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★ヒモパンツの日(2)

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 マナトだって疲れているだろうと、始めは手のひらをぎゅっと握って中心や親指の下といった、押すと気持ちいい場所を探した。強すぎないように、時間をかけて、マナトの手のひらをゆっくり揉んだ。

「あー……気持ちいい……」

 仰向けに寝転んだままうっとりと目を閉じるマナトの体はくたりとしている。ちゃんとリラックスしてる、と可愛い顔を眺めていると時々パチリと目が開いて「気持ちいいです」とマナトは微笑んだ。

 たこがいくつも出来ていて、爪の先が黒く汚れてしまっているマナトの手。自動車整備士になるための実習だけでも大変だろうに、工務店とピザ屋、二ヶ所でのアルバイトを頑張って続けている。
 マナトのためにしてやれる事がもっとあればいいのに。そんな事を思いながら、腕から肩へと順番に擦ってやった。

「……一人でいる間は寂しかった?」 
「ん……、わかんない……。でも、早く会いたかった。会いに行ってビックリさせようかなって思ったけど、ユウイチさんが忙しいのを知ってたから我慢した……」 
「なんてことだ……」 

 いつも以上にふわふわとした喋り方のマナトから「会いたかった」と言われるのは想像以上の破壊力だった。

「ユウイチさん、ぎゅってして……」

 下着だけしか身に付けていないマナトへ覆い被さって体を密着させる。よく引き締まっている体はほかほかと温かい。可愛い、と頬や唇に口づけるとマナトも嬉しそうに応えてくれる。

「ん……ユウイチさん、好き……」
「……離れている間、毎日マナトを抱きたくて堪らなかったよ」

 耳に唇を寄せてゆっくりと囁くとマナトの体がビクリと反応する。電話越しのオナニーでも「エッチだね、可愛い」と言い聞かせると、マナトは「言わないで」と恥ずかしがりながら、とても感じているようだった。性器に触れる、といった直接的な刺激以外に対しても、敏感に反応してくれるのは嬉しい。
 可愛い可愛い、と伝えながら胸を揉むとマナトの小さな乳首が固くなっていく。離れている間、何度マナトの乳首を思い出して抜いたかわからない。ハリのある肌に覆われた硬い胸の質感を手のひらで味わった。

「あ……、気持ちいい……」
「……おっぱいをマッサージされるの好き?」
「う、んぅ……」

 自分の胸を「おっぱい」と呼ばれたことに嫌そうな顔をした後、マナトはふるふると小さく首を横に振った。

「可愛い……。オナニーの時はたくさん触っていたけど、おっぱい気持ち良かった?」
「いや、ユウイチさん言わないで……。いや、あっ……」

 自慰の時マナトは強い快感を求めて自分の乳首をずいぶん乱暴に摘まんだり押し潰したりする。普段は穏やかで優しいのに、そういう時だけはがさつで荒っぽくなってしまう所が「本当にこの子は性欲が強いんだな」と感動してしまう。
 顔を近付けてそっと片方の乳首を口に含むと、マナトが小さく声を漏らした。

「あっ……気持ちいいよ……」

 マナトの両腕に頭を抱かれる。小さな乳首が唇を掠めるだけでも幸せだった。マナトの胸に顔を押し付けながら、乳首を吸ってやると、ますます腕に込められる力が強くなる。おっぱいを気持ちよくされるのが本当に好きなんだな、可愛い……。そんなことを感じながら「もっと」と喘ぐマナトに応え続けた。

「気持ちいい? ……おっぱい吸われるの好き?」

 顔を上げて目を合わせると、頬を赤くしながらマナトはぼんやりした顔でこくりと頷いた。

「……おっぱい好き。自分では吸えないから、一人でしても全然物足りなかった……」
「やっぱり乳首用のローターを置いていけば良かった……」
「いや、やだあ……」

 ユウイチさんの舌と口じゃないと嫌、と可愛いことを言った後、マナトからはもっと先へ進むことをねだられた。

「入れてる時に、おっぱいもグリグリして……? 俺、ユウイチさんが帰ってくるのをずっと待ってた……」
「は……」

 目を潤ませながらそんなことを言われて、鼓動が早くなっているわけでもないのに、心臓の辺りがきゅーっと痛む。柔らかい唇を唇で塞ぎながら、無防備な体をキツく抱き締めた。「食べて?」と誘惑してくる体は手をつけない方が逆に失礼に決まっている。
 好きだよ、と深いキスを繰り返し、「いったいどこで探してくるんだろう?」と首を傾げたくなるようなフラワープリントの派手なパンツを脱がせる所までは、スムーズに事が進んでいった。体を重ねて思いきり愛し合えることに二人とも喜びを感じながら、お互いの性器を舐め合う。恋人の体を気持ちよくしてやれる大切な行為にたっぷりと時間をかけた後、マナトの体を丁寧にほぐした。

 

 けれど、それ以降はあまり上手くいかなかった。慎重に事を進め、何度かトライしてみたものの挿入する事が出来ず、結局マナトの望みを叶えてやれなかった。



 指を入れた時、特に嫌がったり痛がったりする様子は見られなかったし、周辺の筋肉も柔らかくほぐれていたため、大丈夫だろうと思っていた。ひくついている場所へ性器をあてがって何度か擦り付けると、マナトは「焦らしちゃダメ」と可愛くイヤイヤしていた。

「……マナトのここ、柔らかくて気持ちいいよ」
「あっ……、くすぐったい……」

 先端で触れただけでも、きゅうっとよく締まる時の感覚を思い出す。いい? と確認しなくてもオーケーだと感じられた。だから、マナトの膝を抱え上げるようにしてから、少しずつ腰を押し進めた。

「ん……?」

 いつもなら柔らかくて温かいマナトのナカへ入っていく時は「気持ちいい」と感じるはずなのに、今日はなんだか違っている。まず思ったのは「狭い、入らない」ということだった。ほんの先の部分だけなら入る。もしかしたら、こじ開けるようにして奥へ奥へと進もうとすれば上手くいくかもしれない。
 けれど、ハッキリとした理由はわからないが「今日はやめておいた方がいい」という直感が頭を過った。躊躇する気持ちもあったが、何か変だということに気がついたのか、息を詰めるようにして結合部を見つめるマナトに気が付いて、静かに性器を引き抜いた。

「変だ」と感じた何かについてどうしても正体を確かめたかったのか、「違うやり方なら、入るかも」とマナトはなかなか諦めようとしなかった。
 体位を変えてみようと四つん這いになったり、「ユウイチさんの上に俺が乗ったら、一気に入るんじゃないでしょうか!?」と恐ろしいことを言ってみたり。一度やると決めたからなのか「入れる」ということにずいぶん意地になっているようだった。

 もういいよ、と言えないまま「危ないよ」とマナトのことを宥めているうちに、ローションは乾き、お互いの性器も萎えてしまった。



「なんで……? どうしたんだろう……!?」

 がばっと体を起こした後、開脚した状態で自分の下半身をマナトは覗き込んだ。エッチな格好、ということに本人は全く気が付いていないらしい。じっと見ていると、視線を感じたのか「あっ……」と慌ててマナトは寝転んだ。そのまま体の左側を下にして居心地が悪そうにしている。

「……どうして今日は入らないんだろう? 痛くないし、ユウイチさんに早く来て欲しいって思っているのに……」

 すっかり焦ってしまっているマナトの側に寝そべって、「大丈夫だから」と抱き寄せる。

「ユウイチさん、俺、どうしよう……。……初めての時は入ったのに、出来なくなってしまったのかも……」
「……そういう日もあるよ」

 すまなさそうな顔でしょんぼりとしている様子を見ていると、いたたまれなくなって、布団をかけてマナトの体を包んだ。

 最後まで出来ない、ということがわかってそのまま中断、というのは味気ない気がしてお互いの性器を手で慰めあった。自分の手の中でむくむくと大きくなるマナトのペニスも、気持ち良さそうにしている真っ赤な顔も汗で濡れた背中も本当に可愛くて、何度言葉で伝えても足りないほどだった。
 


「今日入らなかったから、もうずっと入らないのかな……」
「……どうだろう」

 今までだって「今日は食べ過ぎた」「少し疲れている」そんな理由で、抜き合いで済ませた事は何度もある。けれど、「今日は最後までしたい」という気分でいる時に上手くいかなかったことでマナトはすっかり自信を無くしてしまっているらしかった。
 そんなマナトに「きっと次は入るから大丈夫だよ」と言うのは違うような気がする。けれど、気の利いた慰めの言葉はなかなか浮かばない。

「……その時の体調とか気分とか、ほんの些細な事がセックスに影響するのはいたって普通の事だと思うよ……。その……、この先もずっと二人でいるうちの、たまたま今日はそういう日だったと考えるのはどうだろう……?」

 普段元気がいっぱいであまり気にならないのかもしれないけど、心と体はとても繊細であること。だから、自分の思い通りにならない時があってもそれはちっとも珍しいことじゃない、とマナトには丁寧に説明をした。
 そうなのかな、とまだ少しだけ納得していない顔をしながらも、優しい心の持ち主であるマナトは「わかった」と素直に頷いてくれた。
 自分にとって、実は結構勇気を出して口にした一言だったためそれだけでホッとしてしまう。

 マナトには「何もかもを搾り取って欲しい」と伝えていて、本当にあげられるものは全てあげたいと思っている。搾り取られるだけ搾り取られて「それじゃあ、さよなら」と言われたとしても後悔が無いくらい、マナトのことを愛しているからだ。
 だから、マナトの負担にならないよう「ずっと側にいたい」という思いはなるべく隠すようにしている。こういった形でさらっと口にするだけでもずいぶん緊張するとは。


「うん、うん……。そうだよね。これからユウイチさんといっぱいセックスすると考えたら、こういう日もありますよね……」

 えへっと笑った後、ぴったりと張り付くようにして体を密着させながらマナトが上目遣いで見つめてくる。そんな事をされたらまた求めてしまいたくなるのに、相変わらず危機感が無い。……危機感があったらとっくに通報されているし、そもそも付き合ってもらえないか……と苦々しい気持ちでマナトがよく眠れるよう背中を擦ってやり過ごした。
 むにゃむにゃした声で、眠りにつく前のマナトが呟いた一言は「次のデートの約束、忘れないで」だった。


「……参ったな」

 デートの後はラブホテルではなくて、こっそりと予約したラグジュアリーホテルに宿泊するつもりだった。そんな所へ連れていったら「こんなに高い所へ連れてきてもらったのに、また最後まで出来なかったらどうしよう……!」とマナトがプレッシャーを感じてしまうだろうか。

 既にすーすーと規則正しい寝息をたてているマナトは深い眠りについている。この一ヶ月間いったいどんな生活をしていたのかはわからないが、そうとう疲れているようだった。
 以前、金を払って会ってもらっていた頃も、マナトは体調がよくないのに「前から約束をしていたから」という理由で無理をしていた事があった。今日だって本当は体がキツイのを隠してはしゃいでいたのかもしれない。
 最後まで出来なかったのは、疲れが溜まっていたのと、俺が余計な事を言って緊張させてしまったせいなのは間違いない。真面目なマナトを悩ませることになってしまい、罪悪感で胸が痛んだ。

 マナトのことを本当に大切に思っていて、何でもしてやりたいし、マナトが元気で側にいてくれれば、何もいらない。そんな気持ちが伝わるようにマナトの髪を撫でた。



 数日後、デートの約束の日。
「迎えに来ました!」といつも以上に張り切っているのか、予定していた時間よりもだいぶ早くマナトが家にやって来た。

「た、楽しみすぎて早く来ちゃった……」

 えへへ、とはにかむ姿に朝から癒される。「今日は泊まりなのでユウイチさんの荷造りを手伝いにきました」と張り切る姿に思わず笑みが溢れた。一泊するだけなのに荷造りとは、と思ったものの、促されるままマナトの背負っているリュックサックにシャツと下着と靴下の替えを詰めた。

「……すごいな、マナトは」
「へえ……? 準備が早いからですか?」

 今にも家を飛び出してしまいそうな程、ソワソワしている姿は「早く、早く。散歩に連れていって!」と足元をぐるぐる走り回る子犬を思わせる。
 一円も支払っていないのに、こんなに可愛い子が動物園でデートをしてくれるなんて未だに信じられない。年下の可愛い恋人に「行こ」と手を引かれ玄関に向かうだけでも、すでに「このままでは身が持たない」と足元が若干ふらつく。

「あの、ユウイチさん」
「ん……?」
「……俺、約束通りちゃんとエッチな下着も履いてきたんですけど……」
「……うん」
「紐みたいなパンツを今履いて汚したら、セックスの時にきっと嫌な思いをさせちゃうと思って……」

 だから今は前にユウイチさんから貰ったビキニを履いているんです、というマナトの声は消え入りそうな程か細く小さいのに、耳に流れ込んで来た瞬間に頭の中で何度も響き渡った。
 そんな情報を提供されたら、デート中ずっと「でも、今マナトはエッチな下着を履いているんだよな……」という目で見てしまうというのに。

「ちょっと、ちょっとだけ確かめさせてもらっても……?」
「えっ!?」
「大丈夫大丈夫。服の上から下着のラインを、確かめるだけだから」
「わあっ……! ユウイチさん待って、ここ、玄関……! 玄関だってば……!」

 むしろ玄関という狭い場所はマナトを捕まえておくのに好都合で、ぎゅうぎゅうになりながら、ボクサーパンツよりもずっと面積の少ないビキニパンツのラインを堪能した。
 本当はこの目で見て確かめたいところだが、あえて指先の感覚だけを頼りに、服越しにエッチな下着の存在を微かに感じるような玄人向けの楽しみ方も悪くない。何度かマナトの悲鳴が聞こえたような気もするが「大丈夫大丈夫」で宥めた。

「んっ、んぅ……、だめっ……」
「おっと、危ない」

 丸みのあるフォルムをしたスニーカーを履いた足元がおぼつかなくなり、マナトがもたれかかってくる。そろそろ行こうか、と解放するのが惜しいと感じてしまうほど、「ユウイチさんのバカ。変態」と腕の中で怒っているマナトは可愛かった。


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