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三百十二話 光12
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タチアナが言葉を違和感なく
話せるようになったのは、それから
二週間が過ぎてからだった。
「母様!」
「まあまあ、タチアナ。そんなに
服を汚してどうしたの?」
「外で小鳥を追いかけていたら
そこの崖から足を滑らしてしまった
のだ。そんなことより、見てくれ!
母様が育ててた果物から種が取れたぞ。」
タチアナは泥だらけの手のひらに
乗っている小さな種を嬉しそうに
バーゼンの母に見せた。
「タチアナ。少しおてんばが
過ぎるわよ?」
てっきり母が喜ぶと思っていた
タチアナは、余計に母の注意に
落ち込んでしまった。
「でも、ありがとう。嬉しそうわ。」
だが、バーゼンの母は泥だらけの
タチアナを強く抱き締めて頭を
撫でると、タチアナは心地よさそうに
母の胸に顔を埋めたのだった。
「タチアナ。」
「......! 父様!兄様!」
すると、二人の元にバーゼンとその父が
歩み寄ってくる。
タチアナは子供のように父に抱きついた。
「お~よしよし。」
父はすっかり可愛い娘に顔をほころばせて
いる。
「父様! 今日も剣術の稽古をつけてくれ!」
「? 忘れたのか? 今日はバーゼンと
共に城に行くのだろう?」
「......そうだった!」
タチアナは今度はバーゼンに抱きつき、
手を握る。
「では、行ってくるのだよ。」
「行ってきます。母様、父様。」
明るく手を振るタチアナに
父と母は笑って手を振りかえしたが、
バーゼンには
「頼んだわよ。」
「決して臆するな。」
と、真剣な眼差しで言ったのだった。
【レルバ帝国 城内】
「兄様......ここは......?」
「タチアナ。頭を下げるのだよ。」
バーゼンはタチアナの手を引いて
彼女を王室にまで連れてきた。
実は以前、バーゼンはタチアナを
預かった時、政府に定期的にその少女
を王の前に連れてきて様子を見せるよう
にと言われていたのだ。
今日はそのタチアナがどんな様子かを
王に見せる日だった。
バーゼンは王がこのタチアナを
見て、一体何と言うのか内心不安だった。
もしかしたら、牢屋にぶちこめとでも
言うかもしれない。
しかし、そんなバーゼンの不安は
消え去った。
「聞こう。お前は何者だ? 記憶は元に
戻ったのか?」
王は玉座に座りながら
タチアナに問いかける。
「私はタチアナだ。」
「こら! 王様には敬語を使うのだよ!
敬語は教えたはずだ。」
タチアナの無礼な態度で城の者達は
一瞬ざわついたが、王が直々に
「よい。まだ子供ではないか。」
と、その場を収めた。
「記憶はまだな......ありません。」
まだ使い慣れてない敬語で
何とか王の質問にタチアナは答える。
「そうか。バーゼンよ。
タチアナという名を与えたのはお前か?」
「はい。」
「お前はタチアナをどう思う?」
「どうと言いますと?」
「この少女が人間か否かを聞いている
のだ。聞けばこの少女は三週間前まで
は言葉も話せなかったというではないか。
それが今や私とここまで話せるように
なっている。これは異常ではないか?」
「......」
「魔族の中には人間の姿をした
奴等もいるらしいからな......」
「......」
「どうした? 何故黙っておる。
お前がその少女を保護したのだろう?
ならば、責任はお前が負うのが
筋というものだ。」
バーゼンにはタチアナは人間だと
王に言えなかった。
なぜなら、バーゼンもタチアナのこの
成長速度を不審に思っていたから。
だが、家族の一員となったタチアナを
ここで見捨てるという選択肢もなかった
バーゼンは、どうやってこの場を
切り抜けようかと頭を回していると
「兄様をいじめるな!」
隣にいたタチアナが叫んだ。
バーゼンは咄嗟にタチアナの口を
塞ごうとしたが、タチアナはその前に
もう一度
「私の大切な兄様をいじめるな!!!」
と、叫んだ。
バーゼンはこれで王の機嫌を損ねて
しまったかと思ったが、王は
じーっと自分を睨み付けるタチアナに
こう言った。
「ならば、直接お前に聞こう。
タチアナよ。お前は私達人間の敵か?
味方か?」
「......私は兄様の味方だ。」
「それは私達の味方と捉えて構わ
ないな?」
「これ以上、貴様が私の兄様を
いじめないのなら、私は貴様の
味方にもなろう。」
城内では、王に向かって貴様とは
なんと無礼な! とタチアナの発言に
激怒する声が上がっていたが、
逆にその態度が王には面白かったようで
ガハハッ!
と快活に笑って
「では、私はお前を信じてみると
しよう。」
と言った。
「お前が私達の心強い味方になることを
期待しているぞ、タチアナ。」
話せるようになったのは、それから
二週間が過ぎてからだった。
「母様!」
「まあまあ、タチアナ。そんなに
服を汚してどうしたの?」
「外で小鳥を追いかけていたら
そこの崖から足を滑らしてしまった
のだ。そんなことより、見てくれ!
母様が育ててた果物から種が取れたぞ。」
タチアナは泥だらけの手のひらに
乗っている小さな種を嬉しそうに
バーゼンの母に見せた。
「タチアナ。少しおてんばが
過ぎるわよ?」
てっきり母が喜ぶと思っていた
タチアナは、余計に母の注意に
落ち込んでしまった。
「でも、ありがとう。嬉しそうわ。」
だが、バーゼンの母は泥だらけの
タチアナを強く抱き締めて頭を
撫でると、タチアナは心地よさそうに
母の胸に顔を埋めたのだった。
「タチアナ。」
「......! 父様!兄様!」
すると、二人の元にバーゼンとその父が
歩み寄ってくる。
タチアナは子供のように父に抱きついた。
「お~よしよし。」
父はすっかり可愛い娘に顔をほころばせて
いる。
「父様! 今日も剣術の稽古をつけてくれ!」
「? 忘れたのか? 今日はバーゼンと
共に城に行くのだろう?」
「......そうだった!」
タチアナは今度はバーゼンに抱きつき、
手を握る。
「では、行ってくるのだよ。」
「行ってきます。母様、父様。」
明るく手を振るタチアナに
父と母は笑って手を振りかえしたが、
バーゼンには
「頼んだわよ。」
「決して臆するな。」
と、真剣な眼差しで言ったのだった。
【レルバ帝国 城内】
「兄様......ここは......?」
「タチアナ。頭を下げるのだよ。」
バーゼンはタチアナの手を引いて
彼女を王室にまで連れてきた。
実は以前、バーゼンはタチアナを
預かった時、政府に定期的にその少女
を王の前に連れてきて様子を見せるよう
にと言われていたのだ。
今日はそのタチアナがどんな様子かを
王に見せる日だった。
バーゼンは王がこのタチアナを
見て、一体何と言うのか内心不安だった。
もしかしたら、牢屋にぶちこめとでも
言うかもしれない。
しかし、そんなバーゼンの不安は
消え去った。
「聞こう。お前は何者だ? 記憶は元に
戻ったのか?」
王は玉座に座りながら
タチアナに問いかける。
「私はタチアナだ。」
「こら! 王様には敬語を使うのだよ!
敬語は教えたはずだ。」
タチアナの無礼な態度で城の者達は
一瞬ざわついたが、王が直々に
「よい。まだ子供ではないか。」
と、その場を収めた。
「記憶はまだな......ありません。」
まだ使い慣れてない敬語で
何とか王の質問にタチアナは答える。
「そうか。バーゼンよ。
タチアナという名を与えたのはお前か?」
「はい。」
「お前はタチアナをどう思う?」
「どうと言いますと?」
「この少女が人間か否かを聞いている
のだ。聞けばこの少女は三週間前まで
は言葉も話せなかったというではないか。
それが今や私とここまで話せるように
なっている。これは異常ではないか?」
「......」
「魔族の中には人間の姿をした
奴等もいるらしいからな......」
「......」
「どうした? 何故黙っておる。
お前がその少女を保護したのだろう?
ならば、責任はお前が負うのが
筋というものだ。」
バーゼンにはタチアナは人間だと
王に言えなかった。
なぜなら、バーゼンもタチアナのこの
成長速度を不審に思っていたから。
だが、家族の一員となったタチアナを
ここで見捨てるという選択肢もなかった
バーゼンは、どうやってこの場を
切り抜けようかと頭を回していると
「兄様をいじめるな!」
隣にいたタチアナが叫んだ。
バーゼンは咄嗟にタチアナの口を
塞ごうとしたが、タチアナはその前に
もう一度
「私の大切な兄様をいじめるな!!!」
と、叫んだ。
バーゼンはこれで王の機嫌を損ねて
しまったかと思ったが、王は
じーっと自分を睨み付けるタチアナに
こう言った。
「ならば、直接お前に聞こう。
タチアナよ。お前は私達人間の敵か?
味方か?」
「......私は兄様の味方だ。」
「それは私達の味方と捉えて構わ
ないな?」
「これ以上、貴様が私の兄様を
いじめないのなら、私は貴様の
味方にもなろう。」
城内では、王に向かって貴様とは
なんと無礼な! とタチアナの発言に
激怒する声が上がっていたが、
逆にその態度が王には面白かったようで
ガハハッ!
と快活に笑って
「では、私はお前を信じてみると
しよう。」
と言った。
「お前が私達の心強い味方になることを
期待しているぞ、タチアナ。」
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