異世界トリップ？ -南の島で楽しい漂流生活始めました-

第一章

21.ライジャ

白モフさんの首に手を回したまま、俺は脳内パニック状態。
あれって、人間だよね？
胸から下は海の中だから見えないけど。
水面から上は、どう見ても人間。
人間の男の人。
ただ、すっげーイケメン！
イケメン過ぎて、逆に人間か怪しいよ。
神様か妖精と言われた方が納得できるわ。
前髪だけ長いショートの髪は艶々の銀色で、太陽の光をキラキラと弾いてる。
ま、まぶしっ。
これまた銀色の眉毛はキリッとしつつ優美な曲線を描いてる。
通った鼻筋、少し大きめだけど形のいい薄い唇。
そして目。
宝石か？と思うくらい綺麗な銀色。
キラッキラですわ。
小麦色の肌はしっかりと筋肉がついていて、たくましい。
見えないけど、腹筋は絶対にシックスパックだよ、これ。
もうこの際なんでもいい。
人間じゃなくても、妖精でも、幽霊でもいい。
話がしてみたい。
でも、白オオカミさんみたいに浜に上がってきてくれるかと思ったのに、これ以上は近づいてこない。
あ、逆に俺が怪しくて近づいてこないのかもっ。
が～ん。
そうだよね、絶賛怪しい人ですよね～。
白黒モフモフズとちんちくりんの図。
うう～む、でも話してみたい。
ちょっと近づいてみようか。
どうか逃げませんように。
そろそろと海に入って、少しづつ距離を詰める。
イケメンさんは、じいっと俺を見つめたまま動かない。
そんなに見つめられたら、穴があきそう。
胸の深さくらいまできたら、向こうから近づいてきた。
うわ、はやっ。
スススーッと滑るように来たよ。
イルカに乗ってますか？ってくらい滑らかに。
わわわ、近い。
あと30センチくらいでくっついちゃうよ。
俺より頭1つ大きいから、見上げる形になる。
ふぉ～、近くで見るとさらにイケメ～ン。
「あ…あの……こんにち、は？」
首を傾げて質問系になってしまった。
恥ずかしい。
でもさ、言葉が通じるか分かんないし。
じぃ～っと見下ろしてくるイケメンオーラすごいんだよ。
「×××××、××」
喋った！
あ～、でもやっぱり通じない。
何を言ってるのか分からないよ。
でもすごくイイ声。
低くて落ち着いた、腹に響くようなイケボってやつ。
イケメンは声までイケメンなんだなぁ。
たとえ言葉が分からなくても、目の前に人がいて話すことが出来ただけで、すごく心が軽くなった。
嬉しい、ひとりじゃない。
「…………ライジャ……ライジャ」
イケメンは自分の胸を指さして同じ単語を発声した。
あ、もしかして名前？
「…ラ…ライジャ？」
その途端、イケメンがフワリと笑った。
ひえ～、まぶしい。
イケメンの笑顔、破壊力すげっ。
なんか心臓ばくばくしてきたよ。
持病の発作起こしそう。持ってないけど。
イケメンさんの名前はライジャっていうんだ。
今度は俺を指さしてくる。
俺の名前だね？
「えっと…直。ナオ……ナオ」
本田直だけど、苗字とか分からないだろうから、下の名前でいいよね。
自分を指さしてナオを連呼してみた。
「……ナオ…」
イケボでナオって。ナオって。
ヤバい、涙がブワ～っと出た。
自分の名前を呼んでもらえることなんか、もうないと思ってたから。
嬉し過ぎて、昨日から緩んでる涙腺がまた決壊した。
「うん……ナオっていうんだよ……っ…うん…ふえっ……」
初対面の人を前に、みっともなくもエグエグと泣いてしまう。
こすってもこすっても涙が止まらない。
嬉しい、言葉を交わせるってこんなに嬉しいんだ。
「ひょわっ…」
いきなりライジャに抱き寄せられて、奇声が出た。
わわ、何？
イケメンさんにハグされてるっ。
でも温かい人の肌が嬉しくて、もういいやってしがみついてしまった。
逞しい胸に頬を押しつけて、背中に手を回してウットリする。
夢じゃない、本当に人がいたんだ。
3ヶ月ぶりの人の体温、ああ～すごく安心する。
「………ん…？」
全身をピッタリとくっつけたら、足が堅いものにぶつかった。
え？なんだろう、これ。
鎧かなにか付けてるの？
水中で？
でもなんか温かいし。
「……え……なに…？」
そろっと体を離して顔を見上げる。
ふお、イケメン。
そのまま下に視線をズズーッと下ろしていく。
逞しい胸筋、やっぱり6つに割れてた腹筋。
あれ、ヘソがない。
そして更にその下、腰から下は……鱗？
水の中にあるライジャの下半身。
「………はい？……に…人魚……？」
幽霊でも妖精でもなかったけど、人でもありませんでした。
ええ～、男の人魚ってありなんですか？