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三百二十四話 決断10
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「うぐっ......!! な、何だ!?
胸が......!!」
隼人によって閉じ込められていた
魔王の胸に途轍もない痛みが走る。
「まさか......!!」
魔王は途絶えそうな意識の中、目の前の
瓦礫の山を壊し、自分の心臓を移植した
タチアナの様子を確認した。
タチアナは隼人に身を預けたまま、
じっと目を閉じている。
「貴様! よもや......そのタチアナを
殺したのか!?」
「ああ、ちょうど今殺した。」
隼人は全く迷うことなくそう言った。
隼人がタチアナを殺すと判断したの
であれば、もはや魔王にはどうすることも
できない。
弱者は強者の力に屈服する他にないのだ。
貴様!!
そう怒りを荒らげようとしたが、
魔王の体は重力に逆らえず、
地面にへばりついてしまった。
声すらもう出せない。
意識も遠退いていく。
これが、本当に死ぬということ
なのだと魔王は悟った。
あの転移者にあった時も、
我はこのような窮地に陥っていたな......
魔王の頭の中には、あの時の記憶が
甦っていた。
時は700年以上も遡り、まだ魔族と
人間が戦争をしていなかった頃。
魔王は魔族の中でも、飛び抜けて
強い力を持っていた。
そんな時、ある人間が自分の元を
訪ねてきた。
いや、訪ねてきたというより、
襲撃してきたと言った方が正しかった
かもしれない。
そのたった一人の人間に、自分の部下達
は皆殺しにされた。
無論、魔王もその力になすすべなく
屈服した。
だが、その人間は魔王に止めを刺さずに、
代わりにこう言った。
「お前はこの世界では魔王なんだろ?
何でこんなに弱いんだ? 面白くない。
あ! そうだ......お前にこの杖をやろう。」
そう言ってその人間は魔王に
謎の杖を渡した。
「これを使ってみろ。そしたら、
きっともっと面白くなる。」
「な、何故我を殺さぬ!」
「ナハハハハッ!!! それは
お前なんぞ殺したってなんも
面白くないからな! 」
すると、その人間は不気味に笑ってこう
言った。
「俺は面白いのが好きなんだよ。
誰かの悲鳴とかな。聞くとゾクゾクする。
まあ、この世界の人間共も適当に
殺して遊んだし、俺はもう別の世界に
行くわ。この世界の奴ら弱すぎて
いたぶりがいもないしな。」
「......別の世界?」
「言ってなかったか? 俺が転移者だって
こと。」
そう言い残して、その人間はぱっと
魔王の目の前から姿を消した。
その転移者のただの気まぐれに
過ぎなかったかもしれない。
だが、魔王は確かに自分が更に
強くなれる魔法の杖を手に入れたのだった。
それからの魔王は、その魔法の杖を
使って、強力な力を持った自分の部下達
を作り出していった。
ラーバ、アグリー、マッドサイエン、
直に幹部となるこの魔族達も魔王に
よって作られたのだ。
そして、魔族側は着実に力をつけていき、
その戦力が人間側を上回った頃、
魔王は自身の体が限界に来ていることに
気づき、自分の手で新たな体を魔法の杖
を使って作り出そうと考えた。
当初魔王は魔族達から肉体を
作り出そうかと考えていたが、
ラーバがとある提案をしてきた。
「人間の体に魔王様の心臓を
移植してはどうでしょう?
きっと面白いことになりますよ。」
魔王はその時、ラーバが何を考えて
いるのかわからなかったが、
今のこの肉体も人間に近いということも
あって、ラーバの考えを採用した。
ならば、まずは実験として
とりあえず人間の体に自分の
体の一部を移植してみようと
考えていた魔王が、目をつけたのが
直に幹部の仲間入りをすることと
なる吹雪姫だった。
魔王は魔族の力を貸し、貴様の
島を守ってやるという約束を
して、吹雪姫の体に自分の血を
魔法の杖を使って流し込んだ。
すると、たちまち吹雪姫は
人間が持つはずのない力を
次々と覚醒させていったのだった。
それから、更に何年もの間、魔王は実験
を繰り返し、そしてようやく
本格的に自分の新たな肉体を
作ることにした。
だが、その自分の心臓を移植する
人間そのものがいなければ話にならない。
そこで、魔王は捕らえた人間達が
隔離されている人間室に足を運んだ。
誰でもいいという訳ではない。
自分の新たな体となるのだ。
やはり、生命力のある人間がいい。
そう思いながら、一人一人人間達の
拘束を解いて、その人間がどんな
行動に出るのかを確かめていった。
ある者はすっかり怯えてしまって
動かなくなった。また、ある者は
惨めに魔王に命乞いをしてきた。
どの人間もまるで覇気がない。
魔王を前にして恐怖で震え上がって
いた。
そんな人間達に呆れつつ、
魔王はとある人間の拘束を解いた。
その時だった。
「っ!」
拘束の解かれたその人間は
魔王である自分に激突してきたのだった。
更にその人間は、自分の手を拘束
していた鉄の手錠を拾い上げて
無謀にも魔王に投げつけてくる。
それを軽く避けた魔王は、
何故か笑っていた。
「貴様だ! 貴様が我の新たな肉体だ!」
そう歓喜の声を上げて、魔王は
その人間の腕を掴んだのだった。
胸が......!!」
隼人によって閉じ込められていた
魔王の胸に途轍もない痛みが走る。
「まさか......!!」
魔王は途絶えそうな意識の中、目の前の
瓦礫の山を壊し、自分の心臓を移植した
タチアナの様子を確認した。
タチアナは隼人に身を預けたまま、
じっと目を閉じている。
「貴様! よもや......そのタチアナを
殺したのか!?」
「ああ、ちょうど今殺した。」
隼人は全く迷うことなくそう言った。
隼人がタチアナを殺すと判断したの
であれば、もはや魔王にはどうすることも
できない。
弱者は強者の力に屈服する他にないのだ。
貴様!!
そう怒りを荒らげようとしたが、
魔王の体は重力に逆らえず、
地面にへばりついてしまった。
声すらもう出せない。
意識も遠退いていく。
これが、本当に死ぬということ
なのだと魔王は悟った。
あの転移者にあった時も、
我はこのような窮地に陥っていたな......
魔王の頭の中には、あの時の記憶が
甦っていた。
時は700年以上も遡り、まだ魔族と
人間が戦争をしていなかった頃。
魔王は魔族の中でも、飛び抜けて
強い力を持っていた。
そんな時、ある人間が自分の元を
訪ねてきた。
いや、訪ねてきたというより、
襲撃してきたと言った方が正しかった
かもしれない。
そのたった一人の人間に、自分の部下達
は皆殺しにされた。
無論、魔王もその力になすすべなく
屈服した。
だが、その人間は魔王に止めを刺さずに、
代わりにこう言った。
「お前はこの世界では魔王なんだろ?
何でこんなに弱いんだ? 面白くない。
あ! そうだ......お前にこの杖をやろう。」
そう言ってその人間は魔王に
謎の杖を渡した。
「これを使ってみろ。そしたら、
きっともっと面白くなる。」
「な、何故我を殺さぬ!」
「ナハハハハッ!!! それは
お前なんぞ殺したってなんも
面白くないからな! 」
すると、その人間は不気味に笑ってこう
言った。
「俺は面白いのが好きなんだよ。
誰かの悲鳴とかな。聞くとゾクゾクする。
まあ、この世界の人間共も適当に
殺して遊んだし、俺はもう別の世界に
行くわ。この世界の奴ら弱すぎて
いたぶりがいもないしな。」
「......別の世界?」
「言ってなかったか? 俺が転移者だって
こと。」
そう言い残して、その人間はぱっと
魔王の目の前から姿を消した。
その転移者のただの気まぐれに
過ぎなかったかもしれない。
だが、魔王は確かに自分が更に
強くなれる魔法の杖を手に入れたのだった。
それからの魔王は、その魔法の杖を
使って、強力な力を持った自分の部下達
を作り出していった。
ラーバ、アグリー、マッドサイエン、
直に幹部となるこの魔族達も魔王に
よって作られたのだ。
そして、魔族側は着実に力をつけていき、
その戦力が人間側を上回った頃、
魔王は自身の体が限界に来ていることに
気づき、自分の手で新たな体を魔法の杖
を使って作り出そうと考えた。
当初魔王は魔族達から肉体を
作り出そうかと考えていたが、
ラーバがとある提案をしてきた。
「人間の体に魔王様の心臓を
移植してはどうでしょう?
きっと面白いことになりますよ。」
魔王はその時、ラーバが何を考えて
いるのかわからなかったが、
今のこの肉体も人間に近いということも
あって、ラーバの考えを採用した。
ならば、まずは実験として
とりあえず人間の体に自分の
体の一部を移植してみようと
考えていた魔王が、目をつけたのが
直に幹部の仲間入りをすることと
なる吹雪姫だった。
魔王は魔族の力を貸し、貴様の
島を守ってやるという約束を
して、吹雪姫の体に自分の血を
魔法の杖を使って流し込んだ。
すると、たちまち吹雪姫は
人間が持つはずのない力を
次々と覚醒させていったのだった。
それから、更に何年もの間、魔王は実験
を繰り返し、そしてようやく
本格的に自分の新たな肉体を
作ることにした。
だが、その自分の心臓を移植する
人間そのものがいなければ話にならない。
そこで、魔王は捕らえた人間達が
隔離されている人間室に足を運んだ。
誰でもいいという訳ではない。
自分の新たな体となるのだ。
やはり、生命力のある人間がいい。
そう思いながら、一人一人人間達の
拘束を解いて、その人間がどんな
行動に出るのかを確かめていった。
ある者はすっかり怯えてしまって
動かなくなった。また、ある者は
惨めに魔王に命乞いをしてきた。
どの人間もまるで覇気がない。
魔王を前にして恐怖で震え上がって
いた。
そんな人間達に呆れつつ、
魔王はとある人間の拘束を解いた。
その時だった。
「っ!」
拘束の解かれたその人間は
魔王である自分に激突してきたのだった。
更にその人間は、自分の手を拘束
していた鉄の手錠を拾い上げて
無謀にも魔王に投げつけてくる。
それを軽く避けた魔王は、
何故か笑っていた。
「貴様だ! 貴様が我の新たな肉体だ!」
そう歓喜の声を上げて、魔王は
その人間の腕を掴んだのだった。
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