24 / 52
不慣れ(2)
しおりを挟む
ユウイチさんは甘いものをほとんど食べようとしない。
健康や体型管理のためなのか、単に嫌いなのか理由はわからない。ユウイチさんの家にはお菓子が山程あるけど、その全部が「マナトに食べさせるためのもの」だと言うばかりで、いつも俺が食べるところを黙ってじっと見ている。
今日だってせっかく買ってきてくれたシュークリームには手をつけようとしなかった。一緒に食べませんか、と誘ったけど「俺はいいよ」とやんわり断られてしまった。
「すごい……美味しい!」
「……良かった」
見た目はふわふわしていて柔らかそうなのに、持ってみるとカスタードクリームがたっぷり詰まっていてどっしりと重たかった。柔らかいシュー生地の上に、クッキー生地が乗っているからサクサクしていて美味しい。
「わ~! 俺が好きな方のシュークリームだ!」と喜んでいたら、ユウイチさんが「わかるよ」とでも言いたげな顔で満足そうに頷いていた。
「ユウイチさんって、俺の好みのお菓子を当てるのほんと上手いですよね」
「……マナトが家に来るたびに、どのお菓子をどのくらい食べたかいつも見てるから」
「えっ……」
「ずっと見てれば、チョコレートやクッキー単品よりも、チョコレートのかかったクッキー……みたいに、美味いものを掛け合わせた食べ物が好きなんだってすぐわかった」
これだって砕いたクッキーがくっついてる、とユウイチさんはシュークリームを指差した。その様子はどこか得意気だった。
付き合う前だったら、ユウイチさんのこういう部分について、「どうしてこの人はいつも俺の様子をジロジロ見て観察してくるんだろう。変なことを考えていそうで怖い……」と失礼な捉え方をしていたかもしれない。
付き合うようになってからも、ずっと、ユウイチさんは俺のことを本当によく見ている。一緒に過ごしていると単に「可愛い、抱きたい」という意味だけじゃなくて、もっと違う視点で俺のことをわかろうとしているんだろうか、と感じることが頻繁にある。
何をしたら喜ぶのか、といったことや、どういうふうに接したらいいのか、といったことを探るようにいつもじーっと見てくる。
からかわれたり、反応に困るような恥ずかしいことを言われたりもする。けれど、傷つけられるようなことを言われたことはない。
たぶん、「こんなことを言われたら嫌だろうな」とちゃんとユウイチさんが俺のことをわかってくれているからだ。
無言でただ見られ続けることに対しては、まだ全然慣れなくていつだって照れ臭い。
シュークリームを食べている今だって、側で「可愛いな……」と呟くユウイチさんから、まとわりつくような視線を感じている。でも、これも、一生懸命俺をわかろうとするユウイチさんの愛情みたいなものなのかな、と思って、黙って受け入れることにした。
一つ食べ終わると、もっと食べるようにユウイチさんから勧められた。
そんなにお腹が空いているわけじゃなかったけど、せっかく買ってきてくれたものだから「食べる」と頷いたら、なぜかユウイチさんに食べさせてもらうことになった。
「自分で食べます……」
「大丈夫、大丈夫。ただ、食べるだけでいいから」
食べることに対して大丈夫って言われるってどういうことなんだろうと疑問を感じながらも、小さいローソファーでぎゅうぎゅうにくっつきながらシュークリームを食べさせられた。
買った時から、「品名が間違っていて、実は座椅子なのでは?」と首を傾げたくなるほど、この部屋のソファーの座面は狭い。だから、体をくっつけて、ユウイチさんの手からシュークリームを少しずつ口にすることになった。
これって正解なんですか? と時々、ユウイチさんの表情を窺ったけど「マナトはものを食べる天才だな……」とうっとりした声で言われるだけだった。
「あっ……! すみません……」
食べ方が悪かったのと、シュー生地いっぱいに中身が詰められていたのとで、ユウイチさんの手にカスタードが溢れてしまった。あたふたしながら、ティッシュを取ろうとしていると「マナト」と名前を呼ばれた。
「……そのまま舌で舐めとって」
「えっ……」
どうしよう、と迷ったけど手を汚したのは俺だから、おそるおそる舌をほんの少しだけ伸ばして親指と人差し指の間についたカスタードを舐めた。
もういい? とユウイチさんに聞いても、なかなかいいと言ってくれなかった。それどころか「もっと舌を伸ばして……たまに、こっちも見ながら……」と舐め方を指示された。
舐めてキレイにする以外の意味も含まれてる? と思いつつ、「……うん」とだけ返事をした。
「ん……」
「美味しい?」
「もう、何もついてないから、味がしません……」
「正直で可愛いな……」
ユウイチさんの手と指を舐めている間中、もう片方の手でずっと太ももを撫でられた。
他のところだったら、ビックリして「ダメです!」と言っていたかもしれない。
でも、べつに服の上からだし、これくらいなら、いいかな……と思えたから、咎めるようなことを言ったり、手を払いのけたりはしなかった。
腿のつけ根から膝の上までを撫でられているだけだから、くすぐったくも、なんともなかった。けれど、柔らかい部屋着の生地越しの刺激に対して、どうしてもその先を期待してしまって、足がモゾモゾと動く。
そのことについてユウイチさんは特に何も言わなかった。ただ、黙って腿の上で手を往復させている。
これは、そういう雰囲気なのでは……? という気はしていた。体に触られているし、手や指を舐めている間はギラギラした目でずっと見られている。ここまでベタベタするなんて、どう考えても普通の食べさせ方じゃない。
ユウイチさんじゃないけど、これってそういうプレイ……? と悶々としながら、シュークリームを噛っては、時々ユウイチさんの手を汚して、そのたびに舐めとるのを繰り返した。
「お腹がいっぱい……?」
「え……」
まだまだ食べられそうだったけど、最終的には汚れていなくても、「舐めて」とユウイチさんに言われるがままに、手や指に舌を這わせるのに夢中になってしまっていた。
「これって、そういうプレイなんですか……?」と聞くべきか迷っていると、お腹がいっぱいだと判断されたのか「残りは俺が食べる」と取り上げられてしまった。
マナトが食べているのを見ていたら食べたくなった、とユウイチさんは言い張っていたけど、たぶん絶対に嘘だ。俺の食べ残しが食べたいだけに決まっている。
無理をしてでも自分で全部食べようと思ったけど、最終的には「土下座するから」としつこく頼まれて、それで結局はユウイチさんに食べかけのシュークリームを取られてしまった。
「……甘くて美味しい」
「ひっ……」
シュークリームを口にした時のごくごく一般的な感想だ。それなのに、ユウイチさんが俺の食べ残しに対してそう言うと別の意味を含んでいるようにしか聞こえなかった。
健康や体型管理のためなのか、単に嫌いなのか理由はわからない。ユウイチさんの家にはお菓子が山程あるけど、その全部が「マナトに食べさせるためのもの」だと言うばかりで、いつも俺が食べるところを黙ってじっと見ている。
今日だってせっかく買ってきてくれたシュークリームには手をつけようとしなかった。一緒に食べませんか、と誘ったけど「俺はいいよ」とやんわり断られてしまった。
「すごい……美味しい!」
「……良かった」
見た目はふわふわしていて柔らかそうなのに、持ってみるとカスタードクリームがたっぷり詰まっていてどっしりと重たかった。柔らかいシュー生地の上に、クッキー生地が乗っているからサクサクしていて美味しい。
「わ~! 俺が好きな方のシュークリームだ!」と喜んでいたら、ユウイチさんが「わかるよ」とでも言いたげな顔で満足そうに頷いていた。
「ユウイチさんって、俺の好みのお菓子を当てるのほんと上手いですよね」
「……マナトが家に来るたびに、どのお菓子をどのくらい食べたかいつも見てるから」
「えっ……」
「ずっと見てれば、チョコレートやクッキー単品よりも、チョコレートのかかったクッキー……みたいに、美味いものを掛け合わせた食べ物が好きなんだってすぐわかった」
これだって砕いたクッキーがくっついてる、とユウイチさんはシュークリームを指差した。その様子はどこか得意気だった。
付き合う前だったら、ユウイチさんのこういう部分について、「どうしてこの人はいつも俺の様子をジロジロ見て観察してくるんだろう。変なことを考えていそうで怖い……」と失礼な捉え方をしていたかもしれない。
付き合うようになってからも、ずっと、ユウイチさんは俺のことを本当によく見ている。一緒に過ごしていると単に「可愛い、抱きたい」という意味だけじゃなくて、もっと違う視点で俺のことをわかろうとしているんだろうか、と感じることが頻繁にある。
何をしたら喜ぶのか、といったことや、どういうふうに接したらいいのか、といったことを探るようにいつもじーっと見てくる。
からかわれたり、反応に困るような恥ずかしいことを言われたりもする。けれど、傷つけられるようなことを言われたことはない。
たぶん、「こんなことを言われたら嫌だろうな」とちゃんとユウイチさんが俺のことをわかってくれているからだ。
無言でただ見られ続けることに対しては、まだ全然慣れなくていつだって照れ臭い。
シュークリームを食べている今だって、側で「可愛いな……」と呟くユウイチさんから、まとわりつくような視線を感じている。でも、これも、一生懸命俺をわかろうとするユウイチさんの愛情みたいなものなのかな、と思って、黙って受け入れることにした。
一つ食べ終わると、もっと食べるようにユウイチさんから勧められた。
そんなにお腹が空いているわけじゃなかったけど、せっかく買ってきてくれたものだから「食べる」と頷いたら、なぜかユウイチさんに食べさせてもらうことになった。
「自分で食べます……」
「大丈夫、大丈夫。ただ、食べるだけでいいから」
食べることに対して大丈夫って言われるってどういうことなんだろうと疑問を感じながらも、小さいローソファーでぎゅうぎゅうにくっつきながらシュークリームを食べさせられた。
買った時から、「品名が間違っていて、実は座椅子なのでは?」と首を傾げたくなるほど、この部屋のソファーの座面は狭い。だから、体をくっつけて、ユウイチさんの手からシュークリームを少しずつ口にすることになった。
これって正解なんですか? と時々、ユウイチさんの表情を窺ったけど「マナトはものを食べる天才だな……」とうっとりした声で言われるだけだった。
「あっ……! すみません……」
食べ方が悪かったのと、シュー生地いっぱいに中身が詰められていたのとで、ユウイチさんの手にカスタードが溢れてしまった。あたふたしながら、ティッシュを取ろうとしていると「マナト」と名前を呼ばれた。
「……そのまま舌で舐めとって」
「えっ……」
どうしよう、と迷ったけど手を汚したのは俺だから、おそるおそる舌をほんの少しだけ伸ばして親指と人差し指の間についたカスタードを舐めた。
もういい? とユウイチさんに聞いても、なかなかいいと言ってくれなかった。それどころか「もっと舌を伸ばして……たまに、こっちも見ながら……」と舐め方を指示された。
舐めてキレイにする以外の意味も含まれてる? と思いつつ、「……うん」とだけ返事をした。
「ん……」
「美味しい?」
「もう、何もついてないから、味がしません……」
「正直で可愛いな……」
ユウイチさんの手と指を舐めている間中、もう片方の手でずっと太ももを撫でられた。
他のところだったら、ビックリして「ダメです!」と言っていたかもしれない。
でも、べつに服の上からだし、これくらいなら、いいかな……と思えたから、咎めるようなことを言ったり、手を払いのけたりはしなかった。
腿のつけ根から膝の上までを撫でられているだけだから、くすぐったくも、なんともなかった。けれど、柔らかい部屋着の生地越しの刺激に対して、どうしてもその先を期待してしまって、足がモゾモゾと動く。
そのことについてユウイチさんは特に何も言わなかった。ただ、黙って腿の上で手を往復させている。
これは、そういう雰囲気なのでは……? という気はしていた。体に触られているし、手や指を舐めている間はギラギラした目でずっと見られている。ここまでベタベタするなんて、どう考えても普通の食べさせ方じゃない。
ユウイチさんじゃないけど、これってそういうプレイ……? と悶々としながら、シュークリームを噛っては、時々ユウイチさんの手を汚して、そのたびに舐めとるのを繰り返した。
「お腹がいっぱい……?」
「え……」
まだまだ食べられそうだったけど、最終的には汚れていなくても、「舐めて」とユウイチさんに言われるがままに、手や指に舌を這わせるのに夢中になってしまっていた。
「これって、そういうプレイなんですか……?」と聞くべきか迷っていると、お腹がいっぱいだと判断されたのか「残りは俺が食べる」と取り上げられてしまった。
マナトが食べているのを見ていたら食べたくなった、とユウイチさんは言い張っていたけど、たぶん絶対に嘘だ。俺の食べ残しが食べたいだけに決まっている。
無理をしてでも自分で全部食べようと思ったけど、最終的には「土下座するから」としつこく頼まれて、それで結局はユウイチさんに食べかけのシュークリームを取られてしまった。
「……甘くて美味しい」
「ひっ……」
シュークリームを口にした時のごくごく一般的な感想だ。それなのに、ユウイチさんが俺の食べ残しに対してそう言うと別の意味を含んでいるようにしか聞こえなかった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる