ヤバみのある日本人形みたいに綺麗な先生の見えないトコロ

サトー

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1.浅尾先生

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―浅尾 椿、という先生を知っているか?と聞いたら俺の通ってた県立高校の同級生なら95%くらいのやつが、「覚えている・知っている」と答えるだろう。それくらい、キョーレツな男だったから。
浅尾先生は怖くて冷たくて型破りだった。たった一年しか俺らの先生ではなかったけど、その間に相当な数の噂話を残していなくなった。
「生徒指導室で10時間取り調べ・尋問した」だとか、「野球部のOBを警察に突き出したとか」だとか、「女子生徒でも容赦しないで泣くまで責め立てた」だとか、挙句の果てには「いつも暴走運転しているらしい」とか、もう学校と関係ないけど「家の2階で人飼ってるらしい」だとか。
大学でできた友達にこの話をすると、ほとんどの人は「その浅尾って人、そんな強いの?怖いの?」と聞いてくる。たぶん、みんな鬼みたいな顔でガタイのいい男を想像していると思う。


でも、そうじゃなくて、浅尾先生は綺麗で怖い人だった。



俺が初めて浅尾先生に会ったのは高二の始業式の日だった。
クラス発表を見た後、友達と大騒ぎしていたら、「早く列になって並べー…とくに高瀬!お前だよ」と一年の時の担任になぜか俺だけ怒鳴られたことを覚えている。
「いや、なんで俺だけ?」と言い返すのを周りの奴らに爆笑されながら、出席番号順を無視して列の後ろにダラダラ行こうとすると、もう一回怒鳴られた。
「手間かけさせるんじゃねえ」と頭をはたかれて、苗字が高瀬だから、ごめんねーって謝りながら千葉という奴の前にとりあえず並んだ。

「あー、新学期の始まりかあ」と思いながら、ダルいし、早く式が終わらないだろうか、と退屈していた時に、「新職員の入場です」というアナウンスと共に体育館の真ん中に無理やり装飾して作った花道を、新しい教師達がゾロゾロと歩いてきた。
一番先頭が校長で、後ろの方に行くにつれて若い人が多くなっていく。それを、全校生徒が期待と好奇の眼差しでジロジロと無遠慮に眺めていた。
俺は首を目一杯伸ばして、若くて可愛い女の先生がいないか探していた。まあ、いなかったんだけど。

浅尾先生は後ろから三番目か四番目にいた。
その時はまだ名前は知らなかったけど、一人だけパッと目を引く若い男がいたことは覚えている。
肌の色が透けるように白い、綺麗な男だった。
背は高いんだか低いんだかよくわからない、不思議な体形をしていた。
一見すると、背中をまっすぐ伸ばしてスタスタと歩く姿は長身にも見えたけど、全体的に細身で、前後の人と比べてみると、そこまで大きくないようにも見える。

俺は浅尾先生を最初に見たときに「雛人形」を思い出した。
特に顔が薄いとかそういうわけではない。なにせ、肌が白いし、パーツが全部上品に顔に収まっていたから。
髪は真っ黒で、長めS字型のパーマがかかった前髪をサイドに流していて、窓から入ってくる風に柔らかそうなカールが揺れていた。
襟足の部分はすっきりと短くカットされていて、スーツのジャケットと髪の毛の間から恐ろしく白い肌が覗いている。
鼻と口は小さくて、切れ長の二重瞼の目は長いまつ毛に縁どられているのが離れた場所からでもわかった。
特徴的なのは眉毛で、もともとそういう形なのか、剃ったのか、以前に抜いて生えてこなくなってしまったのかはわからないけど、短くて上に吊り上がっている。
本当に短かった。一般的な眉毛の長さから眉尻の部分を取ってしまったくらいの長さで、また、色も薄かった。薄墨でスッと書き足したような眉毛に、俺は普段ほとんど見ることのない人形を連想したのかもしれない。
あとで、友達に聞いたら「昔のニッポンの女」、「京劇」に似てね?と言ってるやつがいたから、たぶんみんな色の白さと独特な雰囲気が印象に残ったということだろう。
座って眺めている俺たち生徒一人一人とろくに目を合わそうともせず、また、上体をほとんどブレさせずに真っ直ぐ前を向いて歩いていく浅尾先生の姿は、動いているはずなのに、なぜか止まっているようで、ガラスケースの中の人形を思わせた。

始業式では新しくやって来た教師一人一人が挨拶していくわけだけど、浅尾先生について俺がわかったことは、「名前は浅尾 椿で、数学の教師」ということだけだった。他の教師みたいに、自分が以前はどこの学校にいたかとか、もう何年も使い回してそうな「この学校は素晴らしいですね」とかいう挨拶とか、そういうのは一切無かった。
どちらかと言えば、例えば俺のようなやる気の無い生徒みたいに、あまり口を開けず、腹に全く力を入れない発声方法で事務的に自己紹介をしていた。




浅尾先生はどこのクラスの担任にもならず、二年生の半分と三年生の半分のクラスの数学を教えることと、二年生の学年の生徒指導の係をしていた。
うちの高校は県内では結構頭いい方の県立高校だけど、俺は入った瞬間に燃え尽きたというか、完全に勉強に着いていけなくて落ちこぼれたから、当時つるんでいた、これまた落ちこぼれの友達と共にしばしば「服装の乱れ」だとか「遅刻」だとかいった理由で、生徒指導室送りになっていた。
そんな燃え尽き仲間と「二年の生徒指導、あのヒョロそうな先生って楽勝じゃね?よっしゃ」とか言い合って完全に調子に乗っていた。
…が、それは大間違いで浅尾先生は半端なくやばい人だった。もう、ほんと、フツーに一発怒鳴られるのがマシってくらいに。
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