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お裾分け(2)
しおりを挟む「あっ、これは……」
開封した瞬間に思わず声が漏れる。
スポイトタイプのニップルポンプという乳首を吸出すオモチャはすでに持っているが、乳首用のマッサージバイブレーターを購入したのは今回が初めてだった。
購入に至るまでの間に、星5つから1つまで数百件あるレビューには全て目を通し、ワイヤレスタイプで充電式というところと、片方ずつ振動のパターンを変えられるところを気に入って買った。
シリコンで出来ているとは言え、お椀のような形状をしているから膨らみがない男の胸でも使えるのかが気掛かりだったが、一応「男女兼用」という記載もあったし、男性からの「使用してみたが、気持ち良かった」という口コミも確認出来たので、大丈夫だろうと判断した。
「いやっ、こんなの付けないで……、やだあ、やめてよお……あっ、やだ! いやあ……」
嫌がりながらも気持ちよくて悶えるマナトの姿を想像したら、それだけで追加注文をしたくなるぐらい満足出来る。
以前、デートの後にラブホテルへ寄った時に「売ってるよ」とアダルトグッズを見せたら「恥ずかしいから嫌」とマナトはそっぽを向いてしまった。
「俺もそう思ってた」と慌てて話を合わせたら、マナトはほんの一瞬「絶対嘘だろ」と言いたそうにした後「うん」と困ったような顔で笑っていた。
こんな調子では使わせてもらえる日が来るのはずっと先のことだろうから、今日開封した乳首をマッサージする器具も短時間の充電に留めておいて、動作の確認だけを行うことにした。
マナトは恥ずかしがりやのうえに、真面目だから、こういういかにもアダルトグッズ、という見た目のものは嫌がるに決まっている。「マナトのために買ったよ」と見せたところで、「嬉しい。使ってみよ?」とは絶対にならない。
「こんなの絶対に駄目です!」と顔を真っ赤にするだけで済むのならまだいい方、というか最高に興奮する。
最悪なのが「こんなものを使って俺の身体を弄ぼうとしていたなんて! 最低!」と警戒したマナトが俺の家に寄り付かなくなることだった。
だから、「仕事で使う大事なものがあるから、この家でクローゼットや引き出しは絶対に開けないで欲しい」と嘘をついてアダルトグッズは全て隠してある。幸いマナトは素直だから「わかった!」とずっと約束を守ってくれている。
マナトは本当に真面目で可愛い。
部屋で二人で過ごしている時に、「肩を揉んであげる」とマナトが寄ってきたことがあった。マナトの手の力加減は絶妙で首や肩をグリグリ、ゴリゴリやられると声が出る程だった。
年下の若い彼氏に肩を揉まれるという状況は、自分がものすごくオッサン臭く感じられてゲンナリしたが、毎日仕事で十時間以上パソコンの前に座っているからなのか、身体はバキバキにこり固まっていた。
「すごいこってる! 大丈夫?」と手を動かすマナトは誰かの肩を揉むのに慣れているようだった。
「俺、上手い? ここかな……? ユウイチさん、気持ちいいですか?」
「あ、あ……」
「ふふ、そんなに気持ちいいんだ……嬉しい」
「マナトの言っていることが、別の意味にしか聞こえなくてエロ過ぎる」とこっちは悶えているというのに、マナトは気を良くしたのか「ユウイチさん気持ちいい? もっとしてあげますね」と張り切っていた。
「ハア……ああ……、ちょっと、マナト……」
「うん? 他のところもする?」
悪魔の囁きだった。呼吸は荒いままマナトの方に身体を向けた。
「……ちょっと股間も踏んでくれる?」
「……えっ?」
マナトは「この人は何を言っているんだろう」と明らかに困惑して、可愛い顔を引きつらせていた。
「最初は足を乗せるだけでいい、力加減はこっちで指定するから」
「な、え? ……そんな危ないこと出来ません……」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと強めに踏んでくれるだけでいいから」
「そ、そんなことしたら……潰れちゃいます!」
「何が?」
「何って……」
開きかけた口を一瞬閉じてから、マナトは再び口を開いた。
「玉が潰れますっ!!!」
マナトは大真面目な顔をしていた。目を見開いて唇を戦慄かせて、真っ直ぐこっちを見ている。
「ふ……、はははっ! ヤバい、面白すぎる……」
「なんで笑うんですか!?」
玉が潰れる、ということを真剣に訴えられるなんて今まで経験したことが無かった。それで、涙が出るくらい大笑いして、マナトを怒らせてしまった。
結局どれだけ頼んでも股間は踏んで貰えなかったが、「ユウイチさんのバカ」とむくれている顔が可愛かったので、それはそれで良かった。
股間を踏む、ということがマナトにはハードルが高すぎるんだろうか、真面目でいろいろ考えすぎるところがあるからな……と思いながら、そろそろ寝るかと、「開封の儀」が済んだ段ボールを潰したり、ビールの空き缶の中を水で濯ぐ。
マナトがいるのに慣れてしまったせいなのか、もともと一人で住んでいた部屋が、今夜はすごく静かに感じられる。
マナトはこの間も「一緒に見たい」と突然言い出して、食い入るように真剣な顔でゲイビデオを見ていた。「俺とユウイチさんがしてるセックスと全然違ってたね」と呟いている時の顔はなんだか落ち込んでいるようだった。
セックス中に「大丈夫」と言われても、顔つきや声のかすれ具合で、挿入されることをマナトが「怖い」と感じているのは知っていた。べつにゲイだから必ずアナルセックスをするというわけでもないし、苦手に感じていて、しない人もいる。
マナトが嫌だと感じたり痛い思いをしたりするくらいなら、全然しなくても我慢出来ると俺は思っているのに、マナトは「回数を重ねればきっと出来るようになる」と信じて「二人とも気持ち良くなれるにはどうしたらいいんだろう」と悩んでいるようだった。
難しいのはマナトがただ可愛いだけの存在ではなくて、ちゃんと自分の意志を持っている二十歳の青年というところだ。こっちがどれだけ「マナトのため」と思っていたとしても、あれこれ口を出しすぎると「俺だってちゃんといろいろ考えてるのに、どうしてわかってくれないんだろう?」とマナトを傷付けることになる。
だから、無理をさせすぎないようにマナトの言うことを尊重しつつしばらくの間は見守る、という方針を今は取っている。
たまに、マナトがものすごく可愛いことを言って誘惑してくるからその時は、必死で自分を抑えている。
特に、ゲイビデオを見た後に、「今度する時は頑張ってみるから、えっと、ちょっとだけ激しくしても、大丈夫です……」と言われた時は危なかった。頭の中でものすごく綺麗な顔をした悪魔が「今度と言わずにさあ、今、やっちゃえばいいじゃん。泣きながらよがるマナト、かっわいいだろうなあー」とそそのかしているような気がした。
これ以上はマズイ。「やめて! 怖い!」と泣かれても止められなくなる、と判断して必死でマナトを寝かしつけた。
「危なかった……」
真冬にも関わらず、マナトが眠りにつく頃には汗だくになっていた。
その後は、マナトの寝顔を見ながらコソコソ抜いた。何も知らないでクウクウ寝ている可愛い顔を勝手にオカズにしているという背徳感と、目を覚ましたマナトにバレたらマズイというスリルで射精に至るまでそう時間はかからなかった。
マナトのことは大切だから、あれくらい我慢しないとな……と思いつつ、翌日の支度をしていた時だった。
ガチャ、と玄関のドアの鍵が開く音がした。「え?」と思った瞬間には、ドアロックのせいでドアが引っ掛かる「ガン!」という激しい音が聞こえた。
「ユウイチさん、開けて……」
わずかに開いたドアの隙間からマナトの可愛い声がした。
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