幼馴染みが屈折している

サトー

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【その後】幼馴染みにかえるまで

★どこにも行かないで(2)

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◇◆◇

「やたらイオリのバカが『ヒカルさん、年収いくら?』ってしつこく聞いてくるからなんなんだと思ったら、年収が一千万越えると税金とかヤバイんですよね? って騒ぎ初めてさあ……。でも、この話のオチって結局は『まあ、俺、住民税非課税だから関係ないんすけどね』だよ? いい加減にしろって感じだよ、本当に……」
「ははっ」
「この間も『ヒカルさん、暇なら拾ってくれません?』って言うからコンビニまで迎えに行ったら、アイスを車の中で食べ始めてさ……。フツー、先輩の車でアイスいける?」
「昔からアイツはそういうヤツだろ」
「当たり前のように車を汚すし、ホント最悪……」

 雨の勢いが弱くなるのを待つことになり、他愛もない話をルイと続けながら時間を潰した。
 ははは、ともう一度笑った後、ルイがこちらに冷ややかな視線を向けているのが見なくてもわかる。「そうは言ってもヒカル、お前ってイオリが大好きだよな?」と言いたいんだろう。
 何度も否定しているが、俺はべつにイオリのことは好きじゃない。ただ、腐れ縁というものは本当に存在するらしく、大学を卒業してから何年も経つのに未だにだらだらとイオリとの付き合いは続いている。

 ルイになんとか面倒を見てもらってギリギリ大学を卒業したイオリは「全然大丈夫っす! 親父の設計事務所でも手伝うんで!」とまともに就職活動なんかしていなかった。今は父親の会社を手伝いながら小遣い程度の給料を貰い、時々ユーチューブに動画を投稿している。

 ただやかましくてバカなだけなら我慢も出来る。厄介なのはイオリが未だに「ヒカルさん自分だけがルイさんを独占して心が痛まないんですか? そういうのマジでどうかと思いますよ!」とルイに好意を寄せていることだ。一応、彼女を作ってはチャラチャラ遊んでいるようだけど、ああいう変なヤツは何をするかわからないから油断が出来ない。

 当の本人は「だから、ヒカルは車にいつでもティッシュを積んでんのか」と呑気なことを言って窓の外を眺めている。……いっぱい変な人間を引き寄せてしまうことについて、相変わらずルイは無防備だった。



「イオリが俺の車に何を溢したか思い出すだけで疲れるよ。仕事でも面倒な中国人にいびられるしさ……。ルイとこうやって出掛けられてだいぶ癒されたよ。ありがとう」
「べつに俺は何も……」

 そっと手を握って真っ直ぐルイのことを見つめていると、「それならよかった」と小さな声で返事が返ってくる。思えば朝、慌ただしく家を出て、それからずっと二人ではしゃいで賑やかに過ごしていた。急に静かになってしまったせいなのか、雨音がいっそう激しくなったように感じられる。
 


「……そんなことよりもさあ。ねえ、ルイ。どうしていつまでも窓の外ばかり気にしてるの? もっと近くに来てよ」
「えっ……」

 背もたれを倒すどころか、シートベルトすら外していないルイは、暗い車内で寛ごうという気なんかさらさら無いみたいだった。背筋をぴっと伸ばして常に外の様子を気にしている。じっと見ていたって早く雨は止むわけでもないのに、そうせずにはいられないようだった。
 こっち、と左腕を上げて抱き寄せるような仕草をしてみせると、ルイは慌てた様子で視線をキョロキョロとさ迷わせた。

「……外なのに、ダメだ」
「これだけ暗くて雨が降ってたら、中の様子なんて見えないよ。それに」

 ゆっくりと起き上がって、覆い被さるようにしてルイの体を捕まえる。びくっと正直に反応するところが可愛い。

「……他の車も中でそういうことをしてると思うけど。もしかしてそれが気になって外を見てるの?」
「んっ……」

 薄くて柔らかい耳のふちに唇を寄せると、ルイは逃げるようにして顔を背けてしまう。……どうして何年経っても、そういうことをされるとますます相手が燃え上がると気がつかないんだろう。
 シートから身を乗り出して、後ろからしっかりとルイの体を抱き締める。うなじに唇で触れると、昼間にかいた汗を気にしているのか「嫌だ」とルイは激しく首を横に振った。

「大丈夫だよ。全然、汗の味なんかしないよ」
「俺は大丈夫じゃないんだよっ……! なあ、ホテルですればいいだろ!? ちょっとくらい我慢しろよ……!」
「うんうん……。でも、今、ちょっとでいいからくっつきたい……」

 また運転出来るように少しだけ休憩させて、と甘えた声でねだると、ルイは俯いてただじっとしている。本当に嫌で怒っている時は「やめろよ!」と俺の頭をはたくくらいならルイは平気でやる。昔、レンタカーで出掛けた時も同じようなことがあったけど、あの時は「人の車だっ!」とルイは本気で腹を立てていた。

 少しはそういう気分になってるってこと? と心の中で問いかけながら、肩幅も手首も、何もかもが細いルイの体を撫で回して、うなじに音を立てて何度も口づける。ため息のような小さな声を漏らして、くたりともたれかかってくるルイの体が心なしか熱い。

「こっち向いて……」

 ほんの数センチ顔を傾ければ唇が触れあう、という距離で囁く。服越しに胸を刺激されるのに小さく体を震わせながら、ルイは黙って薄い唇を押し当てて来た。

「んうっ……、んんっ……」

 舌を絡ませあう深いキスを受け入れながら、時々ルイはもぞもぞと身を捩った。嫌がっているというよりは、「触って欲しい」と訴えられているように感じられた。
 そっと太ももに手を伸ばすと、ルイはほんの一瞬腰を浮かせてみせた。そのまま指の先で内腿を撫で回すと、ぎゅうっと腕にしがみついてくる。もっと他の所を触って、もっと気持ちよくなりたい、そう正直に伝える術をルイは持っていないのだと思うと、必死で舌を絡ませながらキスに応えようとしてくる様子がいっそう健気に感じられた。

「あっ、ああっ……」
「ふふっ、気持ちよさそうだね……」

 勃起した性器をパンツの上から撫で回すと、それだけでルイの腰がひくひくと揺れる。直接触ってもらえないもどかしい快感に観念したかのように、ルイはだらしなく足を開いた。

「気持ちいいんだね。可愛いなー……」
「あっ……! 待って、ヒカル……!」

 シャツのボタンを一個一個外していくと、ルイはそっと手を重ねてくるだけで、本気で止めたりはしなかった。インナーを捲り上げる時に「ああっ」と諦めたような声を漏らしたくらいで、ほとんどされるがままになっている。

 外からの微かな明かりが差し込む薄暗い車内でルイの素肌も、それから乳首もおへそも、普段服で隠れている場所が晒されている。ルイがぼんやりしながら戸惑っていることには気がついていたけれど、何も言葉はかけずに平たい胸に吸いついた。少しでも考える時間を与えればルイは冷静になってしまうとわかっていたからだ。

「待って、ヒカル、ダメだって、きたないからっ……」

 ストップをかけようとルイが弱い力で俺の頭を押してくる。十本の細い指に自分の髪の毛がくしゃくしゃにされていく。俺の額もルイの胸もうっすらと汗ばんでいた。
 乳首を吸ってやりながら時々「外でこんなことしていいの?」「おっぱい吸われてるとこ、誰かに見られちゃうね」と言葉で責めると、ルイはすごく感じているみたいだった。いやだ、と首を横に振りながら、体を密着させて性器を俺の体へ擦りつけてくる。

「んうっ……! んんっ……」

 薄い唇は塞いだまま、片方の乳首と性器を触ってやると、ルイの体がびくびくと大きく跳ねた。「いいよ、このまま出したらすごく気持ちいいよ」と伝わるようにルイの上顎を舌でくすぐり、乳首を指先で撫で回す。
 キスどころか、外で堂々と手を繋ぐこともない俺達にとって、「誰かに見られるかもしれない」という状況で抱き合うのは初めての経験だった。

「んっ、んっ……」

 何度もルイの胸に唇で触れた後、乳首を口に含んだ。絶頂が近いのか脚にぐーっと力が入っているみたいだった。もういく、やめてくれ、ともがくルイの声を無視して、勃起したペニスの裏筋を服の上から刺激し続けた。恥ずかしかったのか、歯を食い縛ってほとんど声も出さずに、静かにルイは達していた。

 ルイの唇とペニスは、もう俺だけのものじゃない。

 ルイと抱き合っていると、ふと、そんな思いが頭を過ることがある。雨が降っているせいなのか、ここが外だからなのか、理由はよくわからないけれど、たまたま今日はそういう日だった。
 だから、ここが車の中で、後処理はどうする、ということはどうだってよかった。ただ、腕の中で快感に震えるルイを一人占め出来ればそれでいい。そう思っていた。


 あと一分もしないうちにルイはきっと「何すんだっ!」と怒り始めるだろう。腕の中で余韻に浸ったままぼんやりしているルイを本当はこのまま手離したくなかった。
 額に口づけながら「俺だけだよね」と小さな声で囁くと、体にルイの腕が回される。……聞こえたのか聞こえなかったのかはわからない。黙ったまま寄り添うようにしてルイはじっとしていた。
 
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