幼馴染みが屈折している

サトー

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テラス

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◇◆◇

 ヒカルと荷物を置いてから、バーベキューテラスの方に戻ってくるとすでに皆集まっていた。

 自己紹介したあと、気を利かせた女子がガムテープと油性ペンを貸してくれた。名前を書いて名札がわりにするためだ。「ルイ」とデカデカと書くと横でヒカルが、「ヒカル」と読みやすいハッキリした字で書いていた。ヒカルが現れた瞬間、多くの女子の語彙が「ヤバイ」だけになっていて、俺も平野も苦笑いした。ヒカルはそんなことは慣れているせいか、何とも思っていないようだった。

 着火材で火をつけて、ぼちぼちと食事の支度が始まった。ヒカルはコテージ内のキッチンで女に囲まれて米をといでいる。本当はこっちで手伝ってほしかったけど、油断した隙に連れていかれてしまった。

「まあ、しょうがないか」
「なにが?」
「あ、いや、女子の士気があがるならヒカルがいなくてもいいかなって……」

 確かに俺等よりヒカルがいた方がテンション上がるなーと平野も頷いていた。本当に俺なんかにチャンスはあるんだろうか? 女子と会話すらせず終了ルートもありえる気がする……。



 そして、いつのまにか俺は鉄板でひたすら肉を焼いていた……。

「手伝いましょうか?」と聞いてくれる子もいたけど、服は汚れるし熱いしで、申し訳ないので丁重にお断りした。その代わり、焼き上がった肉の配膳をお願いしたら快く引き受けてくれた。

 平野は「なんでこういうとこに、あんな白い服で来るかね」とぼやきながら焼きそばを作っていたけど、俺はリカちゃん人形をそのまま大きくしたような女子達に見とれていた。女子が着る特有のテロテロ、ふわふわした服は可愛い。綿一○○パーセントでは絶対なくて……何と何を混ぜたらああいう生地が出来るんだろう? ほんのちょっとずつ肉を食べて、美味しいもの食べた時に「ん~っ」と震えてみせる仕草が華やかな小動物のようで、見ているだけでデレデレしてしまう。

「美味しーっ!」と聞こえてくるのが嬉しくて、肉から出た大量の油で焼き鳥やウインナーは全部唐揚げ状態になっているけど、まあ、いいやと、どんどん豪快に焼いていった。

「ルイ、上手いじゃん」

 のそーっと横に現れたのはヒカルだった。

「油、跳ねんぞ」
「いい匂がする」

 汗だくの俺と違ってヒカルの肌はさらっとしたままだった。顔が綺麗な男は汗腺すらも制している。

「ルイ、ありがとう」
「……ああ、べつにいーよ」
「これ……」

 ちらっと横を見るとヒカルが、箸で肉を摘まんで俺の口元まで運んでいた。食べろということだろうか。一度は無視したけれど、「ルイ」「ねえ」って何回も呼ぶからしょうがなく、ヒカルの方を向いた。

「自分で焼きながらたまに食べてるからいいよ。そんなにお腹空いてないし。お前、座ってゆっくり食べてくれば」
「遠慮しないでいいから」

 食べて、としつこいのでしょうがなく口にした。一応、「うまい」と伝えるとヒカルは嬉しそうに笑った。

「よかった」
「……俺が焼いた肉だけどな」

 ちなみに俺が焼いた肉を、女子がヒカルに「ヒカルくーん、どうぞ」と献上していて、世の中は無慈悲だった。それが、巡り巡って俺のもとに帰ってきてヒカルに食べさせられてるって、これどういう状況? ヒカルは俺の餌付けにハマったらしく、せっせと味付け肉やウインナーを口に運んできた。

「もう、本当に食べられない」「ほんとだって」「……本当にお腹いっぱいだから、ヒカル」「…やめろってば!次やったら怒るからな」何回もそう言うまでヒカルは俺にしつこく餌やりを続けた。女と遊ぶのは止めるって約束してしまったから、イチャつけなくて、誰かに構ってほしくなったんだろうか。

「……なんだよ?」

 暇になったのかヒカルが俺の腕をじーっと見ているので、変だと思い質問すると「いや……」とヒカルは言葉を濁した。

「たくましくなったなと思って」
「えっ、そう?」

 自分の体格にコンプレックスがあるからそう言われると少し嬉しかった。成長期の頃は、ヒカルみたいに背が高くてしっかりと筋肉のついた体に憧れて、密かに牛乳飲んだり鍛えたりしていたからだ。本人には絶対言わないが。

「男っぽくなったよ」
「えっ、嘘? 嬉しいんだけど」

 二十歳になっても成長する事ってあるんだな、たまにテレビで二十歳を越えてから身長が何センチも伸びたって人がいたのは本当だったんだ、と一人で喜んでいると、ヒカルは黙ってそれを聞いていた。

「ルイは、成長期が遅かったもんね」
「やめろよ、気持ち悪い……」

 なんで? とヒカルは不思議そうにして焼き鳥をうまそうに食べていたが、友達が俺の成長期に関心あるってフツーに怖い。いちいち、俺がいつ急に背が伸びたとか、成長痛で足が痛いと言ったこととかを覚えていそうで、夏なのに寒気がする。

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