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第四章
92.あの日
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釈然としないが、これ以上ここにいても意味はない。
全て……明日。
二人が消えた路地の奥に背を向け帰路につく。
気怠い足で階段を登り、軋む扉を開ける。
空気の流れが止まっていた薄暗い部屋は、胸を弾ませながら出た今朝のまま。
変わりない自分の部屋にいると、今日の出来事が全て夢であったかのような気がしてしまう。
現実と分断された己の小さな城へ帰れば、なんだかんだほっとする。
倒れるようにベッドへ転がる。
どっと襲う疲労感。
大丈夫だと思っていたが、やはり体は疲れている。
普段であればすぐに眠りにつけるはずなのに、津波のように押し寄せる不安のせいで脳がそれを拒む。
後ろ向きな思いが止まらない。
仰向けになる。
正面に向かう天井が、迫ってくるような胸を潰す圧迫感と恐怖。
それらが己の安泰な居場所を壊し、先ほどの現実を再び突きつける。
カイリが、カルディアなのか。
隊を作っていく上で、カイリには何度も助けられた。それも全てカルディアがしていたことなんて。仮にカイリではなくとも、誰かとの関わりは全て偽りでずっと騙されていた。
それは初めて隊員と会ったあの日から、もうすでに始まっていたのかもしれない。
そう、あの日から……。
△
人類と長く争っていた闇ビトが、ある日忽然と姿を消してしまった。
人々にとってなによりの朗報であったが、安堵をつく間もなく世界中で霧が発生しだす。
薄紫の不気味な霧の発生原因も、これ自体が何であるのかも不明。尚且つ、そこから異形の怪物まで現れる始末。
その濃霧は全てを飲み込み、中に入れば二度と帰って来ない。
新たな脅威に立ち向かうべく小規模の特殊隊を結成することになり、その隊を俺は任されることになった。
正直面倒だが、滅多に頼られることのないキルに任されたのならここは期待に応えたい。
「隊長を務めるヴァン・オクロードだ」
一列に並ぶ連中は、前もって渡されていたプロフィール通りの印象で、揃いも揃って問題ありと言ったところ。
何故このメンバーなのかと疑問を持つが、俺が異議を唱えたところで覆ることはないのだから受け入れるしかない。
まずは、眼鏡をかけた細目の男が、グレミオ・バルキン。この隊の副長になる。
加護の力、土の能力を生かし探知することに長けている。だが、戦闘に参加することに意欲的ではなく、周りから役立たずと言われているそうだ。
温厚な顔立ちで、他人と問題を起こしそうには見えないが。
俺よりも年上で能力も優れているのなら頼りにはしたいが……何故かずっとこちらを見てくる。見定められているようで、居心地が悪い。
次はおかしな髪型で、一際でかい奴がカミュンだったか。こいつは加護の力がない、俗にいう忌み子と呼ばれる者。
世界では差別根絶を謳っており、一昔前は認められなかったが今では忌み子だって国の所有する隊に所属できる。が、やはりそれは表向きで、影では粗末な扱いを受けてきたようだ。そのせいなのか性格は粗暴で、喧嘩をしているのを見たことがあるとカイトが言っていた。
腕力には自信があるようだ。噂じゃ牛一頭持ち上げられると……これは、嘘だろ。それはさておき、確かに体はたくましく頼りになりそうなのだが、弛んだ顔して、こいつ、欠伸まで。
次にこの派手に化粧をしている女が、マリー・キャロライン。
襟のボタンを止めず胸元を露わにし、手鏡を見ながら髪を整えている。こいつは、ここへ何をしに来ているのか。おい、ウインクをするな。
この女は、男をたぶらかし金をせしめているヘイダムが言っていた。確かに見た目がいかにも、好色女といったところ。スカートの丈も短い。まずは制服を正しく着るところから教えないと、この隊の品性が問われる。
火の加護を受け、放つ炎は見た目に似つかわしくなく荒々しい、っとこれもヘイダムが言っていた。さすが女のことはよく知っているな。
そして、包み隠さず不機嫌だと顔に出しているこいつがアルフレッド・ゴーデストか。
ゴーデスト家いえば、貿易を生業としている家系。貴族との関わりもあり富裕層といえるが、祖父の代で経営が傾き低迷の一途をたどっていたらしい。
父親アイザックが手腕を振い立て直したそうだが、それもとある貴族の援助があったからだと噂を耳にしたことがある。それは俺には関係ないしどうでもいい。
そういえばアイザックさんには、一度会ったことがあったな。
何をしに来ていたか知らないが、城ですれ違ったときに話しかけてきた。
穏やかな人で、一階の兵である俺にも丁寧に接してくれたが、やたら俺のことを聞いてきて馴れ馴れしいというか変わった人だとも思った。
本来兵になるはずのないアルフレッドがここにいるのは、アイザックさんが頼み込んできたとセラート総隊長から聞いたが……。理由は総隊長もよく分からないと言っていたな。あと、我が強く性格に難ありと小声で。
「ヴァン、よろしくね」
と、言ってにこにこと嬉しそうに笑っているカイリ。
カイリは前の隊から顔見知りで、この中で唯一面識がある。水の加護からの治癒は同期の中でもトップクラス。性格は明るく真面目で強調性があり、誰とでもうまくやっていける。癖のある奴らばかりだから、正直いてもらえてありがたい。
うんざりとした顔で、アルフレッドが首を横に振る。
「あんたが僕の隊長なの? 優秀って聞いたけど、治癒はできないみたいじゃん。ほとんどの人ができるのにさ。それに、王様と友達なの? 欠陥あるのに隊を任されたのも、だからなの?」
欠陥?
確かに、闇ビトの母を持つ俺は人間として欠陥だろう。加護を持つ者は効果に差はあれど、誰もができる。それをあまり気にしたことがないのは、闇の血が流れる俺には当たり前だと自分で勝手に納得していた。むしろ加護を受けているのが不思議なくらいであって。しかし……こいつは俺以上に人に気を使うことを知らない。
「そんなことぉ、どうでもいいですよ~。それよりぃ今晩どうですぅ? こんな子供相手するの疲れますよねぇ。私が癒してあげますよぉ」
近いな。
マリーが伸ばした手の前にカイリが割って入る。
「ちょっと!」
「おい、女っ! 僕を子供扱いするなっ!」
「もぉ、ガキンチョには興味ないの。ねぇ、どうですか隊長?」
「うるさい」
「え~」
どいつもこいつも好き放題。
完全に俺はこいつらに舐められている。
ここは一括……突如頭上から影が落ちる。
見上げれば、カミュンが目の前にいた。
「なんだ」
「やってらんねぇぜ。ぎゃぁぎゃぁと、餓鬼の集まりみたいで。俺はやらねぇぞ」
まったく同感だ。
俺も頭が痛い。
だからといって、どうぞとは言えない。
もう決められたのだ、この6人で瘴気の調査と瘴魔の討伐をすると。さっそく抜けられたらきっとキルは落胆する。
「もう決まったことだ。お前はこれからここで瘴気の調査を俺たちとするんだ」
「大層な任務だけどよ、それって俺が払い箱だからだろ? 瘴気の中に入ったら、戻ってこれないらしいじゃねぇか。他の連中は知らねぇが、俺はあわよくばその霧の中で消えてくれればいいって思われてる」
沈黙が流れる。
深く傷つく言葉は、こいつが受けた仕打ちを形容したものだろうか。
「なら、任務を果たしそいつらを見返してやればいい」
「簡単に言ってくれるな。俺は忌み子って時点で、見返すことなんて、もうできねぇんだよっ! 決まってんだよ。それに頑張ったところで、俺のことなんて誰も見てくれない」
「そんなこと分からないだろ。それにそう思うのはお前がまだ、認めてくれる人間に会えていないだけだ」
「おめでたい奴だな。てめぇもどうせ、面倒押し付けられたと思ってんだろっ!」
……まぁ。
「確かにお前の面倒を見るのは骨が折れそうだが、だからといって俺は放棄しない」
「なんだとっ!」
目の前には憤怒した顔。
言葉を間違えたか、殴ってきそうだ。
視界の端でカミュンが拳をつくり、振り上げる初動動作。
こちら目掛けてくる拳を右手の甲でガードし、体を横に逸らす。
左手首を外に曲げ、太い首に引っ掛ける。
左足を一歩出し、前に引っ掛けると同時に首に巻いた左足手を後ろに押してやる。
一瞬で、巨体は地に落ちる。
カミュンは仰向けで、呻き声をあげている。
つい反射的にしてしまった。
「隊長ぉかっこいい~」
「な、何やってるのよ!」
「ダサ、バッカみたい」
カイリがすかさずカミュンに手を差し出し、起こし体を支えている。
困ったものだが、こいつの気持ちは分からないわけではない。忌み子として、理不尽な仕打ちが多々あっただろう。俺も素性を知られていたら……。
いつか、分かってもらえるといい。
どんな自分でも認めてくれる人が、必ずいることを。俺がキルとカイトと出会えたように。
ずっと静観していたグレミオが近づいてくる。
言いすぎだと、怒られるだろうか。
「あの失礼ですが、隊長はどちらの生まれで?」
なんだこいつ。
やっと喋ったと思ったら、意味が分からないことを。副長を任せて大丈夫なのか?
「そんなこと、今は関係ないだろ」
「そうですね、すみません」
先が思いやられる。
こんなちぐはぐな連中とうまくやっていけるのだろうか。いや、やらないと。キルの期待に応えるんだ。
△
あまりの絶望から、あの日のことはよく覚えている。
懐かしい……といっても、三ヶ月ほど前か。
あの頃、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったな。
この世界以外にも、他の世界があった。
神がいて悪魔もいた。
母は闇ビトではなく悪魔で、その血を俺は受け継いでいる。
この世界が存続できるのか、神は魔王に勝てるのかなんて……そんな危機に直面していただなんて。
カイトもずっとそばにいるものだと思っていた。
誰かを好きになることも……だけど、こんな俺にも大切な人ができた。
それを、カイトに話したかった。
キルにも聞いて欲しかった。
覚えていなかった3人で結んだ約束を果たしたかったが話せない。もう何もかも変わってしまった。
全て……明日。
二人が消えた路地の奥に背を向け帰路につく。
気怠い足で階段を登り、軋む扉を開ける。
空気の流れが止まっていた薄暗い部屋は、胸を弾ませながら出た今朝のまま。
変わりない自分の部屋にいると、今日の出来事が全て夢であったかのような気がしてしまう。
現実と分断された己の小さな城へ帰れば、なんだかんだほっとする。
倒れるようにベッドへ転がる。
どっと襲う疲労感。
大丈夫だと思っていたが、やはり体は疲れている。
普段であればすぐに眠りにつけるはずなのに、津波のように押し寄せる不安のせいで脳がそれを拒む。
後ろ向きな思いが止まらない。
仰向けになる。
正面に向かう天井が、迫ってくるような胸を潰す圧迫感と恐怖。
それらが己の安泰な居場所を壊し、先ほどの現実を再び突きつける。
カイリが、カルディアなのか。
隊を作っていく上で、カイリには何度も助けられた。それも全てカルディアがしていたことなんて。仮にカイリではなくとも、誰かとの関わりは全て偽りでずっと騙されていた。
それは初めて隊員と会ったあの日から、もうすでに始まっていたのかもしれない。
そう、あの日から……。
△
人類と長く争っていた闇ビトが、ある日忽然と姿を消してしまった。
人々にとってなによりの朗報であったが、安堵をつく間もなく世界中で霧が発生しだす。
薄紫の不気味な霧の発生原因も、これ自体が何であるのかも不明。尚且つ、そこから異形の怪物まで現れる始末。
その濃霧は全てを飲み込み、中に入れば二度と帰って来ない。
新たな脅威に立ち向かうべく小規模の特殊隊を結成することになり、その隊を俺は任されることになった。
正直面倒だが、滅多に頼られることのないキルに任されたのならここは期待に応えたい。
「隊長を務めるヴァン・オクロードだ」
一列に並ぶ連中は、前もって渡されていたプロフィール通りの印象で、揃いも揃って問題ありと言ったところ。
何故このメンバーなのかと疑問を持つが、俺が異議を唱えたところで覆ることはないのだから受け入れるしかない。
まずは、眼鏡をかけた細目の男が、グレミオ・バルキン。この隊の副長になる。
加護の力、土の能力を生かし探知することに長けている。だが、戦闘に参加することに意欲的ではなく、周りから役立たずと言われているそうだ。
温厚な顔立ちで、他人と問題を起こしそうには見えないが。
俺よりも年上で能力も優れているのなら頼りにはしたいが……何故かずっとこちらを見てくる。見定められているようで、居心地が悪い。
次はおかしな髪型で、一際でかい奴がカミュンだったか。こいつは加護の力がない、俗にいう忌み子と呼ばれる者。
世界では差別根絶を謳っており、一昔前は認められなかったが今では忌み子だって国の所有する隊に所属できる。が、やはりそれは表向きで、影では粗末な扱いを受けてきたようだ。そのせいなのか性格は粗暴で、喧嘩をしているのを見たことがあるとカイトが言っていた。
腕力には自信があるようだ。噂じゃ牛一頭持ち上げられると……これは、嘘だろ。それはさておき、確かに体はたくましく頼りになりそうなのだが、弛んだ顔して、こいつ、欠伸まで。
次にこの派手に化粧をしている女が、マリー・キャロライン。
襟のボタンを止めず胸元を露わにし、手鏡を見ながら髪を整えている。こいつは、ここへ何をしに来ているのか。おい、ウインクをするな。
この女は、男をたぶらかし金をせしめているヘイダムが言っていた。確かに見た目がいかにも、好色女といったところ。スカートの丈も短い。まずは制服を正しく着るところから教えないと、この隊の品性が問われる。
火の加護を受け、放つ炎は見た目に似つかわしくなく荒々しい、っとこれもヘイダムが言っていた。さすが女のことはよく知っているな。
そして、包み隠さず不機嫌だと顔に出しているこいつがアルフレッド・ゴーデストか。
ゴーデスト家いえば、貿易を生業としている家系。貴族との関わりもあり富裕層といえるが、祖父の代で経営が傾き低迷の一途をたどっていたらしい。
父親アイザックが手腕を振い立て直したそうだが、それもとある貴族の援助があったからだと噂を耳にしたことがある。それは俺には関係ないしどうでもいい。
そういえばアイザックさんには、一度会ったことがあったな。
何をしに来ていたか知らないが、城ですれ違ったときに話しかけてきた。
穏やかな人で、一階の兵である俺にも丁寧に接してくれたが、やたら俺のことを聞いてきて馴れ馴れしいというか変わった人だとも思った。
本来兵になるはずのないアルフレッドがここにいるのは、アイザックさんが頼み込んできたとセラート総隊長から聞いたが……。理由は総隊長もよく分からないと言っていたな。あと、我が強く性格に難ありと小声で。
「ヴァン、よろしくね」
と、言ってにこにこと嬉しそうに笑っているカイリ。
カイリは前の隊から顔見知りで、この中で唯一面識がある。水の加護からの治癒は同期の中でもトップクラス。性格は明るく真面目で強調性があり、誰とでもうまくやっていける。癖のある奴らばかりだから、正直いてもらえてありがたい。
うんざりとした顔で、アルフレッドが首を横に振る。
「あんたが僕の隊長なの? 優秀って聞いたけど、治癒はできないみたいじゃん。ほとんどの人ができるのにさ。それに、王様と友達なの? 欠陥あるのに隊を任されたのも、だからなの?」
欠陥?
確かに、闇ビトの母を持つ俺は人間として欠陥だろう。加護を持つ者は効果に差はあれど、誰もができる。それをあまり気にしたことがないのは、闇の血が流れる俺には当たり前だと自分で勝手に納得していた。むしろ加護を受けているのが不思議なくらいであって。しかし……こいつは俺以上に人に気を使うことを知らない。
「そんなことぉ、どうでもいいですよ~。それよりぃ今晩どうですぅ? こんな子供相手するの疲れますよねぇ。私が癒してあげますよぉ」
近いな。
マリーが伸ばした手の前にカイリが割って入る。
「ちょっと!」
「おい、女っ! 僕を子供扱いするなっ!」
「もぉ、ガキンチョには興味ないの。ねぇ、どうですか隊長?」
「うるさい」
「え~」
どいつもこいつも好き放題。
完全に俺はこいつらに舐められている。
ここは一括……突如頭上から影が落ちる。
見上げれば、カミュンが目の前にいた。
「なんだ」
「やってらんねぇぜ。ぎゃぁぎゃぁと、餓鬼の集まりみたいで。俺はやらねぇぞ」
まったく同感だ。
俺も頭が痛い。
だからといって、どうぞとは言えない。
もう決められたのだ、この6人で瘴気の調査と瘴魔の討伐をすると。さっそく抜けられたらきっとキルは落胆する。
「もう決まったことだ。お前はこれからここで瘴気の調査を俺たちとするんだ」
「大層な任務だけどよ、それって俺が払い箱だからだろ? 瘴気の中に入ったら、戻ってこれないらしいじゃねぇか。他の連中は知らねぇが、俺はあわよくばその霧の中で消えてくれればいいって思われてる」
沈黙が流れる。
深く傷つく言葉は、こいつが受けた仕打ちを形容したものだろうか。
「なら、任務を果たしそいつらを見返してやればいい」
「簡単に言ってくれるな。俺は忌み子って時点で、見返すことなんて、もうできねぇんだよっ! 決まってんだよ。それに頑張ったところで、俺のことなんて誰も見てくれない」
「そんなこと分からないだろ。それにそう思うのはお前がまだ、認めてくれる人間に会えていないだけだ」
「おめでたい奴だな。てめぇもどうせ、面倒押し付けられたと思ってんだろっ!」
……まぁ。
「確かにお前の面倒を見るのは骨が折れそうだが、だからといって俺は放棄しない」
「なんだとっ!」
目の前には憤怒した顔。
言葉を間違えたか、殴ってきそうだ。
視界の端でカミュンが拳をつくり、振り上げる初動動作。
こちら目掛けてくる拳を右手の甲でガードし、体を横に逸らす。
左手首を外に曲げ、太い首に引っ掛ける。
左足を一歩出し、前に引っ掛けると同時に首に巻いた左足手を後ろに押してやる。
一瞬で、巨体は地に落ちる。
カミュンは仰向けで、呻き声をあげている。
つい反射的にしてしまった。
「隊長ぉかっこいい~」
「な、何やってるのよ!」
「ダサ、バッカみたい」
カイリがすかさずカミュンに手を差し出し、起こし体を支えている。
困ったものだが、こいつの気持ちは分からないわけではない。忌み子として、理不尽な仕打ちが多々あっただろう。俺も素性を知られていたら……。
いつか、分かってもらえるといい。
どんな自分でも認めてくれる人が、必ずいることを。俺がキルとカイトと出会えたように。
ずっと静観していたグレミオが近づいてくる。
言いすぎだと、怒られるだろうか。
「あの失礼ですが、隊長はどちらの生まれで?」
なんだこいつ。
やっと喋ったと思ったら、意味が分からないことを。副長を任せて大丈夫なのか?
「そんなこと、今は関係ないだろ」
「そうですね、すみません」
先が思いやられる。
こんなちぐはぐな連中とうまくやっていけるのだろうか。いや、やらないと。キルの期待に応えるんだ。
△
あまりの絶望から、あの日のことはよく覚えている。
懐かしい……といっても、三ヶ月ほど前か。
あの頃、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったな。
この世界以外にも、他の世界があった。
神がいて悪魔もいた。
母は闇ビトではなく悪魔で、その血を俺は受け継いでいる。
この世界が存続できるのか、神は魔王に勝てるのかなんて……そんな危機に直面していただなんて。
カイトもずっとそばにいるものだと思っていた。
誰かを好きになることも……だけど、こんな俺にも大切な人ができた。
それを、カイトに話したかった。
キルにも聞いて欲しかった。
覚えていなかった3人で結んだ約束を果たしたかったが話せない。もう何もかも変わってしまった。
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