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★ノーパンの日(※同人誌より)
しおりを挟むもうすぐ約束の二十二時になってしまう。
すごく頑張って家まで走って帰って来てから、大急ぎでシャワーを浴びた。そのまま電話がかかってくるのを待っていようと思ったけど、お腹が空いていたから大急ぎでコンビニのおにぎりを一個だけ食べた。まだかな、ってソワソワしながら待っていたら、ちゃんと二十二時ちょうどに電話がかかってきた。
「ユウイチさん? こんばんは!」
「こんばんは」
ユウイチさんは先月の半ばから大阪に出張に行っている。だからもう三週間近く会えていないけど、必ず週末の夜にはユウイチさんの方から電話をかけてきてくれる。今日はピザ屋の方にバイトに行っていたから、間に合わなかったらどうしよう、ってすごく慌てて帰って来た。シャワーの後にちゃんと乾かさなかったから、まだちょっとだけ髪も濡れている。
「ユウイチさん、今日も忙しかったですか?」
「今日はなんとか上手く撒いてホテルに戻って来たから大丈夫」
「えっ!? もしかして、飲みに行こうって誘われてたんですか? そしたら、電話は別の日で良かったのに……」
「いいよ」
いつもの人から誘われて断っただけだから、とユウイチさんは言う。一緒に大阪に行っているユウイチさんの同僚さんは、先月結婚した。
「俺、半年後には子供も生まれるけど? そしたら、しばらく誘えなくなるよ」としつこく言われて本当に困っている、と前にユウイチさんがブツブツ言っていた。その人を撒くために会社から駅までの近道を探したり、「ステルス能力を発揮する」と称して気配を消してコソコソ退勤したり、ユウイチさんはいつも楽しそうで羨ましい。
「マナトは? 夕飯はすんだ?」
「さっき、食べました」
「帰って来たばっかりなら、電話、もうちょっと後でも良かったのに」
「帰って来たばっかりじゃないです! 今日は早く終わったから、大丈夫!」
「わかった」
ユウイチさんがクスクス笑っている。……もしかしたら、早く電話で話したかったから俺が嘘をついていることも気付かれているかもしれない。週に一回は電話をしているから、すごくたくさん報告することがあるわけじゃないけど、「今、何してますか?」って話せるだけで楽しかった。
◆
「行くつもりは全然無かったけど、どうしても行かないといけなくなったから、一か月間会えない」とユウイチさんから聞かされたのは、出発する数日前のことだった。
「間に合うんですか!?」と見ているこっちが心配になってしまうくらいギリギリまで荷造りは終わらなくて、最終的には「まあ、向こうでなんでも買えるから」と二泊三日分くらいの荷物を持ってユウイチさんは大阪へ向かった。
初めて電話がかかって来たのは、ユウイチさんが出発してから三日後のことだった。工務店のアルバイトで帰りに貰えた弁当をモソモソ食べていたら「元気?」とユウイチさんが電話をくれた。
お互い仕事や学校があるから毎日毎日一緒にいるわけでは無いけど、ずっと顔を合わすことが無いとやっぱり寂しい。寂しいです、って自分がユウイチさんに言っているところを想像したら、なんだかゾワゾワしたから一度も本人に言ったことは無い。
「そうだ。この前、リンちゃんとタクミ君に会ってきました。二人とも元気で、それで優しくて、リンちゃんなんか「しばらくの間、ここにいてもいいよ」って言ってくれて、嬉しかった」
「……良かった」
少し前の休みの日に初めて一人でリンちゃん達の暮らす家まで遊びに行った。就職が決まったことを報告した時に二人とも「スゴイ!」ってすごくビックリしてくれたのが嬉しかったから、今日はそのことをユウイチさんに話した。俺がたくさん喋る時のユウイチさんは「うん、うん」ってゆっくり相槌を打ちながら話を聞いてくれる。それで、いつもつい自分のことばっかり話しすぎたり、時間が遅くなってしまったりする。
「えっと……」
耳からスマホを離して時計を確認したら二十三時前になっていた。もう一時間近く喋ってしまっているし、ユウイチさんだってきっと疲れていてそろそろ休みたいはずだ。またすぐに電話で話せるし、今日はもう切るべきだってわかっているのに、なんだか名残惜しい。
「……マナトの声はずっと聴いていられるな」「ほんと?」
「ほんと」
「うん……」
そろそろ「おやすみなさい」と言って電話を切らないといけないのになー……ということがお互いわかっているからなのか、二人とも口数がずいぶん少なくなっている。じゃあ、と言いかけた時に慌てたような声で「そうだ」とユウイチさんの方が先に口を開いた。
「……今日はどんなパンツを履いてる?」
「え?」
「あっ、いや……。もう、ずっとマナトのパンツを拝んでないから、どんなのを履いてるんだろうかと思って」
マナトのパンツが見たい、帰りたい、と畳みかけるように言われて、「やっぱりさっさと電話を切っていればよかった」ってすごく後悔した。
顔を上げると部屋干し中のボタニカル柄のボクサーパンツが目に入った。前に、久しぶりにラブホテルに連れて行ってくれるというから、新しく買ったパンツを「花と植物がプリントされていてキレイだし、これにしよう」と張り切って履いていったものだ。服を脱がされた時に「また、こんな派手なパンツを……」ってユウイチさんが興奮しすぎて、二回もパンツにぶっかけられた。
地味なパンツを履いても「いつもと違っていい。ああ~、逆にエロイ……」と喜ばれるし、「絶対に変なことに使わないから脱ぎたてのパンツを売って欲しい」といまだにしつこく頼まれる。変な目でジロジロ見られるから、ユウイチさんと一緒にいる時、俺はお風呂上りでもパンツ一丁で部屋をウロウロしなくなった。
「俺のパンツのことはいいから早く寝てくださいよ……」
「聞かないと、気になって眠れそうにないな」
「横になって、目を閉じてれば絶対眠れますよ。それに……」
チラッとハーフパンツを履いた自分の下半身に目をやる。「それに?」とユウイチさんのじれったそうな声が聞こえた。
「……残念でした。今日はノーパンです」
「なんだって!?」
姿は見えないけど、ユウイチさんがホテルの部屋のソファーやベッドから勢いをつけて立ち上がっている様子がなんだか想像出来た。ユウイチさんはやっぱり無敵だった。大のパンツ好きなのに、パンツを履いていなくても興奮出来るのだから。
「ノーパンって? なぜ? どんな事情があって?」
「べつに……。一人で過ごす時は、たまにそういうことがあるくらいで……」
「ああっ……! またとんでもないことをサラッと口にする……! 今までノーパンで過ごしたのはいつ? 詳しく教えて欲しい」
「え~? もう覚えてないですよ……」
「そんな……。思い出せる分で構わないから」
もちろん「何月何日はノーパンで過ごしました」なんて思い出せるわけもなく、覚えてません、としか答えようが無かった。ユウイチさんは「寝る前にマナトがエロイことを言うから、興奮して眠れなくなってしまったけど?」とブツブツ言っている。
……確かにユウイチさん相手に、ノーパンだと言うことを明かした俺もちょっとだけ悪いような気もする。「あっ、そうなんだ、珍しい」ですませるような人じゃないって、今までの付き合いで充分理解していたハズなのに。この前会った時にリンちゃんが「マナトもさあ、自分の身を守るために、もっとユウイチの扱いを考えないと」と言っていたのはこういうことなんだろうか。
ユウイチさんからは、今度紐みたいなパンツを履いてよ、と何度もせがまれた。
「嫌ですよ、絶対嫌!」
「履くだけでいい。履いた状態でデートをして、それでその後ラブホテルに寄ってくれれば、ただそれだけでいいから」
「最低限の要求みたいな口ぶりで、いっぱいお願いするのは卑怯ですよ……」
口では嫌だと言っているものの、紐みたいなパンツを履いた状態でユウイチさんとセックスするのを想像したら少しだけドキドキして変な気持ちになる。手を縛られた状態で、パンツを少しだけズラされた後に、ローションでヌラヌラしたユウイチさんのモノを挿入されて……というところまで想像したら一気に頬が熱くなる。
足をモゾモゾさせながら「恥ずかしいから、ダメです」と伝えたら、「恥ずかしくないよ。だって、他の人に見せるわけじゃない」と食い気味に否定された。
「ダメです……。あの、ラブホテルに行く時って、部屋に入るまでにどうしてもムラッとするから、紐みたいなパンツを履いたら余計に……、きっとホテルに着くまでに、パンツを濡らしてしまうから、絶対ダメです……」
「はー……」
体に触られてもいないのに先走りで濡らしてしまったパンツを見られるのは恥ずかしい。だから、出来ない理由を正直に伝えたら、しばらくの間ユウイチさんは黙っていた。何回呼んでも返事は無くて、気絶したか、今、記憶を失っている最中のどっちかだって焦って、大き目な声で「ユウイチさん!」と呼んだら、ようやく微かに呻き声が聞こえた。
「う、うぅ……」
「大丈夫ですか!?」
「……抜いていい?」
「えっ!? 今からですか!? じゃあ、切ります」
「マナトの声を聞きながら、抜きたい」
「俺の声……?」
「一生のお願い。明日の朝一で、送金するから、マナトの可愛い声で抜きたい」
「送金はダメです! そんなことしなくても、声くらいなら……」
「本当に!?」
なんだか、前にもこういう手口に引っかかったことがあるような気がする。それに、ユウイチさんはいい大人なのに、しょっちゅう「一生のお願い」で何とかしようとしてくる。
俺がもし、そういう気分じゃなかったら「知りません! 明日も早いんで寝ますね!」で電話を切ったんだろうけど、ちょっとだけ、付き合ってもいいかなー……なんて思ってしまって、結局「はい」って返事をしてしまった。俺ってもしかしてチョロいのかな……ってことが気になるけど、ずっとユウイチさんと会っていなくて、そういうこともご無沙汰だから、しょうがないって思うことにした。
◆
「自分でおっぱい触ってみて」
「あっ……」
ユウイチさんが抜くはずだったのに、ユウイチさんが抜くために「マナトの可愛い声が必要だから」という理由で、俺まで自分の体を触ることになってしまった。
「もっとマナトの声が聞きたい、我慢しないで」
「だって……」
「乳首用のローター、置いてきた方がよかった?」
「いらないですっ……」
たった一人の部屋で、電話を耳に当てながら、オナニーをするのはすごくバカみたいで恥ずかしい。ベッドに寝そべって、部屋着を捲り上げて乳首を指の先で弾く。いつもだったらユウイチさんの口で吸って貰えるのに、自分の手じゃ全然物足りない。もどかしくて、寂しい。
「ユウイチさん、下も触っていい……?」
「……もう我慢出来なくなった?」
「うん……」
ユウイチさんからの返事も待たないで、部屋着に手を突っ込んだ。「気持ちい?」ってユウイチさんから聞かれるたびに「きもちいいです」って必死で返事をした。
「ん、んぅ……ユウイチさんもしてる……?」
「……してるよ、早く、マナトとセックスしたい」
からかうみたいに「どんなパンツを履いてる?」と聞いて来る時とは全然違う、吐息まじりの声で「セックスしたい」と言われたらドキッとしてしまう。早く、早く、一人でするんじゃ全然足りないよ……と思いながら、何度も性器を擦った。
「俺も、早く、したい……。あ、んっ、ユウイチさんのおちんちん欲しい……、んうっ、いくっ、ああっ……」
結局、一回出しただけじゃ足りなくて、「引かないで」って何回もお願いして、俺だけ三回も抜いてしまった。触って貰えないけど、電話越しに「もっと我慢して」とユウイチさんに焦らされながらするオナニーはいつもとは違う気持ちよさがあって癖になってしまいそうだった。終わった後に「エッチだね」とユウイチさんから言われた時は、恥ずかしくて返事が出来なかった。
「……戻ったらデートする?」
「うん……」
「紐みたいなパンツで?」
「うん……」
射精した直後でぼうっとしてしまっている間に、「紐みたいなパンツを履いた状態でデートをした後、ラブホテルに行く」ことを約束させられてしまった。ユウイチさんは「またかけるよ。またかけるから、またしよう」と言ってから電話を切った。
「ど、どうしよ……」
なんだか大変な事をオーケーしてしまった気がする。エッチなパンツを履いて外を出歩くなんてしたことないし、紐みたいなパンツに比べたら今までユウイチさんに頼まれて履いたパンツ達は楽勝だったとすら思えてきた。でも、デートには行きたいし、ラブホテルにも連れて行って欲しい……。
散々迷ったけど、二週間後のユウイチさんが帰ってくる日に合わせて、自分で紐みたいなパンツをネットで買った。本当に紐みたいなパンツも売っていたけど、さすがに恥ずかしくて、横を紐で結ぶタイプにした。せめて色だけは冒険しないでおこう、と思って黒を選んだけれど、思った以上に布の面積が小さくて、微妙に透ける素材だった。
だからすごく焦っているけど……。「これを買ったんですよ! だから、俺とデートしてください」って言えばいいんだよね、ってソワソワしながら、「もうすぐ着くよ」というユウイチさんからのメッセージに「待ってます」って返事をした。
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