幼馴染みが屈折している

サトー

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【その後】幼馴染みにかえるまで

【同人誌より】アフター

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 運動は好きだから、子供の頃は家族やヒカルとよく身体を動かしていた。球技で競いあうだけじゃなくて、単純に走ったりジャンプをしたりする動作の一つ一つを楽しいと感じるし得意な方だと思う。

「うー……疲れた……」

 体力が無いというわけじゃないはずなのに、セックスの後はお尻やわき腹といった今まで痛くなったことのないような場所がひきつるような感覚と、それからダルさで起き上がれなくなる。まだ、ヒカルとは片手で数えられるぐらいしかそういうことをしていないけど、そのうち慣れるんだろうか? とりあえず、こんなに疲れているのに、終わった後シャワーを浴びにいったんだから、よく頑張ったと自分では思う。

 目を閉じてウトウトしていると「身体は平気?」と俺の後にシャワーを浴びにいったヒカルがベッドに潜り込んできた。暑いのか何も着ていない。セックスの前後に平気で全裸でウロウロ出来るヒカルの感覚が俺には理解出来ないけど、きっと自信の表れなんだろう。

「……ダルい。でも、大丈夫。どこも痛くない」
「よかった……」

 ヒカルが冷蔵庫から取ってきてくれたミネラルウォーターを起き上がってぐびぐび飲んだ。冷たい水を一気に流し込む。これで回復……というわけにはいかず、すぐに俺はもう一度横になった。

「……気持ちよかった」

 すごく小さな声でヒカルがそう口にした。俺に話し掛けているというより、心の声がぽろっと漏れてしまったという感じの、ほとんど一人言のような呟きだった。迷ったけど仰向けの体勢のまま顔をヒカルの方に傾けて「そうだな」と返事をしておいた。ヒカルはぼんやりとした顔で頷いた後、そのままごろりと寝返りを打ち、俺に背中を向けた。

「えっ」

 おいおい、ヤることが済んだらさっさと寝るタイプかよ、と心の中でヒカルに対して呆れた。こういう時は普通、余韻や雰囲気を大切にするんだと童貞の俺でも知っているというのに。女に対する態度からも察してはいたけど、ヒカルにはこういう非情なところがある。今まで散々やりたい放題だったんだろうな、と真っ白な背中をじとっと睨んでいると「俺はテクニックがない」とヒカルがポツリと呟くのが聞こえた。

「……はあ?」

 聞き返してみても、無反応なので背中をつついてみると、身を捩って嫌がられた。なぜ、今このタイミングで拗ねるのだろう? 今日もちゃんと入ったし、ヒカルも俺もちゃんと出した。コンドームをつけているのに「ルイの中に出していい?」と聞かれた時だって、「ゴムをつけてるだろ」と本当のことは言わずに「ダメ、嫌だ」と、ちゃんとヒカルの趣味にも付き合った。だから、今日のセックスも成功だったと俺は思っている。何を不満に感じているのかはサッパリわからなかった。

「なんだよー急に」
「……俺は、テクニックがない」

 だから、それはさっき聞いたよ、と思いつつ、何の気なしに「ああ、そういやお前、マグロだったっけ」と口にした。前に本人が「何もしなくても、女が上に乗ってくる」と話していたから事実を言っただけなのに、ムカッときたのか、ヒカルに腕をつねられた。

「痛ってえ! なにすんだよ!」

 ぶすーっとしたヒカルの顔がこっちを見ていた。俺が暴れたせいで掛け布団が捲れていてヒカルの真っ白な上体が晒されている。なんだか、牛乳とか杏仁豆腐を思い出させるような裸だった。

「ごめん。ちょっと言い過ぎた」
「……いいよ」
「テクニックとかないのは、俺も同じだし、気にしないでいいと思う」
「……そういうことじゃないよ」
「……ヒカルは、フェラが上手いんだしいいと思う」

 言ってから、これはフォローになっているんだろうか? と思ったけど、「そう?」と満更でもなさそうな反応が返ってきた。ヒカルが照れたように笑う。

「セックスってどうやったらもっと上手くなるんだろう」
「うーん……経験? 実践あるのみって感じはするけど……」

 悩めるヒカルからの問いに答えながら「あれだけ女がいたヒカルにいったい俺は何をアドバイスしているんだろう。童貞なのに」という気持ちになる。

「ルイが実践に付き合ってくれるってこと?」
「……。まあ、でも、べつに焦って上手くなろうとしなくてもいいと思う」
「えー……」
「まだ俺は慣れないことばっかりだし、それに……あんまり、これ以上ヒカルが上手くなると、どうにかなりそうで怖いから」

 本当だった。初めての時に感じた「痛い、入らない」という気持ちはどんどん薄れていって、少しずつヒカルとのセックスを俺の身体は受け入れている。セックスの度に、身体がどんどん作り替えられていくみたいだった。今はまだ想像が出来ないけど、いつかは俺も自分からヒカルに跨がって器用に腰を振ったり、「もっと」とねだったりするんだろうか。想像しただけで恥ずかしくなって「じゃ、おやすみ」とヒカルに背を向けると後ろからぎゅうぎゅう抱き締められた。

「なんだよ」
「嬉しい……。ねえ、こっち向いてよ。ちゃんとくっついて寝たい」
「ヤダ」
「ルイってば。ねー、寂しい……」
「……お前さあ、今まで散々女にそういうことをしてきたんだろ? たまには自分の行いを反省した方がいいって」

 照れ臭くてソッとしておいて欲しいのにベタベタといつまでもヒカルが甘えてくるから少しだけ意地の悪いことを言ってしまった。そしたらヒカルは「そんなことしてない」と、必死で否定をして、無理やり俺を自分の方に向かせた。

「ほんとにしてない……俺、女が寝るまで寝たことない。アイツら何をしてくるかわからないし……。それに、もうルイ以外とこういうことしないから……」

 ほとんど泣きそうな声で訴えかけられる。このままだと俺が非情な人間になってしまいそうで、しょうがなくヒカルの方へ身体を向けた。ヒカルは俺のことをぎゅっと抱き締めて、「はー……」と深い溜め息をつく。

「何してくるかわからないって、何?」
「……教えない」
「寝てる間にしゃぶってくんの?」
「教えない!」

 何回聞いても、具体的なことは教えてくれない。「さっさと寝ろ」と身体に回された腕に力が込められるだけだった。
 誰かに抱き締められながら眠った記憶なんてないから、始めはこんなふうにくっついているのは眠りづらいくて仕方がないと思っていた。それなのに、今ではヒカルの体温と匂いは俺の中ですっかり心地いいものになってしまっていて、意外と悪くない気がした。
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