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三百三十二話 クリア7
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【白い部屋】
周りを見渡しても目に入ってくるのは
真っ白な壁と、神様と名乗る謎の老人。
俺はこの部屋が嫌いだった。
出口などなく、ただ死んだり、
世界を救ったりしたら戻ってくる
だけの空間。
おそらくここはどの世界とも繋がって
いないいわゆる別次元だと
思うのだが、ここに来るたびに
ああ......また異世界に行くのかぁ......
と憂鬱な気持ちにしかならなかった。
けれど、今の俺には憂鬱な気持ちなど
さらさらなかった。
なぜなら、普段俺が目覚めるあの
白いベットには彼女がいたから。
「......」
金髪の綺麗な髪をした美しい女性は、
俺がこの白い部屋に戻ってきてからも
ずっと目を瞑ったまま眠り続けていた。
俺は起こさないようにそっと
彼女の顔を覗く。
「......ん......」
すると、俺の足音が聞こえてしまった
のか、彼女はゆっくりと目を開けた。
「......? 隼人......?」
寝ぼけているのか、彼女は目を擦りながら
体を上げて部屋中を見渡した。
「おはよう、タチアナ。」
俺のその声にようやくタチアナは
はっとしたような表情になった。
タチアナは慌ててベットから飛び
起きようとする。
「......っあ!」
その時、起きたばっかりで
体がついていかなかったタチアナは、
床に足をついたと同時にバランスを
崩して転びそうになってしまった。
「!! 危──」
俺はたまらず倒れかけたタチアナの体を
支えた。
「そんな急に体を動かすな。」
「す、すまない。隼人。」
タチアナは苦笑しながら
俺から一歩離れる。
「......えー、ゴホンッ!」
すると、何だか俺とタチアナの
間に謎の空気が漂い始めたのに気づいて
神様が咳き込んだ。
タチアナはその咳き込んだ老人を
見て、あの人は誰だと俺に
視線を送ってくる。
「紹介するよ。この人が神様だ。」
「はじめまして、タチアナ君。
わしが隼人君を異世界へと
転生させている、神様じゃ。
君とはこれから長い付き合いに
なるじゃろうから、よろしく頼むぞい。」
そう言って握手を求める神様に
タチアナは歩み寄ってその手を
握った。
「隼人から聞いたぞ。
あなたが、私が転生者になるのを
許してくれたのだとな。
こちらこそ、よろしく頼む。」
俺はにこやかに二人が握手をするのを
見ていた。
すると、神様と軽い挨拶を
済ませたタチアナは、くるっと
後ろを振り向いて、そのまま
俺のところに駆け寄ってくる。
そして、タチアナは満面の笑みを
浮かべて俺にこう言ってきた。
「隼人! これからよろしく頼むぞ!!」
その言葉に、俺は改めてこれからは
一人じゃなくなるという事実に
気がついて、無性に嬉しくなってしまった。
そうだ。もう俺は一人じゃないんだ。
俺の存在を認めてくれるタチアナが
側にいてくれる。
そう思うだけで、嬉しさから体の震えが
止まらなくなった。
「隼人? 聞いているのか?」
すると、ずっと黙りこんでいた
俺の顔を、タチアナが上目遣いで
覗きこんでくる。
「ああ、聞いてるよ。
改めて、これからよろしくな。
タチアナ。」
その言葉にタチアナはにこっと笑った。
「隼人。」
「ん?」
「私は楽しみで仕方がないぞ。
これから君と私はどんな人生を
送るのか、楽しみで仕方がない。」
......その通りだ。俺だってこれから
が楽しみで仕方がない。
勿論、楽しいことだけではないだろう。
辛くて苦しいて、逃げ出したくなる
こともきっと俺達を待ち受けている
はずだ。
でも、たとえそうだとしても、
俺はもう一人じゃない。
俺の側にはタチアナがいてくれる。
それだけで、俺は何だって乗り越えられる。
二人ならこんな異世界生活も
きっと楽しくなる、そんな気がした。
「さあ、行こう! 隼人。新たな
異世界へ。」
タチアナは力強く自身の右手を俺に
差しのべてくる。
俺はその手を掴んだのだった。
〈第一章 完〉 続く
周りを見渡しても目に入ってくるのは
真っ白な壁と、神様と名乗る謎の老人。
俺はこの部屋が嫌いだった。
出口などなく、ただ死んだり、
世界を救ったりしたら戻ってくる
だけの空間。
おそらくここはどの世界とも繋がって
いないいわゆる別次元だと
思うのだが、ここに来るたびに
ああ......また異世界に行くのかぁ......
と憂鬱な気持ちにしかならなかった。
けれど、今の俺には憂鬱な気持ちなど
さらさらなかった。
なぜなら、普段俺が目覚めるあの
白いベットには彼女がいたから。
「......」
金髪の綺麗な髪をした美しい女性は、
俺がこの白い部屋に戻ってきてからも
ずっと目を瞑ったまま眠り続けていた。
俺は起こさないようにそっと
彼女の顔を覗く。
「......ん......」
すると、俺の足音が聞こえてしまった
のか、彼女はゆっくりと目を開けた。
「......? 隼人......?」
寝ぼけているのか、彼女は目を擦りながら
体を上げて部屋中を見渡した。
「おはよう、タチアナ。」
俺のその声にようやくタチアナは
はっとしたような表情になった。
タチアナは慌ててベットから飛び
起きようとする。
「......っあ!」
その時、起きたばっかりで
体がついていかなかったタチアナは、
床に足をついたと同時にバランスを
崩して転びそうになってしまった。
「!! 危──」
俺はたまらず倒れかけたタチアナの体を
支えた。
「そんな急に体を動かすな。」
「す、すまない。隼人。」
タチアナは苦笑しながら
俺から一歩離れる。
「......えー、ゴホンッ!」
すると、何だか俺とタチアナの
間に謎の空気が漂い始めたのに気づいて
神様が咳き込んだ。
タチアナはその咳き込んだ老人を
見て、あの人は誰だと俺に
視線を送ってくる。
「紹介するよ。この人が神様だ。」
「はじめまして、タチアナ君。
わしが隼人君を異世界へと
転生させている、神様じゃ。
君とはこれから長い付き合いに
なるじゃろうから、よろしく頼むぞい。」
そう言って握手を求める神様に
タチアナは歩み寄ってその手を
握った。
「隼人から聞いたぞ。
あなたが、私が転生者になるのを
許してくれたのだとな。
こちらこそ、よろしく頼む。」
俺はにこやかに二人が握手をするのを
見ていた。
すると、神様と軽い挨拶を
済ませたタチアナは、くるっと
後ろを振り向いて、そのまま
俺のところに駆け寄ってくる。
そして、タチアナは満面の笑みを
浮かべて俺にこう言ってきた。
「隼人! これからよろしく頼むぞ!!」
その言葉に、俺は改めてこれからは
一人じゃなくなるという事実に
気がついて、無性に嬉しくなってしまった。
そうだ。もう俺は一人じゃないんだ。
俺の存在を認めてくれるタチアナが
側にいてくれる。
そう思うだけで、嬉しさから体の震えが
止まらなくなった。
「隼人? 聞いているのか?」
すると、ずっと黙りこんでいた
俺の顔を、タチアナが上目遣いで
覗きこんでくる。
「ああ、聞いてるよ。
改めて、これからよろしくな。
タチアナ。」
その言葉にタチアナはにこっと笑った。
「隼人。」
「ん?」
「私は楽しみで仕方がないぞ。
これから君と私はどんな人生を
送るのか、楽しみで仕方がない。」
......その通りだ。俺だってこれから
が楽しみで仕方がない。
勿論、楽しいことだけではないだろう。
辛くて苦しいて、逃げ出したくなる
こともきっと俺達を待ち受けている
はずだ。
でも、たとえそうだとしても、
俺はもう一人じゃない。
俺の側にはタチアナがいてくれる。
それだけで、俺は何だって乗り越えられる。
二人ならこんな異世界生活も
きっと楽しくなる、そんな気がした。
「さあ、行こう! 隼人。新たな
異世界へ。」
タチアナは力強く自身の右手を俺に
差しのべてくる。
俺はその手を掴んだのだった。
〈第一章 完〉 続く
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