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第二章
28.隠し事は難しい
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大きな雲が緩やかに流れる空の元、瘴魔が目撃された場所まで馬を走らせる。確かこの辺りと見回すと、黒い塊が見えた。近寄るとそいつらは動かぬただの肉の塊になっていた。
「誰か先にやっつけたんだね」
「はぁあ、仕事なくなった」
「いいじゃねぇか! 楽できて」
ただ斬られただけにしては随分惨たらしい姿の亡骸を俺は見つめる。気分が悪くなる。急に耳に入る音がぼんやりとし出し、視界がその亡骸しか見えなくなった。
これは、カイトじゃない。
分かってる。最後目玉の瘴魔がカイトを……殺した。
でも本当に?
今まで瘴魔は数え切れないほど斬ってきた。でも知ってしまったんだ。この亡骸も元は人であった。ふとその亡骸が動いた気がした。死んでいるはずなのにビクビクッと体を小刻みに揺らした後、ゆっくりと起きあがろうとしてくる。冷や汗が流れだす。呼吸がうまくできなくなる。体が動かない。ボロボロの体に紫の液体を滴らせながらその怪物は立ち上がった。俺はそれを瞬きしないで見つめる。それはまるで……あの時のカイトを見ている様だった。
「ねぇっ!」
呼ばれた声にはっとして我に帰る。目に映していた亡骸は、最初に見た時と同じ場所で地に伏していた。誰が俺の服の裾を掴んでる。少し顔を向けてみると、リナリアが立っていた。不安そうな瞳で俺を見上げている。俺はやんわりと掴まれている手を退ける。
しっかりしないと。
これ以上考えるともう戦えなくなりそうだった。それじゃあ心臓なんて、悪魔なんて倒せない。カイトの無念も晴らす事ができない。
「隊長、どうしますか?」
グレミオに問われ、俺はなるべく平常心を心掛け空を見上げる。日は真上を少しずれている。少し休んでその辺を見回って帰るとしよう。
少し先に一本木が見えた。そこまで馬を走らせる。辿り着き皆馬を降りて腰を下ろし出す。俺の横にカイリが座り、その横にリナリアが立っている。
「じゃあ~早速リナリアに質問タ~イム」
「わっ私ですか?」
マリーの発言にリナリアは目を丸くして肩を跳ねさす。すぐにカイリが手を上げる。
「リナリアは今いくつなの?」
「えっと、18です」
「ふーん、じゃあ僕と同じなんだ」
「よかったねぇ、アル。あんたより身長も低いしねぇ」
「マリー。次言ったらぶっ飛ばすからな」
「こわぁ」
「若いっていいですねぇ」
皆は普通にその答えを受ける中、俺は内心少し驚いてた。
……そうなのか。
彼女が俺の記憶にいる泥だらけのローブのあいつではないかと思っていたが、年が合わくなった。曖昧な記憶だが流石に5歳下の一歳ほどの風貌ではなかったのは分かる。
今度はアルが加護の力は何かと尋ねている。俺は今はこの事を考えるのは止め、どう答えるのだろうと傍観する。流石に本当の事は答えはしないだろう。自分の正体を晒す様なもの。リナリアはキョロキョロと視線を泳がせ、手で裾をもじもじとさせながらないっ、と答える。それに皆は気まずそうな顔をする中、カミュンだけがぱっと明るい顔をする。
「じゃあ俺と同じだなっ!」
「えっ」
「俺も加護なしなんだっ!」
胸を張る様に言うカミュンにリナリアは眉を下げる。稀に加護を受けないで産まれてくる忌み子。それはこの世界では異端とする存在だから、リナリアが心苦しく思うのも無理はない。
「リナリアちゃんは大丈夫か? 酷い目に合ったりとかはしてない?」
「あ、いえ」
「困った事があったらなんでも言ってくれ!」
「カミュンアピールしすぎぃ」
「馬鹿だな。まさに今困ってる」
困っている。確かにそうなんだろうけど俯くリナリアの表情は、俺には申し訳なさそうにしている様に見えた。隠し事をすると言うのは難しいものだ。それは俺自身も身に染みて分かっている。
俺の向かいに座っているマリーが、にたにたとした笑みをしながら口を開く。
「ねぇ、恋人とかいるのぉ?」
「いないです」
「そうなのぉ? でも、可愛いからぁ~モテそぉ」
「そんな……私には縁遠いです」
「そぉ?」
「リナリアってさ、なんで男用の隊服着てんの?」
アルの質問にリナリアの顔がカァっと赤くなった。言われてみれば。女はスカートであるが、リナリアはズボンを履いている。
「別にいいじゃねぇかっ! 似合ってるんだし! ところで、リナリアちゃんどこに住んでるの?」
「あの、首都からは離れた街です」
「へぇ! 趣味とかある?」
「しゅっ趣味ってほどではないですけど、本」
「ちなみに明日の聖夜祭はなにするの?」
「えぇっと、どうしましょう」
カミュンの怒涛の質問攻めにリナリアは体を引かせ、困惑してる様子。みんなもうんざりした顔をしている。
こいつ、俺が忠告したのに聞いちゃいない。
いっそ痛い目を見ればいいとそんな思いでカミュンを見ると、目が合い顔を青ざめる様にする。こそこそっとした声でリナリアにカミュンが尋ねる。
「ねぇ、リナリアちゃんと隊長ってどう言う関係?」
「ふふ。ただの顔見知りですよ」
「国王様ともお知り合いなんですか?」
「もしかして身分高いの?」
「どうしてぇここに来たのぉ~?」
また質問攻めに合うリナリアは、目でも回してしまいそうなほどに視線をあっちこっち忙しくさせている。助けを求める様な青い瞳と目が合う。俺は知らない、っと逸らして空を仰ぐ。逸らした先にも青が広がる。リナリアが一生懸命答えている声を聞きながら、雲ひとつない青空をぼうっと眺める。その綺麗さに酷く切ない気持ちになる。一羽の白い鳥が気持ちよさそうに飛んでいく。
「なんかぁ平和ねぇ」
マリーの言葉首に顔を下ろし、問いかける。
「平和?」
「ずっとぉ争っていた闇ビトもいなくなってぇ、瘴気もなくなってぇ平和だなぁ~て」
「!?」
「本当にあれだけ起こっていたのに急に消えてしまうなんて嬉しいですが、不気味ですよね」
「もしこのまま瘴気も闇ビトもなくなって、今いる瘴魔も殲滅できたらこの隊どうなるのかな?」
険しい表情に変わったリナリアと目が合う。
どう言うなんだ?
揺らぎ不安定さを感じる瞳から、視線を逸らさずに見つめる。リナリアは何か知っているのだろうか?
後で問いただそうと思っていると、遠くから人の悲鳴の様なものが微かに聞こえた。慌てて立ち上がり先を見る。波打つ平原の先に大きな黒い塊が見えた。
「誰か先にやっつけたんだね」
「はぁあ、仕事なくなった」
「いいじゃねぇか! 楽できて」
ただ斬られただけにしては随分惨たらしい姿の亡骸を俺は見つめる。気分が悪くなる。急に耳に入る音がぼんやりとし出し、視界がその亡骸しか見えなくなった。
これは、カイトじゃない。
分かってる。最後目玉の瘴魔がカイトを……殺した。
でも本当に?
今まで瘴魔は数え切れないほど斬ってきた。でも知ってしまったんだ。この亡骸も元は人であった。ふとその亡骸が動いた気がした。死んでいるはずなのにビクビクッと体を小刻みに揺らした後、ゆっくりと起きあがろうとしてくる。冷や汗が流れだす。呼吸がうまくできなくなる。体が動かない。ボロボロの体に紫の液体を滴らせながらその怪物は立ち上がった。俺はそれを瞬きしないで見つめる。それはまるで……あの時のカイトを見ている様だった。
「ねぇっ!」
呼ばれた声にはっとして我に帰る。目に映していた亡骸は、最初に見た時と同じ場所で地に伏していた。誰が俺の服の裾を掴んでる。少し顔を向けてみると、リナリアが立っていた。不安そうな瞳で俺を見上げている。俺はやんわりと掴まれている手を退ける。
しっかりしないと。
これ以上考えるともう戦えなくなりそうだった。それじゃあ心臓なんて、悪魔なんて倒せない。カイトの無念も晴らす事ができない。
「隊長、どうしますか?」
グレミオに問われ、俺はなるべく平常心を心掛け空を見上げる。日は真上を少しずれている。少し休んでその辺を見回って帰るとしよう。
少し先に一本木が見えた。そこまで馬を走らせる。辿り着き皆馬を降りて腰を下ろし出す。俺の横にカイリが座り、その横にリナリアが立っている。
「じゃあ~早速リナリアに質問タ~イム」
「わっ私ですか?」
マリーの発言にリナリアは目を丸くして肩を跳ねさす。すぐにカイリが手を上げる。
「リナリアは今いくつなの?」
「えっと、18です」
「ふーん、じゃあ僕と同じなんだ」
「よかったねぇ、アル。あんたより身長も低いしねぇ」
「マリー。次言ったらぶっ飛ばすからな」
「こわぁ」
「若いっていいですねぇ」
皆は普通にその答えを受ける中、俺は内心少し驚いてた。
……そうなのか。
彼女が俺の記憶にいる泥だらけのローブのあいつではないかと思っていたが、年が合わくなった。曖昧な記憶だが流石に5歳下の一歳ほどの風貌ではなかったのは分かる。
今度はアルが加護の力は何かと尋ねている。俺は今はこの事を考えるのは止め、どう答えるのだろうと傍観する。流石に本当の事は答えはしないだろう。自分の正体を晒す様なもの。リナリアはキョロキョロと視線を泳がせ、手で裾をもじもじとさせながらないっ、と答える。それに皆は気まずそうな顔をする中、カミュンだけがぱっと明るい顔をする。
「じゃあ俺と同じだなっ!」
「えっ」
「俺も加護なしなんだっ!」
胸を張る様に言うカミュンにリナリアは眉を下げる。稀に加護を受けないで産まれてくる忌み子。それはこの世界では異端とする存在だから、リナリアが心苦しく思うのも無理はない。
「リナリアちゃんは大丈夫か? 酷い目に合ったりとかはしてない?」
「あ、いえ」
「困った事があったらなんでも言ってくれ!」
「カミュンアピールしすぎぃ」
「馬鹿だな。まさに今困ってる」
困っている。確かにそうなんだろうけど俯くリナリアの表情は、俺には申し訳なさそうにしている様に見えた。隠し事をすると言うのは難しいものだ。それは俺自身も身に染みて分かっている。
俺の向かいに座っているマリーが、にたにたとした笑みをしながら口を開く。
「ねぇ、恋人とかいるのぉ?」
「いないです」
「そうなのぉ? でも、可愛いからぁ~モテそぉ」
「そんな……私には縁遠いです」
「そぉ?」
「リナリアってさ、なんで男用の隊服着てんの?」
アルの質問にリナリアの顔がカァっと赤くなった。言われてみれば。女はスカートであるが、リナリアはズボンを履いている。
「別にいいじゃねぇかっ! 似合ってるんだし! ところで、リナリアちゃんどこに住んでるの?」
「あの、首都からは離れた街です」
「へぇ! 趣味とかある?」
「しゅっ趣味ってほどではないですけど、本」
「ちなみに明日の聖夜祭はなにするの?」
「えぇっと、どうしましょう」
カミュンの怒涛の質問攻めにリナリアは体を引かせ、困惑してる様子。みんなもうんざりした顔をしている。
こいつ、俺が忠告したのに聞いちゃいない。
いっそ痛い目を見ればいいとそんな思いでカミュンを見ると、目が合い顔を青ざめる様にする。こそこそっとした声でリナリアにカミュンが尋ねる。
「ねぇ、リナリアちゃんと隊長ってどう言う関係?」
「ふふ。ただの顔見知りですよ」
「国王様ともお知り合いなんですか?」
「もしかして身分高いの?」
「どうしてぇここに来たのぉ~?」
また質問攻めに合うリナリアは、目でも回してしまいそうなほどに視線をあっちこっち忙しくさせている。助けを求める様な青い瞳と目が合う。俺は知らない、っと逸らして空を仰ぐ。逸らした先にも青が広がる。リナリアが一生懸命答えている声を聞きながら、雲ひとつない青空をぼうっと眺める。その綺麗さに酷く切ない気持ちになる。一羽の白い鳥が気持ちよさそうに飛んでいく。
「なんかぁ平和ねぇ」
マリーの言葉首に顔を下ろし、問いかける。
「平和?」
「ずっとぉ争っていた闇ビトもいなくなってぇ、瘴気もなくなってぇ平和だなぁ~て」
「!?」
「本当にあれだけ起こっていたのに急に消えてしまうなんて嬉しいですが、不気味ですよね」
「もしこのまま瘴気も闇ビトもなくなって、今いる瘴魔も殲滅できたらこの隊どうなるのかな?」
険しい表情に変わったリナリアと目が合う。
どう言うなんだ?
揺らぎ不安定さを感じる瞳から、視線を逸らさずに見つめる。リナリアは何か知っているのだろうか?
後で問いただそうと思っていると、遠くから人の悲鳴の様なものが微かに聞こえた。慌てて立ち上がり先を見る。波打つ平原の先に大きな黒い塊が見えた。
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