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第一章
3.旧友
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カイトもキル同様、最近の忙しさでなかなか会えずにいた。立て続けに友人に会えた事になんだか胸がほっとする。
「あの、どうして総隊長はこんなところへ?」
グレミオが神妙な面持ちで聞く。
「ああ、歩いていたら本国である私より、聖騎士長のファンって声が聞こえて。それで、ね」
ニコニコ顔でセラートがアルを見る。アルは何も言わない。カイトが優しく諌めるように言う。
「セラート様、違いますよ」
「ふふ、そうだね。すまなかった……さっきのは冗談で、実は今日君達に頼み事があって来たのさ」
「頼み……ですか」
直々に尋ねて来ての頼み事なんて……なんだか少し嫌な予感がした。セラートはちょっと場所を変えようか、っと俺達を城壁の外へと連れ出す。門から離れた人気のない場所でセラートは立ち止まり、こちらへと向き直る。早速頼み事の件について俺は問う。
「それで、頼みってなんですか?」
「明日、私達たちはファリュウス神聖国に行く。だから、君達にも一緒に来てもらいたい」
「神聖国へ? 何をしに?」
「アルの大好きな聖騎士長に会いに行くのさ」
今日の晴天の様な清々しい笑み。思ったよりセラートは根に持つタイプなのかもしれない。それは頭の隅に置き、俺は話を先に進める。
「よく会う約束を取り付けましたね。ファリュウスは同盟国ですがあまり友好的ではないですから。今回の霧の件も協力的ではないですし」
「そうですよね。特にアドニールさんが現れてからですかね」
「まぁ、小国ですからぁ他の同盟国より優位に立てることを持っておきたいんでしょうけどねぇ~」
グレミオとマリーは少々不満気味の様だが、正直何も分からなかった瘴気の手掛かりが掴めるのかもしれないと思うと俺は、素直に嬉しいと思った。だがそんな俺の気持ちを、次にセラートに発せられた言葉によって打ち砕かれる。
「いや、やはり直接会って話を聞くのは難しそうだ。だから黙って会いに行こうって事になったよ」
なったよって、どういう事だ。ぽかんとしている俺をよそに、セラートが続けて話す。
「君達も知っての通り、ファリュウスは非協力的だし、霧の件も我々なりに探ってきたが何も進展はない。だが、最近偵察隊がファリュウスで何か不審な動きがあると情報が入っている」
「不審な動きですか?」
「ああ、首都辺りで戦闘の準備をした騎士達が集まっているらしい。なんとも物々しい雰囲気だそうだ」
「なんっすかそれ!? 戦争でも始めようとしてるんっすか!?」
カミュンの慌てた声に、セラートは静かに首を振る。
「そうじゃない。なんだかそれは何かを待ち構える様な戦闘態勢の様だ。そこで我々は考えた。それは瘴気なのではないかと」
「!?」
本当なのだろうかと皆が騒めく。
「とにかく情報が欲しい。もし瘴気の発生する場所、時間が分かるのならこちらだって知りたい。そこで考えたのが、勝手に行って話を聞こうって策だよ。どうだい? 簡潔で実に分かりやすいよね」
眉間に皺が寄る。本気なのか……これは策とは言えないだろう。しかも、それは予想であって本当かどうかは分からない。行き当たりばったりな話に不安になる。
「でも、仮に会えたとしても相手にしてもらえるかどうか」
カイリが少し言い辛そうに言う。俺もそう思う。
「そうだね。でも今はできる事はなんでもしておきたい。仮に会えなくとも何か掴めるかもしれない……ここ最近特にこの辺りで霧の発生が多い」
おもむろにセラートは空を仰ぐ。俺はそれを静かに見つめる。
「以前は世界各地で起こっていた……なのに、徐々に霧がこの周辺で特に多く起こる様になって来た。それはもしかしたら、ファリュウスが関係してるのではないかと」
「疑ってるんですか?」
少し強い口調でアルが問う。セラートはふっと吐息を漏らす様に笑みをこぼした後、力強い瞳で言う。
「君には悪いけど、霧に入っても無事でいる辺り気になる。彼らは何かを隠している」
「……」
セラートの圧に押されてかアルは何も意を唱えないが、不服そうに下を向く。
「とにかく、明日の朝ここを出るから零隊も正門前で集合だ、いいね」
なんだか話がどんどん進んでいく。本当にやる気なのか?
「あ、あと僕とカイトは商人で君たちは僕たちの護衛を頼まれた傭兵の設定だがら、そのつもりの格好できてね。まぁ簡単な私服でいいよ」
「しかし、それはわざわざ貴方が行く事ではないのでは? 他に適任がいるでしょう」
「正直、ずっと籠るのは飽きたんだ」
「それだけですか?」
セラートは僅かに眉を下げ、静かだが力のこもる口調で話し始める。
「私も原因を知りたい。この霧のせいで何人もの兵士や一般市民が犠牲になっている。先日連絡係の兵士が何人かやられた……ファリュウスからの帰りだった。口封じでもされたのなら……黙ってはいられないよね」
「……」
「それにもし、本当に霧が起こるなら私も確認しておきたい。私は見た事ないからね……同じ立場である聖騎士長と一緒にね」
まだ言いたい事、聞きたい事はあったのに、セラートはその言葉を残して行ってしまう。その背を目を細めて見送る。彼は至って真剣なのだろう。だけど、どうも嫌な予感のする任務だ。
セラートに何かあれば、俺にはどんな処罰があるのだろう?
考えるだけで最悪。もっと強く再考する様に言えばよかったと考えていると、カイトが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ヴァン、会うの久しぶりだね。元気だった?」
「あぁ、お前も元気そうだな。しかし大丈夫か? まさかこれ、独断じゃないだろうな?」
カイトは苦笑しながら、ポリポリと頬を掻く。
「知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない……かな?」
「はぁ」
頭が痛い。カイトはセラートが去って行った方を見て、静かに口を開く。
「ちょっと、焦ってるんだ」
「焦る?」
「瘴気の事は何も分からないのに、被害がどんどん広がってる一方だから」
「すみませんねぇ~私達なにもぉ出来なくてぇ」
「ちょっとマリー!」
「すみません。そう言う意味じゃ!」
マリーの棘のある言葉をカイリが制止させる。カイトはあわあわとする。確かに瘴魔を倒すだけで、俺達は瘴気の件は何も解明出来ていない。だとしたらこれはその罰なのだろうか。
「ところでさヴァンは今日の夜予定ある?」
カイトは苦笑いをしながら尋ねてくる。
「今日の夜? なんで?」
「いや、ちょっと会って話したいことがあって……僕今日は早く終われるんだ」
なぜか少し頬を赤くする。久しぶりだし会って話したいのは山々なのだが、正直いつ終わるかは分からない。昨日のように遅くなる事は日常茶飯事。不確かな予定で約束は出来ない。
「悪いんだが」
「いいじゃないですか、隊長。行ってきてくださいよ。報告書は私が書いて提出しておきますから」
俺の声を遮り、グレミオが微笑んで言う。
「いや、それは……」
「グレミオさんがいいって言うんならいいんじゃないっすか、隊長!」
「そうよ。ヴァンずっと遅くまで働き詰めだったし、たまにはお友達と遊んできてもいいんじゃない?」
「僕も何かお手伝いできる事があれば、手伝うので心配しないで下さい」
「私もぉ~ぼちぼちやりますよぉ」
皆気を使って言ってくれるが、自分の仕事を他人に任せて遊びに行く事には気が進まない。
「ヴァンがさ頑張って働いてばっかだと、私達も遊びに行きにくくなっちゃうんだよね!」
俺の煮え切らない態度にぐっと刺さる。ここまで言われると、断りきれずに観念した。
「……分かったよ、じゃあお前達にお願いする」
カイトに返事をしようと見ると、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「決まりだね。じゃあ終わったらその足でカミールの店でどうかな?」
「分かった」
「それじゃまた後で」
カイトは鼻歌を歌いながら、軽い足取り門まで小走りで走って行く。
「なんか悪いな」
「いーのいーのっ! 私達もヴァンの力になりたいの!」
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。隊長」
「今日もバッサバッサやってやんぜー!」
「カミュンって力の使い方雑だから、もう少し考えてよ」
「突っ走りすぎてたまに邪魔よね~」
口々にそう言いながら馬に跨る。手綱を握ったカリンが、満遍の笑みでこちらを見る。
「約束のためにも今日も頑張ろうね! ヴァン」
「あの、どうして総隊長はこんなところへ?」
グレミオが神妙な面持ちで聞く。
「ああ、歩いていたら本国である私より、聖騎士長のファンって声が聞こえて。それで、ね」
ニコニコ顔でセラートがアルを見る。アルは何も言わない。カイトが優しく諌めるように言う。
「セラート様、違いますよ」
「ふふ、そうだね。すまなかった……さっきのは冗談で、実は今日君達に頼み事があって来たのさ」
「頼み……ですか」
直々に尋ねて来ての頼み事なんて……なんだか少し嫌な予感がした。セラートはちょっと場所を変えようか、っと俺達を城壁の外へと連れ出す。門から離れた人気のない場所でセラートは立ち止まり、こちらへと向き直る。早速頼み事の件について俺は問う。
「それで、頼みってなんですか?」
「明日、私達たちはファリュウス神聖国に行く。だから、君達にも一緒に来てもらいたい」
「神聖国へ? 何をしに?」
「アルの大好きな聖騎士長に会いに行くのさ」
今日の晴天の様な清々しい笑み。思ったよりセラートは根に持つタイプなのかもしれない。それは頭の隅に置き、俺は話を先に進める。
「よく会う約束を取り付けましたね。ファリュウスは同盟国ですがあまり友好的ではないですから。今回の霧の件も協力的ではないですし」
「そうですよね。特にアドニールさんが現れてからですかね」
「まぁ、小国ですからぁ他の同盟国より優位に立てることを持っておきたいんでしょうけどねぇ~」
グレミオとマリーは少々不満気味の様だが、正直何も分からなかった瘴気の手掛かりが掴めるのかもしれないと思うと俺は、素直に嬉しいと思った。だがそんな俺の気持ちを、次にセラートに発せられた言葉によって打ち砕かれる。
「いや、やはり直接会って話を聞くのは難しそうだ。だから黙って会いに行こうって事になったよ」
なったよって、どういう事だ。ぽかんとしている俺をよそに、セラートが続けて話す。
「君達も知っての通り、ファリュウスは非協力的だし、霧の件も我々なりに探ってきたが何も進展はない。だが、最近偵察隊がファリュウスで何か不審な動きがあると情報が入っている」
「不審な動きですか?」
「ああ、首都辺りで戦闘の準備をした騎士達が集まっているらしい。なんとも物々しい雰囲気だそうだ」
「なんっすかそれ!? 戦争でも始めようとしてるんっすか!?」
カミュンの慌てた声に、セラートは静かに首を振る。
「そうじゃない。なんだかそれは何かを待ち構える様な戦闘態勢の様だ。そこで我々は考えた。それは瘴気なのではないかと」
「!?」
本当なのだろうかと皆が騒めく。
「とにかく情報が欲しい。もし瘴気の発生する場所、時間が分かるのならこちらだって知りたい。そこで考えたのが、勝手に行って話を聞こうって策だよ。どうだい? 簡潔で実に分かりやすいよね」
眉間に皺が寄る。本気なのか……これは策とは言えないだろう。しかも、それは予想であって本当かどうかは分からない。行き当たりばったりな話に不安になる。
「でも、仮に会えたとしても相手にしてもらえるかどうか」
カイリが少し言い辛そうに言う。俺もそう思う。
「そうだね。でも今はできる事はなんでもしておきたい。仮に会えなくとも何か掴めるかもしれない……ここ最近特にこの辺りで霧の発生が多い」
おもむろにセラートは空を仰ぐ。俺はそれを静かに見つめる。
「以前は世界各地で起こっていた……なのに、徐々に霧がこの周辺で特に多く起こる様になって来た。それはもしかしたら、ファリュウスが関係してるのではないかと」
「疑ってるんですか?」
少し強い口調でアルが問う。セラートはふっと吐息を漏らす様に笑みをこぼした後、力強い瞳で言う。
「君には悪いけど、霧に入っても無事でいる辺り気になる。彼らは何かを隠している」
「……」
セラートの圧に押されてかアルは何も意を唱えないが、不服そうに下を向く。
「とにかく、明日の朝ここを出るから零隊も正門前で集合だ、いいね」
なんだか話がどんどん進んでいく。本当にやる気なのか?
「あ、あと僕とカイトは商人で君たちは僕たちの護衛を頼まれた傭兵の設定だがら、そのつもりの格好できてね。まぁ簡単な私服でいいよ」
「しかし、それはわざわざ貴方が行く事ではないのでは? 他に適任がいるでしょう」
「正直、ずっと籠るのは飽きたんだ」
「それだけですか?」
セラートは僅かに眉を下げ、静かだが力のこもる口調で話し始める。
「私も原因を知りたい。この霧のせいで何人もの兵士や一般市民が犠牲になっている。先日連絡係の兵士が何人かやられた……ファリュウスからの帰りだった。口封じでもされたのなら……黙ってはいられないよね」
「……」
「それにもし、本当に霧が起こるなら私も確認しておきたい。私は見た事ないからね……同じ立場である聖騎士長と一緒にね」
まだ言いたい事、聞きたい事はあったのに、セラートはその言葉を残して行ってしまう。その背を目を細めて見送る。彼は至って真剣なのだろう。だけど、どうも嫌な予感のする任務だ。
セラートに何かあれば、俺にはどんな処罰があるのだろう?
考えるだけで最悪。もっと強く再考する様に言えばよかったと考えていると、カイトが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ヴァン、会うの久しぶりだね。元気だった?」
「あぁ、お前も元気そうだな。しかし大丈夫か? まさかこれ、独断じゃないだろうな?」
カイトは苦笑しながら、ポリポリと頬を掻く。
「知ってる人は知ってるし、知らない人は知らない……かな?」
「はぁ」
頭が痛い。カイトはセラートが去って行った方を見て、静かに口を開く。
「ちょっと、焦ってるんだ」
「焦る?」
「瘴気の事は何も分からないのに、被害がどんどん広がってる一方だから」
「すみませんねぇ~私達なにもぉ出来なくてぇ」
「ちょっとマリー!」
「すみません。そう言う意味じゃ!」
マリーの棘のある言葉をカイリが制止させる。カイトはあわあわとする。確かに瘴魔を倒すだけで、俺達は瘴気の件は何も解明出来ていない。だとしたらこれはその罰なのだろうか。
「ところでさヴァンは今日の夜予定ある?」
カイトは苦笑いをしながら尋ねてくる。
「今日の夜? なんで?」
「いや、ちょっと会って話したいことがあって……僕今日は早く終われるんだ」
なぜか少し頬を赤くする。久しぶりだし会って話したいのは山々なのだが、正直いつ終わるかは分からない。昨日のように遅くなる事は日常茶飯事。不確かな予定で約束は出来ない。
「悪いんだが」
「いいじゃないですか、隊長。行ってきてくださいよ。報告書は私が書いて提出しておきますから」
俺の声を遮り、グレミオが微笑んで言う。
「いや、それは……」
「グレミオさんがいいって言うんならいいんじゃないっすか、隊長!」
「そうよ。ヴァンずっと遅くまで働き詰めだったし、たまにはお友達と遊んできてもいいんじゃない?」
「僕も何かお手伝いできる事があれば、手伝うので心配しないで下さい」
「私もぉ~ぼちぼちやりますよぉ」
皆気を使って言ってくれるが、自分の仕事を他人に任せて遊びに行く事には気が進まない。
「ヴァンがさ頑張って働いてばっかだと、私達も遊びに行きにくくなっちゃうんだよね!」
俺の煮え切らない態度にぐっと刺さる。ここまで言われると、断りきれずに観念した。
「……分かったよ、じゃあお前達にお願いする」
カイトに返事をしようと見ると、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「決まりだね。じゃあ終わったらその足でカミールの店でどうかな?」
「分かった」
「それじゃまた後で」
カイトは鼻歌を歌いながら、軽い足取り門まで小走りで走って行く。
「なんか悪いな」
「いーのいーのっ! 私達もヴァンの力になりたいの!」
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。隊長」
「今日もバッサバッサやってやんぜー!」
「カミュンって力の使い方雑だから、もう少し考えてよ」
「突っ走りすぎてたまに邪魔よね~」
口々にそう言いながら馬に跨る。手綱を握ったカリンが、満遍の笑みでこちらを見る。
「約束のためにも今日も頑張ろうね! ヴァン」
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