7 / 52
お裾分け(3)
しおりを挟む「友達と飲んでいた」というマナトは上機嫌だった。「ただいまあ」と部屋に上がってきた後は、トイレに行ったり、フローリングの床へ直で寝転んでみたり、自分の家で過ごすかのようにくつろいでいる。
普段は行儀良く座って大人しくしていることが多いため、まるで別人のようだった。
「マナト……?」
「なに?」
「あっ、いや、急に来るなんて珍しいから……。何かあった?」
いつもマナトは「今日って会えますか?」と前もって連絡をしてくる。
もしかしたら、財布やスマートフォンを無くすといった、困ったことになっているのかもしれない。
そうだとしたら、マナトがさっきまで飲んでいた店へ落とし物がないか電話をした方が良いだろうし、帰る途中でどこかへ寄っていないか確認する必要だってあるだろう。
そんな心配を余所に「うん?」とマナトは首を傾げた後、ニッと笑った。
「……自分の部屋と間違えた」
「えっ……」
「間違えてユウイチさんの部屋に来ちゃった」
えへ、と笑った後、「ユウイチさん、泊めてえ」とすり寄ってくるマナトはあどけなくて、妙にそそられた。
余りにも無防備で可愛いから、「これはラッキーチャンスではなくて、酔っている時に手を出すような人間かどうかを試されているのでは?」と、かえって不安になって、マナトの体に自分から触れるのが躊躇われる程だった。
「ユウイチさんは何してたの?」
「えっ? 俺は……普通にテレビを見てたけど……」
「ふうん……」
「アダルトグッズを見て、マナトに使用するのを想像していたよ」と言うわけにはいかず、咄嗟に嘘をついた。
マナトの反応は薄く、ぼうっと部屋の隅を眺めている。
マナトが本当にこのまま泊まるつもりなら、着替えを準備しないといけないし、結構酔っ払っているようだから水も飲ませないといけない、と思い立ち上がった時だった。
「ねえ、ユウイチさん、あれは何?」
「ん?」
マナトが指を指している方向を見て、心臓が止まるかと思った。
今日、開封したばかりの乳首用のマッサージ器具が転がっていたからだ。そうか、「あとで、しまうか」と思って放置していたんだった、と全身から血の気が引くのを感じた。
「ユウイチさん、あれ何?」
「い、医療器具……」
「嘘だあ」
本当はどういう意図で使用するものなのか理解しているのか、「エッチなものでしょ?」とマナトはケラケラ笑っていた。
「あれは……乳首を、マッサージするための道具」
「買ったの? 何のために?」
「ま、マナトに気持ち良くなって欲しいと思って買いました……」
わはは、とマナトがおかしくてたまらないと言うふうに笑い声をあげた。
普段のマナトだったら、「こんなエッチなものを持っているなんて……」と恥ずかしがっていただろう。
けれど、酔っているせいなのか、「何?」と興味を持った後、そのことについて、照れながら笑って誤魔化そうとするところは、エロいものを目の前にした若い男がいかにもしそうな反応だった。
年頃の若い男の抱える性欲がマナトから生々しく感じられて、そんな様子を見ているだけで気持ちが昂る。
「ユウイチさん、他にもエッチなものって持ってる?」
「えっ………」
「見せてよ」
そう言って顔を覗き込んで来るマナトの顔は、ワクワクしていることを隠しきれていなかった。
俺を困らせてやろうとして言っているのではなくて、単純に好奇心で「見せて」と言っているのは表情を見ればすぐにわかった。
「……マナトが引くほど持ってるけど」
「そうなんだ。なんで?」
「えっ……、いや、良いものがあったら隣に住んでいるわけだしお裾分けでもしようかなと思って……」
「なにそれ!」
一通り笑った後、「見せて、ユウイチさん。俺、そういうの買ったことないから」とマナトはせがんできた。
ついさっき、乳首用のマッサージ器具を見た時もマナトは怒ったりはしなかったし、いつものように恥ずかしがったりもせず、機嫌も良いようだった。
可愛く「見たい」と甘えられて断りきれないのと、これだけ酔っ払っていれば、明日にはほとんど覚えていないだろうというのもあって、仕方なくクローゼットに隠していたものを取り出すことにした。
◆
マナトはやっぱり酔っていても天才に違いなかった。
アダルトグッズ一つ一つに対して「これは何? どうして買ったの?」と質問を繰り返す。
誤魔化そうと「興味本意で買いました」と俺が適当に答えようものなら、潤んだ目でじいっと見つめて来て「本当?」と首を傾げる。
それが可愛いのと、本音を言っているかどうか見分ける勘が余りに鋭いのとで、結局洗いざらい全てを告白することとなった。
「ユウイチさん、これは?」
「……この極細バイブは……マナトの前立腺を刺激するために買いました。フェラをしてもらってる時に挿入して、マナトが上も下も同時に犯されてる所が見たくて……」
「これは?」
「手錠とアイマスクは、快楽責めの時に使おうと思って……。抵抗出来ない状態にされたマナトが悶えながら射精するところが見たかった……」
ローション風呂のもとや乳首を吸引するニップルポンプ等について、詳細に説明をしないといけないということは、今までどれだけスケベな視線をマナトに向けていたのかを打ち明けているのと同じだった。
常にマナトの顔色を窺い緊張しながら話していると、「これはそういうプレイなのでは?」としか思えなくて、勃起をしているのを隠しつつ、冷静さを保つのに苦労した。
マナトに履いて欲しいと思って買ったパンツも全て公開した。スケスケだったり、お尻の部分が丸見えだったりするエッチな下着を見せられたマナトは、顔を真っ赤にしながら「ヤバ」「エグい」と笑った。
普段、二人でいる時、マナトがこういった言葉遣いをしている姿はほとんど見たことが無かった。
もしかしたら、同年代の友達と過ごしている時は、普段俺に見せる姿とは違って、もっとくだけた口調で話しているのかもしれない。
そうか、友達と一緒の時はそうやってはしゃいだり、騒いだりするんだな、とマナトの普段と違う一面がほんの少し見られたような気がした。
「……マナトはこういうのを使ったことは?」
「無い。彼女にどうやって切り出したらいいかわからないし、買うのだって恥ずかしいし……」
自分のことを聞かれると、途端にマナトはモジモジし始めた。
今の口ぶりだと、興味はあるけれど恥ずかしいから、という理由で彼女と使ってみることを断念していたのでは? と思えた。
「彼女から使ってみたいと言われたら?」
「彼女……というか、好きな人から言われたら……ドキッとするね」
目を細めながら口の端をほんの少しだけ上げて、ニヤ、とマナトは笑った。
俺に対して「嬉しい」「ありがとう」と言う時の、目をキラキラ輝かせる屈託のない笑顔とは全然違う、何か含みを持たせたような顔つきはいつもよりもずっと大人びて見える。
「もし、俺に言われたら……?」
「……いろんな意味でドキドキするかな」
いろんな意味とは、と何度聞いてもマナトは「ヒミツ」と教えてくれなかった。その代わりに「誰に言われるよりもドキドキするよ」と囁くように呟いた。
「ねえ、ユウイチさん」とマナトの熱い手が俺の手の甲にそっと触れる。
「使ってみる……?」
使ってみる。「チューして?」「エッチしたい」と直接的なことを言われるよりも、ずっといやらしいことをねだらせている、と思うと、マナトの声が耳にこびりついて離れなかった。
驚いてマナトの顔を見ると、口角をキュッと上げてニコニコと微笑んでいる。この可愛らしい唇が、とんでもないことを口にした、と思うと、それだけで、ゾクゾクした。さっきまでマナトが触れていた手のひらに汗が滲む。
「ほ、本当に……?」
「いいよ」
「ど、どれを……?」
マナトはほんの少しの間何かを考えるような顔をしてから、はにかむように笑った。
「オススメってありますか……?」
「オススメ!?」
今までの人生でこれ程までに「オススメ」という単語が魅力的に聞こえたことは無かった。
マナトはさっきまで、ゲラゲラ笑っていたのに、アダルトグッズを使うことを提案した後は、急に大人しくなってしまった。緊張しているのか、目が合っても控えめに笑うだけになっている。
今までは、ただエロいグッズを冷やかすように眺めていたけど、それが自分自身にこれから使われるかもしれない、という状況にようやく気が付いて、戸惑っているようだった。
「このスケスケのパンツを履いてもらってから、手錠をした状態のマナトの乳首にローションを大量に塗り込んだ後、マッサージ器具を使うのがオススメだけど……」
「……多い」
露骨に不満そうな顔をされた。「どれか一つで」と付け足される。
「一つ……?」
所有しているアダルトグッズの中で使ってもいいのは一つだけだとマナトから言われてしまった。
そんな状況となると答えはすでに決まっていた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる