幼馴染みが屈折している

サトー

文字の大きさ
上 下
75 / 90
【その後】幼馴染みにかえるまで

★ただいま(4)

しおりを挟む

 ヒカルがもともと住んでいた学生用のマンションを出て、ちゃんとした部屋を借りよう、という話になった時、当然俺は2LDKの部屋を借りて寝室は別々にするものだと思っていた。
 それなのにヒカルは「寝室を分けるのは嫌だ」と絶対に譲らなかった。立地はルイの職場に近くていいし、家賃は全部俺が払ってもいいから、寝室だけは一緒じゃないとダメだ、と言って聞かなかった。

 ヒカルが仕事の関係で知り合ったという、看板を出していない不動産会社も「……ヒカルとグルなのか?」と疑いたくなる程、1LDKの物件ばかりを推してくる。芸能人御用達だとかいう会社なだけあって、どの物件も洒落ていて新しいのに、なぜか俺の希望する2LDKの部屋は古くて、外観や間取りにクセのある物件ばかりだった。
 結局、ヒカルの言う「二人で暮らすのにちょうどいい、広めの1LDK」に越してきて、もう二年が過ぎる。

「ルイ、俺のわがままを聞いてくれて、ありがとう。お互い忙しくて二人の時間が取れないことも増えてきたよね。だからさ、せめて家にいる時だけはルイの側にいさせて……」

 この部屋へ引っ越して来た日の夜に、一本一本が細い睫毛を伏せて懇願して来るヒカルは、いつもよりもずっと繊細そうで、儚げに見えた。
 いやいや、待てよ、いつもはどれだけ残業が続こうと「まだまだ足りない、もっと満足させて」とすごい力で俺の事を押さえつけて、何度も体を求めて来るような奴なのに、急に弱々しくなるなんておかしいだろ……と思ってはいたものの、結局俺は「いいよ」と頷いてしまった。

「良かった。ふふっ、俺、ルイの事を、ずっとずっと離さない……」
「いつも一緒にいただろ。何言ってんだよ」

 恋人どうしになってからのここ数年は、子供の頃以上にベタベタしてくるな……と俺は半ば呆れていたのに、ヒカルはずっと「嬉しい」とデレデレしていた。



「ヒカル、待って、あっ、いやだっ……!」
「ここ? ここが、気持ちいいの……?」
「あああっ……!」
「ふふ、モゾモゾしちゃって可愛い……」

 大きく開かれた膝を閉じてしまいたいのに、ヒカルの汗に濡れた手がそれを許さない。痛いくらいに勃起した俺のペニスを、俺自身に見せつけるかのように、ぐ、と立てた膝が押さえ付けられる。

 抱かれる事どころか、触れられるのも、誰かの肌の温もりを感じることも久しぶりの体は、長い前戯の果てにヒカルを受け入れただけで、意思とは関係なく敏感に反応してしまう。
 射精に至るほどの直接的な強い快感ではないのに、より深く繋がろうとヒカルが下腹部を押し付けてきただけで、体のナカが熱くて苦しい。

 ヒカルが、「ずっとずっと離さない」と言っていたのは本当だった。一緒に眠る日は、広いベッドの真ん中でヒカルに抱き締められながら眠るのが当たり前で、「今夜は、いい?」と求められる日は、しつこく何度も絶頂に導かれ、くたくたになるまで抱かれる。

 そして、今夜もそうだった。
 愛してるよ、と何度も囁かれながら、全身が蕩けてしまうくらい、ヒカルに尽くされた。柔らかい唇は音を立てて、何度も俺の首や胸に吸い付き、時々乳首を唇で挟んだ。
 生暖かい舌が背中を這い回っている間、無意識に腰が揺れてしまうのを「ダメ、そんなふうに、一人でしないで」と、うっとりとした甘い声でヒカルに咎められた時は、顔から火が出るほど恥ずかしかった。

「は、あ……っ、んんっ……」
「まだ、キツイ?」
「ん、ううっ……」

 しばらくこのままでいよう、と言うヒカルに頷きながらシーツを握りしめていると、胸を撫で回される。散々舐められながら、吸われた後の乳首に触れられて、じーんと痺れるような感覚に体が跳ねた。
 ヒカルとの初めてのセックスでは、今になって思うと、とても乱暴で無茶なことをした。それ以降、回数を重ねていくうちに、少しずつ俺の体もヒカルの体も、男どうしのセックスに慣れていった。

 だけど、一ヶ月も期間を空けると、体がヒカルを受け入れるのには、それなりに手間も時間もかかるし、覚悟もいる。
 今も、ヒカルはいきなり腰を振るなんてことはせずに、ただ繋がったままでいる。
 大丈夫? と言いたげな顔で、自分の性器が俺の体に馴染むのを待っていた。
 普段から自分の指を使ってソコを慣らしておくのが一番いいんだろうけど、どうしても抵抗があって、俺はなかなかそうする事が出来ずにいた。

「ヒカル、ごめ……、もう動いてもいいからっ……」
「ルイ……」

 腰を少しだけ振ってヒカルの事を促す。立てた膝を大きく開いたまま、ぎこちなく尻を動かす姿はきっと不格好に違いなかった。
 ヒカルが覆い被さるようにして、ゆっくりと顔を近付けてくる。「大丈夫だよ、全部俺がしてあげるから」と頬や額に何度も唇が触れた。

「あっ……!」
「ここ、触ってあげる。気持ちい……?」
「あっ、あっ……」

 ヒカルの長い指で、ペニスを扱かれる。先端に次々と浮いては垂れていく先走りのせいで、ヌチ、ヌチという音が嫌でも聞こえてしまう。

「あっ、ひかるっ、それ、だめ……」
「気持ちいい……? ルイのナカ、すごいよ、ぎゅーって、俺のを締め付けてくる……」
「あっ、いやだっ……!」

 上下する手の動きに合わせて、繋がっている部分が締まるのが自分でもよくわかる。根元まで挿入されたヒカルの性器を咥え込んだソコは、奥への刺激を求めて、疼き始めていた。

「い、いやだっ、やめろよ……!」
「どうして……? こんなに気持ち良さそうなのに……。ねえ、一回出したら?」
「もっと、ゆっくり……っ」

 イくのは嫌だ、と首を横に振ると、ヒカルが困った様子で笑う。気持ちよくない訳でもないし、恥ずかしいわけでもない。ヒカルの背中に腕を回して思いきり体を密着させた。

「すぐ終わりたくない、ヒカル、もっと……」

 一度出し切ってしまうと、そのままグッタリしてしまう気がしていたから、自分だけ先に射精するのはどうしても避けたかった。とてもゆっくりしたペースになってしまうかもしれないけれど、ヒカルと少しでも長くこうしていたい。

「ルイ……」

 目が合った、と思った瞬間にはヒカルに唇を塞がれて、めちゃくちゃに口づけられていた。すぐ終わりたくない、が上手く伝わったのか、射精を促そうとしてくるヒカルの手からも解放された。繋がっている部分も、まだ動かさないまま。
 ただ、息をする暇さえも奪うような激しいキスで、ヒカルがどれだけ俺の事を求めているかは伝わってくる。俺の歯列や上顎をなぞるヒカルの舌に夢中で自分の舌を絡めた。

「んっ、んんーっ……」
「……ルイ」

 唇が離れても、頭がボーッとする。唾液が溢れた口許を拭うのも忘れて、ヒカルの紅潮した頬をぼんやりと眺めていた。

「俺はずっとずっと、ルイの事を待っていたよ……」
「んっ……」
「……もっと早く、こうしたかった」

 海外にいたんだからしょうがないだろう、と言い返すのが憚られるほど、ヒカルの眼差しは真剣だった。真っ白な胸元には汗が滲んでいる。
 何を言い返すべきか迷っていると、抜けるギリギリまで引き抜かれた性器が、ゆっくりと再び挿入された。 

「好きだよ、ルイ……」
「あっ、ああっ、ひかるっ……」
「俺には、ルイだけだよ……」

 うっすらと微笑みを浮かべるヒカルはどことなくうっとりとしている。もっと早く、こうしたかったって? いつからだ? と聞き返したくなるような、ネットリとした言い方だった。

「ここが好き?」
「ああっ……! それ、いやだっ……!」

 浅い所を何度も突かれていると、出し入れされるヒカルの性器の動きに合わせて、自然と腰がユラユラと揺れる。じっとりとした、全身を舐め回すような視線を感じながら、俺の体はヒカルを求め続けていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー 蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。 下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。 蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。 少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。 ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。 一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...