幼馴染みが屈折している

サトー

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夏休みのはじまり

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 夏休み初日、俺とヒカルは平野が「父親から借りてきた」というSUVでキャンプ場へ向かっていた。

 平野が運転、俺が助手席でカーナビとスマホを見ながら道案内、ヒカルは後部座席で大量の荷物とウトウトしている。朝早かったからだろうか。

「あれ~、ちょっと遅れそうだな……」
「お前等が店で余計なものばっかり買うからだろ」

 俺がそう指摘しても、おかしいな、と平野はすっとぼけているし、ヒカルは聞こえないふりをしている。

 朝九時に大学で集合してから、注文済みのバーベキュー用の肉をとりに、業務用食材ばかりが売っているスーパーに三人で向かった。

 肉を受け取って支払いをして、あとはキャンプ場に向かう、という段取りのはずが、ヒカルと平野がマシュマロとクラッカーもどうしても買おうと言い出して、結局他にも思いつきとウケ狙いで余計なものばかり買うせいで、予定よりずいぶん時間がかかってしまった。

「あのさ、コンビニとか大丈夫?」

 平野がまだそんなことを心配し始めるから、「お前さっき散々買っただろ」と俺は呆れながら言った。

「いや、でもあっち着いちゃったら、コンビニから二キロくらい離れてるし、たぶん徒歩では行けないと思うよ。夜すげー暗いし」

 俺飲むからそしたら車出せないし、と平野が言うから、そう言われると、何か買い忘れている気がして不安になる。後ろには大量の荷物を積んでいるのに。

 たぶん、夜になればキャンプ場からの道は暗いし、歩きづらいだろうし、二キロと言っても歩くのは大変だろう。でも食料も飲み物も大量にある。肉だけで五キロはあるし、それに焼きそばも作って、米も炊く。どう考えてもこの大量の食料を全員で頑張っても食べきれるかどうか、そっちを心配した方がいい。

「俺は大丈夫。ヒカルは?」

 後部座席を振り返って確認すると、「俺も大丈夫」とヒカルが言うので、「早く行こうぜ」と平野を促した。

「……ヒカル、ゴム持ってる?」
「いや、持ってないけど」
「は? 何の話だよ……」

 平野が急に変なことを言うので、ヒカルと平野の顔を交互に見てどういうことか問い詰めると、ヒカルは首を傾げて「俺も知らない」という顔をしていた。

「いや、もしかしたらさ、今日、そういう機会もあるかもしれないじゃん」
「あったとして、皆いるのにそういうことするなんて、頭おかしーだろ」
「まあ、そうだな。早川の言うとおりだわ。……始めちゃう奴って横に人が寝ててもそういうこと平気でするよね。ヒカル?」
「俺はそういう趣味はないかな」

 ヒカルが苦笑すると、平野は「あー、わかる気がする。ヒカル、そんな感じだよね」と頷いた。コイツ等は一体、お互いの何を知っているんだろう。爛れている。車酔いをしたわけでもないのに、「げえ」と言いたい気分だった。

「まあ、女子も九人来るんだし、それぞれチャンスあるって!」
「そうだな……」

 平野に慰められているけど、男が十二人参加だから、上手くいったとしても必然的に三人はあぶれることに気づいていないんだろうか。

「ヒカルもそう思うよなあ?」

 自分はあぶれない側だと思っている自信満々な声で平野がそう尋ねると「俺は肉を食べられればなんでもいい」という気のない返事が返ってきた。

「ヒカルは肉食えればいいってさ。良かったなー、俺等チャンスあんじゃん」
「いや、ヒカルがそう言っても、向こうがヒカルしか興味無かったら駄目だろ」
「大丈夫! 大丈夫! そういう子ほどチョロいから」

 ワハハと平野は豪快に笑う。たぶん、平野はヒカルが好きというより、ヒカルのことが好きな女が好きなんだろうなって思うことがたまにある。ヒカルもそれをわかってて付き合ってる部分もあるようだから、よくわからないやつらだと思う。



「ルイ、俺の日焼け止め持ってきた?」
「はあ? なんで俺が……俺はお前のお母さんじゃねーよ」
「ねー、ルイ。俺のイヤホン知らない?」
「知らない」
「ルイ、お菓子食べたい」
「……」

 車内ではヒカルがずっと後ろから小学生みたいなことを言って絡んでくるから、着く前からすでにどっと疲れていた。

 キャンプ場の看板が左手に見えたので、左折してゆっくりと入り口に車が入る。よくこんなとこ入っていけるなと言いたくなるような細い道でも、平野は躊躇しなかった。

「……なんか、自然味溢れてるな」
「そーだなー」

 奥に進めば進むほど、木が生い茂っていて、道は細くなり所々アスファルトの舗装がひび割れている。ライトを持たないで夜一人で出歩けば間違いなく怪我をえるだろう。不用意に出歩かないようヒカルにもよく注意しておかないといけない。

「おっ、ここだー」

 平野が一度車を停止させた建物は、白っぽいトレーラーのような見た目をしている。建物の前がテラスになっていて、バーベキューコンロもある。

「ここが、八人泊まれてテラスが一番広いんだ。バーベキューはこっちメインにしよう」

 カラオケもあるらしいし、と付け加えたあと、平野はまた少し車を前進させて、隣のログハウスっぽい建物の前で停車した。

「こっちが十人用な。ほんとは大人数で泊まれるとこを二棟借りて男女で分ければ良かったんだけど、予約出来なくてさ」

 十人用のログハウスは一階と二階それぞれにバストイレがあって、一番設備が新しくて綺麗だから女子専用棟らしい。「入んなよ!」と平野からはキツく念を押された。さっきまでゲスい話をしてたのに、意外とそういう配慮はするんだ、とちょっと感心していたら、「アイツ等、うるせえじゃん。いろいろ」と愚痴っぽく同意を求められた。風呂やトイレについて女がいろいろ気にするのはなんとなく想像出来るけど、「うるせえ」の具体的な中身については、俺にはわからない。

「この裏にもう一棟ログハウスあってそこは六人用。まあ、見た目は今見たとこをちっこくしたような感じ」

 ほんとは全部で二十三人来る予定がキャンセルが出た、と平野はボヤいた後、車を近くの駐車スペースに止めた。

「この裏の方は道が狭くて車で行けないから、降りて適当に自分の荷物置いてきて」

 平野に運転のお礼をヒカルと言ってから、車から荷物を降ろすことにした。

「ルイ、虫除け塗った?」
「あ、まだだ」
「早川、次俺にも貸してー」

 セミの声を聞きながら、なんだか夏休みらしい、と心はワクワクと弾んでいた。

 
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