3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

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三百十九話 決断5

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魔王の高笑いが城中に響き渡る。


どうする......他に方法はないのかよく
考えろ。絶対にあるはずだ。


だが、そう易々と方法など思い付いつか
ない。


すると、後ろにいたタチアナが俺の
服の裾を引っ張ってきた。


「隼人、もういいんだ。君はよくこの
世界の為に戦ってくれた。君がいなかっら
私達はここにさえ来れていなかった
だろう。だから、そんなに
悩まなくていい。後は私の心臓に
このナイフを突き刺すだけだ。」


そう言ってタチアナは微笑みながら
エレディア村で譲り受けたナイフを、
俺に渡してくる。


「ふざけるな......そんな簡単に諦めら
れるか...... タチアナ、一緒に
考えよう。きっとお前を殺さないで
魔王を倒す方法があるはず──」


「隼人。私はもう......死にたいんだ。」


その言葉に俺は何も言い返すことが
できなかった。


「たとえ、ここで魔王だけを倒すことが
できたとしても、もう私の居場所など
どこにもない。」


「そんなこと言うな──」


「なら、隼人は私に人間と魔族の
入り交じったこの体でどう生きていけ
と言うのだ!!」


「......」


「......すまない......取り乱してしまった......
だが......隼人......私は自分の命欲しさに
ここで自分だけが生き残るわけにも
いかないのだ。魔王を倒すという
目標を掲げ、散っていった仲間の
為にも私は何としてでも魔王を
ここで倒さねばならない!」


タチアナは熱のこもった視線を
俺に向けてくる。


「隼人......この世界を......いいや、私
を救うと思って、どうか今すぐ私を
殺してくれ......もう一度魔王に私の
体を乗っ取られれば、私は正気に
戻れないかもしれない。だから、
早く!!」


タチアナはそう危惧しているようだが、
魔王は俺の決断を大人しく眺めている
ようだった。


そう言うとタチアナは俺に預けた
ナイフの刃の部分を持って、自分の
胸に押し当てる。
後は俺がそのナイフを刺し込むだけ
だった。
だけど、俺の腕は固まった石のように
動かない。
何年ぶりだ......この感覚に支配される
のは......これは恐怖か? いや、違う......
これは──


こんな結末になるくらいなら......
やっぱり、誰とも親しくなるべき
じゃなかった。
ここまでタチアナと親しくならなければ、
俺は躊躇なくこのナイフを彼女の
心臓に突き刺せただろう。
だから嫌だったんだ。
人と関係を持つのが。
どうせ、俺は別の異世界に行くのに......
こんな思いをするくらいないなら、
タチアナとも出会わなければ......


「隼人......」


するとその時、タチアナがおもむろに
口を開いた。


「私と君との最初の出会いは
最悪だったな......覚えているか?
私はあの時君のことをただの
変人としか思っていなかった。
だが、君は私よりも遥かに強い力を
持っていた。
それに、君は実に面白い人間で、
頼りになって......私の夢を肯定して
くれた......
結局......私はヒーローどころか、
この世界の魔王だったわけだが......
それでも......私は君に出会えて
本当によかったと思っている。
なんとなくわかったんだ。
何故君が私の前に現れたのか......
きっと君は私を殺す為に私と
出会ってくれたのだ。」


「止めろ......」


「隼人、どうか私を殺したことを
責めないでくれ。君は私を救ってくれる
のだから。躊躇わずそのナイフを突き
刺してくれていい。」


「......」


「泣いているのか? ふふっ......
隼人も泣くことがあるのだな......」


「......当たり前だ......俺はお前が
思っているより強くねぇよ......」


「泣くことはないさ。寧ろ、笑って
私を見送ってくれ......」


「笑えるかよ......お前は知らないんだ。
残される者の気持ちを......」


「......そうだな......君はまた一人で
戦っていくのか......心配だ......
君が寂しい思いをしないか......」


「心配なら......こんなこと俺にさせる
なよ。」


「すまない。君にしかできないんだ。」


そう言ってタチアナは申し訳なさそうに
苦笑する。


タチアナの言う通り、俺の人生はまた
あの寂しい異世界生活に戻るだけだ。
何も気負うことはない。タチアナの
こともきっと時間が経てば忘れていく。


......いいや......きっと俺は永遠に
忘れられないだろう。タチアナの
笑顔を、タチアナの声を、タチアナの
夢を......


そう思うと余計に腕に力が入らなく
なる。


嫌だ、タチアナを殺したくない。


そんな思いがどんどん強くなっていく。


すると、腕の力がなくなってしまい、
俺はとうとうナイフを地面に落として
しまった。

俺は反射的に落ちたナイフに手を
延ばそうと、腰を曲げる。
その拍子に背負っていたリュックから
何かが落ちてしまった。


俺はそれに目をやる。


それは先ほどサッちゃん隊長にもらった
レッドブックだった。


この本に記載されている魔法に
魔王だけを殺す魔法でもあればよかった
のだが、さっき一度目を通した限り
そんな都合のいい魔法はなかった。
俺は暗い気持ちで
ナイフより先にレッドブックを拾った。


その時だった。


ある考えが俺の脳裏に浮かんだ。


もうタチアナを救うにはこれしかない。
こんな最悪の結末から彼女を救うには
もうこの方法しかない。
だが、こんな馬鹿げた方法が
成功する確証などどこにもないし、
無謀かもしれない。
けれど、もしこれが成功すれば......


「タチアナ!」


俺は思わず声を荒らげていた。
その俺の声にタチアナは肩をビクッと
震わす。
俺はその肩を強く掴んだ。


「ここで死ぬくらいなら、
お前の命、俺にくれないか?」


そんな俺の訳のわからない発言に
若干首を傾げたが、クスッと
笑ってタチアナは答える。


「構わないぞ。そうだな......私の命を
君にやると言った方が、気持ちが
楽かもしれないな。」


何やら勘違いをしているようだが、
俺は続けてタチアナにこう言った。


「なら、ちょっと待ってろ。」
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