残火

加島 律

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暫くして虹の母親から連絡が来た。

虹が見つかったのだと。

水死体で。

ガツンと頭を鈍器で殴られた感覚だった。

あの虹が死んだのだ。

みんなから好かれていた虹が。

しかも、自殺だったらしい。



虹の葬式が開かれた。

見知った顔ぶれが多く、何人かと挨拶をしたが反応は三者三様で悲しんでいるやつもいれば平然とした奴もいて、自殺した事に怒っているやつもいた。

中には「虹が自殺をするなんて有り得ない!きっとなにかの事件に巻き込まれたんだ!」と憤っているやつもいた。

私は虹の母に挨拶をしてから虹の棺を覗いたがそこには誰も居なくて、葬儀の後空っぽの棺はごうごうと燃え盛った。

「虹、少し離れた海の海岸で打ち上がってたみたいだよ……しかも3日は放置されてたみたい」

喫煙所で煙草を吹かしていると同級生に話し掛けられた。

「なんで知ってるの?」

「警察が話してるのたまたま聞いちゃった……事件性はないって、あと……見つかった場所の少し離れた所に虹の靴があったって」

肺に溜め込んだ煙を吐くとバカみたいに青い空を灰色の煙が染め上げて言った。

家に帰ると母が塩を用意して立っていた。

塩を撒かれたあと私はそのまま自室のベッドに寝転んだ。

「虹……」

今はもう亡き彼女を思い出しポケットに閉まっていたあの写真を取り出す。

きっとここだ、ここなのだ。

ここがどこで、虹にとってなんなのか分からないけれどきっと、彼女は25歳になったらここで死ぬのだと決めていたのだろう。

その夜、虹の夢を見た。

虹と海に行った時の夢だった、忘れてしまっていたけれどこの時はしゃぐみんなから離れて海を見る虹と話したんだ。

「海は綺麗だね」

穏やかに笑う虹に釣られて私も笑う。

「魚になりたいな」

自由に泳ぎたいのだと海を見つめる彼女は泳ぐ真似をして見せた。

「25歳になったらまた来ようね」

なんで25歳?

「ん?ひみつ」

そこで目が覚めた。

こんな会話したのか記憶が曖昧だったが直感で虹が呼んでいると分かった。

喪服のまま、携帯と財布だけが入った鞄を引っ付かみ母の制止も聞かず私は家を飛び出した。

大学2年の夏、あそこにいた、確かに行ったんだ、あの海へあの場所へ。

タクシーを捕まえてあの海まで行った。

着いた頃にはもう夜中で運転手になにやら言われたが焦っていた私は話を聞かずお金を払うと急いで彼女と話した場所に向かった。

真っ暗な海に月明かりだけが煌々と輝いていた。

「虹……」

彼女がいる気がした、あの場所で立っていていつもの笑顔で笑ってくれると。

しかしそこには誰も居なくて海の音だけがやけに耳に焼き付いた。

ドッと疲れが吹き出して座り込むと硬い感触が手に触れた。

「スマホ……これ、虹の!?」

見てみると砂に埋まってはいたが確かに虹のスマホだった。

急いでスマホをつけてみると僅かだが充電は生きていてパスコード画面が映る。

このスマホを見れば、虹が死んだ理由が分かる。

恐る恐る虹の誕生日を入れる。

不正解。

色々試したが開かず、諦めかけていたがふと虹が失踪した日の日にちを思い出した。

「8月24日」

開いた。

パッとホーム画面が写り込む。

スマホは初期化されているのか写真も連絡先も何も残ってなかった。

落胆したが一縷の望みを掛けてメモ帳を開くと一つだけ残っていた。

「これを見つけた人へ」

虹が死ぬ前に書いたものだろう。

恐る恐るタップするとそこには虹の想いが綴ってあった。

暫く読んだ後、ぼーっとした頭をゆっくり擡げた。

虹には己が課せた寿命があった。

虹はそれを果たして死んだのだ。

長く長く綴られた虹への想いを虹の思い出と一緒に反芻する様に思い返し。

海に虹のスマホを投げ捨てた。

頬に暖かいものが伝って、あぁ、泣いているんだなと気付いた時あの心地の良い声で「ありがとう」と言われた気がした。

私は暫く、日が昇る迄虹との想い出を思い出すように海を眺めた。


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