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先着一名
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名前はとても大事なものだから、本当に好きになった相手にしか教えてはいけないのだと言われて育ってきた。
「なんで教えちゃダメなの? おれも、魔物や人間に名前を教えたい……」
魔族としての力はほとんど持たずにこの世界に生まれ、人間と似たような生活をするのが当たり前だったため、幼かった俺は両親からの教えにシクシクと泣いた。
「……誰かを好きになったら教えてもいいんだよ。名前を教えた相手とだけ永遠に結ばれる特別な力が、お前の名前には込めてあるからね」
「特別な力……! すっご……!」
「……ただし効果があるのは先着一名」
「先着一名……!? ますますスゴイな……!?」
聞けば、「魔族の中でも、特に魔王族は本当に尊いと思い、名前を教えた相手と、一度だけしか子供を作れないから」と両親は言う。「とうとい……?」とは思ったものの、俺に兄弟がいない理由がその時はじめてわかった。
……翌日、魔物達に「ねーねー、俺の名前には特別な力が込められてるんだよ! 知りたい?」と得意気に自慢する俺を見て、「これは危ない」と判断した両親は俺の頭の中から「自分の名前」についての記憶を封じ込めてしまった。両親は俺のことをあだ名で呼んだ。
そのため、いつか成長した俺自身が「側にいたい」と心の底から思える相手が現れるまで、俺は自分の名前を思い出すことが出来なくなってしまったのだ。
それから、長い長い年月が過ぎた。父の後を継いで魔族の王となり、魔物三十匹を養っている間も、たまに無鉄砲な子供が「お前が新しい魔王か! 勝負しろよ!」と家を訪ねて来た時も、そんな瞬間は訪れなかった。思えば、生まれたての、一角ウサギやスライムにミルクを与えたり、遊び疲れた人間の子供をおぶって家まで送ってやったりと、毎日忙しく過ごしていたのだから仕方がない。それなのに。
「……ねー、魔王さま、そろそろ本当の名前教えてよ」
「ひっ……」
……最近、一人の人間から名前を教えろと迫られている。ついこの間まで「魔王さま! 肩車してー」とせがんでくる小さな子供だったのに、あっという間に青年まで成長してしまって、しかも、しかも……!
「やめろっ! あっ……! ちょっと、触るんじゃない……!」
「外だと魔物が見てるからダメだって言ったのは魔王さまじゃん」
「う……、んんっ……!」
そろそろ魔物達におやつを配るか……とクッキーの缶を取りに戻った家の中で、後ろからベタベタと抱き付かれて、体のあちこちを触られる。「やめろ!」とはね除けようにも力が強くていつもいいようにされてしまう。……まだ彼が子供だった頃、組み合いや投げ合いで散々鍛えてやったのは他の誰でもない、俺自身なのだから、こうなってしまっているのは、しょうがない事なのだろうか。
「だ、だめ……、いやだっ……」
こめかみや耳に唇を寄せられながら、「魔王さま、お名前は……?」と何度も囁かれる。幼い子供に聞くような優しい言い方なのに、触れてくる唇や吐息は、熱い。くすぐったくて体の力が抜ける。
そのまま床にへたりこんでしまうと、体を支えるようにして、ぎゅっとさらに密着された。
「……魔王さまは強情だなー」
「う、うるさいっ……」
「……ねー、魔王さま、そろそろ名前を教えてよ」
愛し合う時はちゃんと名前で呼びたいから、と頬に口付けられて、もう一度だけ強く抱き締められる。「はい」か「いいえ」のちゃんとした返事はしなかった。というか出来なかった。
「あ、愛し合う……!?」
「あれ、想像しちゃった? はは、魔王さま、オロオロしすぎ」
みんなに変だって思われちゃうよ、俺が先に戻ってるね、とクッキーの缶は取り上げられてしまった。……「魔王さま、愛し合う時は俺のことも、モモっていっぱい呼んでね」という言葉を添えられて。
「あ、愛し合うって、アイツ……。えっ? ええっ……」
子供のくせに生意気だ、という言葉は通用しないくらい、彼……モモは大人になってしまっているし、それに……困ったことに長いこと封印されていた自分の名前を俺は最近思い出せそうなのだ。
◆
両親からは俺の何代も前の魔族の王と人間との激しい争いの歴史を何度も聞かされて育った。一度、両者ともに滅びる寸前まで世界は荒れ果て、その後、何代にも渡って「争いは不毛だ」と魔族と人間は歩み寄ってきたらしい。
争いが無くなると、魔族はほとんど繁殖をしなくなった。魔族は人間と違い元々高い能力を持っているため、何度も進化を繰り返す必要が無いからだ。魔族がおとなしくなるのに合わせて魔物の数は減った。
今はほんのわずかな魔族が世界のあちこちでひっそりと静かに暮らしている。一応、名ばかりの「魔王」を継いだ俺の仕事は、残った魔物三十匹の世話だ。
人を襲わなくなった代わりに最近の魔物はとにかくだらしがない。たるんでいる。教えないと餌だって取れないし、夜行性のくせに「暗くて怖い」と夜は何も出来ない個体もいる。
そういった連中に魔物としての道理を教えてやりながら、時々カジノに出稼ぎに行く。なにせ、魔物三十匹だ。餌代がかかって仕方がない。
カジノ内のスタジアムで時々魔物どうしを戦わせて生活費を稼ぐ。
魔物としての本能を持ち合わせているため、放っておくとすぐにケンカをしてしまうから、ガス抜きにちょうどいい。人間は賭け事が大好きらしく、いつも満員御礼だ。
とっくに億万長者になっていてもおかしくないほどの金額を手にしているはずなのに、 カジノで稼いだ分のほとんどは、魔物の好物のクッキーや干し肉やミルク代に消える。
だから、俺が持っているのは、気が遠くなるほど長い寿命とほんのわずかな魔力だけだ。魔力には限りがあるから大事に大事に使いなさい、と両親からよく言い聞かせられて育ったため、ほとんど魔力には手をつけずに生活している。
時々、「ふふ……、俺にはまだこんなに魔力が残ってる……。何に使おうか……。真夏に雪を降らせるのも悪くないし、錬金術とか言うものに挑戦するのも悪くないな……」とあれこれ想像するだけで愉快な気持ちになれる。
いつか魔力を全部継ぎこんで叶えたい俺の本当の夢は、魔物たちと暮らせる、魔物のための、魔物ランドを作ることだ。広大な敷地、魔物の大好物のクッキーを大量生産する工場、魔物アスレチック、ふかふかの寝床……。構想に長い時間をかけているものの、より良いものにしようと、練り直してばかりでなかなか決まらない。
だから、まだ誰にも教えたことのない名前と、三十匹の魔物の仲間達を大切にしながら細々と暮らしている。プルプルしてばかりのスライムから、気は優しくて力持ちのゴーレム、「危ないから」という理由でトライデントを取り上げたらフォークを持ち歩くようになったミニデビル等……。
魔物だけでも充分すぎるほど賑やかなのに、時々人間の子供が訪ねてくることがあった。
たいていは男の子供が、絵本で伝説の勇者と魔王の戦いを見ては、「俺と勝負しろ!」と挑んでくる。時々、女の子供が「魔族の王女にしなさい」とやってくることもあった。
こんな人里離れた場所までよくもまあ小さな体でたった一人で……と俺が感心していると、むこうも「あれ……? 魔王って、優しい……?」と不思議そうにする。
そんな時は一緒にクッキーを食べた後、泥だらけになるまで遊んだ。スライムを触らせてやると「プルプルだ!」と大喜びし、キメラを必死で追いかけ回す。遊び疲れた子供を背負って村まで送ってやると、たいていどの母親も「うちの子がすみません……!」とペコペコ頭を下げた。
金も無いし、きらびやかで華やかな生活からはほど遠いものの、平和に暮らしている。自分の名前を思い出したい、ということもすっかり忘れかけていた頃だった。
「魔王さま、久しぶり! 俺のこと覚えてるよね」
カジノからの帰り。家に入る前に「いいか? 普通にゴーレムが勝ち続けたらつまらないだろ? 勝負の中での番狂わせって言うのが、人の心を一番熱くするんだよ。わかるか?」と魔物達にクドクド説教をしている時だった。
知力の低いスライムやイエティには理解が出来なくても、ゴーレムやキメラはちゃんと説明さえすれば学習する。魔物達にいい餌をたべさせるために、もっともっとたくさんの人間を熱狂させないといけない。
取り込み中に何を……と後ろを振り返ると、知らない男が立っていた。
「……えーっと?」
久しぶり、と言うことは彼とは以前会ったことがあるのだろうけど、さっぱり思い出せなかった。柔らかそうな栗色の髪、目の色はヘーゼル。嬉しそうにニコニコしている。……わかったことはそのくらい。
時々、こういうことがある。かつての子供が大人になってから「魔王さま!」と訪ねてくるからだ。
長い寿命のために姿がほとんど変わらない俺と違って、 人間の子供はあっという間に成長する。大人になってから、「あそんでくれてありがとう」と干し肉を持って来てくれたり、その子供が「お父ちゃんに聞いてきました!」と遊びに来ることだってあった。
あんなに遊んでくれたのに思い出せないなんて……、と傷つけてしまうこともある。だから俺は、「あんまり立派な大人になっていてわからなかったよ」「逞しくて格好いい大人になったんだな」「綺麗になったんだな。ビックリしたよ」で切り抜ける。全部本当のことだし、これなら誰も傷つけない。
見たところ目の前の彼も、なかなかに格好よくて、愛嬌のある青年だった。せめて、名前を教えてくれれば……と思っている時だった。
「ギュピ!」
「ううー!」
「きゅっ! きゅ!」
魔物達が次々に鳴き始めた。皆、青年を見て大喜びしている。青年も「はは、みんなはちゃんと覚えてくれてたんだ」と嬉しそうにして、一角ウサギを抱き上げた。
「魔王さま、俺、モモだよ。覚えてるよね?」
「ああっ……! モモ……! お前、いつの間にこんなに大きくなったんだ!? ずいぶんかっこよくなったんだな……」
モモ、という名前をキッカケに、小さな子供が栗色の髪をピョコピョコ揺らして走り回る様子や、「魔王さま、大好き。魔王さま、きれい」と抱きついてきた時の石鹸の匂いが次々と思い出せた。
「魔王さま、俺、約束どおり立派な大人になったよ。一日も早く会いに来たくて……」
「大人の足でも人間にとっては遠かっただろ? ああ、嬉しいよ……! 家の中に入って! ……モモはまだ、クッキーは食べるのか?」
魔物達をねぐらの洞穴に帰してから、モモと二人で家の中に入る。
「えっ……」
「魔王さま、どうしたの?」
なんだか変だ。洞穴から家までのごく短い距離を、腰に腕を回されていちいちくっついて歩こうとするからだ。
「……なんでもない」
「へへ、魔王さまとくっつくのは久しぶりだ……」
本当は歩きにくいし、多少は驚いたけど、笑うと両頬にくっきりとエクボが出来る所は変わっていなくて、なんだかホッとしてしまう。
子供の頃、モモはとても甘えん坊で「手を繋いで」とよくせがんで来たし、遊び疲れてしまった日は、俺がモモをおぶって家まで連れて行くのが当たり前だった。
成長したモモは俺と背の高さはほとんど変わらない。さすがにもう背負って貰うわけにも行かないだろうから、そうしているんだろう、とあまり気にしないことにした。
◆
「お前が、魔王さまか! 水を汚す悪いやつ、やっつけてやる!」
そう言って、一人の子供が訪ねてきたことがあった。ずいぶん泥だらけで、左膝を派手に擦りむいていて、栗色の髪には葉っぱが付いている。
きっとそうとうな大冒険だったのだろうと、魔物達への「ねぐらを汚すな」という教育を中断して、子供を家の中へ連れて行った。
「お前、名前は? どこから来た?」
「……モモ」
モモはブスッとしていて疲れはてていた。かわいそうに、と傷の手当てをしてやってから、ミルクとクッキーを与えた。ジャムやチョコチップのクッキーばかりを好んで、同じ缶に入っているゴマやココナッツのクッキーにはほとんど手をつけないところが、いかにも子供らしかった。
「おいしい。……魔王さまもクッキーを食べるの」
「俺は時々……。クッキーは魔物の好物なんだ」
ミルクを二杯飲むと元気になったのか、モモはよく喋った。小さいわりに「そんな所から?」とビックリしてしまう程、遠い村からたった一人で歩いてやって来たのだと言う。
「エライなあ……。立派な冒険者だ」
「えへへ……」
頭を撫でてやるとよく笑った。モモは「自分の住んでいる村の側には、毒で汚染された川がある。それは、ずっと昔に魔王さまが毒を流したからだと聞いた」ということを一生懸命話した。
……確かに大昔、人間と魔族が争っていた頃は、そんなこともあったと聞く。解毒は出来ることは出来るが、魔族はそもそも回復魔法全般ととても相性が悪い。人を回復させれば魔力を全て失ってしまうと言われているくらいだ。川のような広範囲を解毒すれば魔力はすぐに空っぽになってしまうだろう。
「こんなに遠くまで来て貰ったのに悪いな。俺には君の川を綺麗にしてやれる力はほとんど残っていないんだ。モモ、君や君の住む村の皆には、不便な思いをさせてしまっているんだな……。ゴメンな」
俺に魔力がほとんど残っていないことも、俺が生まれた時にはすでに世界が平和だったことも話した。モモはパチパチと瞬きをした後、何度も頷いた。
「魔王さま、おれ、自分で解毒の魔法を覚えて、それで川を綺麗にするよ! そうしたら、もっと畑でいろいろな野菜を育てられるから! ……さっきは、失礼なことを言ってごめんなさい」
「……立派な冒険者なうえに、魔法まで覚えるのか。スゴイな」
「そうでしょう!」
その後は、一緒に魔物と遊んだり、魔物の住む洞穴の側にある森へ行って泉まで案内した。故郷の川が毒で汚染されているモモは「なんて綺麗な水だろう! 木の葉も、花もみんな綺麗……。綺麗な水の側では植物がよく育つんだね……!」と目を輝かせていた。
その日、モモを村まで送ってやってから、毒で汚れた川を覗いた。水の色は透明で、一見すると普通の川に見える。けれど、確かに禍々しい空気が感じられ、人間はとてもじゃないけど近付けないような場所だった。
解毒をしてやりたいけれど、そうすると同じように汚染されている他の村は不満に感じるだろう。「魔王さま、クッキーありがとう。また遊ぼうね」と何度も手を振っていたモモのことを思い出すと、遠い先祖のやったこととは言え、胸が痛んだ。
モモはその後も「遊ぼう」と何度もやって来た。何度か遊びに来る子供はいたが、モモ程長い期間、会いにやって来るのは珍しい。
この家へ向かうための道のりでずいぶん鍛えられているらしく、「俺は学校で一番足が早くて、体力もあるんだよ!」とモモはいつも自慢してきた。
魔物達もモモによくなついていて、言うことを聞かない時は「モモともう遊ばせない」と脅すと、効果はバツグンだった。
モモはどんどん体が大きくなっていくのに、いつまで経ってもやたら子供っぽい。声も低く変わって、体つきが男っぽくなっても、甘えん坊のままだった。
「一緒に昼寝がしたい」と言うから、二人でベッドに入れば「魔王さま大好き」とすり寄ってきては体に触ってくる。
「んっ……。こらっ、あまりくすぐったい触り方をするんじゃないっ」
「……魔王さま、ここ、くすぐったいの? じゃあ、ここは……?」
「やめろよっ……! 早く寝ろ!」
なぜ人間の男とほとんど同じ体つきをしている俺の胸や尻を触ってくるのだろう? と不思議で仕方がなかった。一度、急所を揉まれそうになった時は「卑怯者! 最近の人間はどうなってるんだ!」とキツく叱っておいた。
遊びも「俺を鍛えてください」という理由で、やたら組み合いを好む。いざ相手をしてやると、荒い息をしながら抱き着いてくるばかりで、勝ちたいのかそうじゃないのか、よくわからない。俺のことを押し倒した後も「うう……魔王さま……」としがみついてくるばかりだった。
「どうした、モモ。チャンスだぞ。俺をやるなら今だ」
「……別の意味に聞こえるからやめてよ」
「全く、最近の人間はだらしがない……」
えいっ、とはね除けた後に、今度は俺がモモの上に跨がった。
「……参ったか。実戦なら、お前、とっくにやられてるぞ。フフフ……」
「……うっ」
「えっ……!? 鼻血……!?」
いつの間にケガをしたんだと慌てたが、モモは顔を覆いながら「……大丈夫」とそっぽを向く。まだまだ子供っぽい部分もあるとは言え、泣かずに痛みをじっと堪えるなんてずいぶん成長したものだ……と誇らしく感じられた。
モモのいる生活は幸せだった。魔物達と同じように一緒に暮らせたら……と感じることもあったが、モモは人間の子供だ。
遠く離れて暮らす両親は「早く相手を見つけなさい」「まさか、本当に自分の名前を忘れてしまったのか!?」と焦っているようだったが、モモが大人になるまではこのままでいよう、と心に決めていた。
やがて、モモとの別れの時が訪れた。
モモは遠く離れた全寮制の寄宿学校に通うことになったのだ。そこへ通えば、魔法が使えるようになるのだと言う。「解毒魔法を覚えて、川の水を綺麗にする」というモモの幼い頃からの夢をいよいよ叶える時が近づいている。
……良いことなのに、モモがもうここへ来なくなることに対して、寂しい気持ちの方が大きかった。モモも、「行きたいけど、行きたくない。魔王さまと離れたくない」と沈んでいた。
「……あまり悲しい顔はするな。ようやく魔法の勉強が出来るんだから」
「はい……」
別れの抱擁、にしては長過ぎているかもしれない。それでも、離れがたくて、モモの体を抱き締めたまま、「元気でな、頑張れよ」と励まし続けた。暖かくて、逞しくて、触れあっているとうっとりしてしまう体だった。
……なんだか、ムズムズする。ずっと前に封印された名前が思い出せそうなのだ。
可愛がっていたモモが去っていくのが悲しくて、無意識に名前を教えて引き止めようとしているのだろうか? 何にせよ、こんな感覚は初めてで戸惑った。
必死で「いけない」と口を閉じた。
「ねえ、魔王さま。最後に魔王さまの名前を教えてよ」
「えっ……」
「魔王さまだって最初は魔王じゃなかったんでしょ? それまでは、なんて名前だったの?」
「それは……」
まだ誰にも教えたことのない俺の名前。このままモモにくっついていれば間違いなく思い出してしまう。でも、俺の名前には先着一名の特別な力がかかっているから、教えるわけにはいかない。……いつか人間と恋をするモモには。
「……実は、俺の名前は封印されていて、今は思い出せないんだ」
「えっ……そうなの」
モモが目を丸くする。とりあえず「思い出すにはまだ時間がかかりそうだ。だから、モモも魔法の勉強を頑張れ」と伝えてから慌てて体を離した。
「そっか……。じゃあ、俺が大人になる頃には教えてくれる? 俺、またここへ帰って来てもいい? その時は一緒に暮らせる?」
「……もちろん。俺はここで待ってる」
「……ありがとう」
きっと学校を卒業する頃には、モモにも恋人が出来て、俺のことを忘れてしまうだろう。
魔王さまの名前はきっと綺麗な名前なんだろうな。俺の名前はね、食べるのに困らないようにって理由で「モモ」なんだ。俺の姉さんや弟は「コムギ」「ライム」って言うんだよ。適当でしょ……。
そう言ってモモは笑ったが、俺には両親の願いが込められた立派な名前だと感じられた。
「じゃあ、さようなら……」
「うん……」
言いたいことはたくさんあるような気がしたけど、言えなかった。モモがやって来る前の生活に戻るだけだ、と下を向いた時だった。
「んっ……」
腕を思いきり引かれた後、気が付いたらモモに口付けられていた。今までじゃれ合っている時に軽く唇が触れ合ったことはあったけれど、こんなふうにぶつかるような勢いで唇を捕まえられたのは初めてだった。
「ん、ふ……」
熱い舌が、口の中に入ってくる。一度離れたと思ったら、また口付けられて、何度も音を立てて触れ合う。気持ちいい、もっと側にいたい、行かないで欲しい……と思った途端に、また全身がムズムズし始めた。
このままだと、名前を思い出してしまう、と必死で自分の太ももをつねった。
「それじゃあ、本当にさようなら……」
唇が離れて、それで、モモとは離ればなれになった。
◆
「……そ、それで、お前魔法は!? が、学校はちゃんと卒業したんだろうな……!?」
別れの日の出来事を思い出すと、どうしても動揺してしまう。しどろもどろになりながら質問すると、モモは「もちろん」と笑ってから肩を竦めた。
「でも、解毒魔法は難しくて……。川のような広範囲だと余計にね。まだまだ修行中」
「そ、そうか……」
「……エルフなら何か知ってるかなーと思ったんだけどさ、『毒? 毒つっても、種類はいろいろあるけど、当然成分は分析してきたんだろうな? 解毒の方法を考えるのはその後だろーが!』って門前払い」
「エルフは、おとなしそうに見えて気が強いからな」
「……そういう勉強も地道にやっていかないとね」
ニコッと笑うモモのエクボに見とれてしまっていることに気が付いて、慌てて「そうだ! ミルクのおかわりは?」と席を立った。
「……もう大人だから、ミルクはあまり飲まないか? ぶどう酒があったような、ええと……」
「ねー、魔王さま……」
「お……!?」
棚を漁っていると、いつの間にか、すぐ後ろにモモが立っていて、俺の体に腕を回してくる。
「会いたかった……」
「え? えっ?」
「立派になって、いつか魔王さまの所に帰るんだって、いつも思ってた。離れてる間も一日だって魔王さまを忘れたことなんかないよ」
「あっ……! モモっ……」
後ろから抱き締められたまま胸を揉まれる。子供の頃も体に触ってきた事はあったが、その時とは全然違う。大きな手がねっとりと這うように胸をしつこく撫でてくる。なんだかいやらしい、とモモに対してそう感じてしまうことに罪悪感を覚えた。
「ね、約束したよね? 名前も教えてくれるって……」
「だ、ダメだっ……!」
必死で首を横に振った。これから解毒の魔法を覚えて、過去の争いで荒れた地や汚染された水を元通りにするために、世界中のあちこちを巡るであろうモモを、俺の名前に込められた力で縛り付けてしまうわけにはいかない。
「あっ……! な、何を……!?」
それなのにじれったそうな手つきで、モモは俺の着ている服を捲り上げた。乳首をさらけ出されて、それだけでも恥ずかしいのに、モモの指の腹で両方ともいっぺんに摘ままれてしまう。
「いやだっ……! やめろよっ……!」
「魔王さま、こっち向いて……」
「んんっ、んーっ……」
唇に唇で触れられながら、乳首を刺激される。こんなことをされるのは初めてで、知らない感覚だった。これ以上はいけない、とわかっているのに、やめられない。
尻に硬いものが押し付けられる。モモが欲情しているのだ、と気付いてますますどうしたらいいかわからなくなった。
「だ、だめ……これ以上されたら……」
「魔王さま、お願い……大好きだよ、愛してる。だから、いいでしょ?」
フルフルと首を横に振って「ダメだ」と訴えると、ようやく体を解放して貰えた。
「……実は俺の名前には特別な力があって」
モモに俺の名前の持つ力について話した後、だから教えられない、と伝えた。……せっかく再会したのに怖がって逃げられてしまうかもしれない。残念だけど仕方のないことだと、俺は諦めていたのに、モモは目を輝かせた。
「名前を教えて貰った先着一名は魔王さまと、ずっと一緒にいられるってこと……!?」
「そう! だから、あまり俺にベタベタするな……。モモに触られると、体がムズムズして、……名前を思い出しそうになってしまう」
「本当……!?」
気味が悪いと嫌がられるどころか、「もうひと押しじゃん!」とモモは大喜びし始めた。
「おい! 俺の話を聞いてなかったのか!? 俺の名前を聞いたら、人間と結ばれることが出来なくなるんだぞ!」
「……それ、何かマズイの? 俺は魔王さまが好きなのに?」
「……いつまでも子供の頃みたいなことを言うなっ!」
「もう子供じゃないし……。ねえ、魔王さま。絶対俺に名前を教えたくなるようにしてあげるね。俺、頑張るからさ」
そうして、もう一度深く深く口づけられた。
モモは「一緒に暮らせるって約束した!」とこの家で生活するようになった。解毒魔法の勉強をしながら、魔法具を作る仕事をしていると言うから、こんな森の奥じゃ不便だろう、と言ったのに、毎日自転車で元気に出掛けていく。
魔物達も喜んでいるしまあいいか……、と思うことにした。
◆
モモが戻ってきたことで、また賑やかで幸福な毎日が戻ってきた。魔物の世話や教育も手伝ってくれるし、時間がある時は二人で泉の側で休んだり、解毒魔法について古書を漁ったりした。
モモと二人でいると、時々スライムが体当たりをしてきたり、ミニデビルがフォークでつついてきたりする。なぜか、キメラにいたっては「ニタア……」と意味深に笑っているし、ゴーレムは腕組みをして何度も頷く。
「なんだ、アイツ等……?」
「まあまあ……。みんなも、魔王さまのことが気になるんだよ」
「はあ……?」
わけがわからない部分もあるが、ずっと、こんな日が続けばいいと思う。その気持ちが膨れて、ついに俺は自分の名前を思い出してしまった。
「んっ、ああっ……」
「魔王さま、好きだよ……」
「俺、頑張るからさ」の宣言通り、モモは毎晩毎晩俺の寝床に潜り込んでは、体に触れて「好き、愛してる」と甘い言葉を囁いてくる。初めは接吻と、軽く胸や尻に触れる程度だったのが、いつの間にか服を脱がされたり、モモのぺニスを触らされたりと、どんどんレベルが上がっていく。
「魔王さま、魔王さまのと一緒に擦っちゃダメ……?」
「えっ……」
「少しだけ。お願い……」
困った。今まで、繁殖のための行為とは無縁の生活を送ってきたため、実はまだぺニスを誰にも触らせたことがないからだ。
モモは「いく」と言って、俺の体や手に白く濁った液体をかけるが、俺もああなってしまうのだろうか? わからない、どうすれば……と迷っているうちに、服を剥ぎ取られてしまった。
「魔王さまの体、綺麗だねー……」
「う、あっ……」
「ちょっとだけ……」
「お前、魔族の……ペ、ぺニスを触って気持ち悪くないのか……?」
「なんで? 大好きな相手と気持ちよくなれるって幸せじゃない……?」
「ああっ……!」
モモは大きな手で自分のと俺の、両方のぺニスをまとめて擦り始めた。キスも、胸を触られるのもモモが始めてだったけれど、これは今までとは次元が違う。すごく気持ちがよくて、擦られるたびに頭のてっぺんからつま先まで、ゾクゾクとした快感に包まれる。
「あっ、あっ、まって……あっ……!」
「気持ちいいの……?」
「な、んか、でる……! いやっ、いやだっ……」
体の奥から、何かがせり上がってくる感覚。抗うことも出来ないまま熱いものを一気にペニスから吐き出す瞬間、頭が真っ白になる。
初めての快感を知った時、俺は自分の名前を思い出した。
◆
モモにはまだ名前を思い出せた事は言っていない。本当に一緒にいてもいいんだろうか、という迷う気持ちがあるからだ。
穏やかな日々の中で、求められる喜びを知って、「俺は先着一名を、モモにあげたい」という自分の気持ちに気づいた頃、モモが倒れた。
「へへ……無理しすぎちゃった……」
弱々しく笑う頬には、エクボは無い。解毒魔法の習得は人間の体にとって負担が大きすぎたらしく、モモは高熱で寝込んでしまった。
毎晩寝ずに看病をしながら、日に日に弱っていくモモを見ていると潰れてしまいそうな程、胸が痛んだ。
「すごい汗だ……。服を着替えないと……」
「うん……。嫌な夢を見ちゃって……」
「夢?」
「……毒で汚れた川や土地はさ、全部が魔王の仕業じゃないって、俺、子供の頃は知らなかった。人間どうしの争いでそうなった場所もあるって……」
「そうか……」
「子供だった俺が魔王さまに何度も『失礼なことを言ってごめんなさい』って謝る、そういう夢……」
水を汚す悪いやつ、って言ってごめんね、とモモは目を潤ませた。
「……俺、解毒の魔法を覚えてあちこちの川や土地を浄化したいんだ。綺麗な水と緑の葉が生い茂る……そんな場所を増やしたい」
堪らなくなって、そっとモモの手を握った。高熱のせいでとても熱くて、握り返す力はほとんど残っていないようだった。
……その日の晩、モモが寝静まった頃に、俺は自分の魔力と寿命をモモへと分け与えた。解毒魔法の習得と、それに堪えられるような丈夫な体を、これでモモは手に入れた。
俺の寿命はかなり縮まったし、節約していた魔力はモモを回復させたことで、全て失ってしまった。モモがいない世界で長く生きていてもしょうがないし、魔力は「何に使おうかな~」と空想しているだけで満足出来るから構わない。
ただ……、魔物ランドを作ってやれないことだけが、唯一の心残りだ。モモに回復魔法を使う直前まで悩み、躊躇した。
「みんな、ごめんな……」
何度も書き直した設計図。一緒に出掛けた先で、魔物が喜ぶアスレチックがあれば必ずスケッチして参考にした。大好きな可愛い魔物達。
それでも、このままだとモモは死んでしまうかもしれない、と思うと迷っている暇はなかった。
だいぶ顔色がよくなり、熱がひいたモモの額にそっと口づける。
「……元気になったら、俺の名前を教えてやる」
そうしたらちゃんと愛し合おう、は恥ずかしくて言えなかった。あと、数日後には俺の名前をモモに呼んで貰える。なんだかむず痒いけど、幸せな気分だった。
◆
分け与えた物の効果は絶大で、モモはみるみるうちに回復していった。「なんだか今までよりもずっと覚えがいい」と魔法の勉強は順調なうえに、体力が余っているのか、ゴーレムやイエティとじゃれあってはゲラゲラ笑う。
モモが元気になって本当に良かった。きっと、良い解毒の方法を見つけて、困っている人間の力になれるだろう。モモなら解毒魔法をたくさんの人に教えてやることだって出来る。俺が一人で魔力を溜め込んでいるよりも、その方がずっと良い。
そうして、俺の方からようやく「名前を教えてやるから寝床に来い」とモモを誘った。
「本当に……? 嬉しい……」
「あ、あと、それと……。今夜は、俺のことを好きにしてもいい……。モモがしたいことを……」
不思議なことに名前を思い出してからは、「もっとモモに触って欲しい、触りたい」「気持ちよくなりたい」という欲求がとても強くなってしまった。俺もモモも男の体をしているから、繁殖は出来ないはずなのに、繁殖するための行為をしてみたい。
「どうして人間は、子供が出来ないように工夫をして、繁殖活動をするんだ……?」と長年疑問に感じていたことの答えがなんとなくわかった気がする。
「魔王さま……」
モモの手が俺の頬に添えられる。モモの手と、俺の顔、どちらもすごく熱い。
「俺……初めてなんだ。だから、上手く出来なかったらごめんなさい……」
「……なんだ。そんなこと。俺もそういった経験は無い。だから、気にするな」
「そうなの!? 魔王さまってすごく長く生きてるのに!?」
「……すごく長く生きてるけど、お前が初めてだ」
なにせ、愛し合いたい、名前を教えたい、と俺が感じて良いのは先着一名までだから仕方ない。名前を教えた相手と永遠に一緒にいられるのだから。
◆
「あっ……! あっ、あっ……」
モモは「魔王さまの何もかもが欲しい」のだと言う。だから、俺は何もかもを受け入れることにした。
胸を吸われるのも、ぺニスを舐められるのも、モモにされるのは大好きだ。だけど……尻の穴に指を入れられるのは少し苦手だと感じた。入ってくる時も出てくる時も、妙な気持ちになるうえに、モモの太い指でそこを拡げられていくのが少し怖い。
「魔王さま、愛してる」と何度も口づけながら、あやすように、力を抜いて、と囁くモモも少し不安そうだった。きっと、上手くやろうとか、そんなことを気にしているのかもしれない。
「魔王さま、痛い? 嫌……?」
「い、痛くないし、嫌じゃない……」
「……いい?」
「あっ……」
指を引き抜かれた後、尻の穴にモモのペニスが擦り付けられる。先端が熱く硬くなっていて、きっと俺に入れたいのだとわかった。
いくら人間に比べて丈夫な体をしているとは言え、こんなに大きくて硬いぺニスを挿入されるのは少し怖い。だけど、モジモジとしたまま俺からの返事を待つモモを見ていると、胸が締め付けられる。
「モモ……。大丈夫だ、それに俺もしてみたい……」
俺はモモよりもずっと長く生きているからな、体も丈夫だし……と思いながら、モモのために勇気を振り絞る。
生き物は四つん這いで交尾をするから、そうするのだろう、と思っていたのに「顔を見てしたいから」と、モモは仰向けに寝かせた俺の足を大きく開いた。
なんて屈辱的な体勢だろう、と不安で堪らなくなった。けれど、「魔王さま」とうっとりした声でモモから呼ばれると、そう嫌な格好だと思えなくなるから不思議だ。
「あっ……」
ほんの少し先の部分が入っただけで、指とは比べものにならない圧迫感があった。やっぱり怖い。でも、俺はモモよりも強い体をしているうえに分け与えて減ってしまったとはいえ、人間より長い寿命だって持っている。
「大丈夫……? 苦しい……?」
「だ、だいじょうぶ……上手だ……」
心配そうにしているモモを引き寄せて、子供の頃にしてやったように、ヨシヨシと頭を撫でた。大好きな、可愛いモモ。
奥まで少しずつ、少しずつモモのぺニスが入ってくる。苦しいけれど、一つになって、モモと結ばれるのを感じていた。
「モモ、俺の名前は……。ミズハ、って言うんだ……」
「ミズハ? 良い名前だ……。良かった。これでどこへ行っても、魔王さま……、ミズハの側に帰って来られる……」
魔族と人間との争いで荒れ果てた場所に、再び綺麗な水と豊かな緑の葉が生い茂るようにという、名前に込められた両親の願いをモモに抱かれているうちに思い出していた。
モモが解毒の魔法をたくさんの人に伝えればいつかはきっと叶う。
良かった、今日まで、モモのために先着一名を取っておいて良かった。
「んぅっ……。ああっ……!」
「ミズハっ……、好きだ、ずっと離さない……」
「あ、んっ……んっ、んんっ、やだ、だめ、でるぅ……」
パン、パンと激しく音が鳴るくらい腰を打ち付けられて、唇を乱暴に塞がれる。何度も気持ちに蓋をしてきたけれど、俺もずっとずっとモモが好きだった。
「魔族の中でも、特に魔王族は本当に尊いと思い、名前を教えた相手と、一度だけしか子供を作れないから」という、両親からの教えを思い出す。
同じ男の体をしているモモと結ばれたから、俺はもう自分の子供を作ることが出来ない。それでも構わなかった。
魔力を全て失ってでも、欲しいと思ったモモ。俺にとって何より大事なたった一人。
「ん、んんーっ……! んぅっ……!」
ぺニスを触られている時とは違う、じわじわとした快感で腰が痺れたようになる。また知らない感覚だ、と躊躇ったのは一瞬で、「ミズハ」と何度も名前を呼んでくれるモモに何もかもを委ねた。熱く硬いペニスを、引き抜いては一気に奥まで貫く、を繰り返されて、俺は全身を快感に包まれながら達してしまった。
◆
「……ねぐらを汚すなと何度も言ってるだろ! 次、俺に同じことを言わせたら、おやつのクッキーを禁止するからな!」
ぼす、とスライムが足に体当たりをしてくる。なんて反抗的な態度だろう。ぺちん、と叩いてもぷるぷるするだけで、全く反省する様子が見られない。
魔物達は相変わらずだらしがない。そのくせ食欲だけは旺盛だから、相変わらずカジノで稼いでも金はほとんど残らない。
カリカリしたまま家へ戻ると、つい最近、旅から帰ってきたモモが「おかえり」と微笑む。
「みんなのことを、いっぱい怒鳴ってきたって顔してる」
「……ねぐらに、バナナの皮だとか、チーズの包み紙を溜め込むんだ。薄汚れた魔物をカジノに連れて行くわけにはいかないって言うのに、まったく……」
「よしよし……」
モモが子供だった頃、俺がそうしてやったように頭を撫でられる。遥か遠い国の沼地や川の毒を取り除くためにモモは長い間冒険の旅に出ていた。「しっかりやって来たんだろうな? そうじゃなきゃ家には入れないからな」とモモには言っていたが本当は帰って来るのがとても待ち遠しかった。
「モモ……」
「……ベッド行く?」
黙って頷いた。モモは近いうちにまた冒険へと出発しないといけない。モモが家にいる間は不在の時間を埋めるように、きっと何度でも抱き合ってしまうだろう。
時々、モモとは喧嘩もする。
モモはよく「こうやって愛し合うのは普通のことだ」と言って、俺に恥ずかしいことを教えるからだ。あとで調べてみたら、普通どころか玄人向けの行為だったということがわかり「何が普通だ!」と叱っても「可愛いなー……」とモモは締まりのない顔でデレデレするばかり。
怒らないで、とニコッと笑いかけられると、モモの両頬には相変わらずエクボが出来る。それがとても可愛いから、結局俺は「まあ、いいか。俺の大事な先着一名だし」と何でも許してしまうのだった。
「なんで教えちゃダメなの? おれも、魔物や人間に名前を教えたい……」
魔族としての力はほとんど持たずにこの世界に生まれ、人間と似たような生活をするのが当たり前だったため、幼かった俺は両親からの教えにシクシクと泣いた。
「……誰かを好きになったら教えてもいいんだよ。名前を教えた相手とだけ永遠に結ばれる特別な力が、お前の名前には込めてあるからね」
「特別な力……! すっご……!」
「……ただし効果があるのは先着一名」
「先着一名……!? ますますスゴイな……!?」
聞けば、「魔族の中でも、特に魔王族は本当に尊いと思い、名前を教えた相手と、一度だけしか子供を作れないから」と両親は言う。「とうとい……?」とは思ったものの、俺に兄弟がいない理由がその時はじめてわかった。
……翌日、魔物達に「ねーねー、俺の名前には特別な力が込められてるんだよ! 知りたい?」と得意気に自慢する俺を見て、「これは危ない」と判断した両親は俺の頭の中から「自分の名前」についての記憶を封じ込めてしまった。両親は俺のことをあだ名で呼んだ。
そのため、いつか成長した俺自身が「側にいたい」と心の底から思える相手が現れるまで、俺は自分の名前を思い出すことが出来なくなってしまったのだ。
それから、長い長い年月が過ぎた。父の後を継いで魔族の王となり、魔物三十匹を養っている間も、たまに無鉄砲な子供が「お前が新しい魔王か! 勝負しろよ!」と家を訪ねて来た時も、そんな瞬間は訪れなかった。思えば、生まれたての、一角ウサギやスライムにミルクを与えたり、遊び疲れた人間の子供をおぶって家まで送ってやったりと、毎日忙しく過ごしていたのだから仕方がない。それなのに。
「……ねー、魔王さま、そろそろ本当の名前教えてよ」
「ひっ……」
……最近、一人の人間から名前を教えろと迫られている。ついこの間まで「魔王さま! 肩車してー」とせがんでくる小さな子供だったのに、あっという間に青年まで成長してしまって、しかも、しかも……!
「やめろっ! あっ……! ちょっと、触るんじゃない……!」
「外だと魔物が見てるからダメだって言ったのは魔王さまじゃん」
「う……、んんっ……!」
そろそろ魔物達におやつを配るか……とクッキーの缶を取りに戻った家の中で、後ろからベタベタと抱き付かれて、体のあちこちを触られる。「やめろ!」とはね除けようにも力が強くていつもいいようにされてしまう。……まだ彼が子供だった頃、組み合いや投げ合いで散々鍛えてやったのは他の誰でもない、俺自身なのだから、こうなってしまっているのは、しょうがない事なのだろうか。
「だ、だめ……、いやだっ……」
こめかみや耳に唇を寄せられながら、「魔王さま、お名前は……?」と何度も囁かれる。幼い子供に聞くような優しい言い方なのに、触れてくる唇や吐息は、熱い。くすぐったくて体の力が抜ける。
そのまま床にへたりこんでしまうと、体を支えるようにして、ぎゅっとさらに密着された。
「……魔王さまは強情だなー」
「う、うるさいっ……」
「……ねー、魔王さま、そろそろ名前を教えてよ」
愛し合う時はちゃんと名前で呼びたいから、と頬に口付けられて、もう一度だけ強く抱き締められる。「はい」か「いいえ」のちゃんとした返事はしなかった。というか出来なかった。
「あ、愛し合う……!?」
「あれ、想像しちゃった? はは、魔王さま、オロオロしすぎ」
みんなに変だって思われちゃうよ、俺が先に戻ってるね、とクッキーの缶は取り上げられてしまった。……「魔王さま、愛し合う時は俺のことも、モモっていっぱい呼んでね」という言葉を添えられて。
「あ、愛し合うって、アイツ……。えっ? ええっ……」
子供のくせに生意気だ、という言葉は通用しないくらい、彼……モモは大人になってしまっているし、それに……困ったことに長いこと封印されていた自分の名前を俺は最近思い出せそうなのだ。
◆
両親からは俺の何代も前の魔族の王と人間との激しい争いの歴史を何度も聞かされて育った。一度、両者ともに滅びる寸前まで世界は荒れ果て、その後、何代にも渡って「争いは不毛だ」と魔族と人間は歩み寄ってきたらしい。
争いが無くなると、魔族はほとんど繁殖をしなくなった。魔族は人間と違い元々高い能力を持っているため、何度も進化を繰り返す必要が無いからだ。魔族がおとなしくなるのに合わせて魔物の数は減った。
今はほんのわずかな魔族が世界のあちこちでひっそりと静かに暮らしている。一応、名ばかりの「魔王」を継いだ俺の仕事は、残った魔物三十匹の世話だ。
人を襲わなくなった代わりに最近の魔物はとにかくだらしがない。たるんでいる。教えないと餌だって取れないし、夜行性のくせに「暗くて怖い」と夜は何も出来ない個体もいる。
そういった連中に魔物としての道理を教えてやりながら、時々カジノに出稼ぎに行く。なにせ、魔物三十匹だ。餌代がかかって仕方がない。
カジノ内のスタジアムで時々魔物どうしを戦わせて生活費を稼ぐ。
魔物としての本能を持ち合わせているため、放っておくとすぐにケンカをしてしまうから、ガス抜きにちょうどいい。人間は賭け事が大好きらしく、いつも満員御礼だ。
とっくに億万長者になっていてもおかしくないほどの金額を手にしているはずなのに、 カジノで稼いだ分のほとんどは、魔物の好物のクッキーや干し肉やミルク代に消える。
だから、俺が持っているのは、気が遠くなるほど長い寿命とほんのわずかな魔力だけだ。魔力には限りがあるから大事に大事に使いなさい、と両親からよく言い聞かせられて育ったため、ほとんど魔力には手をつけずに生活している。
時々、「ふふ……、俺にはまだこんなに魔力が残ってる……。何に使おうか……。真夏に雪を降らせるのも悪くないし、錬金術とか言うものに挑戦するのも悪くないな……」とあれこれ想像するだけで愉快な気持ちになれる。
いつか魔力を全部継ぎこんで叶えたい俺の本当の夢は、魔物たちと暮らせる、魔物のための、魔物ランドを作ることだ。広大な敷地、魔物の大好物のクッキーを大量生産する工場、魔物アスレチック、ふかふかの寝床……。構想に長い時間をかけているものの、より良いものにしようと、練り直してばかりでなかなか決まらない。
だから、まだ誰にも教えたことのない名前と、三十匹の魔物の仲間達を大切にしながら細々と暮らしている。プルプルしてばかりのスライムから、気は優しくて力持ちのゴーレム、「危ないから」という理由でトライデントを取り上げたらフォークを持ち歩くようになったミニデビル等……。
魔物だけでも充分すぎるほど賑やかなのに、時々人間の子供が訪ねてくることがあった。
たいていは男の子供が、絵本で伝説の勇者と魔王の戦いを見ては、「俺と勝負しろ!」と挑んでくる。時々、女の子供が「魔族の王女にしなさい」とやってくることもあった。
こんな人里離れた場所までよくもまあ小さな体でたった一人で……と俺が感心していると、むこうも「あれ……? 魔王って、優しい……?」と不思議そうにする。
そんな時は一緒にクッキーを食べた後、泥だらけになるまで遊んだ。スライムを触らせてやると「プルプルだ!」と大喜びし、キメラを必死で追いかけ回す。遊び疲れた子供を背負って村まで送ってやると、たいていどの母親も「うちの子がすみません……!」とペコペコ頭を下げた。
金も無いし、きらびやかで華やかな生活からはほど遠いものの、平和に暮らしている。自分の名前を思い出したい、ということもすっかり忘れかけていた頃だった。
「魔王さま、久しぶり! 俺のこと覚えてるよね」
カジノからの帰り。家に入る前に「いいか? 普通にゴーレムが勝ち続けたらつまらないだろ? 勝負の中での番狂わせって言うのが、人の心を一番熱くするんだよ。わかるか?」と魔物達にクドクド説教をしている時だった。
知力の低いスライムやイエティには理解が出来なくても、ゴーレムやキメラはちゃんと説明さえすれば学習する。魔物達にいい餌をたべさせるために、もっともっとたくさんの人間を熱狂させないといけない。
取り込み中に何を……と後ろを振り返ると、知らない男が立っていた。
「……えーっと?」
久しぶり、と言うことは彼とは以前会ったことがあるのだろうけど、さっぱり思い出せなかった。柔らかそうな栗色の髪、目の色はヘーゼル。嬉しそうにニコニコしている。……わかったことはそのくらい。
時々、こういうことがある。かつての子供が大人になってから「魔王さま!」と訪ねてくるからだ。
長い寿命のために姿がほとんど変わらない俺と違って、 人間の子供はあっという間に成長する。大人になってから、「あそんでくれてありがとう」と干し肉を持って来てくれたり、その子供が「お父ちゃんに聞いてきました!」と遊びに来ることだってあった。
あんなに遊んでくれたのに思い出せないなんて……、と傷つけてしまうこともある。だから俺は、「あんまり立派な大人になっていてわからなかったよ」「逞しくて格好いい大人になったんだな」「綺麗になったんだな。ビックリしたよ」で切り抜ける。全部本当のことだし、これなら誰も傷つけない。
見たところ目の前の彼も、なかなかに格好よくて、愛嬌のある青年だった。せめて、名前を教えてくれれば……と思っている時だった。
「ギュピ!」
「ううー!」
「きゅっ! きゅ!」
魔物達が次々に鳴き始めた。皆、青年を見て大喜びしている。青年も「はは、みんなはちゃんと覚えてくれてたんだ」と嬉しそうにして、一角ウサギを抱き上げた。
「魔王さま、俺、モモだよ。覚えてるよね?」
「ああっ……! モモ……! お前、いつの間にこんなに大きくなったんだ!? ずいぶんかっこよくなったんだな……」
モモ、という名前をキッカケに、小さな子供が栗色の髪をピョコピョコ揺らして走り回る様子や、「魔王さま、大好き。魔王さま、きれい」と抱きついてきた時の石鹸の匂いが次々と思い出せた。
「魔王さま、俺、約束どおり立派な大人になったよ。一日も早く会いに来たくて……」
「大人の足でも人間にとっては遠かっただろ? ああ、嬉しいよ……! 家の中に入って! ……モモはまだ、クッキーは食べるのか?」
魔物達をねぐらの洞穴に帰してから、モモと二人で家の中に入る。
「えっ……」
「魔王さま、どうしたの?」
なんだか変だ。洞穴から家までのごく短い距離を、腰に腕を回されていちいちくっついて歩こうとするからだ。
「……なんでもない」
「へへ、魔王さまとくっつくのは久しぶりだ……」
本当は歩きにくいし、多少は驚いたけど、笑うと両頬にくっきりとエクボが出来る所は変わっていなくて、なんだかホッとしてしまう。
子供の頃、モモはとても甘えん坊で「手を繋いで」とよくせがんで来たし、遊び疲れてしまった日は、俺がモモをおぶって家まで連れて行くのが当たり前だった。
成長したモモは俺と背の高さはほとんど変わらない。さすがにもう背負って貰うわけにも行かないだろうから、そうしているんだろう、とあまり気にしないことにした。
◆
「お前が、魔王さまか! 水を汚す悪いやつ、やっつけてやる!」
そう言って、一人の子供が訪ねてきたことがあった。ずいぶん泥だらけで、左膝を派手に擦りむいていて、栗色の髪には葉っぱが付いている。
きっとそうとうな大冒険だったのだろうと、魔物達への「ねぐらを汚すな」という教育を中断して、子供を家の中へ連れて行った。
「お前、名前は? どこから来た?」
「……モモ」
モモはブスッとしていて疲れはてていた。かわいそうに、と傷の手当てをしてやってから、ミルクとクッキーを与えた。ジャムやチョコチップのクッキーばかりを好んで、同じ缶に入っているゴマやココナッツのクッキーにはほとんど手をつけないところが、いかにも子供らしかった。
「おいしい。……魔王さまもクッキーを食べるの」
「俺は時々……。クッキーは魔物の好物なんだ」
ミルクを二杯飲むと元気になったのか、モモはよく喋った。小さいわりに「そんな所から?」とビックリしてしまう程、遠い村からたった一人で歩いてやって来たのだと言う。
「エライなあ……。立派な冒険者だ」
「えへへ……」
頭を撫でてやるとよく笑った。モモは「自分の住んでいる村の側には、毒で汚染された川がある。それは、ずっと昔に魔王さまが毒を流したからだと聞いた」ということを一生懸命話した。
……確かに大昔、人間と魔族が争っていた頃は、そんなこともあったと聞く。解毒は出来ることは出来るが、魔族はそもそも回復魔法全般ととても相性が悪い。人を回復させれば魔力を全て失ってしまうと言われているくらいだ。川のような広範囲を解毒すれば魔力はすぐに空っぽになってしまうだろう。
「こんなに遠くまで来て貰ったのに悪いな。俺には君の川を綺麗にしてやれる力はほとんど残っていないんだ。モモ、君や君の住む村の皆には、不便な思いをさせてしまっているんだな……。ゴメンな」
俺に魔力がほとんど残っていないことも、俺が生まれた時にはすでに世界が平和だったことも話した。モモはパチパチと瞬きをした後、何度も頷いた。
「魔王さま、おれ、自分で解毒の魔法を覚えて、それで川を綺麗にするよ! そうしたら、もっと畑でいろいろな野菜を育てられるから! ……さっきは、失礼なことを言ってごめんなさい」
「……立派な冒険者なうえに、魔法まで覚えるのか。スゴイな」
「そうでしょう!」
その後は、一緒に魔物と遊んだり、魔物の住む洞穴の側にある森へ行って泉まで案内した。故郷の川が毒で汚染されているモモは「なんて綺麗な水だろう! 木の葉も、花もみんな綺麗……。綺麗な水の側では植物がよく育つんだね……!」と目を輝かせていた。
その日、モモを村まで送ってやってから、毒で汚れた川を覗いた。水の色は透明で、一見すると普通の川に見える。けれど、確かに禍々しい空気が感じられ、人間はとてもじゃないけど近付けないような場所だった。
解毒をしてやりたいけれど、そうすると同じように汚染されている他の村は不満に感じるだろう。「魔王さま、クッキーありがとう。また遊ぼうね」と何度も手を振っていたモモのことを思い出すと、遠い先祖のやったこととは言え、胸が痛んだ。
モモはその後も「遊ぼう」と何度もやって来た。何度か遊びに来る子供はいたが、モモ程長い期間、会いにやって来るのは珍しい。
この家へ向かうための道のりでずいぶん鍛えられているらしく、「俺は学校で一番足が早くて、体力もあるんだよ!」とモモはいつも自慢してきた。
魔物達もモモによくなついていて、言うことを聞かない時は「モモともう遊ばせない」と脅すと、効果はバツグンだった。
モモはどんどん体が大きくなっていくのに、いつまで経ってもやたら子供っぽい。声も低く変わって、体つきが男っぽくなっても、甘えん坊のままだった。
「一緒に昼寝がしたい」と言うから、二人でベッドに入れば「魔王さま大好き」とすり寄ってきては体に触ってくる。
「んっ……。こらっ、あまりくすぐったい触り方をするんじゃないっ」
「……魔王さま、ここ、くすぐったいの? じゃあ、ここは……?」
「やめろよっ……! 早く寝ろ!」
なぜ人間の男とほとんど同じ体つきをしている俺の胸や尻を触ってくるのだろう? と不思議で仕方がなかった。一度、急所を揉まれそうになった時は「卑怯者! 最近の人間はどうなってるんだ!」とキツく叱っておいた。
遊びも「俺を鍛えてください」という理由で、やたら組み合いを好む。いざ相手をしてやると、荒い息をしながら抱き着いてくるばかりで、勝ちたいのかそうじゃないのか、よくわからない。俺のことを押し倒した後も「うう……魔王さま……」としがみついてくるばかりだった。
「どうした、モモ。チャンスだぞ。俺をやるなら今だ」
「……別の意味に聞こえるからやめてよ」
「全く、最近の人間はだらしがない……」
えいっ、とはね除けた後に、今度は俺がモモの上に跨がった。
「……参ったか。実戦なら、お前、とっくにやられてるぞ。フフフ……」
「……うっ」
「えっ……!? 鼻血……!?」
いつの間にケガをしたんだと慌てたが、モモは顔を覆いながら「……大丈夫」とそっぽを向く。まだまだ子供っぽい部分もあるとは言え、泣かずに痛みをじっと堪えるなんてずいぶん成長したものだ……と誇らしく感じられた。
モモのいる生活は幸せだった。魔物達と同じように一緒に暮らせたら……と感じることもあったが、モモは人間の子供だ。
遠く離れて暮らす両親は「早く相手を見つけなさい」「まさか、本当に自分の名前を忘れてしまったのか!?」と焦っているようだったが、モモが大人になるまではこのままでいよう、と心に決めていた。
やがて、モモとの別れの時が訪れた。
モモは遠く離れた全寮制の寄宿学校に通うことになったのだ。そこへ通えば、魔法が使えるようになるのだと言う。「解毒魔法を覚えて、川の水を綺麗にする」というモモの幼い頃からの夢をいよいよ叶える時が近づいている。
……良いことなのに、モモがもうここへ来なくなることに対して、寂しい気持ちの方が大きかった。モモも、「行きたいけど、行きたくない。魔王さまと離れたくない」と沈んでいた。
「……あまり悲しい顔はするな。ようやく魔法の勉強が出来るんだから」
「はい……」
別れの抱擁、にしては長過ぎているかもしれない。それでも、離れがたくて、モモの体を抱き締めたまま、「元気でな、頑張れよ」と励まし続けた。暖かくて、逞しくて、触れあっているとうっとりしてしまう体だった。
……なんだか、ムズムズする。ずっと前に封印された名前が思い出せそうなのだ。
可愛がっていたモモが去っていくのが悲しくて、無意識に名前を教えて引き止めようとしているのだろうか? 何にせよ、こんな感覚は初めてで戸惑った。
必死で「いけない」と口を閉じた。
「ねえ、魔王さま。最後に魔王さまの名前を教えてよ」
「えっ……」
「魔王さまだって最初は魔王じゃなかったんでしょ? それまでは、なんて名前だったの?」
「それは……」
まだ誰にも教えたことのない俺の名前。このままモモにくっついていれば間違いなく思い出してしまう。でも、俺の名前には先着一名の特別な力がかかっているから、教えるわけにはいかない。……いつか人間と恋をするモモには。
「……実は、俺の名前は封印されていて、今は思い出せないんだ」
「えっ……そうなの」
モモが目を丸くする。とりあえず「思い出すにはまだ時間がかかりそうだ。だから、モモも魔法の勉強を頑張れ」と伝えてから慌てて体を離した。
「そっか……。じゃあ、俺が大人になる頃には教えてくれる? 俺、またここへ帰って来てもいい? その時は一緒に暮らせる?」
「……もちろん。俺はここで待ってる」
「……ありがとう」
きっと学校を卒業する頃には、モモにも恋人が出来て、俺のことを忘れてしまうだろう。
魔王さまの名前はきっと綺麗な名前なんだろうな。俺の名前はね、食べるのに困らないようにって理由で「モモ」なんだ。俺の姉さんや弟は「コムギ」「ライム」って言うんだよ。適当でしょ……。
そう言ってモモは笑ったが、俺には両親の願いが込められた立派な名前だと感じられた。
「じゃあ、さようなら……」
「うん……」
言いたいことはたくさんあるような気がしたけど、言えなかった。モモがやって来る前の生活に戻るだけだ、と下を向いた時だった。
「んっ……」
腕を思いきり引かれた後、気が付いたらモモに口付けられていた。今までじゃれ合っている時に軽く唇が触れ合ったことはあったけれど、こんなふうにぶつかるような勢いで唇を捕まえられたのは初めてだった。
「ん、ふ……」
熱い舌が、口の中に入ってくる。一度離れたと思ったら、また口付けられて、何度も音を立てて触れ合う。気持ちいい、もっと側にいたい、行かないで欲しい……と思った途端に、また全身がムズムズし始めた。
このままだと、名前を思い出してしまう、と必死で自分の太ももをつねった。
「それじゃあ、本当にさようなら……」
唇が離れて、それで、モモとは離ればなれになった。
◆
「……そ、それで、お前魔法は!? が、学校はちゃんと卒業したんだろうな……!?」
別れの日の出来事を思い出すと、どうしても動揺してしまう。しどろもどろになりながら質問すると、モモは「もちろん」と笑ってから肩を竦めた。
「でも、解毒魔法は難しくて……。川のような広範囲だと余計にね。まだまだ修行中」
「そ、そうか……」
「……エルフなら何か知ってるかなーと思ったんだけどさ、『毒? 毒つっても、種類はいろいろあるけど、当然成分は分析してきたんだろうな? 解毒の方法を考えるのはその後だろーが!』って門前払い」
「エルフは、おとなしそうに見えて気が強いからな」
「……そういう勉強も地道にやっていかないとね」
ニコッと笑うモモのエクボに見とれてしまっていることに気が付いて、慌てて「そうだ! ミルクのおかわりは?」と席を立った。
「……もう大人だから、ミルクはあまり飲まないか? ぶどう酒があったような、ええと……」
「ねー、魔王さま……」
「お……!?」
棚を漁っていると、いつの間にか、すぐ後ろにモモが立っていて、俺の体に腕を回してくる。
「会いたかった……」
「え? えっ?」
「立派になって、いつか魔王さまの所に帰るんだって、いつも思ってた。離れてる間も一日だって魔王さまを忘れたことなんかないよ」
「あっ……! モモっ……」
後ろから抱き締められたまま胸を揉まれる。子供の頃も体に触ってきた事はあったが、その時とは全然違う。大きな手がねっとりと這うように胸をしつこく撫でてくる。なんだかいやらしい、とモモに対してそう感じてしまうことに罪悪感を覚えた。
「ね、約束したよね? 名前も教えてくれるって……」
「だ、ダメだっ……!」
必死で首を横に振った。これから解毒の魔法を覚えて、過去の争いで荒れた地や汚染された水を元通りにするために、世界中のあちこちを巡るであろうモモを、俺の名前に込められた力で縛り付けてしまうわけにはいかない。
「あっ……! な、何を……!?」
それなのにじれったそうな手つきで、モモは俺の着ている服を捲り上げた。乳首をさらけ出されて、それだけでも恥ずかしいのに、モモの指の腹で両方ともいっぺんに摘ままれてしまう。
「いやだっ……! やめろよっ……!」
「魔王さま、こっち向いて……」
「んんっ、んーっ……」
唇に唇で触れられながら、乳首を刺激される。こんなことをされるのは初めてで、知らない感覚だった。これ以上はいけない、とわかっているのに、やめられない。
尻に硬いものが押し付けられる。モモが欲情しているのだ、と気付いてますますどうしたらいいかわからなくなった。
「だ、だめ……これ以上されたら……」
「魔王さま、お願い……大好きだよ、愛してる。だから、いいでしょ?」
フルフルと首を横に振って「ダメだ」と訴えると、ようやく体を解放して貰えた。
「……実は俺の名前には特別な力があって」
モモに俺の名前の持つ力について話した後、だから教えられない、と伝えた。……せっかく再会したのに怖がって逃げられてしまうかもしれない。残念だけど仕方のないことだと、俺は諦めていたのに、モモは目を輝かせた。
「名前を教えて貰った先着一名は魔王さまと、ずっと一緒にいられるってこと……!?」
「そう! だから、あまり俺にベタベタするな……。モモに触られると、体がムズムズして、……名前を思い出しそうになってしまう」
「本当……!?」
気味が悪いと嫌がられるどころか、「もうひと押しじゃん!」とモモは大喜びし始めた。
「おい! 俺の話を聞いてなかったのか!? 俺の名前を聞いたら、人間と結ばれることが出来なくなるんだぞ!」
「……それ、何かマズイの? 俺は魔王さまが好きなのに?」
「……いつまでも子供の頃みたいなことを言うなっ!」
「もう子供じゃないし……。ねえ、魔王さま。絶対俺に名前を教えたくなるようにしてあげるね。俺、頑張るからさ」
そうして、もう一度深く深く口づけられた。
モモは「一緒に暮らせるって約束した!」とこの家で生活するようになった。解毒魔法の勉強をしながら、魔法具を作る仕事をしていると言うから、こんな森の奥じゃ不便だろう、と言ったのに、毎日自転車で元気に出掛けていく。
魔物達も喜んでいるしまあいいか……、と思うことにした。
◆
モモが戻ってきたことで、また賑やかで幸福な毎日が戻ってきた。魔物の世話や教育も手伝ってくれるし、時間がある時は二人で泉の側で休んだり、解毒魔法について古書を漁ったりした。
モモと二人でいると、時々スライムが体当たりをしてきたり、ミニデビルがフォークでつついてきたりする。なぜか、キメラにいたっては「ニタア……」と意味深に笑っているし、ゴーレムは腕組みをして何度も頷く。
「なんだ、アイツ等……?」
「まあまあ……。みんなも、魔王さまのことが気になるんだよ」
「はあ……?」
わけがわからない部分もあるが、ずっと、こんな日が続けばいいと思う。その気持ちが膨れて、ついに俺は自分の名前を思い出してしまった。
「んっ、ああっ……」
「魔王さま、好きだよ……」
「俺、頑張るからさ」の宣言通り、モモは毎晩毎晩俺の寝床に潜り込んでは、体に触れて「好き、愛してる」と甘い言葉を囁いてくる。初めは接吻と、軽く胸や尻に触れる程度だったのが、いつの間にか服を脱がされたり、モモのぺニスを触らされたりと、どんどんレベルが上がっていく。
「魔王さま、魔王さまのと一緒に擦っちゃダメ……?」
「えっ……」
「少しだけ。お願い……」
困った。今まで、繁殖のための行為とは無縁の生活を送ってきたため、実はまだぺニスを誰にも触らせたことがないからだ。
モモは「いく」と言って、俺の体や手に白く濁った液体をかけるが、俺もああなってしまうのだろうか? わからない、どうすれば……と迷っているうちに、服を剥ぎ取られてしまった。
「魔王さまの体、綺麗だねー……」
「う、あっ……」
「ちょっとだけ……」
「お前、魔族の……ペ、ぺニスを触って気持ち悪くないのか……?」
「なんで? 大好きな相手と気持ちよくなれるって幸せじゃない……?」
「ああっ……!」
モモは大きな手で自分のと俺の、両方のぺニスをまとめて擦り始めた。キスも、胸を触られるのもモモが始めてだったけれど、これは今までとは次元が違う。すごく気持ちがよくて、擦られるたびに頭のてっぺんからつま先まで、ゾクゾクとした快感に包まれる。
「あっ、あっ、まって……あっ……!」
「気持ちいいの……?」
「な、んか、でる……! いやっ、いやだっ……」
体の奥から、何かがせり上がってくる感覚。抗うことも出来ないまま熱いものを一気にペニスから吐き出す瞬間、頭が真っ白になる。
初めての快感を知った時、俺は自分の名前を思い出した。
◆
モモにはまだ名前を思い出せた事は言っていない。本当に一緒にいてもいいんだろうか、という迷う気持ちがあるからだ。
穏やかな日々の中で、求められる喜びを知って、「俺は先着一名を、モモにあげたい」という自分の気持ちに気づいた頃、モモが倒れた。
「へへ……無理しすぎちゃった……」
弱々しく笑う頬には、エクボは無い。解毒魔法の習得は人間の体にとって負担が大きすぎたらしく、モモは高熱で寝込んでしまった。
毎晩寝ずに看病をしながら、日に日に弱っていくモモを見ていると潰れてしまいそうな程、胸が痛んだ。
「すごい汗だ……。服を着替えないと……」
「うん……。嫌な夢を見ちゃって……」
「夢?」
「……毒で汚れた川や土地はさ、全部が魔王の仕業じゃないって、俺、子供の頃は知らなかった。人間どうしの争いでそうなった場所もあるって……」
「そうか……」
「子供だった俺が魔王さまに何度も『失礼なことを言ってごめんなさい』って謝る、そういう夢……」
水を汚す悪いやつ、って言ってごめんね、とモモは目を潤ませた。
「……俺、解毒の魔法を覚えてあちこちの川や土地を浄化したいんだ。綺麗な水と緑の葉が生い茂る……そんな場所を増やしたい」
堪らなくなって、そっとモモの手を握った。高熱のせいでとても熱くて、握り返す力はほとんど残っていないようだった。
……その日の晩、モモが寝静まった頃に、俺は自分の魔力と寿命をモモへと分け与えた。解毒魔法の習得と、それに堪えられるような丈夫な体を、これでモモは手に入れた。
俺の寿命はかなり縮まったし、節約していた魔力はモモを回復させたことで、全て失ってしまった。モモがいない世界で長く生きていてもしょうがないし、魔力は「何に使おうかな~」と空想しているだけで満足出来るから構わない。
ただ……、魔物ランドを作ってやれないことだけが、唯一の心残りだ。モモに回復魔法を使う直前まで悩み、躊躇した。
「みんな、ごめんな……」
何度も書き直した設計図。一緒に出掛けた先で、魔物が喜ぶアスレチックがあれば必ずスケッチして参考にした。大好きな可愛い魔物達。
それでも、このままだとモモは死んでしまうかもしれない、と思うと迷っている暇はなかった。
だいぶ顔色がよくなり、熱がひいたモモの額にそっと口づける。
「……元気になったら、俺の名前を教えてやる」
そうしたらちゃんと愛し合おう、は恥ずかしくて言えなかった。あと、数日後には俺の名前をモモに呼んで貰える。なんだかむず痒いけど、幸せな気分だった。
◆
分け与えた物の効果は絶大で、モモはみるみるうちに回復していった。「なんだか今までよりもずっと覚えがいい」と魔法の勉強は順調なうえに、体力が余っているのか、ゴーレムやイエティとじゃれあってはゲラゲラ笑う。
モモが元気になって本当に良かった。きっと、良い解毒の方法を見つけて、困っている人間の力になれるだろう。モモなら解毒魔法をたくさんの人に教えてやることだって出来る。俺が一人で魔力を溜め込んでいるよりも、その方がずっと良い。
そうして、俺の方からようやく「名前を教えてやるから寝床に来い」とモモを誘った。
「本当に……? 嬉しい……」
「あ、あと、それと……。今夜は、俺のことを好きにしてもいい……。モモがしたいことを……」
不思議なことに名前を思い出してからは、「もっとモモに触って欲しい、触りたい」「気持ちよくなりたい」という欲求がとても強くなってしまった。俺もモモも男の体をしているから、繁殖は出来ないはずなのに、繁殖するための行為をしてみたい。
「どうして人間は、子供が出来ないように工夫をして、繁殖活動をするんだ……?」と長年疑問に感じていたことの答えがなんとなくわかった気がする。
「魔王さま……」
モモの手が俺の頬に添えられる。モモの手と、俺の顔、どちらもすごく熱い。
「俺……初めてなんだ。だから、上手く出来なかったらごめんなさい……」
「……なんだ。そんなこと。俺もそういった経験は無い。だから、気にするな」
「そうなの!? 魔王さまってすごく長く生きてるのに!?」
「……すごく長く生きてるけど、お前が初めてだ」
なにせ、愛し合いたい、名前を教えたい、と俺が感じて良いのは先着一名までだから仕方ない。名前を教えた相手と永遠に一緒にいられるのだから。
◆
「あっ……! あっ、あっ……」
モモは「魔王さまの何もかもが欲しい」のだと言う。だから、俺は何もかもを受け入れることにした。
胸を吸われるのも、ぺニスを舐められるのも、モモにされるのは大好きだ。だけど……尻の穴に指を入れられるのは少し苦手だと感じた。入ってくる時も出てくる時も、妙な気持ちになるうえに、モモの太い指でそこを拡げられていくのが少し怖い。
「魔王さま、愛してる」と何度も口づけながら、あやすように、力を抜いて、と囁くモモも少し不安そうだった。きっと、上手くやろうとか、そんなことを気にしているのかもしれない。
「魔王さま、痛い? 嫌……?」
「い、痛くないし、嫌じゃない……」
「……いい?」
「あっ……」
指を引き抜かれた後、尻の穴にモモのペニスが擦り付けられる。先端が熱く硬くなっていて、きっと俺に入れたいのだとわかった。
いくら人間に比べて丈夫な体をしているとは言え、こんなに大きくて硬いぺニスを挿入されるのは少し怖い。だけど、モジモジとしたまま俺からの返事を待つモモを見ていると、胸が締め付けられる。
「モモ……。大丈夫だ、それに俺もしてみたい……」
俺はモモよりもずっと長く生きているからな、体も丈夫だし……と思いながら、モモのために勇気を振り絞る。
生き物は四つん這いで交尾をするから、そうするのだろう、と思っていたのに「顔を見てしたいから」と、モモは仰向けに寝かせた俺の足を大きく開いた。
なんて屈辱的な体勢だろう、と不安で堪らなくなった。けれど、「魔王さま」とうっとりした声でモモから呼ばれると、そう嫌な格好だと思えなくなるから不思議だ。
「あっ……」
ほんの少し先の部分が入っただけで、指とは比べものにならない圧迫感があった。やっぱり怖い。でも、俺はモモよりも強い体をしているうえに分け与えて減ってしまったとはいえ、人間より長い寿命だって持っている。
「大丈夫……? 苦しい……?」
「だ、だいじょうぶ……上手だ……」
心配そうにしているモモを引き寄せて、子供の頃にしてやったように、ヨシヨシと頭を撫でた。大好きな、可愛いモモ。
奥まで少しずつ、少しずつモモのぺニスが入ってくる。苦しいけれど、一つになって、モモと結ばれるのを感じていた。
「モモ、俺の名前は……。ミズハ、って言うんだ……」
「ミズハ? 良い名前だ……。良かった。これでどこへ行っても、魔王さま……、ミズハの側に帰って来られる……」
魔族と人間との争いで荒れ果てた場所に、再び綺麗な水と豊かな緑の葉が生い茂るようにという、名前に込められた両親の願いをモモに抱かれているうちに思い出していた。
モモが解毒の魔法をたくさんの人に伝えればいつかはきっと叶う。
良かった、今日まで、モモのために先着一名を取っておいて良かった。
「んぅっ……。ああっ……!」
「ミズハっ……、好きだ、ずっと離さない……」
「あ、んっ……んっ、んんっ、やだ、だめ、でるぅ……」
パン、パンと激しく音が鳴るくらい腰を打ち付けられて、唇を乱暴に塞がれる。何度も気持ちに蓋をしてきたけれど、俺もずっとずっとモモが好きだった。
「魔族の中でも、特に魔王族は本当に尊いと思い、名前を教えた相手と、一度だけしか子供を作れないから」という、両親からの教えを思い出す。
同じ男の体をしているモモと結ばれたから、俺はもう自分の子供を作ることが出来ない。それでも構わなかった。
魔力を全て失ってでも、欲しいと思ったモモ。俺にとって何より大事なたった一人。
「ん、んんーっ……! んぅっ……!」
ぺニスを触られている時とは違う、じわじわとした快感で腰が痺れたようになる。また知らない感覚だ、と躊躇ったのは一瞬で、「ミズハ」と何度も名前を呼んでくれるモモに何もかもを委ねた。熱く硬いペニスを、引き抜いては一気に奥まで貫く、を繰り返されて、俺は全身を快感に包まれながら達してしまった。
◆
「……ねぐらを汚すなと何度も言ってるだろ! 次、俺に同じことを言わせたら、おやつのクッキーを禁止するからな!」
ぼす、とスライムが足に体当たりをしてくる。なんて反抗的な態度だろう。ぺちん、と叩いてもぷるぷるするだけで、全く反省する様子が見られない。
魔物達は相変わらずだらしがない。そのくせ食欲だけは旺盛だから、相変わらずカジノで稼いでも金はほとんど残らない。
カリカリしたまま家へ戻ると、つい最近、旅から帰ってきたモモが「おかえり」と微笑む。
「みんなのことを、いっぱい怒鳴ってきたって顔してる」
「……ねぐらに、バナナの皮だとか、チーズの包み紙を溜め込むんだ。薄汚れた魔物をカジノに連れて行くわけにはいかないって言うのに、まったく……」
「よしよし……」
モモが子供だった頃、俺がそうしてやったように頭を撫でられる。遥か遠い国の沼地や川の毒を取り除くためにモモは長い間冒険の旅に出ていた。「しっかりやって来たんだろうな? そうじゃなきゃ家には入れないからな」とモモには言っていたが本当は帰って来るのがとても待ち遠しかった。
「モモ……」
「……ベッド行く?」
黙って頷いた。モモは近いうちにまた冒険へと出発しないといけない。モモが家にいる間は不在の時間を埋めるように、きっと何度でも抱き合ってしまうだろう。
時々、モモとは喧嘩もする。
モモはよく「こうやって愛し合うのは普通のことだ」と言って、俺に恥ずかしいことを教えるからだ。あとで調べてみたら、普通どころか玄人向けの行為だったということがわかり「何が普通だ!」と叱っても「可愛いなー……」とモモは締まりのない顔でデレデレするばかり。
怒らないで、とニコッと笑いかけられると、モモの両頬には相変わらずエクボが出来る。それがとても可愛いから、結局俺は「まあ、いいか。俺の大事な先着一名だし」と何でも許してしまうのだった。
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