安心してください、僕は誰にも勃ちませんから

サトー

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部屋の隅で立ったまま(2)

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 好きか嫌いかで言えば好きな方の動画だとは思った。艶やかな黒い髪をした本物の高校生に見える女優が声を殺して、嫌がったり感じたりする様子は可愛かったし、小さな胸についた乳首を左右いっぺんに男に吸われている姿がすごくいやらしかったから。

 サンプルからの切り抜きだと思われる三分にも満たない動画で、女の子は電車の中で全裸にされて(靴と靴下は履いたままだったけれど)、立ったまま後ろから挿入されたり、男二人がかりで身体を抱えあげられて正面から犯されたり、何本もペニスを頬張って顔がどろどろになるまで精液をぶっかけられたり、なかなか派手にヤられていたと思う。フェラと顔射と胸やペニスに唾を垂らす場面が嫌いだというキョウジが微かに眉をひそめていたのが印象に残った。

 一人の時だったら、頭の中で自分が似たようなことをされているのを想像して、そのままオナニーのオカズにしていたと思う。でも、今はキョウジが側にいるから黙ったまま俺は顔を赤くしている。


「だいたいわかった」

 普段、俺が勉強を教える時はどれだけ時間をかけてもまるで理解が出来ないのに、今のキョウジは何もかもを知り尽くしたような顔をしていた。

「わかったって?」
「触り方とか。あー、こういう順番なんだって全部見て覚えたから大丈夫だと思う」
「うん……」

 全部覚えたということは、あの動画と同じように、俺を部屋のどこかに立たせて、身体に触るということなんだろう。キョウジの目付きは真面目だったから、きっとサッカーのテクニックを動画で学んでいる時と同じように吸収して実践するつもりなのかもしれない。
 まだこういう関係になってから日が浅いし、そもそも付き合ってすらいないのに、こういうノーマルじゃない、ちょっと変態的なプレイってどうなんだろう、と少しだけ引っ掛かった。
 でも、やろうよと言うキョウジの動機は、俺を喜ばせたいからだ。だから、普通に付き合っている人どうしがするみたいに、いちゃいちゃしてみたい、とは言えずに、八畳程の広さがある部屋の隅へと連れていかれた。


「ユウマくん、四月に比べてずいぶん背が伸びた。そのうち俺と変わらないぐらいになるかもね」
「うん……」

 高校に入った時は160センチと少ししかなかった身長が一気に四センチも伸びた。中学の時に「これが成長期か」と実感するような変化を身長の伸びについては感じたことがなかったから、キョウジの言うようにまだまだ伸びるかもしれなかった。俺の後ろに立って「でも、肩も首も細くて、骨が小さいなあ」と呟くキョウジはどこか楽しげだった。


「ユウマくんは、ここに手をついて立ってて。俺のことを俺だって思ったらダメだからね。それで自分のことはあの女の人だって思って」

 キョウジは小学生が氷おにやケイドロのルールを説明する時のような口調で、俺をクローゼットの扉の前に立たせた。深いブラウンの扉は埃一つ付いていない。爪で引っ掻き傷をつけないよう、両手を握りしめる。

「どうしよう、ユウマくんの服が汚れたら困るな」
「汚すの?」

 さすがに顔射まではされないだろうと思っていた俺は、ぎょっとして思わずキョウジの方を振り返った。

「一応ね、一応」

 さほど問題ではない、という様子でキョウジはクローゼットを開けて、中からTシャツを一枚出してきた。胸元にプーマのマークのある、なんの変哲もない白いTシャツだ。

「これを着る? パンツ以外はみんな脱いでこれに着替えなよ」
「いいの? その、使っても……」
「全然いいよ」

 確かに俺が今着ているのは、黒いパーカーにTシャツにベルトのついたパンツだったから、セーラー服に比べたら脱がせにくいだろうし、上から触られたとしてもその感触は伝わりにくそうだった。どう考えてもこれからやろうとしていることには不向きだろうから、その場で着替えることにした。

 俺がこそこそと脱いでいるからなのか、気をつかってキョウジも目を逸らしているみたいだった。これから痴漢の真似をするというのに、そういう部分でギクシャクしてしまうなんて、変だなあと思う。でも、ちっとも嫌じゃない。


「いいね、すごくいい」

 キョウジが持っている時から大きく見えていたTシャツは、俺が着るとすごくぶかっとしていた。どう見ても肩の位置はずれているし、パンツはギリギリ見えていないけど脚がスースーする。それでもキョウジはすごく満足そうだった。見ようによってはワンピースに見えるのかもしれないけど……もしかしたら、女に自分のユニフォームや運動着を着せたら興奮するという性癖なんだろうか。


 部屋を薄暗くした状態で、俺はキョウジのことを待った。俺のすぐ後ろにいるキョウジのことを待っているというのもおかしな話だけど、自分からは何も出来ないのだから、そうするしかない。背中やお尻という自分では見えない場所に全神経を集中させて、突っ立っている。

 とん、と太ももとお尻の境目に何かが当たったのは一分か二分か時間が経ってからだった。化学繊維で出来たスルスルしたTシャツの薄い生地越しでも、手のひらよりも固くてゴツゴツしているのがわかった。手の甲だ、とわかった時にはスッと離れていってしまった後だった。
 もし満員の電車で同じ目に遭ったとしたら、触っているというよりは、たまたま当たってしまったんだろうと判断したと思う。それぐらい、ごくごく短い時間だったから。なんだかもどかしいなあと感じている間も、キョウジの手の甲は時々俺のお尻に触れては離れてを繰り返した。

 焦れったいと感じていた俺が少しだけ動揺したのは、いつの間にか鼻先に触れてしまいそうなくらいキョウジが顔を俺の髪に近づけているのに気づいた時だった。
 べつに、ただ近いというだけで、身体に触られているわけじゃない。でも、耳の側で微かな息遣いが感じられて、背筋をゾクッとしたものがせり上がっていく。

 髪の匂いを嗅がれているんだってすぐにわかった。顔を背けてもキョウジは構わずに少しずつ身体を俺に近づけてくる。想像の中では満員の電車にいるんだからしょうがないって、なぜか俺は自分に言い聞かせながらぎゅっと目を閉じていた。
 普段電車に乗っている時に知らない人から同じことをされたら、怖いし気持ちが悪い。きっと、振り返って睨んだり舌打ちしたりするんだろうけど、今はそうしなかった。だってこれは、ごっこだから。合意の上でやっている遊びの一種なんだから、嫌がって抵抗するのはおかしい……。

 今自分が考えていることについて「そうだよね?」と確かめることも出来ないまま、声を殺してじっと身を固くしていた。ただ俺が下を向いて突っ立っている間に、キョウジはますます身体を密着させて、時々こめかみや耳のふちに鼻の先や唇で触れた。いつの間にか手のひらでお尻を撫で回されている。
 なんだか、抵抗するかどうかずっと反応を見られていて、少しずつエスカレートしているみたいだった。これからどうなってしまうんだろうと思うと、頬が熱くて顔が上げられない。このままキョウジにされることを、ただ受け入れる。それだけを思ってじっとしていた。
 
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