お隣さんがエッチなお裾分けばかりしてくる

サトー

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ヒモパンツの日(3)

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 買い物に来たわけじゃない、ここは動物園だからお金を使う場所は限られているし……、とユウイチさん相手に油断をしていたのは完全に間違いだった。


 入場ゲートの前に設置された大きな地図を基に最も効率のよいルートを熟考するから入園チケットを買っておいて欲しい、とユウイチさんから言われた時はあまり深く考えずに「わかりました」と頷いた。

 休日のオープン直後、ということもあって俺の前にはすでに十人以上の人が並んでいるけど、それほど時間はかからないだろうし、一人で並ぶのだって苦じゃない。
 きっと、俺一人だったら適当に思い付いた方向へ進んで「ああっ……! ライオンとトラのコーナーを通りすぎちゃった……!」ということになってしまうだろうし、ユウイチさんは本当にスゴイなー、と感心していた。

「……じゃ、これでよろしく。お釣りは取っといて」
「へ……!?」

 しまった、と思った時には手に三万円を握らされていた。入園料は一人500円なのに、どういうこと!? と問い詰める前にユウイチさんは早足で逃げていってしまう。追いかけていってお金を返したいけれど、並んでいる行列から離れることも出来ない。
「罠だったんだ……! また騙されちゃったんだ!」と本当に悔しい気持ちでチケットを買ってから、真剣な顔で園内の地図を眺めているユウイチさんのことを捕まえた。 
 
「ユウイチさん! 俺で遊ぶのはやめてくださいよ! こんなお金受け取れません!」 
 
 一万円札二枚と、発券窓口で受け取ったお釣り全部の両方をユウイチさんに押し付けた。「あれ? 多かった?」ととぼけるユウイチさんは嬉しそうにニヤニヤしている。
 どうして絶対に叱られるとわかっていることをわざとやるんだろう。そして叱られているのに嬉しそうに出来るんだろう……と毎回毎回本当に意味がわからない。まだ一匹も動物を見ていないのにすでにどっと疲れていた。 
 
「……昨日、会社から帰る時にマナトにあげようと現金をたくさん引き出してきたのに残念だな……」 
「えっ!? そのお金持ってきちゃったんですか……!?」 
 
 うん、と頷くユウイチさんのパンツのポケットには薄い小さな財布が差し込まれている。 
 
「そんな……!? 盗まれたり落としたりしたらどうするんですか!?」 
 
 そんな事思いつきもしなかったのか、ユウイチさんは「そうだね」と言って肩を竦めるだけだった。
 ユウイチさんの言う「たくさん」は本当に「たくさん」だ。十万円とか二十万円くらい、平気で口座から引き出してきたに違いない。そんな大金を失くしてしまったら、と想像しただけでも怖い。
「俺が預かっておきます」と断ってから俺の背負っているリュックサックの一番底の方に隠しておくことにした。 
 
「……セキュリティ代金として財布の中の現金は」 
「いりませんっ! もう……」 
 
 ちゃんと怒ろうと思ったのに「セキュリティ代金」にちょっとだけ笑ってしまう。ユウイチさんもそれを見逃さずに「ニヤ」と嬉しそうにしている。自分でもちょっと面白いことを言ったと思っているんだろうか。そう考えるとますますおかしくて笑えてくる。ズルイ。これじゃあ、ユウイチさんのことを怒れなくなってしまう。 
 


「……お金はいらない」 
 
 動物を早く見に行こうよ、とユウイチさんを促す。効率のいいルートを考えてくれたユウイチさんの歩いていく方へ着いていけば間違いはないだろう。「小さい可愛い動物たくさんいるかな!?」と話しながら入園ゲートをくぐった。 
 
◆ 
 
 ユウイチさんと動物園でデートをするのは初めてだ。
 俺が最後に動物を見たのはいつだっけ、と記憶を遡ってみたら最初の彼女と遊びにいった時以来だから、すごく久しぶりに感じられた。
 弟と妹もずいぶん大きくなって、最近は遊びに連れて行こうにも「暑いから外は嫌」「たくさん歩くと疲れるんだもん」とワガママばかり言うから仕方がない。 
 
「ユウイチさんが最近動物園へ行ったのはいつですか?」 
「……ずーっと前。まだ学生だった頃だよ」 
「大学生の時?」 
 
 ユウイチさんがハッキリそう言ったわけじゃないけど、なんとなくデートで来たのかな? と思えた。「大学生だった頃のユウイチさん、かっこよかったんだろうな」と俺が呟くと、照れ臭かったのかユウイチさんは「まさか」と謙遜していた。 
 
「べつに、普通。どこにでもいるような感じの……。大学時代の写真を見ると、あの頃流行っていたファッションや髪型が古臭く感じて嫌になる」 
「えー? 絶対嘘だよー」 
「……マナト、見てごらん。ラクダがいるよ」 
 
 恥ずかしいのか話題をさらりとかわされてしまった。もっともっと恥ずかしいことを平気で口にするのに、やっぱりユウイチさんは変わっている。 

 ユウイチさんと一緒に歩きながらいろいろな動物を観察するのは楽しい。「可愛い!」「デッカイね!」とユウイチさんの方を見るとなぜか必ず目が合った。ユウイチさんもたまたま同じことを感じていたんだろうか。 
  
 新しい何かを発見するとすぐに駆け出してチョロチョロしてしまう俺と違って、ユウイチさんはどの動物を観察する時も、全部同じくらいの時間をかける。
 食べる物を探しているのかウロウロと歩き回るアリクイも、ケンカをしているニホンザルも、ただ寝ているだけのコアラも、巣穴に隠れて全然出てこようとしないキツネも、じーっと真剣な顔で眺めては時々頷いたり、「なるほど」と何かに納得したりする。

 そんなユウイチさんのペースに合わせるのはちっとも退屈なんかじゃない。こんなふうにゆったりした時間を過ごせるのは良い事だって思いながら、時々ユウイチさんの様子を窺った。 
 何も喋らないでいると、目の前の動物のことじゃなくて、どうしても側にいるユウイチさんの事を考えてしまう。 
 
 それで、この前、セックスが上手くいかなかった時の事を思い出した。 
  
 痛い、嫌だ、と思ったわけでもないのにどれだけ頑張ってもユウイチさんの……が、上手く入らなかった。先っぽが少しだけ入って来た瞬間「あれ……? なんだか変?」と感じて、不安になったような気がする。力を抜かなきゃ、でも力を抜くってどうやるんだっけ、と焦っているうちにどんどん全身が固くなって、その日は最後まで出来なかった。 
 

「こんな事をマナトに聞かせたら引かれるかもしれないけど……」 
 
 抱き合ったまま俺の性器を扱きながらユウイチさんはいろいろな事を話してくれた。ユウイチさんと触れ合うのが久しぶりだったからすぐにイキたくなくて必死で我慢していたから何を話していたか全部は思い出せない。
 セックスの時に俺の裸を見ると「本当に好きな人と愛しあっている」という実感が湧くとか、だから、最後まで出来なくても全然構わないとか、そんな事を言われたような気がする。 
 
 終わった後も、「疲れているとか、ちょっとした体の不調でセックスが上手くいかないのも普通のことだから」とユウイチさんは俺の事を優しく慰めてくれた。 

 付き合う前は「絶対挿入だけはダメだ」と思っていたし、付き合ってからもアナルセックスに慣れなくて「怖い、待って」とユウイチさんにはたくさん我慢をしてもらった。
 
 セックスすることに対して心と体が両方とも「ダメ」という状態で一致していたんだと思う。だけど、少しずつセックスに慣れていって両方とも「オーケー」になった。
 それが、心はオーケーでセックスがしたいと思っているのに体はそうじゃない、というちぐはぐな状態になってしまったことに、自分ではどうしたらいいのかわからずに戸惑っていたから、ユウイチさんの言葉にはずいぶん励まされた。 

 眠りにつく前のふわふわした状態でユウイチさんの話を聞いていると「良かった。セックスを嫌がっている、って思われたわけじゃないんだ」と安心出来た。そうして、落ち込んでいたのが嘘みたいに、いつの間にか熟睡してしまっていた。 
 
 今まで付き合っていた人とは、「したいな」とくっついて甘えているうちに、ごく自然な流れでセックスが出来ていたから本当に恥ずかしいことだけどあまり自分や相手の体の事なんて気にしたことが無かった。ユウイチさんに大切にされて、大事な事を俺は少しずつ覚えていくのかもしれない。 
 

 ユウイチさんには言っていないけど、確かにあの日は体の調子があまりよくなかった、ような気がする。
 ユウイチさんがいない間は「する事もないし、いいや」ってたくさんアルバイトのシフトを組んでいたし、「今日はユウイチさんから電話がかかってくるから」という理由で、お腹が空いているのに夕食はオニギリ一つ、という日もあった。
 ……たくさん無理をしていたのに、ユウイチさんが帰ってくる前日は工務店とピザ屋両方のシフトが入っていたのに、嬉しくてほとんど眠れていなかった。 
 

 きっと、この前はたまたま調子が悪かっただけだ。今日はちゃんと出来る、パンツだって持ってきたし……と思うと、なんだかソワソワして落ち着かない気持ちになる。
 朝から履いているビキニパンツだって、どうにも食い込みが気になって未だに慣れない。こんなふうに変に気負うとまた上手くいかなくなるかな……と一人でグルグル考えていると、ユウイチさんに「マナト」と腕をつつかれた。 
 
「わあっ!? な、なんですか?」 
「あと十分でゾウのエサやりが始まる」 
「あと十分でゾウのエサやり……」 

 そんな事も暗記したんですか、とビックリしている間に「ゾウを見た後は、ふれあいコーナーでマナトと小さい動物の写真を俺は撮らないといけない」とユウイチさんは続けた。 
 
「……俺の写真は撮らなくてもいいんです。ウサギとかヒヨコとか……ユウイチさんの好きな可愛い動物をたくさん写してください」 
「うん……? うん、大丈夫大丈夫。写真については全部俺に任せてくれればそれでいい」 
 
 もちろん、ユウイチさんの言う大丈夫は全然大丈夫じゃなかった。
 結局「ユウイチさん! 今なら絶対いい写真が撮れます!」とモルモットやハムスターを見てはしゃぐ俺の写真ばかり撮っていたからだ。
 せっかくヒマワリの種を頬張るリスや、ニンジンを齧るウサギを発見しては「少しでいいから、こっちを見てくれないかなー、ユウイチさんに写真を撮らせてあげて~!」と心で一生懸命念じていた自分が恥ずかしい。 
 
「世界で一番マナトを可愛く撮る事が出来る自分のカメラの腕が恐ろしい……。俺は天才なんだろうか……」 
「何を言ってるんですか……?」 
 
 撮影した写真を一緒に見ようよ、と誘われたけどもちろん断った。 
 
「可愛いな……」 
 
 わずかな時間で何百枚と撮影した写真を眺めながら、ユウイチさんがすごく優しい声でそう呟いた。
 いつもキリッとしているユウイチさんの表情が今はとても柔らかい。本当は「恥ずかしいから消してください」と言いたい。だけど、ユウイチさんが目を細めてすごく嬉しそうにしているから、言えなかった。 
 
◆ 
 
 そこまで暑い日ではなかったけれど、全部の動物を見終わる頃にはすっかり汗をかいてしまっていた。
 
 昼過ぎにフラフラと動物園を出た後は、近くにあるラーメン屋へ二人とも誘われるようにして入った。
 たくさん歩いて汗をかいたせいなのか、普段なら「しょっぱいなー」と感じてしまいそうな濃厚なスープのラーメンが妙に美味しく感じられる。
 普段、体のことに気を遣っていてお菓子やパンを「ほとんど食べない」と言うユウイチさんが、どろどろしたスープと太くて縮れた麺を行儀よく食べる姿はレアな光景だった。 
 


「……どうしよう、まだ全然時間があるね?」 
 
 お店を出た後、そう尋ねるとユウイチさんは「うん、良かった」とだけ答えた。
 ラブホテルに行ってセックスするのはまだ早いよね? という意味で聞いたのに、もしかしたら上手く伝わっていないのかもしれない。 

 ビキニパンツが、汗で湿っていて気持ちが悪い。早く履き替えたいから、本当はすぐにでもホテルへ行きたい。
 まだ夕方にもなっていないけどいいんだろうか、とモジモジしていたら「行こう」とユウイチさんはさっさとタクシーを捕まえてしまった。 

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