異世界トリップ？ -南の島で楽しい漂流生活始めました-

第二章

メルサの結婚式

「ナオ様、これから先はどうするんですか？」
「あ、こっちのヒモをここから上に通して、右が2本になったよね？そしたらまた4本で編み進めるんだよ」
「あ、なるほど～。ありがとうございます」
「ナオ様～、こんな感じでどうですか？ちょっとゆるいですかね？」
「どれどれ……おお、イイ感じだよ～。それくらいの強さで」

俺が今、何をやっているかって？
えへへ、実は編み物教室だったりするんだ。
毛糸のじゃないよ？
事の発端は、ライジャから貰っていた鱗をアイヌの友達直伝の技でチョーカーやブレスレットやアンクレットに編んでつけていたんだけど、これが素敵だって城の中でも町でもウワサになってたこと。
それで、オシャレ番長のリカーさんに真っ先にオネダリされて、鉱山で採った金属や宝石で使えないものを利用してアクセサリーを作ってみることにした。
廃品リサイクルだよ～。
リカーさんの髪はピンク色だから、映えるように赤と黒で作ろうと思ったんだけど、赤は王様の証の色だからそれ以外の色って言われた。
おおぅ、そう言えばライジャが集会の時につけてたな。
じゃあ好きな色は？って聞いたら、これとこれって2色の石をチョイスしてきた。
綺麗な青系と水色だったから、それに薄いピンクを組み合わせて使うことにした。
人魚さんは水中で髪が揺れるから、長髪の人は編み込みとか三つ編みしている人が多いけど、リカーさんは美しいウェーブを見せたいからそのまま流してる。
じゃあ、カチューシャ風なのはどうだろう？
金属を半円形に曲げて、そこにビニール素材っぽい細ヒモにお好みの3色の石を通して、巻き付けるようにしてと。
よし、後はそこをベースに得意の編み込みを立ち上げていく。
ヒモが透明だから、石の色が引き立つなぁ。
テグスでビーズ編んでる感じだよ。
「よし、出来上がり～」
ものの30分で完成～。
何かちょっと、自由の女神がつけてる冠のミニバージョンキラキラ石編って感じ。
ヒモと石がまだあるから、ついでにブレスレットも編んでしまえ。
お、もうすぐ夕食前だからラウンジで渡せるな。
リカーさんの反応が楽しみだ。

「あ、ライジャ～。お疲れ様、今日は早かったね」
夕方にラウンジに行ったら、ライジャとリカーさんとナギさんが丁度帰ってきたところだった。
「ナオ、ただいま」
タタタっと駆け寄ると、ライジャがキュっと抱きしめて軽くキスしてくれた。
もうね、これくらいは慣れましたよ～。
リリィの民って、皆ラブラブの表現がオープンなんだよ。
もうあちらこちらでハグとかチュ～する光景が普通に見られるの。
まぁ、欧米だと思えばいいんだなと考えたんだ。
ライジャはここのところ、午後になると外でドームの建設現場に毎日足を運んでいる。
俺はその時間はフリーで動いてて、カナンさんと歴史の話をしたり、他の施設を回りにいったりしてる。
「あ、リカーさん。ご要望のもの出来たよ～」
「あら、ナオちゃんもう出来たの？早いのね～」
リカーさんが嬉しそうにソファのところにやってくる。
「どうかな？」
テーブルの上で、包んできた布を広げて作品を見せた。
「まあ……なんて、綺麗……」
リカーさんは両手を口に当てて目をキラキラさせている。
良かった～、気に入ってもらえたみたいだ。
「ほぉ……綺麗だな」
ライジャもしげしげと眺めて頷いてる。
「ナオちゃん、アクセ作りの才能あるわねぇ。これ職業に出来るレベルよぉ。完璧だわ」
リカーさんはアクセサリーを手に取ってライトにかざして見ている。
えへへ、そうかな～。
ちょっと、いやかなり嬉しい。
キラキラしてるのをウットリと眺めながら
「…早く、鱗で作ってもらいたいわ」
と小さく呟いた。
「え？」
本当に小さい呟きだったから、ブレスレットの方を持って2人で話してたライジャとナギさんには聞こえなかったと思う。
鱗でってことはリカーさん、好きな人がいるんだな。
それは応援したいな。
リカーさん見た目はオネエな感じでふざけた話し方したりしてるけど、仕事はスゴく出来るわ気配りも思いやりもあわで、とっても素敵な人なんだ。
「その時はまたお願いするわね」
囁くように俺に言って、リカーさんはウインクをしてきた。
「任しとき～」
俺も小声で返してから、最近ベリオンで流行りになってきた親指を立ててグーのポーズをした。

実はその後でラウンジに入ってきたラシードさんがアクセをつけたリカーさんを見て真っ赤になって狼狽えてしまって、すぐに想い人が分かっちゃった。
それでこの色のチョイスな訳ね～。
リカーさんがチョイスした青い石はラシードさんの髪や鱗と同じ色。
水色の方はラシードさんの瞳の色。
なーんだ、ケンカ友達かと思ったらそっちかーい。
好きな人の色を身に纏ってアピールするってオシャレだよな。
思うにラシードさんも満更ではないようだし。
近いうちにカップル誕生かな。

リカーさんがアクセをつけていたら、またまた注目が集まってしまって、今度はメルサさんからダルクさんの鱗で作って欲しいって注文を頂きました～。
しかも、結婚式を近々挙げるから、その時に身に着けたいって。
へっ？それって花嫁衣裳の一部じゃんか。
わお、大仕事だよ～。
でも、燃えるわ。
リリィの民は一夫一妻で、死別しても再婚とかしないんだって。
おお～ひとつの愛を貫き通すんだ。
近年は衰退の一途を辿っていたから結婚式とか全然やってなかったみたいで、ずいぶん久しぶりになるんだって。
楽しいし、喜ばしいことだから今後もっと広めていきたいってことで、統括の人がまず先陣を切ろうと計画したらしい。
復興の象徴としての行事の面があるとしても、式は一生に一度な訳だしね、やっぱり素敵なセレモニーにしたいから微力ながらも協力するよっ。
カナンさんがリカーさんと衣装を検討していたから、それの装飾として合わせるアクセをつくることに決めた。
お二人の鱗を預かって、有志でお手伝いを名乗り出てくれた城の関係者の人達と一緒に作業に入る。
それが冒頭の編み物教室ってわけ。
元々この編み方を習いたいって色んな人から言われてたから、ちょうどいいからこのタイミングで城の人達に教えてしまえ～と。
そこで覚えた人が、他の人に教えていってあげれば広まるのも早いしな。
鱗に小さく穴をあける地味に大変な作業も、ミニドリルみたいな工具があるから簡単だし、鱗もたくさんあるから色々と装飾に使える。
色に統一性を持たせるように、メルサさんの髪の黄色と瞳の緑、ダルクさんの髪と瞳は茶色だからその3色をメインにしよう。
まずは鱗を研磨してサイズ違いを作って、それを組み合わせてバラの形に成型。
メルサさんは黄色の長い髪を三つ編みにしているから、金色の金属で細いチェーンを作って、それにダルクさんの茶色の鱗とエメラルドっぽい緑の石をたくさんつけて、三つ編みに一緒に編み込んでみよう。
ティアラにはバラ型の鱗と緑の石をあしらい、首にチョーカー。
腕にはピタリとしたブレスレット。中指に付けたリングからチェーンを伸ばして手首のブレスレットの両サイドと繋げる。
リングに鱗のミニバラを付けて、花びらに緑の石を砕いて乾くと硬質化するジェルでまぶした。
我ながらキレイに出来たよ～。むふふ。
衣装は古代ギリシャっぽい白の布だから、その上に緑の薄い網のロングベストを羽織って金と緑の飾りベルトをはめる。
人魚化しても人間化しても大丈夫だ。
ダルクさんの方はギリシャのオリーブの冠をイメージして、メルサさんの黄色い鱗を組んで、さらに葉っぱをイメージして緑の鉱石を薄く削って組み合わせた。
何しろガタイが良いから、似合うんだよな。
砲丸投げのオリンピックメダリストを彷彿とさせるよ。
ネックレスとして太めのチェーンを使い、ペンダントトップにメルサさんの鱗の黄色いバラ飾りを大きめにひとつだけ付ける。
ベルトは御揃いの飾りベルト。
どうよ？って胸を張ってドヤ顔したくなる仕上がりだよ。
リカーさんに見てもらったら、絶賛の嵐。
はう、照れる～。
前日に衣装合わせを2人にしてもらったら、お互いの姿を見てたっぷり1分以上は見惚れてポカンとしてた。
「……メルサ……あぁ、なんて綺麗なんだ…」
「ダルク……あ、あなたも素敵……です」
ウットリしながら恥じらう2人の周りで、製作に携わった人達がウンウンと満足げに頷いていた。

当日は出来たばかりの大きなドームで式を行った。
半ルルゥ化してる人は中で、まだの人はドーム内に作ってあるプールに浸かりながらの参列。
神父さん的な役はカナンさん。
何かわざわざ神父っぽい黒の詰襟ロング丈衣装を作ったんだよ。
教会式のスタイルのことを詳しく教えてくれって言われたのは、この為かーい。
無駄に似合っててストイックに見えるからおかしい。
髪も撫でつけてて、ファンはきゃいきゃい言ってるよ。
でも、新郎新婦が現れたら、全員シーンとしちゃった。
「う……わぁ…」
「…きれい～……すごい…」
「カッコイイなぁ」
溜め息の嵐の中、カナンさんがさくさくと式を進めて、キスまで終了。
歓声の中、2人の笑顔はキラキラと輝いていた。
この後、結婚式の依頼が城に殺到したのは言うまでもないよね。
成功し過ぎだって、リカーさんとカナンさんは悲鳴を上げてたよ。あはは～