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35点

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俺はね、変な顔をしているから、35点の素材を髪型と服装に一生懸命気を使って80点にしてるわけよ。
だから、そんな俺がやりたくもない黒髪にしたらどうなるかわかる?80点が、60点とか50点とかになっちゃうんだよね。
ほんとサイテー……。



……美容室に行って髪を黒くしてからもう一ヶ月近く経つと言うのに葉月君がまだ文句を言っている。
4月になって、お互い無事に進級して俺は二年生に、葉月君は四年生になった。


「……変なんかじゃないよ。葉月君、すっごくかっこいいよ!」

二人で勉強をしていたものの、ちょうど集中力が切れ始めていた時だったから俺はローテーブルの上に身を乗り出して葉月君を励ました。
葉月君は「……そうかなあ。そんなことはないけどね」と首を傾げてから、シャーペンをぽいっと放り投げた。
そのまま、葉月君の通っている塾の名前が大きく印字されている問題集の上を、コロコロと転がっていく。


「髪の毛が黒くなったからさ、なんだか明るい淡い色の服がすごく似合うよね。いいな……」

今日の葉月君はヘリンボーンのライトブルーのシャツを着ている。前立てと衿にあしらわれたステッチが目を引くコットンのシャツは、衿や折り返したカフス裏の草花のプリント模様が上品で、葉月君によく似合っていた。
明るくて淡い色のシャツは、春という季節にピッタリで、一目見た瞬間に「俺も欲しい……」と、羨ましくて堪らなくて、大好きになってしまった。

俺が今まで住んでいたところは一年のうちほとんどが暑く、春や秋と言った季節は無かった。
だから、冬や夏とは違う春の装いにすごく魅力を感じる。

4月にジャケットやカーディガンを着たら南の島では汗だくになってしまう。
アウターでお洒落をするとか、「羽織って調整する」っていうことが出来るのがいいんだよね……と都会のお洒落な人達を見るたびに思わず心の中で頷いてしまう。



「そうだ、服だけじゃなくてさ……。あっ、葉月君の目の色ってこんなに明るい茶色なんだって、俺、葉月君の髪の毛が黒くなってから気付いたよ」

そろそろとテーブルの向こう側に移動して、葉月君の顔を覗き込む。
本当は太陽の光の下で眺めた方がもっとキラキラしているけれど、部屋の蛍光灯の下でも明るくてすごく綺麗な色をしていた。

「葉月君、こんなに綺麗な目の色をしてたんだね……いいなー……」

やや離れている葉月君の目が、パチパチと何度か瞬きを繰り返す。
葉月君は睫毛も眉毛も一本一本が細くて、本当に繊細な顔立ちをしている。
やたらハッキリしている俺の顔とは全然違っていて……ずっと眺めていたって飽きない。



「……陸」
「へへ、勉強に疲れちゃったから今はちょっとだけ休憩で、それで葉月君の顔を見てる…………んっ?!んぐ、」


顔をガシッと葉月君の両手で掴まれる。あっ、と思った時には唇に柔らかいものが押し当てられていた。
キスは軽いやつから深い方まで葉月君ともう何度もしているけど、急にされるとまだビックリしてしまう。

ほんの少しだけ口を開けると、葉月君の舌が入ってくる。
グッと身体を密着させられて、そのまま葉月君の舌を受け入れていると、頬も、背中も、手のひらも身体のあちこちが熱くなっていくのが自分でもわかる。

葉月君に触りたい。ぎゅって抱き着きたい。
でも、そんなことをしたらシワになってしまうかな……と、葉月君の着ているシャツの淡い青が頭を過った。


「んっ……」

まだ勉強中で、夕御飯だって食べてない。でも、葉月君、今日は泊まるって言ってた……、泊まるってことは、寝る前にそういうこともするんだろうか、と思っていると、どんどん気持ちが昂ってきて、キスだけじゃ足りなくなる。

葉月君に触れることも出来ずにモゾモゾしていると、柔らかい唇がそっと離れていった。
名残惜しくて、思わず葉月君の方をじっと見つめてしまう。
「どうしたの?」と葉月君はニコッと笑いかけてくれたけど、あんまりかっこいいから、ドキッとして何にも言えなくなってしまった。



「……陸ちゃんさあ、じーっと俺のことを見て誘惑してくんの、やめてくれる?」
「えっ!?俺?」
「……塾通いで溜まってる体には堪えるんですけどおー」
「……た、溜まってるって……。葉月君、これからは小出しにするって言って、この前だって、俺に……」

そこまで言ってから慌てて口を閉じた。葉月君からは「俺に、なに?」とニヤニヤしながらしつこく聞かれたけど、聞こえないふりをした。



「あれ?陸ちゃん照れてんの?」
「……知らない」
「おーい、陸ちゃんってば」
「もう!変なところを突っつかないでよ!」

「柔らかい」と頬をつついてくる葉月君に怒った声で注意をしても、うひひと笑うだけだった。

……この前だって、そうだった。
「ちょっとだけ触らせて。今、勉強漬けで毎日本当にしんどくて……」と珍しく葉月君が弱々しい声で言うから、ほんの少しだけという約束で……。「陸ちゃんの乳首を触らせて」という恥ずかしいお願いをされて、それでオーケーした。



「あっ……、いやっ、やだっ……」
「……陸ちゃん、乳首触っただけなのに、ここ、すごいおっきくなってて苦しそうだよ?どうする?」
「あっ……!だ、め、触ったら、俺……」
「ふふ、すぐに出ちゃう……?」

……乳首をほんの少し触られたくらいで、反応してしまったのがすごく恥ずかしかった。
それで、服の上から勃起した性器を触られながら、からかわれたことに対して「ダメ」とばかり言っていたら、じゃあ、しょうがないね、と葉月君はあっさり引き下がってしまった。

……その後はひたすら乳首を触られたり、吸われたりした。
気持ちいいけど、もどかしくって、それで、最終的には……「俺の初めてをあげるから、しゃぶってください」とちゃんとお願いさせられた。

「あっ、言うからっ、待って……!俺の、初めて……、やだっ、手、とめてっ……!」
「うん……?ちゃんと最初から言ってみて……?」
「も、乳首、だめっ……、いやっ、やだあ……!」


……あの時は、散々焦らされておかしくなりそうだった。



前に「陸ちゃんとセックスがしたい」と言われた時に、ちゃんと約束したのに、葉月君はそういうことをする度に何度も確認してくる。
しかも、「俺には全然そんな趣味は無かったのに、陸ちゃんの「初めて貰って」がないと抜けなくなっちゃったよ?陸ちゃんのせいで性癖が歪んだじゃん。もー、どうすんの?」と理不尽なクレームをつけてくる。

どーすんのと言われても……、と俺がオロオロすると、葉月君はそれはそれは嬉しそうな顔で笑ってから、「慌てちゃって……陸は可愛いね」と俺の髪をぐしゃぐしゃにする。
その後、もう一回髪を綺麗に整えてくれる。

「可愛いからなあ……ついつい、からかいたくなるよなあ……」

ごめんね、と可愛く謝られると、それで俺も「酷いよ!」と思っていたことを忘れてしまって、「うん」と頷いてしまう。
こうやって二人でじゃれていると、やっぱり俺は葉月君のことが好きだ、って感じる。

まだ、最後まではしてない。今は葉月君との「絶対初めてちょうだいよ」と言う約束のために、ちょっとずつ準備をしているところだ、って勝手に俺は思っている。
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