幼馴染みが屈折している

サトー

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★ひとり

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 そろそろ一緒に暮らそうと思う、と伝えた翌日にはヒカルがやって来て俺の家を片付け始めた。
 家電や家具はヒカルの家にあるものを使えばいいから全部売ってしまえばいい。服については「これは全然似合ってないから駄目」「これは、俺の服を真似して買って着ていたのが可愛いから可愛いから残す」とか、訳のわからない基準でどんどん選抜されていく。コツコツ集めた段ボール二箱分の本だけは手放したくなかったから、残さず持っていくことにした。ものを売った時に手に入ったわずかなお金と、必要最低限の荷物だけを持って、新学期が始まる頃には俺はヒカルの家へ引っ越していた。
 捨てた覚えは無いのに、頻繁に着ていたTシャツが一枚なくなっていた。「捨てたんだろ?」と何度問い詰めてもヒカルは「知らない。捨ててない」と言うばかりで結局行方はわからないままだ。

 一緒に暮らせばセックスは日課になるんじゃないかと思っていた。だけど、意外と大学やバイトで顔を合わせる時間は少なくて、お互い「ただ眠りに帰ってきただけ」という日も珍しくない。就職活動が本格化する前にまとまったお金が欲しいのか、ヒカルは土曜も日曜もキツイ肉体労働のバイトへ行くから、本当に「おはよう」と「おやすみ」だけで一日が終わることもある。それでも、ヒカルは毎日が嬉しいのだと言う。

 その日もヒカルは、どこかへイベント終了後のテント解体作業のアルバイトへ行っていたので、俺は一人で部屋で過ごしていた。外は雨が降っていてヒカルの帰りが心配だったけど、「遅くなるから、先に寝てて」という連絡があったので、待つのをやめようか迷っている。
雨に濡れて帰ってくるかもしれないヒカルのために、脱衣場に着替えとバスタオルの準備はした。本当は少しだけ眠い。でも、ヒカルのことを待っていたい。
 眠気覚ましに熱い紅茶を飲もうと、ケトルでお湯を沸かした。何度も遊びに来ていたけれど、いざ暮らし始めると「ヤカンじゃなくて高そうなケトルを使っている」といった些細なことに今までの生活との違いを感じては、本当に俺にはもう自分の家が無いんだ、ということを実感していた。まだ、ここは「ヒカルの家」という感覚が抜けないから、一人の今もそろそろと台所から部屋へ移動して、テレビもつけずに大人しく紅茶を飲んだ。

 きっとヒカルはすごく疲れて帰ってくるだろう。もしかしたら明日は「動けない」と言ってベッドから出てこないかもしれない。そしたら、やっぱり起きて待っていて、身体は大丈夫かどうか一言くらい声をかけた方がいいのかもしれない……。そんなことを考えている間も、どんどん眠気が襲ってくる。日中はほとんど休まずに勉強をしているせいか、最近はあまり遅くまで起きられないことが多い。

 少しだけ横になって待っていよう。ヒカルが帰ってきたら物音で目を覚ますだろうから、その時に「おかえり」と言って、それからヒカルが寝るまでは起きて待っていればいい。
 いつもヒカルと二人で寝ているベッドへ横になる。……ヒカルの匂いがする。甘くてずっと嗅いでいたくなるような、そういう匂い。息を止めるわけにはいかないし、いい匂いだって感じるのも事実だからしょうがない。それでも、人のベッドでそういうことを考えてしまうのは、変態っぽく感じられて、ちょっとだけ自分が嫌になる。

 余計なことを考えないでおこう。そう思いキツく目を閉じて何度も身体の向きや体勢を変える。それなのに、時間がたてばたつほど、ここがで、何度も抱かれたことを思い出してしまう。……きっと、ヒカルと暮らし始めてから抜いていないからだ。セックスは何回かはした。でも、居候している家でコソコソ抜くっていうのはどうも気が進まない。それにそういうことをこっそり済ませていることがバレたら、ヒカルはきっと「どんなオカズで抜いたの? まさか女じゃないよね」としつこく聞いてくるかもしれないし……。

「ふー……」

 深呼吸をしてみても「したい」という気持ちは消えなかった。少し迷ったけど最終的には、ヒカルが帰ってくる前にさくっと抜いて何事もなかったように振る舞おうという気持ちになった。幸い明日は燃えるごみの日だから、証拠だって残らない。帰ってきたらヤバイんじゃないか、とハラハラする気持ちもあるけど、よし、と腹を括った。

「ん……」

 部屋の電気はつけたままで、Tシャツを限界まで捲ってから、胸の先を指の腹で撫でた。一人でする時でも、気持ちがよくて、乳首をいじってしまう。ヒカルがするみたいに、先端にはなかなか触らずに周囲を焦らすようになぞったり、時々爪の先で引っ掻くようにしたりして、自分で刺激すると、性器へ熱が集まっていく。
 指だけだとどうしてもヒカルの唇や舌で与えられる快感を再現することが出来ない。ヒカルに触って欲しい。一度そう思うと、ヒカルに教えこまれた快感を身体が思い出して、中途半端な自分の指先での刺激がもどかしい。
 もぞもぞと足を動かしながら、ハーフパンツと下着を一気にお尻の下までずらした。少し迷ったけど、仰向けの体勢からうつ伏せになって、腰だけを高くあげる。ヒカルと付き合うまではこんな体勢で一人でしたことなんてなかった。たいてい座った状態でするか、仰向けでしていたから。
 ヒカルとのセックスを思い出しながらオナニーをする時は、この体勢が一番いい。後ろから触られている時のことを思い出すと、自分で触っているのに、なんだかヒカルにされているみたいで興奮するから。

「ん……」

 頭の中ではヒカルが「もうこんなに硬くなってる。ルイはいやらしいなー。本当はセックスが大好きだもんね」と俺のことをなじってくる。自分でそんなことを想像するのはバカみたいだってわかっているのに、四つん這いのままペニスを扱くのがやめられなかった。

「こんな格好で気持ちよくなって恥ずかしくないの? ヘンタイ。イヤイヤ言っていつも感じてるよね」

 自分の頭の中のヒカルに自分を罵倒させて、それでムカついてるのに気持ちがいい。自分でも訳がわからないオカズだって思う。だけど、俺は手の動きを早めながらぎゅっと目を閉じる。ヒカルがするみたいに時々手の動きを止めたり、先っぽだけを軽く触ったりした後、また自分の好きなように扱き始めると、気持ちよくて小さく喘いでしまう。
 こんなことをしていると知られたら、たぶん「ヒカルからなじられる想像で四つん這いになって抜きました」って言うまで何度も何度も焦らされて、最後は「じゃあ、見ててあげるから、してごらんよ」とか言われるのかもしれない。嫌だ、見るな、見るな。恥ずかしいのと気持ちいいのとで歯を食い縛りながら、枕に顔を埋める。けれど、身体はより強い快感を求めて、脚を大きく開き腰を揺らしていた。

「んうっ……、んっ、ん……」

 今、ヒカルが帰ってきて見られてしまったら、どうやったって言い訳出来ない。でも、止められない。ヒカルが帰ってくる前に終わらなきゃ、早く早く……。
 ティッシュを左手に大量に持って自分のペニスにあてがう。右手も塞がっているから、額を枕に押しつけてなんとか身体を支えている状態だ。
 しっかり閉じた口から漏れる声は、酷く甘ったれたものだった。ここにいないヒカルに聞かせるための声だ。まるで女のような。俺は、どうしてあんな声を出すのかわかっている。男に自分の気持ちいいところを教えるためと、男を興奮させるためだ。
 俺はヒカルを興奮させたいんだろうか。今までヒカルの側にいた女達も、きっとこんなふうにヒカルを誘った……と思う。俺は女じゃないけど、ヒカルとセックスをしている時は、ヒカルを誘って悦ばせるために鳴く。
 ヒカルはここにはいないのに、もっと気持ちよくしてくれと、俺はヒカル以外の誰にも聞かせたことのない声で呻いた。ドクドクと大量に射精してる時は頭が真っ白になるくらい気持ちよかったけど、その後は、自分が女っぽくなっていたことに対してちょっとだけ落ち込んだ。

 変な格好でいたせいなのか、深い絶頂の後、脚がぶるぶると震えていた。ベッドを汚さないように使用済みのティッシュをきれいに丸めるので精一杯だった。ベッドへ潜りこんでぐったりと目を瞑る。手も洗いにいきたいし、ティッシュも捨てないといけないけど、眠くて、身体がだるくて、起き上がりたくない。少しだけ休もう、ただし一分か二分だけ、とよく自分に言い聞かせてから目を閉じた。
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