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第二章
41.憂い
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リナリアと川辺で一悶着があった後、彼女の様子は変わらない。話しかけても答えはするが、どこかぎこちない。
俺はもう彼女がいいと言うなら、何も聞かない事にした。どうせ聞いても教えてくれないし、何よりおかしな自分になるのがもう嫌だ。それでも、彼女を目で追ってはもやもやする。そんな煩わしい気持ちの中で任務を終え、街に戻る。
正門から街中へ入ると俺のモヤモヤした気持ちとは裏腹に、街中は聖夜祭を楽しむ人々で溢れていた。通り沿いに出ている露店を目で楽しみ、誰もが笑っている。星の装飾で飾られた街。明るい街。空から見ればここも星のように明るいだろう。
「綺麗だねぇ」
「なんかいい匂いもすんなっ! 腹減ったなぁ」
「見ているだけでも、楽しくなりますね」
皆もこの空気に触れ浮き立ちながらぽつぽつと歩き出す中で、リナリアは下を向いたまま立ち止り動こうとしない。どうしたのだろうと俺も立ち止まり見ていると、彼女は顔を上げる。
「皆さん!」
「ん? どうしたのリナリア?」
「私は今日ここでお別れになります」
「ええ!?」
彼女が自分の口からやっと言えた言葉。それは俺はもう分かっていた事なのに、更に現実味を帯びた気がした。
カミュンが慌ててリナリアへ駆け寄る。
「どっどう言う事!?」
「急ですみませんが私は、今日でこの隊を離れます。短い間でしたけどお世話になりました」
「そ、そんな」
「結局、リナリアの目的はなんだったの?」
アルの問いにリナリアは答えない。代わりに困った顔で微笑むだけ。アルはその意を汲み取ったのか、肩をすくめるだけで何も言わなかった。
「えぇ~でもぉそうなの~? 昨日の今日じゃなぁい」
「ううっ……俺は、寂しい、よ」
「ここを離れてもまた、いつでも遊びにいらして下さいね」
「ありがとうございます、グレミオさん」
リナリアは礼を言った後、どぼどぼとした足取りでカイリの前に立つ。
「その、カイリさんすみません……誘ってもらったのに。それでもまた、いつかお店教えて下さいね」
「……」
リナリアの声色は悲しそうに聞こえた。その声色と同じ様にカイリの表情も悲しそうに見えた。が、急にぱっと笑顔になる。
「そうだ! なら、せっかくだし今日みんなで星見ない?」
「おお! ナイスアイデア! カイリちゃん」
「それは、いい思い出になりそうですね」
「星か」
「星ねぇ~」
カイリの提案にカミュンとグレミオは前向きな姿勢だが、アルとマリーはあまり乗る気ではなさそうだ。
「ヴァンはどう? 予定ある?」
「俺?」
「隊長が一緒なら、僕は見る」
「お前な」
キルの顔が頭に浮かぶ。
キルは今日どうするつもりだろう?
「……どうかな。一度キルに聞いてみないと」
「国王様? そっか、分かったよ。なら、ヴァンも大丈夫そうだったらみんなで見ようよ!」
「でもさ、リナリアは約束あるんじゃないの?」
「ああっ! そう言えばそう言ってたね」
「すみません」
リナリアは申し訳なさそうにして俯く。
そんな会話をしているとふと、威圧するような視線を感じた。
「リナリア、迎えに来たぞ」
人のざわめきの中でも、ドスの効いた声はよく聞こえた。俺にはすぐに誰か分かった。
「ダイヤ、ジュンちゃん」
「リナ、お疲れ様」
やっぱりそこにはリナリアの友達、ダイヤとジュンがいた。赤い瞳を三日月の様に笑わせジュンは和かに手を振っているが、ダイヤといえば眉間に皺を寄せ人をはねつけるような目つきでこちらを見ている。先日のせいかどうもこいつの事が苦手だ。約束はこの二人となのだろうか。
「どっかで見た事ある」
「……確か、先日のファリュウスの戦場でお会いしたような」
「リナリア~知り合いなのぉ?」
「友達です」
「友達!? へ、へぇ」
カミュンは驚いている……いや、少し怯えているように見えた。体格の良さならカミュンだって負けてはいないのに、ダイヤの威圧するオーラのせいで小さく見えた。
「ダイヤ、ジュンちゃんごめんね。まだ少しだけやらなくちゃいけない事があるの」
「はぁっ!?」
「……ヴァンも一緒に」
「はあっ!!!?」
耳を押さえたくなるようなダイヤの怒号が辺りに響く。
急に名を呼ばれてぽかんとしてしまったがそうだ、話をしたいと言ったのは俺の方だ。でも、話す内容を考えると気が重くなる。
「こいつとなんの用だ!?」
「その……すぐ終わるから」
「だから、なんの用」
「もういいじゃんお兄ぃ。すぐ終わるってリナ言ってるんだから。ホント短気なんだから」
「――っ」
目つきの悪い赤い瞳がギロッと俺を睨んできた。
なんなんだ、こいつ。
一方的な敵意にイラついた。だから、凄んで見てくる赤い瞳に目を据える。ダイヤは口惜しそうに瞳を歪めた後、わしわしと襟足を伸ばした赤い髪を掻きむしり怒鳴り声を上げる。
「ならさっさと終わらせてくれ! とにかく俺はここで待ってるからなっ!! この正門で!!」
「私たちはどうしますかね?」
「ならぁ~私達もここで待ってるぅ? 隊長もまだ分かんないし~」
「別に良いけど……でも」
「まぁそうだよな……でもよ」
アルとカミュンはダイヤをじっと見る。それに気がついたのかダイヤの眉間の皺が更に深くなる。
「あっ!? 文句あんならてめぇらどっか行けよっ!!」
「お兄ぃやめて」
「そっちがどっか行けばいいじゃん」
「アルさん。少しは怖いという感情を覚えた方がいいですよ」
一触即発の雰囲気に不安しかない。
「じゃっじゃぁ、私家族に伝えてくるからまた後でね」
カイリは逃げるようにそそくさとこの場を離れ、人混みの中へと消えて行く。
「ヴァン、行こ」
「あ、あぁ」
相変わらずこちらを見ないリナリアに促され、歩き出す彼女について行く。後ろでダイヤの盛大な舌打ちと早く帰って来てくださいね、っとカミュンのか細い声が聞こえた。
楽しそうに歩く人々とすれ違う中、無言で歩く俺達。昨日とは全く真逆な状況。何があればこうなってしまうのか、依然俺には分からない。いやいや、と首を振る。もう考えない事にしたんだ。
とりあえず行き先が分からぬまま歩いているので、彼女に問う。
「どこに行くんだ?」
「キルのところに。ここを出る前に会っておきたくて。ヴァンも今日の事聞くでしょ?」
「あぁ」
またお互い無言になるかと思いきや彼女は話を続けてくる。
「私ね、あなたの事も心配だったんだけどキルの事も心配で」
「……」
「キルとはその、何かお話しした?」
「あまり話してないんだ」
「そうなんだ」
「何も……カイトの事で今どう思ってるのか。何も言わない。気を遣ってるのか、いつもと変わらない」
「……」
辛くないはずないんだ。でも、それを俺には見せない。気遣わさせてしまう。
キルはカイトがいなくなってからどんな思いですごしているのだろう。
ガヤガヤとした人の声の中、彼女の声が聞こえた。
「無理、してないかな。キルとは貴方に比べれば知り合ったのは短いけど、でもキルってそういうところあるでしょ? 人に弱さを見せないとこ」
「……そうだな」
「でも、お父さんが亡くなった時は泣いてたのに」
ドキッとした。それは俺も同じ事を思ったから。そして、それを彼女は何故知っているのか。
「どうして知ってるんだ?」
「私がね、キルと会ったのはキルのお父さんの葬儀の時だったから。キルはお墓の前で一人で泣いてた。だから、私は声をかけた」
「初めからリナリアとして声をかけたのか?」
「違うよ。でも、すぐにバラしちゃった」
「なんで?」
「なんでかな……でも、キルなら私が女でも変わらずに接してくれるってなんとなく思ったのかな。ミツカゲにはすごく怒られたけど」
「……」
リナリアは随分とキルの事を信用している。俺もそれには共感しかない。キルは真っ直ぐに人を導いてくれる。そこに疑いはない。人の上に立つ。そういう素質がキルにはある。
リナリアはおもむろに空を見上げる。
「もう5年。キルは王様だから弱みを見せない、強がるのが上手くなっちゃったのかな……なんだか」
「なんだか?」
「ううん。なんでもないよ。私がキルの力になれるのはきっとここまで……キルは私には話してくれないと思う」
リナリアの声が沈んでいく。それは俺も同じなんだ。
王に即位する前だってキルは俺達に弱音を吐いた事がない。ふとあの時のキルの言葉が蘇る。
――俺が泣いたら、お前が困るだろ――
俺はキルが泣いていたあの時、受け止める事ができなかったのだろうか。
俺はもう彼女がいいと言うなら、何も聞かない事にした。どうせ聞いても教えてくれないし、何よりおかしな自分になるのがもう嫌だ。それでも、彼女を目で追ってはもやもやする。そんな煩わしい気持ちの中で任務を終え、街に戻る。
正門から街中へ入ると俺のモヤモヤした気持ちとは裏腹に、街中は聖夜祭を楽しむ人々で溢れていた。通り沿いに出ている露店を目で楽しみ、誰もが笑っている。星の装飾で飾られた街。明るい街。空から見ればここも星のように明るいだろう。
「綺麗だねぇ」
「なんかいい匂いもすんなっ! 腹減ったなぁ」
「見ているだけでも、楽しくなりますね」
皆もこの空気に触れ浮き立ちながらぽつぽつと歩き出す中で、リナリアは下を向いたまま立ち止り動こうとしない。どうしたのだろうと俺も立ち止まり見ていると、彼女は顔を上げる。
「皆さん!」
「ん? どうしたのリナリア?」
「私は今日ここでお別れになります」
「ええ!?」
彼女が自分の口からやっと言えた言葉。それは俺はもう分かっていた事なのに、更に現実味を帯びた気がした。
カミュンが慌ててリナリアへ駆け寄る。
「どっどう言う事!?」
「急ですみませんが私は、今日でこの隊を離れます。短い間でしたけどお世話になりました」
「そ、そんな」
「結局、リナリアの目的はなんだったの?」
アルの問いにリナリアは答えない。代わりに困った顔で微笑むだけ。アルはその意を汲み取ったのか、肩をすくめるだけで何も言わなかった。
「えぇ~でもぉそうなの~? 昨日の今日じゃなぁい」
「ううっ……俺は、寂しい、よ」
「ここを離れてもまた、いつでも遊びにいらして下さいね」
「ありがとうございます、グレミオさん」
リナリアは礼を言った後、どぼどぼとした足取りでカイリの前に立つ。
「その、カイリさんすみません……誘ってもらったのに。それでもまた、いつかお店教えて下さいね」
「……」
リナリアの声色は悲しそうに聞こえた。その声色と同じ様にカイリの表情も悲しそうに見えた。が、急にぱっと笑顔になる。
「そうだ! なら、せっかくだし今日みんなで星見ない?」
「おお! ナイスアイデア! カイリちゃん」
「それは、いい思い出になりそうですね」
「星か」
「星ねぇ~」
カイリの提案にカミュンとグレミオは前向きな姿勢だが、アルとマリーはあまり乗る気ではなさそうだ。
「ヴァンはどう? 予定ある?」
「俺?」
「隊長が一緒なら、僕は見る」
「お前な」
キルの顔が頭に浮かぶ。
キルは今日どうするつもりだろう?
「……どうかな。一度キルに聞いてみないと」
「国王様? そっか、分かったよ。なら、ヴァンも大丈夫そうだったらみんなで見ようよ!」
「でもさ、リナリアは約束あるんじゃないの?」
「ああっ! そう言えばそう言ってたね」
「すみません」
リナリアは申し訳なさそうにして俯く。
そんな会話をしているとふと、威圧するような視線を感じた。
「リナリア、迎えに来たぞ」
人のざわめきの中でも、ドスの効いた声はよく聞こえた。俺にはすぐに誰か分かった。
「ダイヤ、ジュンちゃん」
「リナ、お疲れ様」
やっぱりそこにはリナリアの友達、ダイヤとジュンがいた。赤い瞳を三日月の様に笑わせジュンは和かに手を振っているが、ダイヤといえば眉間に皺を寄せ人をはねつけるような目つきでこちらを見ている。先日のせいかどうもこいつの事が苦手だ。約束はこの二人となのだろうか。
「どっかで見た事ある」
「……確か、先日のファリュウスの戦場でお会いしたような」
「リナリア~知り合いなのぉ?」
「友達です」
「友達!? へ、へぇ」
カミュンは驚いている……いや、少し怯えているように見えた。体格の良さならカミュンだって負けてはいないのに、ダイヤの威圧するオーラのせいで小さく見えた。
「ダイヤ、ジュンちゃんごめんね。まだ少しだけやらなくちゃいけない事があるの」
「はぁっ!?」
「……ヴァンも一緒に」
「はあっ!!!?」
耳を押さえたくなるようなダイヤの怒号が辺りに響く。
急に名を呼ばれてぽかんとしてしまったがそうだ、話をしたいと言ったのは俺の方だ。でも、話す内容を考えると気が重くなる。
「こいつとなんの用だ!?」
「その……すぐ終わるから」
「だから、なんの用」
「もういいじゃんお兄ぃ。すぐ終わるってリナ言ってるんだから。ホント短気なんだから」
「――っ」
目つきの悪い赤い瞳がギロッと俺を睨んできた。
なんなんだ、こいつ。
一方的な敵意にイラついた。だから、凄んで見てくる赤い瞳に目を据える。ダイヤは口惜しそうに瞳を歪めた後、わしわしと襟足を伸ばした赤い髪を掻きむしり怒鳴り声を上げる。
「ならさっさと終わらせてくれ! とにかく俺はここで待ってるからなっ!! この正門で!!」
「私たちはどうしますかね?」
「ならぁ~私達もここで待ってるぅ? 隊長もまだ分かんないし~」
「別に良いけど……でも」
「まぁそうだよな……でもよ」
アルとカミュンはダイヤをじっと見る。それに気がついたのかダイヤの眉間の皺が更に深くなる。
「あっ!? 文句あんならてめぇらどっか行けよっ!!」
「お兄ぃやめて」
「そっちがどっか行けばいいじゃん」
「アルさん。少しは怖いという感情を覚えた方がいいですよ」
一触即発の雰囲気に不安しかない。
「じゃっじゃぁ、私家族に伝えてくるからまた後でね」
カイリは逃げるようにそそくさとこの場を離れ、人混みの中へと消えて行く。
「ヴァン、行こ」
「あ、あぁ」
相変わらずこちらを見ないリナリアに促され、歩き出す彼女について行く。後ろでダイヤの盛大な舌打ちと早く帰って来てくださいね、っとカミュンのか細い声が聞こえた。
楽しそうに歩く人々とすれ違う中、無言で歩く俺達。昨日とは全く真逆な状況。何があればこうなってしまうのか、依然俺には分からない。いやいや、と首を振る。もう考えない事にしたんだ。
とりあえず行き先が分からぬまま歩いているので、彼女に問う。
「どこに行くんだ?」
「キルのところに。ここを出る前に会っておきたくて。ヴァンも今日の事聞くでしょ?」
「あぁ」
またお互い無言になるかと思いきや彼女は話を続けてくる。
「私ね、あなたの事も心配だったんだけどキルの事も心配で」
「……」
「キルとはその、何かお話しした?」
「あまり話してないんだ」
「そうなんだ」
「何も……カイトの事で今どう思ってるのか。何も言わない。気を遣ってるのか、いつもと変わらない」
「……」
辛くないはずないんだ。でも、それを俺には見せない。気遣わさせてしまう。
キルはカイトがいなくなってからどんな思いですごしているのだろう。
ガヤガヤとした人の声の中、彼女の声が聞こえた。
「無理、してないかな。キルとは貴方に比べれば知り合ったのは短いけど、でもキルってそういうところあるでしょ? 人に弱さを見せないとこ」
「……そうだな」
「でも、お父さんが亡くなった時は泣いてたのに」
ドキッとした。それは俺も同じ事を思ったから。そして、それを彼女は何故知っているのか。
「どうして知ってるんだ?」
「私がね、キルと会ったのはキルのお父さんの葬儀の時だったから。キルはお墓の前で一人で泣いてた。だから、私は声をかけた」
「初めからリナリアとして声をかけたのか?」
「違うよ。でも、すぐにバラしちゃった」
「なんで?」
「なんでかな……でも、キルなら私が女でも変わらずに接してくれるってなんとなく思ったのかな。ミツカゲにはすごく怒られたけど」
「……」
リナリアは随分とキルの事を信用している。俺もそれには共感しかない。キルは真っ直ぐに人を導いてくれる。そこに疑いはない。人の上に立つ。そういう素質がキルにはある。
リナリアはおもむろに空を見上げる。
「もう5年。キルは王様だから弱みを見せない、強がるのが上手くなっちゃったのかな……なんだか」
「なんだか?」
「ううん。なんでもないよ。私がキルの力になれるのはきっとここまで……キルは私には話してくれないと思う」
リナリアの声が沈んでいく。それは俺も同じなんだ。
王に即位する前だってキルは俺達に弱音を吐いた事がない。ふとあの時のキルの言葉が蘇る。
――俺が泣いたら、お前が困るだろ――
俺はキルが泣いていたあの時、受け止める事ができなかったのだろうか。
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