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第一章
2.隊の仲間
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誰かの声で目が覚めた。窓から差し込む光に目を細める。
もう、朝か。
部屋を見渡す。一緒に休んでいた見回りの兵士はもういない。今何時だろうかと、歯車で動く細い針が刻む時を確認する。いつも起きる時間より少し遅かったがそれでも、十分間に合う時間。上等とは言えない布をどけ、寝ていたばかりだというのにくたびれている体を起こす。一度背伸びをしてから準備し始めようとした時、扉から乾いた木の音がコンコンっと二度鳴る。
「ねーっ!! ヴァンいないのー!?」
ハツラツとしたその声は、ぼうっとした頭によく響く。ボサボサの髪を押さえながら、扉の方へ向かう。多少立て付けの悪い扉が音を立てながら、俺はその声の主を迎えた。
「やっぱりまた、ここにいた……って、ねっ寝起きなの!?」
「ああ、今起きたとこだ」
「そっそうなんだ……珍しいね。いつも早起きなのに」
カイリは一度俺を凝視した後、ソワソワとして視線を落とす。
「どうしたんだ? まだ時間まであるだろ……何かあったか?」
「何言ってるの? もう時間だよ。みんなヴァンが来るの待ってるよ?」
驚愕して再び確認する。先ほどと変わらぬ時を指している。カイリが俺の横から部屋の中を覗き見る。
「ヴァン、それ遅れてるよ」
「えっ?」
まさか、そんなと信じたくなかったが、皆がもう集まってるというならば、そうなのだろう。
「悪いカイリ。すぐ行くから先に行ってみんなに伝えといてくれ」
「うん! 了解」
にっこりと笑った後、俺の気持ちとは裏腹にカイリはどこか弾む足取りで去って行く。俺はゆっくりと扉を閉め、頭を抑える。
なんで……くそっ。
「はぁ」
昨日からため息ばかりだ。仕事を怠けたそれを恨めしく見た後、こうしちゃいられないと急いで枕元に置いてあった着替えに手を伸ばす。乱暴に着替えを済ませた後、フォルダーベルトに剣を刺し、最後に髪を結い直す。
部屋を飛び出し、城を出る。門兵に挨拶なんかもすっ飛ばし、目覚めている城下町の中を疾走する。城壁の門の側、馬を引き連れた隊員達が見えた。急いで傍へ駆け寄る。
「遅れて、すまない」
少し乱れた呼吸のまま、待たせてしまったことへの謝罪を述べた。待っていた皆が一斉に俺を見る。
「おはようございます、隊長! いえ! 僕達も今、集まったばかりですので……今ね」
「そうですよぉ~。カミュンなんて今さっき着いたんですからぁ、今ぁさっきぃ」
アルとマリーは俺を擁護しながらオタオタし出すカミュンを、じっとりした目で見る。
「なっ! マリーちゃん……それは言わないでよ~」
金の髪を前髪で高くし、両横の髪を後方に流したご自慢の髪型を触りながら、カミュンは罰が悪そうな顔をしている。
「カミュンはいっつも遅いんだから、ヴァンと違って遅れてもいつもの事って思っちゃうんだよね」
「まぁまぁカリンさん。隊長、どうぞ」
グレミオがカイリを宥めながら俺の馬を引き連れ、手綱を手渡してくれる。俺は和やかな雰囲気に多少安堵し、改めて謝罪をした。カイリは長い黒い髪を振りながらいいよ、っと笑顔で答えた後、憂鬱な表情で空を仰ぎ出す。
「はぁー、今日も行かないといけないのかぁ。瘴魔も倒さなきゃいけないし、私達6人しかいないのに毎日キツなぁ。まぁ、その為につくられた隊だからしょうがないけど……疲れるなぁ」
「なら、あいつらが落とすものは金になるから売り捌いて、うまいもん食おうぜ! それくらいの恩恵は受けていいだろっ!」
「カミュン、それは規律違反だぞ」
「わぁってますよ、隊長。 ジョーダンっすよ」
後ろに手を組みながら楽しそうに笑っている。こいつが言うと冗談に聞こえない。
「でも、本当になんなんでしょうね~」
マリーが馬の首を撫でながら呟く。
「三カ月前突然現れた瘴気にぃ、そこから現れる瘴魔と呼ばれる怪物ぅ。そして、その瘴魔が落とすへんてこの異物ぅ。謎ばっかりぃ~ですよぉ」
マリーの発言に皆眉を潜め無言になる。その答えを知る者は今この場にいない。それを調べるのが俺たちの仕事だ。
「それを調べるのが僕たちの仕事だろ」
アルは俺が思っていた同じ事を、苛立った口調で言う。マリーは不服そうに目を細め、小さなため息を漏らす。
「まぁ、どうせ私達はいいように使われるだけですからねぇ」
マリーの言葉に場の空気が重くなる。そんな空気を変えようとしたのか、してないのかカミュンの明るい声が飛ぶ。
「でも、この忙しい時期にあいつらが襲ってこないのは不幸中の幸いだよなっ!」
「そう、だね。もともと私たちの敵はあいつらだったのに……なんでかしら? いないに越したことないけど、なんか不気味よね。この霧だってあいつらの仕業なんだろうけどさ、だとしたらなんで姿をくらますのかしら?」
うーん、っとカリンが腕を組みながら考えている。
そんな時あーっ! とまるで天から宝石でも降ってきたかのように目を見開き、カミュンが叫ぶ。
「なっ、なに! いきなり大きな声出すなよ!!」
「俺! 分かりましたよ! 隊長」
「分かったって、何が?」
「あいつら、きっと霧に呑まれちまったんですよ!」
はぁと力ないため息が一斉にとぶ。
「霧に入ると誰一人二度と出てこず、そのまま消える! だから奴らも入ってそのまま亡き者になったんすっよ! 一件落着っすね!」
そんな安楽的な、っと心の中で突っ込む。冗談にも程がある。
「なんで事を起こした張本人がぁ、吸い込まれ亡き者になるのよ~」
「あっ! それもそっか!」
カミュンは拳を掌で叩き納得した表情を見せる。やっぱりこいつがいう事は冗談で済まない。
「ですが一人、あの瘴気に入って無事だった方がいますね」
「ファリュウス神の聖騎士長ねっ!」
アルの弾む声がグレミオの声に被さる。アルはまるで玩具屋を与えられた子供のように、キラキラとした顔をする。
「そっそうですね。先日瘴気から無事に帰還できたとか。名前は……アドニールさんでしたっけ」
「あの、みょーちくりんのお面被った例のちっさいガキンチョかっ」
「なっ! お前失礼だぞ! お前なんか足元にも及ばないんだからな」
「なんだお前? なんでそんなムキになるんだよ」
「アルは聖騎士長様のファンなんですよぉ」
「ちょっ、マリー!! なんで知ってるの!?」
マリーの告げ口にアルは火を吹きそうなほど顔を真っ赤にしている。マリーはべーと舌を出した後、ほくそ笑んでいる。
「へーそうなんだ! 意外。アルはヴァンにべったりだと思ってた」
「もちろん僕は隊長のことだって誰より尊敬してる!」
「ふふ、聖騎士長ファンなんて知らなかったですよ。アルさんも可愛いところあるんですね」
「グレミオやめてよっ!! 隊長助けてください!」
「えっ? いや、まぁいいんじゃないか」
「隊長ぉ」
「けっ、男なんて……しかもガキ! つっまんねーな」
「お前、ぶっ飛ばしてやる」
またいつもの様に二人の喧嘩が始まりそうだ。無駄話が過ぎた。ただでさえ俺のせいで遅れている。そろそろっと皆に準備を促そうとした時だ。
「おやおや、聖騎士長のファンだなんて僕の立つ顔がないね。……ちょっと残念だな」
人のざわめきの中でもよく聞こえた。一斉に声の方を見ると二人、こちらへと近寄って来る。透き通る薄い青色の長い髪。その人物を確認すると皆敬礼し、示し合わせたわけでもなく声が一致する。
「総隊長! おはようございます」
「おはよ」
挨拶をした後、俺は総隊長の後ろにいる人物に微笑む。ちょっとクセのある栗色の髪に、若葉の様な緑色の柔らかい瞳。俺のよく知った顔。
「カイト」
「久しぶりだね、ヴァン」
カイトはいつも陽だまりのような優しい笑みを俺に返してくれる。
もう、朝か。
部屋を見渡す。一緒に休んでいた見回りの兵士はもういない。今何時だろうかと、歯車で動く細い針が刻む時を確認する。いつも起きる時間より少し遅かったがそれでも、十分間に合う時間。上等とは言えない布をどけ、寝ていたばかりだというのにくたびれている体を起こす。一度背伸びをしてから準備し始めようとした時、扉から乾いた木の音がコンコンっと二度鳴る。
「ねーっ!! ヴァンいないのー!?」
ハツラツとしたその声は、ぼうっとした頭によく響く。ボサボサの髪を押さえながら、扉の方へ向かう。多少立て付けの悪い扉が音を立てながら、俺はその声の主を迎えた。
「やっぱりまた、ここにいた……って、ねっ寝起きなの!?」
「ああ、今起きたとこだ」
「そっそうなんだ……珍しいね。いつも早起きなのに」
カイリは一度俺を凝視した後、ソワソワとして視線を落とす。
「どうしたんだ? まだ時間まであるだろ……何かあったか?」
「何言ってるの? もう時間だよ。みんなヴァンが来るの待ってるよ?」
驚愕して再び確認する。先ほどと変わらぬ時を指している。カイリが俺の横から部屋の中を覗き見る。
「ヴァン、それ遅れてるよ」
「えっ?」
まさか、そんなと信じたくなかったが、皆がもう集まってるというならば、そうなのだろう。
「悪いカイリ。すぐ行くから先に行ってみんなに伝えといてくれ」
「うん! 了解」
にっこりと笑った後、俺の気持ちとは裏腹にカイリはどこか弾む足取りで去って行く。俺はゆっくりと扉を閉め、頭を抑える。
なんで……くそっ。
「はぁ」
昨日からため息ばかりだ。仕事を怠けたそれを恨めしく見た後、こうしちゃいられないと急いで枕元に置いてあった着替えに手を伸ばす。乱暴に着替えを済ませた後、フォルダーベルトに剣を刺し、最後に髪を結い直す。
部屋を飛び出し、城を出る。門兵に挨拶なんかもすっ飛ばし、目覚めている城下町の中を疾走する。城壁の門の側、馬を引き連れた隊員達が見えた。急いで傍へ駆け寄る。
「遅れて、すまない」
少し乱れた呼吸のまま、待たせてしまったことへの謝罪を述べた。待っていた皆が一斉に俺を見る。
「おはようございます、隊長! いえ! 僕達も今、集まったばかりですので……今ね」
「そうですよぉ~。カミュンなんて今さっき着いたんですからぁ、今ぁさっきぃ」
アルとマリーは俺を擁護しながらオタオタし出すカミュンを、じっとりした目で見る。
「なっ! マリーちゃん……それは言わないでよ~」
金の髪を前髪で高くし、両横の髪を後方に流したご自慢の髪型を触りながら、カミュンは罰が悪そうな顔をしている。
「カミュンはいっつも遅いんだから、ヴァンと違って遅れてもいつもの事って思っちゃうんだよね」
「まぁまぁカリンさん。隊長、どうぞ」
グレミオがカイリを宥めながら俺の馬を引き連れ、手綱を手渡してくれる。俺は和やかな雰囲気に多少安堵し、改めて謝罪をした。カイリは長い黒い髪を振りながらいいよ、っと笑顔で答えた後、憂鬱な表情で空を仰ぎ出す。
「はぁー、今日も行かないといけないのかぁ。瘴魔も倒さなきゃいけないし、私達6人しかいないのに毎日キツなぁ。まぁ、その為につくられた隊だからしょうがないけど……疲れるなぁ」
「なら、あいつらが落とすものは金になるから売り捌いて、うまいもん食おうぜ! それくらいの恩恵は受けていいだろっ!」
「カミュン、それは規律違反だぞ」
「わぁってますよ、隊長。 ジョーダンっすよ」
後ろに手を組みながら楽しそうに笑っている。こいつが言うと冗談に聞こえない。
「でも、本当になんなんでしょうね~」
マリーが馬の首を撫でながら呟く。
「三カ月前突然現れた瘴気にぃ、そこから現れる瘴魔と呼ばれる怪物ぅ。そして、その瘴魔が落とすへんてこの異物ぅ。謎ばっかりぃ~ですよぉ」
マリーの発言に皆眉を潜め無言になる。その答えを知る者は今この場にいない。それを調べるのが俺たちの仕事だ。
「それを調べるのが僕たちの仕事だろ」
アルは俺が思っていた同じ事を、苛立った口調で言う。マリーは不服そうに目を細め、小さなため息を漏らす。
「まぁ、どうせ私達はいいように使われるだけですからねぇ」
マリーの言葉に場の空気が重くなる。そんな空気を変えようとしたのか、してないのかカミュンの明るい声が飛ぶ。
「でも、この忙しい時期にあいつらが襲ってこないのは不幸中の幸いだよなっ!」
「そう、だね。もともと私たちの敵はあいつらだったのに……なんでかしら? いないに越したことないけど、なんか不気味よね。この霧だってあいつらの仕業なんだろうけどさ、だとしたらなんで姿をくらますのかしら?」
うーん、っとカリンが腕を組みながら考えている。
そんな時あーっ! とまるで天から宝石でも降ってきたかのように目を見開き、カミュンが叫ぶ。
「なっ、なに! いきなり大きな声出すなよ!!」
「俺! 分かりましたよ! 隊長」
「分かったって、何が?」
「あいつら、きっと霧に呑まれちまったんですよ!」
はぁと力ないため息が一斉にとぶ。
「霧に入ると誰一人二度と出てこず、そのまま消える! だから奴らも入ってそのまま亡き者になったんすっよ! 一件落着っすね!」
そんな安楽的な、っと心の中で突っ込む。冗談にも程がある。
「なんで事を起こした張本人がぁ、吸い込まれ亡き者になるのよ~」
「あっ! それもそっか!」
カミュンは拳を掌で叩き納得した表情を見せる。やっぱりこいつがいう事は冗談で済まない。
「ですが一人、あの瘴気に入って無事だった方がいますね」
「ファリュウス神の聖騎士長ねっ!」
アルの弾む声がグレミオの声に被さる。アルはまるで玩具屋を与えられた子供のように、キラキラとした顔をする。
「そっそうですね。先日瘴気から無事に帰還できたとか。名前は……アドニールさんでしたっけ」
「あの、みょーちくりんのお面被った例のちっさいガキンチョかっ」
「なっ! お前失礼だぞ! お前なんか足元にも及ばないんだからな」
「なんだお前? なんでそんなムキになるんだよ」
「アルは聖騎士長様のファンなんですよぉ」
「ちょっ、マリー!! なんで知ってるの!?」
マリーの告げ口にアルは火を吹きそうなほど顔を真っ赤にしている。マリーはべーと舌を出した後、ほくそ笑んでいる。
「へーそうなんだ! 意外。アルはヴァンにべったりだと思ってた」
「もちろん僕は隊長のことだって誰より尊敬してる!」
「ふふ、聖騎士長ファンなんて知らなかったですよ。アルさんも可愛いところあるんですね」
「グレミオやめてよっ!! 隊長助けてください!」
「えっ? いや、まぁいいんじゃないか」
「隊長ぉ」
「けっ、男なんて……しかもガキ! つっまんねーな」
「お前、ぶっ飛ばしてやる」
またいつもの様に二人の喧嘩が始まりそうだ。無駄話が過ぎた。ただでさえ俺のせいで遅れている。そろそろっと皆に準備を促そうとした時だ。
「おやおや、聖騎士長のファンだなんて僕の立つ顔がないね。……ちょっと残念だな」
人のざわめきの中でもよく聞こえた。一斉に声の方を見ると二人、こちらへと近寄って来る。透き通る薄い青色の長い髪。その人物を確認すると皆敬礼し、示し合わせたわけでもなく声が一致する。
「総隊長! おはようございます」
「おはよ」
挨拶をした後、俺は総隊長の後ろにいる人物に微笑む。ちょっとクセのある栗色の髪に、若葉の様な緑色の柔らかい瞳。俺のよく知った顔。
「カイト」
「久しぶりだね、ヴァン」
カイトはいつも陽だまりのような優しい笑みを俺に返してくれる。
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