咲く君のそばで、もう一度

詩門

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第二章

44.隣を歩く人は

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 待たせている隊員達の所へ向おうと城を出る。
 空の闇は深くなっており、星が瞬いていた。
 賑やかな街。大切な人と笑い合う人々の中をリナリアと並んで歩く。

「いつここを出るんだ?」
「明日にしようかな。キルにもう一度、会いに行こうと思って。次いつ会えるか……分からないから」
「そうか」

 そうした方がいい。
 会えなくなる。それは突然やってくる。思い出の中でならすぐ会えるのに、この世界ではもうカイトに会う事は出来ない。

 そうだ、会いに行かないと。

 キルがカイトの故郷に眠る場所を作ったと言っていた。ちょうど明日は非番。でも、まだ行くのが少し恐ろしい。

「ヴァンは明日、お休みなんだよね? いつも何してるの?」
「特に何もしてない。本読むくらいだ」
「ふふ、本当に好きなんだね。そうだ! 今度私のおすすめ教えてあげる」

 今度。それはいつだろうなんて、そんな事別にいいのに。ずっと慌ただしい胸が、煩わしい。彼女に気づかれないように、小さくため息を吐く。この気持ちをカイトに話したら、答えをくれただろうか。

「でも、明日はカイトの所へ行こうと思ってる。まだ、会いに行ってないんだ」
「そう。カイトさんきっと、貴方の事待ってるよ。……あの、よかったら私にも場所、教えてもらってもいいかな」
「なんで?」
「私も……カイトさんに祈りを捧げたいの」
「なら、明日一緒に行くか?」
「えっ!?」

 リナリアの喫驚した声、自身も驚いた。今自分が何を言ったのか分からなかった。次第に頭がそれを理解した時、なんでこんな馬鹿な事をと口を押さえるが、時すでに遅しだ。
 
「いいの?」
「いや、明日帰るんだったな。だから別に」
「大丈夫だよ。お昼の前にキルの様子見てから帰ろうと思ってたから」
「なら……その後、正門でいいか?」
「うん。お花、買っていこうね」

 何でこんな事を言ったのか。それは少しでも……過った言葉は考えない。

 正門へ着くと、星空を外で眺めようとする人で溢れていたその流れを避ける様に、入り口の隅で待っている隊員たちの姿が見える。カイリも来ていて、ジュンと笑いながら話しをしているが、他の隊員たちは気まずそうな顔で黙って立っている。ダイヤは……相変わらず。ムスッとした顔をしているアルと目が合う。
 
「あっ!! 隊長!!」
「もぉ遅いっすよ」
「悪い」
「やぁっと、この空気から解放されるぅ」

 けっとダイヤが舌打ちをする。それなら離れていればいいのにとは、待たせていたので言わない。

「それで、どうだった?」
「あぁ、俺も見るよ」
「本当? じゃあみんなで一緒に見れるね!」

 カイリは嬉しそうに、にっこりと笑う。
 ダイヤがリナリアの傍に行く。

「おい、リナリア行くぞ」
「ねぇ、みんなとここで見よう」
「はぁーーーーっ!?!?」

 周りの人が振り向く程の怒号に、耳を塞ぐ。本当にうるさい。

「ざっけんなっ!!」
「お兄ぃは本当にうるさい。なら、私達もご一緒してもいいですか?」
「もちろんですよ。人数は多い方が楽しいですから。ね? 隊長」
「そうだな」

 横目でダイヤを見る。今にも噛み付いてきそうな狂犬の様な顔で、わなわなと震えていた。それを気にせずにジュンが、懐っこくリナリアに抱きつく。

「ね、リナ。今年は何お願いするの?」
「もう決まってるよ」
「けっ、くだらねぇ。星に願って叶うなら俺は、いくらでも願ってやる」
「ダイヤは夢がない」
「るせぇなっ!」

 三人は話をしながら歩き出す。グレミオがその姿を見ながら微笑む。

「仲いいですね」
「そうだね」
「あれ、いいって言うの?」
「アルとカミュンもぉ~似た様なもんでしょぉ?」
「どこがっ!!」
「違うって、マリーちゃん!!」

 隊員達は楽しそうに話しているが、俺は離れていくリナリアの方へ耳を傾ける。

「そうだ! リナ、誕生日おめでと!」
「ありがとう。ジュンちゃん」
「19になっても、ちっこいままだな」
「もぉ、やめてよ」

 ダイヤは揶揄うようにリナリアの頭をポンポンと叩き、そして人のざわめきに中微かにおめでとう、っと言ったのが聞こえた。
 その光景に思いを馳せた。
 並んで歩く三人に、自身とキルとカイトが重ねて見る。俺達はもう三人で歩く事は、どう願っても出来ない。そしてそれとは別に、これからも彼女の隣を歩くことが出来る二人が……羨ましかった。

 もう、やめよう。

 徒労感のような疲れに、うんざりした。
 今度は騒がしい隊員達の話を、適当に聞く。

「決めたっ! 今日僕はお前が消し飛ぶように願う!!」
「じゃあ俺は、お前の身長がもっと縮んで、ぺちゃんこになるように願ってやるぜ!」
「言ってる事ぉ子供すぎぃ」
「星にはもっと、素敵な事を願いましょうね」

 皆は楽しそうだ。
 はぁ。
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