3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

文字の大きさ
上 下
324 / 351

三百二十三話 決断9

しおりを挟む
タチアナの夢。


『私はヒーローになりたいのだ。』


彼女は俺にそう言った。

だが、タチアナを待ち受けていた現実は
残酷で、彼女の夢とは真逆のものだった。


けれど、俺はタチアナに魔王を消滅
させるために、自分の命を犠牲に
するような結末を迎えてほしくない。

どうせ死ぬのなら、俺は
タチアナにこの世界のヒーローとして、
英雄として最後を迎えて欲しいのだ。

俺にはそんな夢みたいなことを
実現させれる魔法が使える。


その魔法はこのレッドブックに
載っていた。
誰が考えたのかもわからない
謎多き魔法の書だが、この魔法を
使えば、タチアナはこの世界の
英雄として、旅立つことができる。



「タチアナ......俺の方を向いてくれ。」


俺がそう言うと、タチアナは
若干緊張ぎみに俺の方を
向いた。


俺は自分の左手をタチアナの頭にかざす。



「少し痛みを感じるかもしれないが、
我慢してくれ。直ぐに楽になる。」



タチアナは俺の言葉に頷いて
くれたが、目を瞑ってしまった。
やはり、死ぬのが怖いのだろう。


可哀想ではあるが、俺にできるのは
タチアナがなるべく苦しまないように
魔法を素早く完了させることくらいだ。
失敗は許されない。


俺は一度深呼吸をして、気持ちを落ち
着かせる。


次に魔法の名前をもう一度確認する。


よし! いくぞ!


俺は意を決してその魔法の名前を叫んだ。


「魔吸転生(まきゅうてんしょう)!」


すると、タチアナは苦しそうな
声を漏らしながら、俺の手を
強く握ってくる。
苦しいはずだ。
なぜなら、俺は今、タチアナの魔力を
全て吸い取っているのだから。


レッドブックに記されてあった
魔吸転生という魔法の説明は次の通り
だった。

[この魔法がかけられた対象から、
完全に尽きるまで魔力を吸収し、
その魔力を死んだ者に与え
この世界に復活させる。
ただし、与えることのできる
魔力は、同じ世界で生まれた魔力に
限る。]

つまり、どういうことか説明すると、
この魔法を使えば、ある者から
死んだ者へ魔力、この世界では
そう表現されているが、いわゆる命を
与えることができる。

完全に魔力が尽きるという
表現は、ただ単に全ての魔力を魔法に
使ってしまったということではない。
この世に魂を定着させる為の力その物、
簡単に言えば、生命力を完全に使い
果たしてしまうという意味だろう。
だから、この魔法にかけられた
対象は死ぬことになる。

けれど、その代わりに死んだ者に
魔力という名の生命力を与えることが
できる。

更にこのレッドブックには、
対象者の魔力が多ければ多い程、
この世界に復活する者の数も多くなる
と書いてあった。


ならば、タチアナではなく俺の魔力を
使えばいいのではと思ったかも
しれないが、そうもいかない。

なぜなら、このレッドブックに

ただし、与えることのできる
魔力は、同じ世界で生まれた魔力に
限る。

と書いてあるからだ。

おそらくだが、この一文は
転生者や転移者の魔力は
この世界の者には与えられないと
いう意味を表しているのだろう。

だが、俺の魔力でなくても、
タチアナ程の魔力なら
百......いや、千人もの死者を甦らせる
ことが可能かもしれない。

そうなれば、タチアナはこの世界の
英雄として永遠に語り継がれる
ことだろう。


俺は決して、タチアナを
この世界の悪として終わらせたくない。


そんな糞みたいな結末には絶対に
させない。


そう思っていると、随分魔力を
俺に吸収されたのか、タチアナは
ふらっと意識を失って倒れかける。
俺はすかさずそれを受け止めた。

もう少し......もう少しで完全にタチアナ
の魔力を吸収し終わる。

後はそれを俺が死んだ者達に
与えるだけだ。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
 異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。ところが、闇属性だからと草原へ強制転移されてしまう。  頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険がスタートした。  強力な魔物や敵国と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指していく。 ※週に三話ほど投稿していきます。 (再確認や編集作業で一旦投稿を中断することもあります) ※一話3,000字〜4,000字となっています。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...