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ヒーローに屈した日

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 初エッチのために買った、一箱二十個入りのコンドームは、なかなか空っぽにならなかった。



 コンドームがなかなか減らないのは仲が悪くなったからじゃない。圭太さんは俺の体が心配だから「頑張ってなるべくセーブして、一回一回を大事にしてる」のだと言っていたし、たまにエッチをする時は、狭いロフトでぎゅうぎゅうになりながら、たくさん愛してくれる。

 ただ、圭太さんは二日連続で俺が泊まるのをすごく嫌がる。ちゃんと大学に行くから、また今日も泊まっていい? と聞くと、絶対にダメと言われるし、その日は強制的に帰宅させられる。 親に守ってもらっている間は、余計な心配をかけるのはダメだって圭太さんは言う。

 また、学校やバイト先で嫌なことがあったって嘘をついて泊めて貰おうかなー……とズルイ考えが何度も頭を過った。
 だけど、「送っていくから。またすぐ会える。今日は帰ろう」と真っ直ぐな目で、圭太さんが優しく諭してくる度に「俺はなんてことを……」と反省して、素直に家へ帰った。

 空さん、と呼ばれていた時よりも「ダメなものはダメ」とビシッと言ってもらえる今の方がよっぽど良い。さすが圭太お兄ちゃんだなー……ともちろん圭太さんに惚れ直した。

 圭太さんは相変わらず優しくて、顔もかっこいい。俺のバイト先であるスーパーに半額のおにぎりとラーメンを買いに来てくれるし、「危ないから」と家まで送ってくれる。
 遅くなってしまった日は、二人でコッソリと手を繋いで歩く。冷えた俺の手が、ちょうど温かくなる頃に家の前に着いてしまうのが残念で、圭太さんとバイバイするのはいつだって名残惜しい。
 二人きりで過ごす時間を大切に思っていたのに、それなのに……。なんだか、圭太さんは最近変だ。
 俺が寝たかどうか確かめた後に、遅くまでコソコソスマホで何か調べている。寝た振りなんて、俺にはどうってことない。「何をしてるんだろう?」と毎回モヤモヤしながら、ずっとずっと圭太さんの側で本当は起きていた。
 
 
 そうしたらなんと、圭太さんは突然「家を引っ越す」と言い出した。



「なんで……!? 引っ越すって、どこに……!?」

 そんなことを急に言われて、コンビニで買ってもらった肉まんを食べている場合じゃなくなってしまった。仕事の都合なら仕方がない……って頭では理解しているけど、圭太さんがどこか遠くへ引っ越してしまうのを想像したら一気に悲しくなる。
 きっと、俺に隠れてスマホで物件を探していたに違いない。

 俺が狼狽えているのに気が付いた圭太さんは、困った様子で、もっと広い綺麗な家に引っ越そうかと思っただけだと説明した。

「え~! 俺、圭太さんの部屋が好きだよ、お願いだから引っ越さないで……」

 これからも俺のアルバイト先にご飯を買いに来て欲しいし、何より圭太さんの部屋が好きだ。「一番安かったから」「友達がくれたから」という理由だけで生活用品や家具を集めるからインテリアがちぐはぐだけど、却ってそれが、自分がかっこいいことにも元俳優だったことにも、全然拘らない圭太さんらしくていい。

 圭太さんの家のキッチンは一口コンロで不便だけど、時々卵をいっぱい落とした辛いラーメン鍋を作ってくれるから、それだけで充分だって思う。本当は、辛いものは苦手だけど、圭太さんの好みに合わせて頑張っていたら、少しずつ食べられるようになってきた。
 ロフトだって秘密基地みたいで面白い。

 引っ越さないで欲しい理由を伝えたのに、圭太さんは「でも、狭い」と顔をしかめた。

「……まず、寝る場所がロフトだから空には不便な思いをさせてるし」
「そんなことない……!」
「盛り上がってくるタイミングで梯子を上がらないといけないし、布団までの導線が悪すぎるんだよなー……」

 盛り上がってくるタイミング、で何のことを言っているのかようやく察してしまった。
 ローテーブルで甘いものを食べた後やテレビを見ている時に、ベタベタしているとすぐにそういう雰囲気になってしまう。梯子を登る時間すら焦れったいと感じる時もあるけれど、仕方ない。

 それに、小さなスペースで圭太さんに押さえ付けられてするのは、全然悪くない。息遣いも、肌の火照りも、胸の鼓動も、何もかもが触れ合っている部分から感じられて、いつもそれで最高に興奮してしまう。
 圭太さんの匂いが充満する寝床で、固いマットレスと圭太さんに挟まれてするエッチが俺は大好き……! 思い出して何回も一人でしてる……、なんて品の無いことはもちろん言えず「引っ越さないでよ……」と伝えるのが精一杯だった。

「まー、そもそも稼ぎが少ないからな……。すぐには引っ越せないよ」
「良かったあ……」
「広い寝室だったら、空ともっといろんな体位が出来たのにな」
「えっ!?」

 体位、という言葉に動揺する俺を見て圭太さんは、ふっ、と笑う。
 まだ、圭太さんとはうつ伏せの状態でバックから挿入されたことしかない。狭いロフトの上で他の体位でしようとすると、どちらかが頭や体をぶつけてしまうからだ。
 温かい圭太さんの寝床で覆い被さられて、後ろからゆっくりゆっくり突かれながら「空、好きだよ」と甘い言葉を囁かれる。
 全身を快感に包まれながら「いく、いっちゃう」と達する瞬間は、あまりの気持ちよさに頭が真っ白になってしまう。

 思い出したら興奮してきた……とモジモジしていると、圭太さんは俺が恥ずかしがっていると思ったのか「騎乗位とか、正常位でするのも気持ちいいよ」と俺をからかってきた。

「そんな……き、騎乗位なんて、恐れ多くて……! 圭太さんの上になんか、俺、絶対に乗れない……!」
「子供の頃は俺を踏んだり、叩いたり、好き放題やってたのに?」
「あれは演技だよっ……!」

 子供の頃はものすごい顔付きで睨まれていたけど、今の圭太さんは慌てる俺を見てニコニコするばかりだった。……本当は他の体位で圭太さんとエッチをするのに興味がある。どんなふうに求めてもらえるのか知りたい。
 圭太さんはそんな俺の気を知ってか知らずか、ラグの上へゴロリと寝転んでから「ちょっと乗ってみてよ」と俺を呼んだ。

「む、無理だよ……! ずっと憧れてた人に乗るなんて……!」

 心の中では「下から突かれるってどんな感じなんだろう?」って、興味はあったけど、一応口では必死に抵抗した。
 だけど、圭太さんに「もう俺は、空の憧れじゃなくて、恋人になったんだから」と言われて「はい……」と、俺は抗うことを一瞬で諦めた。
 ほどよくよれよれになったスウェットを着て、仰向けに寝ているだけなのに、なにせ顔も声もかっこよすぎる。
 おいで、という声に導かれるようにして圭太さんの体に跨がった。

「どう? いつもより広いけど、やっぱりラグの上はなー……。固いし、空が風邪を引きそう……」
「うん……」

 狭いロフトでぎゅうぎゅうになりながらエッチをするのに慣れきっているからなのか、なんだか心細い。心臓がバクバクいって、全然落ち着かない。
 エッチがしたい、とまだ残っているコンドームのことが頭を過る。
 自分の体の重みを利用して、一気に奥まで圭太さんのぺニスを入れてみたい。いつも大事にされているのに、そんな乱暴なことを思う自分が恥ずかしい。降りなきゃ、とあたふたしていたら、圭太さんは俺の腰をしっかり捕まえてから、昔みたいに生意気なことを言ってみろ、なんて言う。

「や、いやだっ……」
「空もよく俺にさせるじゃん」
「んっ、いやっ……やだあっ……」

 表情や口調は、ふざけている時の圭太さんなのに、お尻や腰をさわさわと触ってくる手付きがくすぐったくて、ちょっとだけいやらしい。

「ん、んぅ……」

 イヤ、と俺が抵抗して黙り込むと、今度は胸を揉まれる。圭太さんのすることに、俺の性器は反応してどんどん固くなっていく。
 恥ずかしい、と下を向くと、お尻に固いものが押し付けられる。圭太さんも、そういう気持ちになってくれてるんだ、俺だけじゃないんだって、嬉しい。

「やっ、いや……出来ない……」
「出来るよ。ほら……」
「んうっ……いやだあ……」

 服の中に手が入ってきて、乳首を摘ままれる。何をされているのかなんて見えないのに、ぷっくりと主張する乳首を指の先で撫でられているのがわかった。
 お尻には圭太さんの硬いものが、グリグリと押し付けられている。空が欲しいのはコレだろ? とでも言うかのように、何度も擦り付けられる。

 二人とも服を着ているのに、すごくいやらしいことをしている、という状況で、ドキドキしてしまって逆らうことなんか出来なかった。



「……戦うしか能の無いゴミが、生意気なこと言わないで」

 言ってしまってから、恥ずかしくて涙が出そうになった。やっぱり俺は圭太さんとは違う。同じ十年でも、圭太さんは昔とほとんど変わらないのに、俺は体も大きくなりすぎているし顔も声も可愛くない、地味な大人になってしまった。
 可愛い顔をした子供が生意気なことを言うから成立していたのに、今の俺じゃ、全然ダメだ。こんなことをさせるなんて……と恨めしい気持ちでいたら、「もっとして」と圭太さんはとんでもない事を言い出した。

「えっ!?」
「昔と変わらない……。昔より好きだから、もっと言って」
「あっ……! いやだっ……もう無理だよ……」
「上手に言えたらご褒美をあげるから……」
「んんーっ……!」

 乳首を責められながら、切なく疼く場所に大きくなったぺニスを押し付けられる。時々、本当にしてるみたいに、下から突き上げられる。
 ぽーっとした頭で理解出来たのは、上手に言えたら、入れてくれる……? ということだけだった。


「あ、んっ……も、もっと僕を、楽しませて……」
「ひ、ヒーローの君から、戦うことを取ったら……、なんにも……んぅっ……、残らないくせに……」
「ヒーローって可愛い声で鳴くんだね、もっと……。ああっ……。もっと、ききたいな……」
 
 圭太さんが乳首を触ってくるから、一つも上手く言えなかった。一度覚えた台詞は絶対に忘れたことなんか無かったのに、快感を与えられながらだとほとんど思い出せなくなってしまう。
 泣きそうになりながら、「もう、出ない」と必死に訴えたところで、圭太さんはようやく俺を解放してくれた。



「こんな、恥ずかしいの、初めて……」

 そのまま圭太さんの胸へ倒れ込んでペッタリと貼り付くようにして抱き付く。乳首はじんじんするし、パンツはたくさん濡らしてしまっている。
 恥ずかしくて嫌だったのに、優しく気遣って貰うエッチとは違う、イケナイ事をしている雰囲気で今までに無いくらい興奮していた。
 圭太さんの呼吸も荒い。俺の履いている部屋着を圭太さんは無言でずり下げた。

「待って……!」

 いつも、エッチは部屋を真っ暗にしてするのが普通だったから、こんな明るい状態で体を見られるのは初めてだった。
 電気を消して、と暴れる俺を圭太さんは離さなかった。こんなに力が強かったんだって、戸惑ってしまうくらい、強く強く抱き締められる。



「……大嫌いなヒーローにこのまま犯されるけど、いいの?」
「ひっ……」

 ゾッとするほど冷たい声。いつもの圭太さんと違う、なんだか変だ……とは思いつつも、耳の縁をピチャピチャと舐め回されて、もう俺はブルブルと震えながら喘ぐことしか出来なかった。
 圭太さんは、大きくなった性器を何度も俺の体に擦り付けて誘惑してくる。まるで、生意気なことを言った俺に罰を与えるみたいに、ぺニスの固さと大きさを感じさせるだけで、いつまでもその先には進んでくれない。

「……もっと、生意気で意地悪なことを言わないと本当に犯されちゃうよ」
「あ、ああっ……! んんっ……」

 初めての時からずっと優しくされながら気持ちよくされて、俺が圭太さんとのエッチの虜になってしまった時に、こんなことをしてくるなんて、本当にズルイ。ズルイけどこんなの逆らえない……、あれ? だからズルイのかな……? と、わけがわからなくなってしまった。




「こ、このまま、犯してください……。お願いします……」

 子供の頃から大好きだったヒーローに、俺は身も心も完全に屈してしまった。
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