3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

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2章 ムラーロ編 1話 来るはずのない異世界

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「グハハハハッ! よく来たな! 勇敢なる
冒険者よ! 人間風情がよくこの魔王城に
までたどり着いた。誉めてやろう!」


タチアナと共に旅をして、これが
三回目の異世界になる。
そして、この三回目の異世界とも
お別れが近づいていた。
なぜなら


「だが、貴様の命運もここまでだ。
恐れを知らぬ愚か者は、魔王である
このわしが──」



俺に気を取られていた魔王の背後には、
剣を構えたタチアナが忍び寄っていたから。



「石化切裂!」


「グギャアアアア!!!!」


そして、あっという間にタチアナは、
魔王を真っ二つにしてしまった。


「ナイス」


返り血を浴びた剣を拭きながら
俺の元へと歩み寄るタチアナを、
拍手をしながら迎える。

だが、タチアナは不満げだった。


「よせ、誉められるような事ではない。
あれくらいの敵なら、君がスイカの種を
口から飛ばすだけで、瞬殺だろう」


おそらくタチアナは、俺がこの前
面白半分でスイカの種を飛ばしたら
山を三つほど消滅させてしまったことを
言っているのだろう。

勿論、ちゃんと魔法を使って元に
戻しました。


「でもほら、着実に強くは
なってるだろ?」


「微塵もそんな感じはしない......」  



まあ、そう思うのも無理はない。
なんせ、これまでタチアナと共に旅を
してきた三つの異世界の魔王や黒幕は、
正直言って手応えがなかった。
いや、けど、それならそれでいいん
だけどね。寧ろその方が俺的に楽だし。
けれど、早く力をつけたいタチアナから
すれば、これまでの旅はあまり満足の
いくものではなかっただろう。


「そんなに気を落とさなくても、その内
強くなるから」


「......わかっている.........」


そんなこんなで、俺とタチアナの三回目の
異世界の旅は幕を閉じたのだった。









その後、俺達はいつものように
あの白い部屋へと戻り、再び別の
異世界へと出発した。


もしかしたら、タチアナが不満に
思っているのは、クリア条件が低くすぎる
ということだけではないのかもしれない。

一つ一つの異世界には、それぞれ違った
国、人種、文化がある。
それにタチアナはもう少し触れて、
学んでいきたいのだろう。
旅とは本来そういうものだし、タチアナも
俺との旅をそういう風に想像していた
のかもしれない。

けど、待っていた現実は違って、
俺との旅はその世界に触れること無く、
ラスボスを倒してしまって、
あっという間に終わってしまう。

でも、現実なんてそんなもんだ。
本に書いてあるようなファンタジー物語
なんて、そうそう味わえない。
そもそも、一つの異世界に長く居られる
ことも滅多にない。
だから、もしもタチアナが、長く続く
ファンタジー物語を体験したいと
思っているのなら、
早々にその望みは捨ててほしい。

そう思っていた.........のだが......




あれ?



おかしい



何がおかしいのかと言うと、
新たな異世界に来たのに、俺は一人
だった。
そう。隣にタチアナがいなかったのだ。
いつもなら隣にいるはずなのに。


「タチ......アナ?」


俺は半ば狼狽しながら、転生した
謎の建物の中から外に出た。


「タチアナ!!!」


外に出ると、辺りは真っ暗で、
暗闇に俺の声が響き渡った。


落ち着け......大丈夫。
必ず何処かにタチアナはいる。
まずは、冷静になれ。
とりあえず、今自分がいる
辺りの状況を把握するんだ。
そうだ。俺はこのでっかい建物の中で
転生したんだ。
人工物があるのだから、この辺りに
人がいるかもしれない。


そう思って、踵を返し、建物の中へと
入っていく。
だが、よくよく観察してみると、
この建物はもう何年も使われていない
ようで、今にも崩れそうだ。加えて
人気もない。

だが、この建物をぐるりと
見回って、何か違和感を覚えた。


「あれ?」


いや、そんなはずはない。


何かの偶然だ。


そう思いながらも、再び外に出る。


そして、空を見上げた。



「嘘だろ.........」


見上げた夜空には、月のような
星が二つ輝いていた。


「ここって......」


これは偶然なのかもしれない。
だが、もし、今俺が思っている
ことが当たっていたとしたら、
この異世界は



「俺が一番最初に転生した世界......」
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