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プロマナト(3)

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◇◆◇

「ユウイチさん、俺がピンポンを鳴らしたらすぐに出てきてね!? 絶対すぐドアを開けてよ!」

 普段穏やかで優しいマナトが車以外のことでこうやって捲し立てるように話すのは珍しい。「大丈夫、すぐ開けるよ」と頷いてみせると、ようやくほっとした様子で、笑顔を見せてくれた。

「よかった……。あの、じゃあ着替えてくるからユウイチさんは部屋で待っててね」

 大きな紙袋を持ってマナトが脱衣所へ向かう。待っているよう言われたのだから、おとなしくしていないといけない。
 ただ、許されるのなら、本当はベッドの上で呻きながら思う存分転がって「今、マナトが脱衣所で高校生の制服に着替えている!」という興奮を、制服コスプレをしたマナトと思う存分スケベなことが出来るという喜びを、表現したい。

「ああ、きっとすごく可愛いんだろうな……」

 噛み締めるようにポツリと呟いた一人言は、頭の中のブレザーを着たマナトの姿をより鮮明にする。きっと、マナトは急いで着替えてくれているのだろうけど、十分にも満たない時間が長く感じられた。

 優しいマナトは「ちょっとはそれっぽく見えるかなあ?」と、昨日わざわざ髪まで切ってきてくれた。厚めの前髪のショートスタイルという、定番スタイルにトリートメントを施してもらったのか、真っ黒で柔らかい髪はいつも以上にツヤツヤしていた。
 写真は撮れないだろうから、可愛いマナトのコスプレ姿をこの目にしっかり焼きつけないといけない。「見すぎ」と恥ずかしがる姿も、きっと眩いぐらいに可愛いだろう。



「アプリで知り合って、それで家に呼んで……、オプション……? 制服を着た俺とセックスするってことなんだよね……? じゃあ、最初から部屋にいたらおかしいか……」

 マナトの方からそうやって提案をしてくれたのは嬉しかった。細かい部分にもこだわりたい、という思いがだんだんマナトにも通じるようになってきたのだろうか。

 そんなことを考えているうちにいつの間にかマナトは外へ出てしまっていたらしくインターフォンが鳴った。「来た!」と玄関まで走るのはずいぶん久しぶりのことだ。



「こんばんはー……」

 小さな声で挨拶をした後、眉を寄せてはにかみながら笑うマナト。準備したネイビーのPコートとチェックのマフラー、それからリュックサックとローファーがよく似合っている。どこから見ても現役で通用する瑞々しい可愛らしさ。……こんな可愛い子が、俺を訪ねて来るなんて……なぜ……、俺は何か、徳を積んだんだろうか……。

 呆然としていると、困った様子のマナトから上目遣いで見つめられる。

「はっ……! そうだった……! どうぞ、中へ入って」

 今夜はこの家で可愛いマナトを一人占めする約束になっていたことを思い出す。慌てて玄関のドアを大きく開けると、「ありがとうございます」とマナトはペコッと頭を下げてから家の中へ入ってきた。
 靴をキチンと揃えてから、「マナトです、今日はよろしくお願いします」と礼儀正しく挨拶する姿にはただただ感動してしまう。
 もし、恋人ではなくて、マナトが本当に、そういった店のボーイだったら、この時点で100回分の予約の打診をしていただろうし、「いったい何を貢げば喜んでくれるのだろう?」ということに頭を悩ませていただろう。

「……可愛いね、こんな可愛い子が来てくれるなんて……」
「えー?」

 初めて会ったという設定を忠実に守り、ちょこちょこと寝室まで後を着いてくるマナト。クスクス笑っているのは「いつも会っているでしょう」という意味なのだろうか。

「あ、コートとマフラーはかけておこうか。リュックもよかったらカバン置きを使って……」

 もちろんマナトが背負っているリュックサックの中にはちゃんと普段マナトが使っているペンケースや自動車についての勉強の本や水筒が入っている。現役高校生の雰囲気を出すためにフロントのポケットにはイヤホンとガムまで入れておいた。
 ここまでこだわったのだから、制服姿を一刻も早く拝みたい。ワナワナと震える手を抑えながらマナトに近づいた。

「あの……」
「うん?」
「……俺、すごくドキドキしてます。お兄さんは、どうですか?」
「うっ……!」

 期待と緊張が混ざったような顔で「えへ」と笑うマナト。それから、「コート、脱ぎたいです」とねだってくる。
 表情や発言をキチンと作り込んでいるのか、それとも本来のマナトのままなのか、どちらとも取れるような、可愛いあざとい仕草だった。

「お……」

 こんなの……、すでに恋人どうしであるというのに、「なんて可愛いんだろう」と何度でも新鮮な気持ちで、マナトのことを好きになってしまう。
 興奮でぶるぶると震える手をマナトの方へ伸ばした。コートを脱がす、ただそれだけのことなのに厚手の生地の下を想像すると胸が高鳴る。プレゼントのリボンをほどく時や、真っ白なホールケーキをカットする時のような、そういう特別感のある瞬間だった。


「おおっ……!」

 感動で思わず声を漏らすと、マナトは恥ずかしそうにしながら下を向いてしまった。二つボタンのネイビーのブレザーとグレーをベースにしたチェックのパンツがとてもよく似合っている。ブレザーの下に着ている、紺色のラインが入った真っ白なセーターと赤いネクタイの組み合わせも完璧だった。どうしてこんなに似合っているのにマナトは恥ずかしがるのだろう? と不思議に思ってしまうほど、マナトにピッタリだ。

「か、可愛い……! すごいな、ここまで着こなせるなんて……!」
「……ありがとうございます」
「あ~、ここだけ空気が瑞々しいな……」
「え~?」

 マナトの周辺で思いきり息を吸い込んでいると、「匂いは恥ずかしいからダメです」と顔を背けられる。恥ずかしがって嫌がる姿に興奮して顔を覗き込もうと回り込むと、驚いたマナトが悲鳴をあげて、それからケタケタ笑う。
 子供じみた悪ふざけでも、マナトとなら永遠に楽しめるが、まだまだやりたいことはたくさんあるため、後ろからマナトの腰を捕まえた。

「ごめん、あんまり可愛いから……」
「ううん。楽しくて、俺もいっぱい笑ったからいいんです。今日はもっともっと楽しんでくださいね」
「お……、なんと……。はっ、そうだ……! お金、お金を払わないと……!」

 今日はそういう設定なのだから、もちろんこういった部分でも手は抜けない。「五千円でいいです」「こんなにたくさん貰えません」とマナトはマナトで何か言っていたが「いいから!」で押し通し、準備しておいたお金を無理やり握らせた。
 普段、小遣いやお年玉はいらないと言い張り、セックスする度に入金している口座の通帳には怖がって触ろうともしないマナトにはこれぐらいでちょうどいい。

「あの、本当に困ります……、こんなにたくさん……」
「どうして? 制服コスプレのオプションも込みで充分妥当な金額だと思うけど」
「でも……」

 困った様子で握りしめた紙幣を見つめていたものの、最終的には「わかりました、ありがとうございます」とマナトも渋々頷いてくれた。
 設定上普段の自分達とは違う誰かになると、こうやってマナトに現金を自然に渡すことが出来るからいい。すっかり浮かれた気持ちで「こっちへおいで」とマナトをベッドへ連れていく。この子の何もかもを、じっくり、余すことなく味わいたい。遠慮してベッドに浅く腰かけるマナトを、頭のてっぺんから爪先までじっくりと観察した。
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