裸でいるよりそそられる

サトー

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小さいXL(5)

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 寸足らずのTシャツはほんの少しずり上がっただけで、背中が見える。

 冬の間はインナーを何枚も重ね着していて、「寒い寒い」と縮こまっていたのに、今はTシャツ一枚の下に陸ちゃんは何も身に付けていない。
 寒かった頃は良い雰囲気になった時も、陸ちゃんの着ているものを全部脱がせるのが本当に大変だった。マトリョーシカみたいに脱いでも脱いでもインナーが出てきて、我慢出来ずに笑ってしまったこともある。

 それだけ時間は経っているけど、陸ちゃんと俺は、最後までセックスをしたことが、まだ無い。

 付き合う前から陸ちゃんのことは何度もオカズにしている。
 しつこく尋ね続けて、とうとう観念した陸ちゃんが「誰とも付き合ったことがない」と苦々しい顔で打ち明けてくれた時はすごく興奮したし、胸がいっぱいになった。

 セックスなんてしたことない、とまごついている陸ちゃんを、「なんにもしなくていいよ」とベッドに寝かせた後、全身を気持ちよくしてやりたい。初めのうちはそんな想像で満足していたのに、いつからか挿入されて体を揺さぶられながら「気持ちいい」と口にする陸ちゃんを思い浮かべるようになっていた。

 だけど、陸ちゃんは「セックスがしたいかまだわからない、怖い」と言う。

 スキンシップは好きで、触ったり舐めたりするのも大丈夫。というか、舐めてもらうのは大好き。アナルに挿入されるのは想像するだけで怖い……。抱き合った時の様子や時々ポロっと溢す本音から、陸ちゃんの気持ちを整理した。

 陸ちゃんとセックスをしてみたい、という欲求は消えないけれど、同じかそれ以上に「セックスするのが怖い」という気持ちも大事にしてやりたい。
 初めて俺が体に触った時、陸ちゃんは流されるようにしてそれを許してしまったんだってことはわかっていたし、俺はそれをとても後悔していたからだ。

 やっと、友達とは違う意味で「好き」と言ってくれるようになったんだから大切にしないといけないのに、陸ちゃんに触れていると我満が出来なくて、時々、苦しくてたまらなくなる。

 本当は可愛い陸ちゃんのことがいつだって大好きなのに、それを素直に伝えてしまったら、本人には到底聞かせられないような汚い感情もダサい部分も、全部をぶつけてしまいそうで怖くなる。

 だから、陸ちゃんの前では「まあ、ゆっくりやっていこうよ」「怖いんなら仕方ないね」と一生懸命なんでもないような涼しい顔を作っている。

 時々、度が過ぎてしまって、陸ちゃんのことをからかいすぎてしまったり、意地悪を言ってしまったりする。そういう時はいつも家に帰ってから「もっと優しくしてやればよかった」「あんなことを言わなければよかった」と落ち込んだ。

「陸ちゃん、支度してくれたの? ありがとー」
「……うん」

 枕に突っ伏しているせいでくぐもってはいるものの、不機嫌そうではない声色にホッとする。丸みのある後頭部を撫でてやると、陸ちゃんはモゾモゾと動いた。フワフワした真っ白なバスタオルにシワが寄る。陸ちゃんはどんな気持ちでこれを準備したんだろう、と考えずにはいられなかった。

 陸ちゃんはボケッとしているようで、優しい、いい子だから、俺が我慢をしていることも当然察していた。
 それを知られているのが本当にダサくて自分が嫌になるけれど、陸ちゃんは相変わらず「葉月君、大好き」と寄ってきてくれる。本当はまだセックスについて、俺にも言えない不安をいっぱい抱えているのだろうけど、少しずつ経験したことのない行為を受け入れようと一生懸命だった。

 そういう姿を見ていたら、うんと優しくしてやろう、という気持ちになった。陸ちゃんからは「葉月君、優しいね」としょっちゅう言われるけれど、実は順番が逆で、陸ちゃんの優しさに少しでも何かを返そうと俺はいつも必死になっている。

「……ほとんど毎日塾に行くだけだからさ、陸にすごく会いたかったよ」
「うん!」

 ようやく陸ちゃんが枕から顔を上げてくれた。そのまま側に寝そべると、バスタオルの柔らかい肌触りを腕に感じる。

 不安に思うこともたくさんあるだろうに、陸ちゃんは「セックスがしたい」という俺の気持ちを汲んでくれている。だから「おっ、張り切ってんじゃん」なんて絶対いじったりしたらダメだ。

 きっと、陸ちゃんは「違うよ!」と明るく言ってくれるだろうけど恥ずかしいのを堪えて一人でベッドを整えたことを笑われたら、心のどこかを踏みにじられたように感じるかもしれない。

 だから、「陸にすごく会いたかった」となるべくシンプルな言葉で自分の気持ちを正直に伝えた。

「俺も。葉月君、どうしてるんだろうって、ずっと思ってたよ」
 前は毎日一緒にいたから、ちょっとだけ寂しいね、と陸ちゃんが抱きついてくる。
「葉月君」
「うん?」
「……チューして」

 いいよ、って返事をすると、ねだっておきながら我満が出来なくなってしまったのか、陸ちゃんの方から唇を重ねてきた。ぎゅうっと体にしがみついてきて、ちゅ、と音を立てながら何度も触れるだけのキスを陸ちゃんは繰り返す。

 セックスする前の雰囲気というよりかは、じゃれあっているようにしか感じられないけど、かえってそれが陸ちゃんらしい。

 たまに恥ずかしがって怒る時もあるけど、基本的に陸ちゃんは甘え上手でいつも可愛かった。好き好き、一緒にいられて嬉しいって気持ちを全開にして、「葉月君」とくっついてくる。形のいい後頭部を捕まえてから、柔らかい唇に舌を差し込むと、陸ちゃんが喉を鳴らした。

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