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第二章
ルルゥの神子様の降臨1 -ココル視点でのナオ降臨話-
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「うん、今日はこれで行こう。じゃあ帳簿をつけてるから、ライジャ様とナオ様の分が出来たら呼んでね」
「了解です、ココルさん」
夕食のメニューを決定してから、城の在庫管理のリストチェックに戻る。
僕が首都ベリオンで食料関係の統括をやり始めてまだ10年。
20歳で成体になってから基礎教育を80年、それからの50年は前任者に付いてひたすら勉強と修行だった。
大抵は基礎教育が終わってから20年くらいは色々な職に就いてみて、自分の適性にあったものを見つけてから仕事につく人が多いんだけど、僕は即座にこの職に決めてすぐに師匠に従事した。
小さい頃からこの仕事がしたかったから、もうまっしぐら。
色々な地域の食材を吟味して、それを美味しく調理するなんて最高の仕事だもん。
他の職業なんて目に入らなかったよ。
師匠は優しくも厳しい人で、食料の管理方法や調理などのイロハを徹底的に叩き込まれた。
大変だったけど、お陰で高齢の師匠が引退する時に150歳で成人になりたてだったけど統括の地位についたんだ。
城での王様や他の統括の方々の食事メニューを考案するのも僕の仕事。
新しいメニュー開発にも余念がないよ。
食事は毎日食べるものだけに、日々飽きないように色々と工夫をしていかないとね。
王様も僕とほとんど歳は変わらないし、とっても気さくな方だから、新作メニューが出来ると執務室に持って行って試食してもらったりしてるんだ。
でも時たま、少し寂しそうに窓から町を眺めている時があって、そういう時は部屋に入りづらかった。
王様というのは、来たるべきルルゥの民が降臨したら対になる為、恋人を一切作らない。
前の王様も生涯独身だった。
でもいつ来るかも分からない人をたったひとりで待ち続けるなんて、すごくつらい立場だと思う。
僕だったら耐えられないな。
小さい頃から僕らなんか到底追いつかない厳しい英才教育を受けて、統率力もカリスマ性も併せ持った素晴らしい王様なのに、いつも寂しい思いをされている。
もう3000年も降臨していない、すでに伝説級のルルゥの民様。
子供が生まれないからリリィの人口も減り始めて、今や1万人を切るまでになってしまって。
このままでは僕らの代が最終世代になって、滅亡してしまう。
もちろん僕は最後まで王様のお側で全力でサポートをするつもりだけれど。
でもどうか、ルルゥの民様には降臨して欲しい。
リリィの滅亡も悲しいけれど、何より僕はライジャ様に幸せになって欲しいんだ。
前の王様みたいにひとりで逝くなんてこと、そんなこと絶対にイヤなんだ。
そしてついに、奇跡が起きた。
リリィの救世主、ルルゥの民様が降臨されたんだ。
まさか本当に現れるなんて夢にも思わなかったから、聞いたときは呆けちゃった。
ある日、ライジャ様がすごく慌ててカナンさんを探しに来られて、2人で執務室に籠ってしまった。
その後、カナンさんも慌てて出てきたと思ったら蔵書保管庫に引きこもってしまって、全然出てこなくなってしまって。
僕は食事を届けようとして保管の扉の前をウロウロしたんだけれど、声をかけても反応がない。
結局出てきたのは丸一日以上経ってから。
飲まず食わずは体に悪いよ。
出てきたカナンさんは、げっそりしつつも目は爛々と輝いていて、ふふふと怖い笑いを漏らしながらフラフラと王様の執務室に向かっていく。
すっごく怖い~。
通路で会った兵士さんが、ヒッと悲鳴を上げて避けるくらい異様だった。
狂気を感じたよ。
翌日にはいつもと変わらない飄々とした姿に戻ったけどね。
それからしばらく、2人は表面上はいつもと変わらない様子だったけど、どうにも目の輝きが違って見えた。
ある日の夜、ライジャ様が珍しくイライラした様子でラウンジの中をグルグルと回っていて、カナンさんが
「王様、落ち着いて。リリィ神から連絡来なくちゃ動けないよ~」
と諫めていた。
「リリィ神?何かお告げがあるのですか?」
メルサさんも不思議そうに首を傾げている。
冷静沈着な王様の珍しい姿に、皆は驚きつつも不安そうだった。
また気象変動とかだったら大変だ。
「もし嵐とかなら、私、今夜にでもルージュに行くわよ」
この間は稀に見る大きな嵐が来て、その影響でルージュの鉱山で落盤があって怪我人が出たから、統括のリカーさんも神経質になってる。
「いや、そうではない。済まない、まだ話せないが悪い話ではないのだ」
そういえば、あれ以降気象が荒れることがない。
突然、ライジャ様の動きが止まった。
この考えこんでるような時は、リリィ神と対話をしている時だと教わっているので、皆じっと待ってる。
神様と話ができること自体、すごいことだ。
王様の表情がフワっと和む。
「ナギ」
「はっ」
王様に呼ばれた警護統括のナギさんがすぐさま反応する。
「明日、早朝から外域に出る。供を頼む。但し、他の者には伝達不可だ」
「は……しかし、私だけで良いのですか?」
王様がリリィ神の管轄範囲の外に出る時は、必ず複数の兵を警護につけるから、ナギさんが戸惑ってる。
お忍びで外に出るなんて、初めてのことかも。
「大丈夫だ、危険はない。リリィ神の供だ。カナンも同行してもらう」
「了解です~」
神様のお供とか、すごい。
僕らは恐れ多くて、あの優雅なお姿を眺めることしか出来ないけど、王様は話もするし一緒に行動したりもするんだ。
神様のお供と聞いて、警護統括のナギさんも緊張したみたいだけど、カナンさんは飄々としてる。
こういう所はさすが知の守護者と呼ばれるだけあって、肝が据わってるなぁと思う。
普段はチャラいキャラだけど、実はすごく知識量が多くて研究熱心で、探求心もすごい。
ナギさんとカナンさんは幼馴染でよく一緒にいる。
寡黙なナギさんとは一見対照的に見えるけど、不思議とマッチしてる感じがするんだよな。
そして翌日王様一行が戻ってきてから、衝撃の事件を知らされた。
ルルゥの民様が降臨された?
僕も皆と同じく、しばらく口を開けたまま固まってた。
「……今、なんとおっしゃいましたか?」
アンヘルさんは幻聴ではないかと自分の耳を疑って聞き直してる。
「聞き間違いじゃないぞ、アンヘル。ルルゥの民が降臨されたのだ」
ライジャ様の嬉しそうな顔をマジマジと見つめていると、ようやく本当のことなんだとじわじわ実感が湧いてきた。
「なんと……なんとっ…」
それからはもう、全員が狂喜乱舞だった。
そんなに広くないラウンジで皆がビッチビッチグルグルするもんだから、大変なことに。
僕は気持ちがグチャグチャで、わんわん泣いてしまった。
「よ……よかっ…良かったですっ……ライジャ様あっ……」
もうライジャ様はひとりで生きなくていいんだ。
寂しそうな目でベリオンの町を眺めなくていいんだ。
えぐえぐ泣く俺の頭を撫でて、ライジャ様は優しく笑っている。
「ありがとう、ココル。そんなに泣くな」
だって、嬉しい。
本当に嬉しいんだ。
「あのっ……お名前、ルルゥの神子様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」
「ナオ、と言っていた。美しい黒髪と黒い瞳をしていて、とても可愛らしい」
ナオ様、ナオ様とおっしゃるんだ。
心に刻み付けるように呟いた。
「黒髪と黒目!それはまた……間違いなくルルゥの民だ」
ラシードさんもビックリしてる。
そんな色を持った人なんて、今まで見たことない。
まさにルルゥ神の神子様だけが持つ至高の色。
実は神託があったのはもっと前で、あの大きな嵐が起きた時に降臨されたようだ。
ただ、文献や神様によると、こちらの世界に体が馴染むまではリリィの民とは接触出来ないらしかった。
ああ、だからカナンさんだけが知らされていたのか。
「ここの現状が急を要していることは重々分かっているが、私としては急ぎたくない。済まないが、あと一刻待ってくれないか」
ライジャ様の言葉に、全員が頷いた。
我々では分からないデリケートな問題もあるだろうし。
「ただ、希望は持てると思う。今日戻る時にもっと話したいと引き止めてくれた。それにルルゥ神ととても仲が良い。リリィ神も気に入っていた」
「おお~」
皆が歓声を上げる中、カナンさんはメモを頻繁にとっていた。
ナギさんもカナンさんも結界の先に行くことは出来ないから、リリィ神とライジャ様が戻るまで結界の境界でジリジリと待っていたんだって。
「早くお目にかかりたいなぁ」
カナンさんはソワソワとヒレを揺らしている。
「ナオを迎え入れる準備を始めたい。ルルゥの世界と同じ環境を作りたいから、まずは部屋の改造を行う。資材とクウキイシの調達を」
「すぐに始めるわ」
「了解だ、王」
リカーさんが楽しそうに笑ってウインクして、ラシードさんも大きく頷いてる。
ラシードさんの管轄地のエカンデで採れる海藻とルージュで採れるサンゴは建物の建設材料になるし、鉱山からはクウキイシやリキバイシが採れる。
2人は忙しくなるのが嬉しそうだ。
「ルルゥの世界の島まで毎日通うことになる。済まないが、ナギには引き続き護衛を」
「はっ、了解です」
ナギさんもピシっとした敬礼を返す。
「メルサ、迎え入れるまで何とか患者の延命を頼む」
「もちろんです。全力を尽くします」
普段穏やかで物静かなメルサさんが、両手でガッツポーズをしていてビックリした。
「俺はもっと過去の文献を調査しときます。ラブラブになるまでに儀式のことも調べなければ」
さすが知識の探求者。
カナンさんの目が爛々としてる。
でも、ラブラブって何だろう?
「アンヘルとココル」
「はいっ」
いきなり呼ばれて声が裏返ってしまった。
「ナオは突然ひとりでこの世界に飛ばされ、今ひとりで生きている。とても頑張り屋だが、昨晩は寂しいと泣いていた」
「っ……」
ああ、それでか。
それでライジャ様は、昨日イライラとされていたんだ。
リリィ神と心話ができる王様は、ナオ様のお姿を度々目にしていたと言ってた。
寂しいと泣くナオ様を見て、心配で気を揉んでいたんだな。
嵐は3ヶ月くらい前だった。
ということは、それからずっとひとりきりで生活をされているのか。
それでは、さぞ心細くて寂しいだろうな。
僕だったらもっと前に挫折してわんわん泣いてるかも。
「それは御可哀想に…」
アンヘルさんも横でフルフルと震えている。
「ここに来た時に、この世界の料理でもてなしてやりたい。2人で考えてくれるか?」
「はいっ」
「もちろんでございます」
僕とアンヘルさんはしっかりと頷いた。
そうだ、カナンさんに聞いて、元の世界の食べ物に似た料理を考案してみようかな。
喜んで頂けるものをたくさん考えよう。
貝や魚、食材の宝庫のロヒアを統括するアンヘルさんに協力してもらえるなら、結構色々なものが試せそうだし。
綺麗で可愛いルルゥの神子様。
もうお会いするのが楽しみでしょうがない。
きっとライジャ様とお似合いのおふたりになる。絶対に。
「了解です、ココルさん」
夕食のメニューを決定してから、城の在庫管理のリストチェックに戻る。
僕が首都ベリオンで食料関係の統括をやり始めてまだ10年。
20歳で成体になってから基礎教育を80年、それからの50年は前任者に付いてひたすら勉強と修行だった。
大抵は基礎教育が終わってから20年くらいは色々な職に就いてみて、自分の適性にあったものを見つけてから仕事につく人が多いんだけど、僕は即座にこの職に決めてすぐに師匠に従事した。
小さい頃からこの仕事がしたかったから、もうまっしぐら。
色々な地域の食材を吟味して、それを美味しく調理するなんて最高の仕事だもん。
他の職業なんて目に入らなかったよ。
師匠は優しくも厳しい人で、食料の管理方法や調理などのイロハを徹底的に叩き込まれた。
大変だったけど、お陰で高齢の師匠が引退する時に150歳で成人になりたてだったけど統括の地位についたんだ。
城での王様や他の統括の方々の食事メニューを考案するのも僕の仕事。
新しいメニュー開発にも余念がないよ。
食事は毎日食べるものだけに、日々飽きないように色々と工夫をしていかないとね。
王様も僕とほとんど歳は変わらないし、とっても気さくな方だから、新作メニューが出来ると執務室に持って行って試食してもらったりしてるんだ。
でも時たま、少し寂しそうに窓から町を眺めている時があって、そういう時は部屋に入りづらかった。
王様というのは、来たるべきルルゥの民が降臨したら対になる為、恋人を一切作らない。
前の王様も生涯独身だった。
でもいつ来るかも分からない人をたったひとりで待ち続けるなんて、すごくつらい立場だと思う。
僕だったら耐えられないな。
小さい頃から僕らなんか到底追いつかない厳しい英才教育を受けて、統率力もカリスマ性も併せ持った素晴らしい王様なのに、いつも寂しい思いをされている。
もう3000年も降臨していない、すでに伝説級のルルゥの民様。
子供が生まれないからリリィの人口も減り始めて、今や1万人を切るまでになってしまって。
このままでは僕らの代が最終世代になって、滅亡してしまう。
もちろん僕は最後まで王様のお側で全力でサポートをするつもりだけれど。
でもどうか、ルルゥの民様には降臨して欲しい。
リリィの滅亡も悲しいけれど、何より僕はライジャ様に幸せになって欲しいんだ。
前の王様みたいにひとりで逝くなんてこと、そんなこと絶対にイヤなんだ。
そしてついに、奇跡が起きた。
リリィの救世主、ルルゥの民様が降臨されたんだ。
まさか本当に現れるなんて夢にも思わなかったから、聞いたときは呆けちゃった。
ある日、ライジャ様がすごく慌ててカナンさんを探しに来られて、2人で執務室に籠ってしまった。
その後、カナンさんも慌てて出てきたと思ったら蔵書保管庫に引きこもってしまって、全然出てこなくなってしまって。
僕は食事を届けようとして保管の扉の前をウロウロしたんだけれど、声をかけても反応がない。
結局出てきたのは丸一日以上経ってから。
飲まず食わずは体に悪いよ。
出てきたカナンさんは、げっそりしつつも目は爛々と輝いていて、ふふふと怖い笑いを漏らしながらフラフラと王様の執務室に向かっていく。
すっごく怖い~。
通路で会った兵士さんが、ヒッと悲鳴を上げて避けるくらい異様だった。
狂気を感じたよ。
翌日にはいつもと変わらない飄々とした姿に戻ったけどね。
それからしばらく、2人は表面上はいつもと変わらない様子だったけど、どうにも目の輝きが違って見えた。
ある日の夜、ライジャ様が珍しくイライラした様子でラウンジの中をグルグルと回っていて、カナンさんが
「王様、落ち着いて。リリィ神から連絡来なくちゃ動けないよ~」
と諫めていた。
「リリィ神?何かお告げがあるのですか?」
メルサさんも不思議そうに首を傾げている。
冷静沈着な王様の珍しい姿に、皆は驚きつつも不安そうだった。
また気象変動とかだったら大変だ。
「もし嵐とかなら、私、今夜にでもルージュに行くわよ」
この間は稀に見る大きな嵐が来て、その影響でルージュの鉱山で落盤があって怪我人が出たから、統括のリカーさんも神経質になってる。
「いや、そうではない。済まない、まだ話せないが悪い話ではないのだ」
そういえば、あれ以降気象が荒れることがない。
突然、ライジャ様の動きが止まった。
この考えこんでるような時は、リリィ神と対話をしている時だと教わっているので、皆じっと待ってる。
神様と話ができること自体、すごいことだ。
王様の表情がフワっと和む。
「ナギ」
「はっ」
王様に呼ばれた警護統括のナギさんがすぐさま反応する。
「明日、早朝から外域に出る。供を頼む。但し、他の者には伝達不可だ」
「は……しかし、私だけで良いのですか?」
王様がリリィ神の管轄範囲の外に出る時は、必ず複数の兵を警護につけるから、ナギさんが戸惑ってる。
お忍びで外に出るなんて、初めてのことかも。
「大丈夫だ、危険はない。リリィ神の供だ。カナンも同行してもらう」
「了解です~」
神様のお供とか、すごい。
僕らは恐れ多くて、あの優雅なお姿を眺めることしか出来ないけど、王様は話もするし一緒に行動したりもするんだ。
神様のお供と聞いて、警護統括のナギさんも緊張したみたいだけど、カナンさんは飄々としてる。
こういう所はさすが知の守護者と呼ばれるだけあって、肝が据わってるなぁと思う。
普段はチャラいキャラだけど、実はすごく知識量が多くて研究熱心で、探求心もすごい。
ナギさんとカナンさんは幼馴染でよく一緒にいる。
寡黙なナギさんとは一見対照的に見えるけど、不思議とマッチしてる感じがするんだよな。
そして翌日王様一行が戻ってきてから、衝撃の事件を知らされた。
ルルゥの民様が降臨された?
僕も皆と同じく、しばらく口を開けたまま固まってた。
「……今、なんとおっしゃいましたか?」
アンヘルさんは幻聴ではないかと自分の耳を疑って聞き直してる。
「聞き間違いじゃないぞ、アンヘル。ルルゥの民が降臨されたのだ」
ライジャ様の嬉しそうな顔をマジマジと見つめていると、ようやく本当のことなんだとじわじわ実感が湧いてきた。
「なんと……なんとっ…」
それからはもう、全員が狂喜乱舞だった。
そんなに広くないラウンジで皆がビッチビッチグルグルするもんだから、大変なことに。
僕は気持ちがグチャグチャで、わんわん泣いてしまった。
「よ……よかっ…良かったですっ……ライジャ様あっ……」
もうライジャ様はひとりで生きなくていいんだ。
寂しそうな目でベリオンの町を眺めなくていいんだ。
えぐえぐ泣く俺の頭を撫でて、ライジャ様は優しく笑っている。
「ありがとう、ココル。そんなに泣くな」
だって、嬉しい。
本当に嬉しいんだ。
「あのっ……お名前、ルルゥの神子様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」
「ナオ、と言っていた。美しい黒髪と黒い瞳をしていて、とても可愛らしい」
ナオ様、ナオ様とおっしゃるんだ。
心に刻み付けるように呟いた。
「黒髪と黒目!それはまた……間違いなくルルゥの民だ」
ラシードさんもビックリしてる。
そんな色を持った人なんて、今まで見たことない。
まさにルルゥ神の神子様だけが持つ至高の色。
実は神託があったのはもっと前で、あの大きな嵐が起きた時に降臨されたようだ。
ただ、文献や神様によると、こちらの世界に体が馴染むまではリリィの民とは接触出来ないらしかった。
ああ、だからカナンさんだけが知らされていたのか。
「ここの現状が急を要していることは重々分かっているが、私としては急ぎたくない。済まないが、あと一刻待ってくれないか」
ライジャ様の言葉に、全員が頷いた。
我々では分からないデリケートな問題もあるだろうし。
「ただ、希望は持てると思う。今日戻る時にもっと話したいと引き止めてくれた。それにルルゥ神ととても仲が良い。リリィ神も気に入っていた」
「おお~」
皆が歓声を上げる中、カナンさんはメモを頻繁にとっていた。
ナギさんもカナンさんも結界の先に行くことは出来ないから、リリィ神とライジャ様が戻るまで結界の境界でジリジリと待っていたんだって。
「早くお目にかかりたいなぁ」
カナンさんはソワソワとヒレを揺らしている。
「ナオを迎え入れる準備を始めたい。ルルゥの世界と同じ環境を作りたいから、まずは部屋の改造を行う。資材とクウキイシの調達を」
「すぐに始めるわ」
「了解だ、王」
リカーさんが楽しそうに笑ってウインクして、ラシードさんも大きく頷いてる。
ラシードさんの管轄地のエカンデで採れる海藻とルージュで採れるサンゴは建物の建設材料になるし、鉱山からはクウキイシやリキバイシが採れる。
2人は忙しくなるのが嬉しそうだ。
「ルルゥの世界の島まで毎日通うことになる。済まないが、ナギには引き続き護衛を」
「はっ、了解です」
ナギさんもピシっとした敬礼を返す。
「メルサ、迎え入れるまで何とか患者の延命を頼む」
「もちろんです。全力を尽くします」
普段穏やかで物静かなメルサさんが、両手でガッツポーズをしていてビックリした。
「俺はもっと過去の文献を調査しときます。ラブラブになるまでに儀式のことも調べなければ」
さすが知識の探求者。
カナンさんの目が爛々としてる。
でも、ラブラブって何だろう?
「アンヘルとココル」
「はいっ」
いきなり呼ばれて声が裏返ってしまった。
「ナオは突然ひとりでこの世界に飛ばされ、今ひとりで生きている。とても頑張り屋だが、昨晩は寂しいと泣いていた」
「っ……」
ああ、それでか。
それでライジャ様は、昨日イライラとされていたんだ。
リリィ神と心話ができる王様は、ナオ様のお姿を度々目にしていたと言ってた。
寂しいと泣くナオ様を見て、心配で気を揉んでいたんだな。
嵐は3ヶ月くらい前だった。
ということは、それからずっとひとりきりで生活をされているのか。
それでは、さぞ心細くて寂しいだろうな。
僕だったらもっと前に挫折してわんわん泣いてるかも。
「それは御可哀想に…」
アンヘルさんも横でフルフルと震えている。
「ここに来た時に、この世界の料理でもてなしてやりたい。2人で考えてくれるか?」
「はいっ」
「もちろんでございます」
僕とアンヘルさんはしっかりと頷いた。
そうだ、カナンさんに聞いて、元の世界の食べ物に似た料理を考案してみようかな。
喜んで頂けるものをたくさん考えよう。
貝や魚、食材の宝庫のロヒアを統括するアンヘルさんに協力してもらえるなら、結構色々なものが試せそうだし。
綺麗で可愛いルルゥの神子様。
もうお会いするのが楽しみでしょうがない。
きっとライジャ様とお似合いのおふたりになる。絶対に。
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