異世界トリップ? -南の島で楽しい漂流生活始めました-

月夜野レオン

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第二章

ベリオンの病院にて 2

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じわりと手のひらが熱をもった気がして、自分の手をマジマジと見つめた。
何もない。
「?ナオ様、どうされました?」
メルサさんが不思議そうな顔をしているけど、自分でもよく分からなくて答えられない。
ただ何かが起こりそうなムズムズ感がして、また手を患部に触れさせる。
治してあげたい、その気持ちだけだった。
下半身に触れた手の平が徐々に熱を持つ。
体中を流れる気というか力のようなものが、熱くなってる手のひらにどんどん集まっていく。
「なっ……ナオ様、何をっ」
回りの人達が焦っているのが分かったけど、今は止められない。
手が淡く光りだす。
意識がぼうっとなって、感覚が鈍くなっていくような気がする。
「ナオ様、ナオ様っ…」
「……ナギ、ライジャ様を至急呼べっ。玉も持ってこい」
カナンさんが何か言ってるけど、よく聞こえない。
時間の感覚が曖昧になっていく。
一瞬なのか、長い時間たったのか分からない。
「ナオっ!」
ライジャの声を聴いたような気もするけど、よく分からない。
熱くなった手の光が一段と強くなる。
不思議と今だ、という気がして光の元を手から触れている体に押し出すイメージを描く。
潰れた下半身がゆっくりと空気を入れた風船のようにムクリと膨れていく。
同時にプルプルと鱗が再生していくのが見える。
まるでCGを見ているかのよう。
最後に千切れて無くなっていたヒレがフワリと生えたところで、光と熱が徐々に消えて体から力が抜けた。
「ナオ、しっかりしろ!」
後ろから抱き留められて、耳元で焦った声がした。
鈍かった感覚が元に戻ってきた。
「……あれ?…ライジャだ。会議どしたの?」
横を見たらライジャに支えられてて、思わず聞いたら大きなため息をつかれた。
ええ?回りを見たら、皆もドオっと力が抜けてヘタレてる。
メルサさんが横でヘナヘナとくずおれて、ダルクさんが慌てて支えた。
「わわ、メルサさん、大丈夫ですか?」
慌てて手を伸ばそうとしたら、手が重くて持ち上がらない。
あれ?
「それはこっちの科白だよ~。ナオ様」
カナンさんに呆れた声で言われてしまった。
「いきなり無茶をする」
ライジャが俺を膝に横抱きにしたまま真珠玉を取りだした。
「食べなさい」
口に入れてくれた玉を齧ると、美味しいチェリーボンボンの味が口に広がる。
すぐにスウっとダルさが抜けてシャキっと立ち上がった。
うん、元気玉効くわ~。
「良かった、ナオ様に何かあったら私は……私は生きていられません」
メルサさんが泣きそうな声で言うもんだから、俺はアワアワしてしまった。
「も、もう大丈夫だから。ご、ごめん、心配させちゃったね」
ちょっと軽率だったな~。
そうだよね、患者さんを治しても俺が倒れたらそれこそ一大事になっちゃうわな。
メルサさんは特に気に病んで寝込んじゃうかもだ。
もっと自分の立場を認識しておかなくちゃ。
ちょっとショボンと反省してたら、ライジャが首の後ろを撫でてつむじにキスしてくれた。
「ルーリィはリリィよりも強靭にできている。そんなに心配しなくても大丈夫だ。それにカナン、すぐに私を呼んだ判断は的確だった」
「ライジャ様もビッグイベント見逃さなくて良かったですよ~」
後ろにいたカナンさんは、ニヤっと笑って親指を立ててる。
おおぅ、使い方バッチリだわ。
改めて患者の男性を見ると、見た目はもう何事もなかったかのようにスヤスヤ眠っている。
「こんな奇跡が起こるなんて……信じられません」
メルサさんもすぐに立ち直って、看護師さん達と一緒に慌てて容態を確認している。
「私は知らなかったが、このような奇跡は文献にあるのか?」
ライジャがカナンさんに問いかけると、即座に首を横に振られた。
「いえ、載っていませんね~。俺も目の前で見ていたのに、信じられないですよ。記録にあるのは、エキス玉やルルゥの涙による病気や怪我の治癒だけです」
ほえっ、そうなの?
「え、これってルーリィの特技なんじゃないの?」
俺がキョトンとしていると、皆の驚愕の視線が俺に集まる。
わわわ、どうしよう。
「ナオ、どうやったか分かるか?」
ライジャに聞かれて、今度は俺が首を振った。
「分からない。でも、ひどい怪我で可哀想だと思ったんだ。綺麗な鱗が剥がれちゃってて、ヒレも無い。もう泳げないなんて、辛いだろうなって。それで治してあげたいな~と思いながら触ったら手が熱くなってムズムズしてきて、何かが手に集中してくる感じがしたんだ」
自分の手のひらを見ても、なんともなっていない。
「もうほぼ完全に治癒しています。少し養生すれば、すぐに元気になるでしょう」
眠っている男性の表情が穏やかになっているのを見て、ほっとした。
「よく分からないけど、治せたなら良かったよ。また元気に泳げるようになるといいな」
水色の鱗が艶々としているのが嬉しい。
こんな綺麗な鱗だから、きっと水中で泳ぐ姿は光を弾いてキラキラする筈だ。
想像してニコニコしてしまった。
「ナオ……お前は…」
「ひゃっ」
突然ライジャにぎゅうっとハグされて、ヘンな声出たよ。
なになにっ?
「奇跡だっ」
「素晴らしい、奇跡が起きた」
「なんてことでしょう、ああナオ様、神様、ルーリィ様~」
看護師さん達がまたグルグルしてるよ。
「ナオ、本当にお前はリリィの救世主だ。愛しているよ」
皆がいるのにチュっとキスされて顔がボボっとなったけど、ライジャが本当に嬉しそうに笑うから俺もムギュっと抱きしめ返した。
俺だって愛してるからねっ。
無茶苦茶恥ずいけどねっ。

後日、全快した青年が城にお礼を言いに来てくれた。
すっごく元気いっぱいな人で、名前はレムルさん。
もう働けないと思ってたから、本当に嬉しいと何度もお礼を言われた。
鉱山に戻るのかと思ったら、病院に残って今度は子供達の保育の方を手伝うことにしたんだって。
保育士さんだな。
看護師さん達も、これからは病院ではなく保育施設に変わるから、勉強して保育士になる。
そうそう、あの重症だったラースさんと恋人のリィサさんも同じく保育士になるべく、一緒に勉強してるんだと。
「頂いた命を、今度は次の命を育てることに使います」
と言って元気に手を振って行ったレムルさんの鱗は、やっぱり水色に輝いてキラキラしていた。
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