幼馴染みが屈折している

サトー

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★左手

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 朝から出掛けていたテントの解体作業は常に時間が押していて昼休憩もろくに取れないバイトだった。本当はバイトになんか行かないで、ルイが留学に行ってしまうまでの残り少ない時間は一緒にいたい。ルイからも「ヒカル、小遣いの分だって、充分仕送りをもらってるだろ? 何にそこまでお金が必要なんだ?」と不思議そうにされる。ルイには言っていないけど、俺が両親から受けている援助はすごく不安定だ。父親も母親ももう昔みたいに朝から晩まで働いていないし、各々が自分だけの生き方を追求している。
 さすがに大学在学中に援助を打ち切られることはないと思っているけど、両親については息子である俺には不可解な部分が多いから油断は出来ないし、余裕があるというわけでもなかった。べつに、一人で生きていくのならどうなったって構わなかったけど、今はルイの戻ってくる場所を維持しないといけない。

 だから、短い時間で手っ取り早くまとまった金額が手に入る肉体労働はやめられない。平日は働かずにルイといよう、と思うとちょっとだけ元気が出た。それでも、今朝家を出発してからまともに座ったのはこの帰りの電車くらいだと思うと、急に瞼が重くなる。ハッと目を開けると家の最寄り駅で、慌てて下車する羽目になった。

 駅で買ったビニール傘を差しながら家へ戻ると、玄関の側の窓から灯りが見える。ルイが起きているんだろうかと思い慌てて鍵を開けたけど、部屋の中はしんと静まり返っていた。きっと、待ちくたびれて明かりをつけたまま寝てしまったんだろう。
 なるべく音を立てないように、そうっとバスルームに移動する。脱衣場に綺麗な長方形に畳まれた部屋着とバスタオルが置いてあって、ルイに「雨降ってただろ、ちゃんと風呂に入って寝ろよ」と言われているみたいだった。

 簡単にシャワーを浴びてから部屋へ戻ると、ルイは布団もかぶらずうつ伏せで寝ていた。顔だけは右頬を下にして横を向いていて、首を寝違えそんな妙な格好だった。潰れた頬に押されて右目が狐みたいにつり上がっている。いつもより頬がプックリして見えるせいか、赤ん坊みたいだった。

 よく寝ているなあ、とルイの格好を観察した。Tシャツは背中もお腹も丸見えなくらいずり上がっている。これだと風邪をひく、と思い布団をかけてやろうとした時、真っ白いシーツの上にティッシュが転がっているのに気付いた。
量とその場の匂いで、ああ、抜いたんだ、ってすぐにわかった。一人でして、気持ちがいいまま寝てしまったんだ、と思うと、寝顔は幼く見えるのに、エアコンの風で冷えているであろう素肌の質感がゴムのように張りがあって、自分の頭の中でいつも再現しようとしているものを遥かに越えたリアルさがあった。傍らでくしゃくしゃに丸まっている物の存在が生々しい。

 ベッドに上がってそっと近付いても、ルイはよく眠ったままだった。触ったら起きるだろうと思ってはいたけど、我慢出来ず背中に指を這わせた。
 ほんの少し呻いたけれど、ルイの目は固く閉じられたままだ。側へ寝そべってみただけですごくドキドキする。息を殺して、穿いている服と下着をずり下ろした。

「ん……」

 そろそろ目を覚ますかもしれない。それなのにやめられなかった。ルイの軽く握られていた左手をそうっと掴んで、無理やり開かせる。そのまま自分のペニスにあてがうと、俺はその上から自分の手を重ねた。無防備な状態のルイにこんなことをしているという背徳感がいい。思えば密かにルイを思っていた頃は何度もこういった状況を想像していた。
 荒い呼吸を抑えきれないまま、自分とルイの手を上下に動かしていると、さすがにうっすらと目が開いてくる。始めに俺の顔を見た後、左手に違和感を覚えたのか、ルイはすぐにそっちへ視線を移した。

「ごめん、ちょっと左手だけ貸して」
「え? えっ……?」
 
 まだ寝惚けているのか、いまいち状況が理解出来ていないらしい。「なに?」と、困惑はしているようだったけど、左手はされるがままになっている。俺が動きを激しくすると、一瞬それに逆らうように手を強張らせたが、やがて状況を理解したのか、ルイは黙って二人分の手が上下するのを見つめていた。
 たぶん、「ヒカルもここまで来たらもう止められないよな、俺も男だからわかるよ」と思っている渋々おとなしくしているんだろうけど、俺は、黙ってこの状況をルイが受け入れているのは、自分の手を汚されることを望んでいるからだと解釈して、それで興奮していた。
 俺の動きや、荒くなっている呼吸から、そろそろ射精するだろうということをルイは悟ったのか、困ったような顔で、様子を窺っている。俺はそれにも気がついていたけど、腰を乱暴に振ってそのままルイの手を先端に覆いかぶせるようにして、射精した。

「えーっ!?」

 寝起きの状態で自分の手に向かってビュクビュクと精液が出てくることについて、さすがにルイは顔をひきつらせていた。全部を出しきった後、さっさとティッシュで自分とルイの手を拭いているとルイは「帰ってたのかよ」と呟きながら起き上がった。

「そこ、ティッシュ落ちてるよ」
「え? うわあっ」

 自分の精液を包んだティッシュが側に転がっているのを思い出したのか、ルイは「あぶね! 忘れてた」と精液が漏れていないかこわごわ確認していた。「抜いてたの?」とルイに聞くと、驚いた顔をした後、「え、あ、中見たの?」とオタオタして、何かを諦めたのかムッツリとした顔で素直に頷いた。ティッシュを見られたから誤魔化せないと思ったんだろう。

「なにをオカズにしたの?」
「……言いたくない」
「また、AVでも見たの? ナンパもの? 女が寝とられるやつ?」
「な、なんで? えっ?」

 自分が好きなAVの傾向がバレてることに、ルイはビックリしているみたいだった。前にルイの家でパソコンを借りた時に、こっそりと履歴をチェックしたら、アダルト動画の中でもそういうジャンルを好んでいるのはすぐにわかってしまった。履歴から何本か動画をチェックしたけど、この程度の女・演出で抜いて満足したのかと呆れてため息が出るようなものばかりだった。ナンパものはたぶん、「すげー、リアル……。これは本物かもしれない……」と思いながら見ているんだろう。女が寝とられる方は、俺に女をとられたことを拗らせているのかな、と思うと怒り呆れだけじゃなくて、ルイのいじらしさもちょっとだ感じられたから、まあ許してやるか、という気持ちになった。

「はあ……。まだ、懲りずにそんなものを見たの?」
「ちが、見てない……。見てないけど、変態だと思われるから、言いたくない……」

 うっすらと顔を赤くしながらそんなことを言うなんて、よっぽどよかったんだろう。無修正でも見たんだろうか。ルイが好んでいるセクシー女優の名前と顔が次々と頭に浮かんできた。

「……じゃあさ、俺にオカズを教えるか、今からオナニーしてるところを見せるか選んでよ」
「えっ? なんで?」
「今、俺がルイをオカズに一人でしてるところを見たでしょ? だから、俺も見たいなー……」

 後ろから抱き付いて腰に手を回すと、困惑した様子でルイはこっちを見た。冷静に考えたらどちらかを選ぶ必要なんてないのに、寝起きでまだ頭が働かないのかルイは迷っているようだった。ハーフパンツの上からペニスを掠めるくらいの強さでそっと撫でてやるとルイの背中が丸まる。

「ここ以外なら触って手伝ってあげてもいいよ」
「え……?」
「触るだけじゃなくて、舐めたり吸ったりしてあげるよ」

 耳の側でそう囁きながらうなじにキスをしたり吸いついたりしていると、ルイの肩がピクピクと震えた。

「じゃ、じゃあ……その、自分で触るから、他のとこ、お願い……」
「……うん」

 そっちを選ぶとは思っていなかったから面食らった。ここまで隠そうとするなんてルイが何で抜いてたのか俄然気になる。何としてでも聞き出したい、という気持ちが顔に出てしまっているかもしれない。

「……乳首、舐めて」

 ルイはそのまま自分で服を捲りあげて、仰向けに寝転んだ。薄くて細い身体は十歳の子供をそのまま拡大コピーで引き伸ばしたような体格をしている。小さめの乳首に舌を伸ばすと、ルイは腹筋に力を入れてぐーっと身を固くした。

「自分でも触ったの?」
「うん……」
「最初は、ここ全然、好きじゃなかったのにね…」

 くすぐったい、と言ってばかりだったのに今は、舐めたり指先で摘まんでやるとちゃんと感じてくれる。さっさと抜いて終わらせたいとでも思っているのか、ゴソゴソとパンツの中に手を入れ始めた。

「するなら、ちゃんと下は脱いでよ……見えないじゃん」
「えー……嫌だよ」
「そんなこと言わないでよ。見たい」

 甘えるようにそう言って乳首を口にふくんでいると、小さくため息をついてから、ルイは性器を露出させた。子供っぽい体格に、特別大きくはないけどちゃんと大人のモノがついていて、なんだかアンバランスだと思った。俺が知っている子供の頃のルイと、実際のルイの体格にかなりの差が出てきている。性器なんて修学旅行で泊まったホテルの大浴場でチラッと見ただけだから、急激に成長したような印象が拭えない。でも、この身体を知っているのは俺だけだということには胸がじーんとする。

「ねえねえ、なかなかセックス出来なくて、寂しかったでしょ? もっと、いっぱいしてあげたいからさ……」
「え……」

 ルイの両手首を掴んだ後、胸の上までぐしゃぐしゃに捲りあげられているTシャツの方へ誘導した。

「落ちてこないように、これ掴んでて。俺がいいって言うまで自分で勝手に触ったら駄目だからね」
「うん…」

 不安げな顔をしながら、ルイはTシャツをぎゅっと握っている。俺はルイの乳首を両手で触りながら、じっと表情を観察した。指の腹で撫でるように触ってやると、くすぐったそうにして、くにくにと押し込むように触ると、刺激が強いのか、閉じた口からくぐもった声が漏れる。乳首だけをひたすら責められるのも悪くはないのか、ルイは上気した顔でされるがままになっていた。セックスの時だけ、興奮と羞恥の混じった特別な赤に人間の頬の色は変わる。運動した時は顔全体が赤くなるけど、セックスの時は頬や目の周りだけが赤くなることを、俺は女を抱いたことで知った。

「ヒカル、吸って……」

 舌足らずな女とそっくりな喋り方でルイはより強い快感を求めた。女だとイラッとするのに、ルイのそれは子供が甘えるみたいで愛おしい。言われたとおりにしてやると、喉を反らして唸っている。表情はよく見えないけど小さい喉仏が上下するので、気持ちいいんだろうというのがわかった。ルイは強く吸われた後、優しく舐められるのが好きだから、それを繰り返してやると呼吸が荒くなって、平たい胸が何度も跳ねる。

「ヒカル、触りたい……」
「まだダメ。もっと気持ちよくしたいから」
「もう、じゅうぶん、だからっ……んんっ」

 我慢が出来ないのか、内腿をモゾモゾと擦り合わせている。例えば両手を使えなくしたら、かくかくと腰を揺らしてベッドや床に擦りつける姿が見られるんだろうか。

「んうっ、そこばっかり、いやだ……」
「自分でお願いしたのに?」
「ああっ、んんっ……」

 ルイのペニスからは先走りが少しずつ滲み出てきている。こうなっても、ちゃんと俺が「いい」って言うまで触らないのが、犬みたいで可愛い。

「触っていいよ」
「うう……、ああ……」

 ルイは右手でゆっくりゆっくり自分のモノを擦り始めた。

「気持ちいい?」
「あっ、ああ……気持ちいい…」
「……さっきよりも?」
「うん……」

 潤んだ目でまっすぐ俺を見つめながら頷く様子は可愛い。「女の裸」というだけで勃起して、抜いたのを許したくなるぐらい。「もうなんでもいいから、気持ちよくなりたい」で頭がいっぱいなルイは従順で可愛かった。
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