
ちょっと腰が引けたけど、聞きたいって言ったのは俺だしな。
姿勢をしゃきっと正して、真剣に聞く体勢をとった。
「…ライジャ様の親の話は聞いたよな?」
「え?うん、たしか2900才でライジャを産んだって」
「リリィの平均出産適齢期は700才から2500才なんだ。限界は2600才とされる。そして2800才以降は体が急速に老化を始めるんだ」
「ええ?」
じゃあ2900才なんて、もうおじいちゃんってこと?
「多少個人差はあるけどな。俺はこの職務についていたから、最後の半ルルゥ化したリリィの民であるライジャ様の親を知っていたし、ライジャ様を産んだ時のことを知っている」
カナンさんの顔がスゴく辛そうに歪んでる。
「……ライジャ様には一度も話していないが。とても話せる内容ではないしな……酷い状態だった」
「子供を産んだ親は、あれだ……母性本能?が強くなるから、ミルクを一生懸命作る。自分達のミルクで育てないと強い子に育たないからと。でも産むだけでも至難の業だった2人にとって、ミルクまで作るのは無理な話だった」
そりゃそうだ、子供産むのも奇跡に近いよな。
「ココルや他にも同時に産んだ親達は数人いたけど、年齢は2600才くらいだった。それでも孵化に必要な2年分のミルクを作らないうちに命が尽きた。だからココルは少し体が小さいだろう?他の親のミルクで繋いだからだよ」
「……そういうことなのか」
「何人かはミルク不足で人魚化出来なかった個体もある」
ああ、胸が痛い。
可哀想に、一生懸命産んだのに育てきれずに死んでいった親達は悔やみきれなかっただろうな。
「メルサの前任者もあらゆる手を尽くして育てようと頑張っていたよ。メルサはまだその時は補助でついていただけだったから、極秘に当たる部分は見せられてはいない」
それでも、メルサさんは俺達のエキス玉を見て、これで救われると泣いていた。
もっと現場の近くにいたカナンさんは、さらに凄惨な場面も知っているのか。
「………これは、リリィの民には絶対に秘密にしている内容だから、他言無用にしてほしい。ルーリィのナオ様だから話せることだ」
真剣なカナンさんの顔は、厳格な知の守護者の顔になっている。
俺はこくっと、ひとつ頷いた。
「ミルク玉以外にも子供を育てる方法がひとつあるんだ。秘儀に当たるから、リリィの民では知の守護者の俺以外には伝承されていない」
「秘儀?」
ちょっと怖い響きだ。
「子供を産んだカップルで、もうミルク玉を作れない場合、血玉で贖う方法だ」
え……ちだま……血の玉?
「そ……それって…」
「カップルの血液を抽出して、特殊な方法で玉にする。文字通り真っ赤な玉で、異常だからごく一部の関係者にしか見せられない。それはミルク玉よりも高濃度のエキスになるけど、全てを血玉にする為、そのカップルは……」
ハード過ぎる内容で、頭が真っ白になる。
「な……何それ、それじゃあライジャ様の両親は、初めから死ぬつもりでライジャ様を産んだってこと?」
「………そうだ」
何でそんな……理解出来ないよ。
初めからライジャ様は両親の顔を見ることが出来ないと決まってて生まれてきたなんて。
「最終世代のリリィは皆、体が弱い者しか生まれなくて、どうしても強靭な体のリリィが必要だったんだ………そして、ライジャ様のご両親は、知の守護者とベリオンの王だった」
「へっ!?」
え?え?カナンさんの前任者とライジャの前任者?
「ベリオンの王は通常ルルゥの民と対になってルーリィになるからリリィの民とはカップルにならないんだけどね。3000年間ルルゥの民が降臨していないから、ルーリィ無き後は他の者がなるしかなかったんだよ」
「そっか。それで前任の知の守護者は秘儀を知っていたから、王と共にそれを実行したってこと」
「ご名答」
穏やかな目で語るカナンさんの重すぎる秘密に、思わず涙が零れた。
「カ……カナンさん、そんなに淡々と話しちゃダメだよ~」
切な過ぎて、カナンさんにぎゅっとしがみついてしまう。
何とかの拳と同じで、一子相伝みたいに継がれる知の守護者。
極秘の内容だから他に話せないのは分かるけど、独りで抱えるには重すぎるよ。
「辛かったよね。色々と教えてもらった師匠である前任者が王様とそんな秘儀をやるしかなくて、でも他の人には話せなくて…」
達観したように優しく微笑むカナンさんは、スゴく強い人だ。
「それで、ライジャはその血玉で無事に人魚化出来たんだね」
「そうだ。でも血玉で育った影響は、体に出る。ライジャ様の銀髪や鱗の色、他のリリィにはひとりもいないだろう?」
「あ、そういえば……」
綺麗な色で、いつもウットリと見ていたけど、そういえば他にあの色の人はいない。
「子供は親と同じ色になるのが普通なんだ。でもその秘儀で育つと、親の色は受け継がれない。色素が抜けてしまうらしい」
光の玉だった時は与える血玉と同じく真っ赤な色をしていたから、完全に隔離されて育ったんだって。
「ナオ様、ごめんな。重い話をしてしまって」
申し訳なさそうに謝るカナンさんに、ふるふると首を横に振った。
「辛い話は、誰かに聞いてもらうと少しだけ軽くなるって言うしさ。話してもらって良かったよ」
俺がニカっと笑うと、ほっとした表情になる。
ふたりでバレない内にとルルゥの涙を拾う。
俺が悲しくて泣くとライジャが悲しむからな~。てへへ。
「カナンさん、その……秘儀って、お蔵入りに出来る?」
「ん?おくらいり…?」
「あ~、記録から削除って可能?って意味」
「え……」
サラっと聞いたら、カナンさんが目を見開いて固まった。
ダメかなぁ。
「…………」
長く考え込んでいたカナンさんが、俺の目を見て問いかける。
「……それは、半神であるルーリィとしてのお言葉ですか?」
「それならば、可能?」
「……ほぼ前例は無いけど、可能です」
「…では、知の守護者に命じます。えっと、その秘儀は今後伝承しないように。この代で封印してください」
リリィの民を存続させる為の苦渋の選択なのは分かる。
分かるけど、納得出来ないよ。
前の王様も知の守護者さんも、悩んだ上の選択。
でも皆がそんなに辛い思いをするのは悲し過ぎるし、してほしくない。
それに、一歩間違ったら、本当に死に絶えたリリィの世界に、ライジャひとりが佇むことになりかねなかった訳でしょ。
それは絶対にダメだよ。
間違いなのかもしれないけど、でも、もふもふ神様のルルゥもリリィもそんなことはしてほしくないと思うんだよ。
ギリだっだけど、俺が来たしさ。
「歴代のルーリィって、どれくらい生きたの?」
「ええと……大体1500年平均かな」
「そか……うん、じゃあやっぱり封印で。俺とライジャはもっと長生きして、そんでもってビックリするくらいじゃんじゃんエキス玉作るよっ。もうさ、余りまくるくらいにさ」
まっかせなさーい、と胸を張ったらカナンさんは目を丸くした後で、ぶはっと吹いた。
「ぶっ………あっはは……そっ、それってナオ様。めっちゃくちゃセックスし倒すって宣言してるのと同じなんだけど~」
あっ、そうか~、そうだった。
ひいっ、恥ずかしい~。
エロエロ宣言を自分でしちゃったってことか~い。
うわぁ、自分で言って、引くわ~。
俺の方がエロ魔人じゃんかっ、わ~ん。
「ひ~、ウケた………でもさ、ナオ様……ありがとう」
真っ赤になってアウアウしていた俺に、カナンさんがお礼を言ってきた。
「俺も、間違いだと思ってたんだ。自然の摂理を破壊してまで種の存続を優先するのはね」
吹っ切れような笑顔になったカナンさん。
うん、やっぱりそうだよね。
「よっし、毎日コツコツ頑張るぞ~」
小さくガッツポーズをキメていると、カナンさんがサラリと爆弾発言をかました。
「うん、俺も他の子供たちにミルク回せるように、ガンガン励むからね~。今は毎日5発で止めてるけど、もっと増やそうっと。ふふふ…」
ひえっ、何その回数~っ。
待って、ナギさんが死んじゃうからっ。
慌てて止める俺に、カナンさんはケロリとしてる。
「俺もナギも体力あるから平気だって」
「う……受ける方が、大変なんだよぅ」
そ、そりゃあ突っ込む方も体力いるんだろうけどさぁ。
「警護隊の体力ナメたらダメだよ。アイツら人の3倍の飯をペロリと食べて、まだ足らないって不満言ってるような体力バカの集団だぞ」
うお、それはスゴいな……
その隊長を務めてるナギさん、むぅ……あんな細マッチョな体のどこにそんなパワーが隠されているんだ?
「どちらにしても、今後カップルになった者達は、健康で体力あるヤツらはどんどんミルク搾ってもらう予定なんだよ」
計画的にストックを増やして、また他のミルクでもマルチで栄養が吸収出来るように研究も進めているんだってさ。
な~んだ、ちゃんと考えていたんだね。良かった~
「では、エロ魔人ルーリィ様のもと、エロエロハーレムリリィワールドを設立に向けて邁進しようね~」
ぎゃ~、その名前ヤメテぇ~。
そんな世界はやだよぅ。
ともかく、早く子供人魚とご対面したいな。
今日は時間に余裕があったから、俺はカナンさんの執務室に顔を出していた。
向こうの世界のことを知りたいカナンさんと、こっちの世界のことを知りたい俺とで、時間が合ったときにちょくちょく話をしてるんだ。
その時に、ふと疑問に思ってたことを聞いてみた。
この間カナンさんとナギさんで島にハネムーンに行って帰ってきたら、光る玉を抱えててビビった。
ソフトボール大の卵型の、緑色に淡く光る玉。
しかもそれが子供なんだと~。
そんなに簡単に子供が出来るのもビックリだったけど、出来た瞬間に生まれるっていうのには更にビックリだよ。
いや、後で子供の作り方聞いたら簡単じゃなかったけどな。
抜かずの5発とか6発って、ナンデスカソレ。
き、鬼畜じゃんか。
エキス玉渡しておいて心底良かったと思ったよ。
ナギさん死んじゃうよっ。
「え~、俺の心配は~?」
とかふざけたこと言ってるカナンさんには
「エロ魔人は余裕だったでしょ」
とバッサリ切ってやった。
「あはは、まあね~。俺は朝まででも余裕でぶち込みまくれるからね。ナギ相手なら」
「ひいっ」
目がマジです~。
だめだこりゃ、エロ鬼畜魔人に昇格。
「光の玉はね、2年かけて子供になるんだよ」
「ええっ、2年?」
ほえぇ~、そんなにかかるのか。
「そそ、生まれた時は片手に乗るくらいの大きさで、毎日ミルクを与えて2年後にはこれくらいになるんだ」
これくらいとカナンが示したサイズは、ちょうど人間の赤ん坊くらい。
「人間の赤ちゃんと同じくらいなんだね」
「おっ、そうなのか?」
新情報だったらしく、カナンさんが食いついてきた。
「ええっと、リリィの世界は1ヶ月が25日で、12ヶ月で300日だっけ。ってことは600日かぁ」
わ~、大変だなぁ。
「人間の子供はどれくらい?」
「あ~、確か十月十日って言うから、半分くらいかな」
「300日強か。やはり体内で育てると栄養供給が良いからなのか……種族の違いか…」
ぶつぶつ言いながら、カナンさんはメモを取るのに余念がない。
「2年も毎日ミルクをあげて育てるのは大変だね~」
「だから孵化施設が必要なんだ。そこで子供…光の玉を一括で管理して、ミルクやりとか発育状態とかも見守る訳。ただミルクは2~3日に1回でも大丈夫だ。まとめてあげても影響は出ない」
あ、成る程ね。
確かにその方が効率も良いし、間違いもないな。
病院の新生児室?みたいなもんか。
皆共働きで仕事してるから、家に置いとくのは心配だもんな~。
「ほうほう。でも、ミルクは絶対に親のじゃないとダメなの?」
もしも2年経つ前に親に何かあったら、その子はミルクがもらえなくなってしまうよね?
しかも両方の親のミルクが必要なんだよな?
片方だけだと、栄養が偏ってしまうのか?
「他の親のミルクでも育つことは育つ。ただ、体が弱くなる場合が多いな」
ふと、カナンさんの表情が少し曇ったように見えた。
ん~、なんだろう?
「何か、あるの?」
気になって聞いたら、カナンさんが珍しく言い淀んでる。
極秘の話なのかなぁ?
じじぃ~っと見つめると、知の守護者様はやれやれといった感じで苦笑した。
「ナオ様はポヤンとしてるようで、結構敏いよねぇ」
ポヤンって。
うぅ、否定出来ないわ。
勘だけれど、多分これはディープな話だ。
でも、聞けるならば、ちゃんと聞いておきたい。
「俺に話せることだったら、聞いておきたいな」
少し考えていたカナンさんは、扉に近づいてロックをかけた。
そ、そんなにディープな話?他の人には絶対に聞かせられないような?
ちょっと腰が引けたけど、聞きたいって言ったのは俺だしな。
姿勢をしゃきっと正して、真剣に聞く体勢をとった。
「…ライジャ様の親の話は聞いたよな?」
「え?うん、たしか2900才でライジャを産んだって」
「リリィの平均出産適齢期は700才から2500才なんだ。限界は2600才とされる。そして2800才以降は体が急速に老化を始めるんだ」
「ええ?」
じゃあ2900才なんて、もうおじいちゃんってこと?
「多少個人差はあるけどな。俺はこの職務についていたから、最後の半ルルゥ化したリリィの民であるライジャ様の親を知っていたし、ライジャ様を産んだ時のことを知っている」
カナンさんの顔がスゴく辛そうに歪んでる。
「……ライジャ様には一度も話していないが。とても話せる内容ではないしな……酷い状態だった」
「子供を産んだ親は、あれだ……母性本能?が強くなるから、ミルクを一生懸命作る。自分達のミルクで育てないと強い子に育たないからと。でも産むだけでも至難の業だった2人にとって、ミルクまで作るのは無理な話だった」
そりゃそうだ、子供産むのも奇跡に近いよな。
「ココルや他にも同時に産んだ親達は数人いたけど、年齢は2600才くらいだった。それでも孵化に必要な2年分のミルクを作らないうちに命が尽きた。だからココルは少し体が小さいだろう?他の親のミルクで繋いだからだよ」
「……そういうことなのか」
「何人かはミルク不足で人魚化出来なかった個体もある」
ああ、胸が痛い。
可哀想に、一生懸命産んだのに育てきれずに死んでいった親達は悔やみきれなかっただろうな。
「メルサの前任者もあらゆる手を尽くして育てようと頑張っていたよ。メルサはまだその時は補助でついていただけだったから、極秘に当たる部分は見せられてはいない」
それでも、メルサさんは俺達のエキス玉を見て、これで救われると泣いていた。
もっと現場の近くにいたカナンさんは、さらに凄惨な場面も知っているのか。
「………これは、リリィの民には絶対に秘密にしている内容だから、他言無用にしてほしい。ルーリィのナオ様だから話せることだ」
真剣なカナンさんの顔は、厳格な知の守護者の顔になっている。
俺はこくっと、ひとつ頷いた。
「ミルク玉以外にも子供を育てる方法がひとつあるんだ。秘儀に当たるから、リリィの民では知の守護者の俺以外には伝承されていない」
「秘儀?」
ちょっと怖い響きだ。
「子供を産んだカップルで、もうミルク玉を作れない場合、血玉で贖う方法だ」
え……ちだま……血の玉?
「そ……それって…」
「カップルの血液を抽出して、特殊な方法で玉にする。文字通り真っ赤な玉で、異常だからごく一部の関係者にしか見せられない。それはミルク玉よりも高濃度のエキスになるけど、全てを血玉にする為、そのカップルは……」
ハード過ぎる内容で、頭が真っ白になる。
「な……何それ、それじゃあライジャ様の両親は、初めから死ぬつもりでライジャ様を産んだってこと?」
「………そうだ」
何でそんな……理解出来ないよ。
初めからライジャ様は両親の顔を見ることが出来ないと決まってて生まれてきたなんて。
「最終世代のリリィは皆、体が弱い者しか生まれなくて、どうしても強靭な体のリリィが必要だったんだ………そして、ライジャ様のご両親は、知の守護者とベリオンの王だった」
「へっ!?」
え?え?カナンさんの前任者とライジャの前任者?
「ベリオンの王は通常ルルゥの民と対になってルーリィになるからリリィの民とはカップルにならないんだけどね。3000年間ルルゥの民が降臨していないから、ルーリィ無き後は他の者がなるしかなかったんだよ」
「そっか。それで前任の知の守護者は秘儀を知っていたから、王と共にそれを実行したってこと」
「ご名答」
穏やかな目で語るカナンさんの重すぎる秘密に、思わず涙が零れた。
「カ……カナンさん、そんなに淡々と話しちゃダメだよ~」
切な過ぎて、カナンさんにぎゅっとしがみついてしまう。
何とかの拳と同じで、一子相伝みたいに継がれる知の守護者。
極秘の内容だから他に話せないのは分かるけど、独りで抱えるには重すぎるよ。
「辛かったよね。色々と教えてもらった師匠である前任者が王様とそんな秘儀をやるしかなくて、でも他の人には話せなくて…」
達観したように優しく微笑むカナンさんは、スゴく強い人だ。
「それで、ライジャはその血玉で無事に人魚化出来たんだね」
「そうだ。でも血玉で育った影響は、体に出る。ライジャ様の銀髪や鱗の色、他のリリィにはひとりもいないだろう?」
「あ、そういえば……」
綺麗な色で、いつもウットリと見ていたけど、そういえば他にあの色の人はいない。
「子供は親と同じ色になるのが普通なんだ。でもその秘儀で育つと、親の色は受け継がれない。色素が抜けてしまうらしい」
光の玉だった時は与える血玉と同じく真っ赤な色をしていたから、完全に隔離されて育ったんだって。
「ナオ様、ごめんな。重い話をしてしまって」
申し訳なさそうに謝るカナンさんに、ふるふると首を横に振った。
「辛い話は、誰かに聞いてもらうと少しだけ軽くなるって言うしさ。話してもらって良かったよ」
俺がニカっと笑うと、ほっとした表情になる。
ふたりでバレない内にとルルゥの涙を拾う。
俺が悲しくて泣くとライジャが悲しむからな~。てへへ。
「カナンさん、その……秘儀って、お蔵入りに出来る?」
「ん?おくらいり…?」
「あ~、記録から削除って可能?って意味」
「え……」
サラっと聞いたら、カナンさんが目を見開いて固まった。
ダメかなぁ。
「…………」
長く考え込んでいたカナンさんが、俺の目を見て問いかける。
「……それは、半神であるルーリィとしてのお言葉ですか?」
「それならば、可能?」
「……ほぼ前例は無いけど、可能です」
「…では、知の守護者に命じます。えっと、その秘儀は今後伝承しないように。この代で封印してください」
リリィの民を存続させる為の苦渋の選択なのは分かる。
分かるけど、納得出来ないよ。
前の王様も知の守護者さんも、悩んだ上の選択。
でも皆がそんなに辛い思いをするのは悲し過ぎるし、してほしくない。
それに、一歩間違ったら、本当に死に絶えたリリィの世界に、ライジャひとりが佇むことになりかねなかった訳でしょ。
それは絶対にダメだよ。
間違いなのかもしれないけど、でも、もふもふ神様のルルゥもリリィもそんなことはしてほしくないと思うんだよ。
ギリだっだけど、俺が来たしさ。
「歴代のルーリィって、どれくらい生きたの?」
「ええと……大体1500年平均かな」
「そか……うん、じゃあやっぱり封印で。俺とライジャはもっと長生きして、そんでもってビックリするくらいじゃんじゃんエキス玉作るよっ。もうさ、余りまくるくらいにさ」
まっかせなさーい、と胸を張ったらカナンさんは目を丸くした後で、ぶはっと吹いた。
「ぶっ………あっはは……そっ、それってナオ様。めっちゃくちゃセックスし倒すって宣言してるのと同じなんだけど~」
あっ、そうか~、そうだった。
ひいっ、恥ずかしい~。
エロエロ宣言を自分でしちゃったってことか~い。
うわぁ、自分で言って、引くわ~。
俺の方がエロ魔人じゃんかっ、わ~ん。
「ひ~、ウケた………でもさ、ナオ様……ありがとう」
真っ赤になってアウアウしていた俺に、カナンさんがお礼を言ってきた。
「俺も、間違いだと思ってたんだ。自然の摂理を破壊してまで種の存続を優先するのはね」
吹っ切れような笑顔になったカナンさん。
うん、やっぱりそうだよね。
「よっし、毎日コツコツ頑張るぞ~」
小さくガッツポーズをキメていると、カナンさんがサラリと爆弾発言をかました。
「うん、俺も他の子供たちにミルク回せるように、ガンガン励むからね~。今は毎日5発で止めてるけど、もっと増やそうっと。ふふふ…」
ひえっ、何その回数~っ。
待って、ナギさんが死んじゃうからっ。
慌てて止める俺に、カナンさんはケロリとしてる。
「俺もナギも体力あるから平気だって」
「う……受ける方が、大変なんだよぅ」
そ、そりゃあ突っ込む方も体力いるんだろうけどさぁ。
「警護隊の体力ナメたらダメだよ。アイツら人の3倍の飯をペロリと食べて、まだ足らないって不満言ってるような体力バカの集団だぞ」
うお、それはスゴいな……
その隊長を務めてるナギさん、むぅ……あんな細マッチョな体のどこにそんなパワーが隠されているんだ?
「どちらにしても、今後カップルになった者達は、健康で体力あるヤツらはどんどんミルク搾ってもらう予定なんだよ」
計画的にストックを増やして、また他のミルクでもマルチで栄養が吸収出来るように研究も進めているんだってさ。
な~んだ、ちゃんと考えていたんだね。良かった~
「では、エロ魔人ルーリィ様のもと、エロエロハーレムリリィワールドを設立に向けて邁進しようね~」
ぎゃ~、その名前ヤメテぇ~。
そんな世界はやだよぅ。
ともかく、早く子供人魚とご対面したいな。
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訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
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北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
お弁当屋さんの僕と強面のあなた
寺蔵
BL
社会人×18歳。
「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。
高校を卒業してようやく両親から離れ、
お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。
そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。
プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*)
地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。
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