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三百七話 光7
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「なっ!? き、貴様!?」
明らかに動揺した魔王を見て、
やはり自分が死ねば魔王も
消滅することを確信したタチアナは、
躊躇うこと無くナイフの先を
自分の胸に当て......そして、
思い切りナイフを自分の体の
中に押し込んだ。
「......?」
そうしたつもりだった。
だが、自分の腕はまるで石のように
固まっている。
「な、なぜ──」
「愚か者め。貴様が自決を試む
ことなど読めていたわ。
我がその対策をしてないとでも
思うてか?」
「!?」
「貴様の体には
貴様が自身で命を絶つことないように
我が直々に呪術をかけておる。」
「そ、そんな──」
「貴様が死ぬには他者から
心臓を突き刺してもらうしか
方法はない。
まあ、そんなことができるのは
我しかおらぬがな。」
「......」
「どうした? いい加減我にその
体を譲る気になったか?」
タチアナにはもう何も打つ手がなかった。
私はこのまま魔王に体を奪われるのか?
なら......私は今まで何の為に......
そうタチアナが思っていたその時、
何かが自分の頬に触れた。
それは兄の右手だった。
「......タチ......アナ......」
バーゼンは微かな声を確かに発していた。
タチアナは急いでその手を
握り返し
「兄様! 私はここにいるぞ! 兄様!」
と、必死に叫んだ。
「..................」
もう目を開けることができない
ようだが、バーゼンはタチアナの声を
聞いて安堵の表情となった。
「何故......何故兄様は私を殺さなかった。
争うことなど無かったのに......」
今にも泣きそうな声を出すタチアナを
安心させるように、バーゼンは
優しくタチアナの頬を撫でた。
「どうやら......私は兄様の敵だった
ようだ......すまない......兄様......
私のせいでこんな傷を負って......。
兄様は今まで私に多くのことを
くれたのに......私は兄様に何も......
何も返せなかった......
父上や母上にも何と詫びればいい......
血も繋がっていないこの私を
ここまで育ててくれたと言うのに.....」
タチアナは震える手で、自分の頬を
撫でる兄の手を強く握る。
その手の震え具合と声から、タチアナが
泣いているのではと思ったバーゼンは
何かを告げようと口を動かす。
だが、その小さな声は今のタチアナ
には届かなかった。
「私など生まれてこなければよかった
のだ!
そうすれば......兄様はこんな目に合わず
に済んだかもしれない......
兄様......どうか私に言ってくれ!
お前など家族じゃ無いと。
お前に出会わなければよかったと。
お願いだ! 本当のことを言ってくれ
た方がましなのだ!!
こんな形で......兄様とお別れしたくない。
だから兄様......最後くらい
本当のこと──」
「......るな!!」
バーゼンは最後の力を振り絞って
叫んだ。
その声を聞いてようやくタチアナは
正気に戻る。
「......自分を......責めるな......
はぁ......はぁ......生まれてこなければ......
よかったなどと.......二度と言うな.......
俺は......お前のことを......本当の妹だと
......思っているし......あの時.....本当に......
お前に出会えて......よかったと......
思っているのだよ。」
「......そんな嘘を──」
「嘘ではない!! ゴホッゴホッ!」
声を出すのが辛いのか、バーゼンは
咳をしながら血を吐いた。
それを見て
「兄様!」
と、心配したタチアナだったが、
それでもバーゼンは話すのを止め
なかった。
「嘘ではないのだよ......なぜなら......
お前は......俺の光なのだから......」
明らかに動揺した魔王を見て、
やはり自分が死ねば魔王も
消滅することを確信したタチアナは、
躊躇うこと無くナイフの先を
自分の胸に当て......そして、
思い切りナイフを自分の体の
中に押し込んだ。
「......?」
そうしたつもりだった。
だが、自分の腕はまるで石のように
固まっている。
「な、なぜ──」
「愚か者め。貴様が自決を試む
ことなど読めていたわ。
我がその対策をしてないとでも
思うてか?」
「!?」
「貴様の体には
貴様が自身で命を絶つことないように
我が直々に呪術をかけておる。」
「そ、そんな──」
「貴様が死ぬには他者から
心臓を突き刺してもらうしか
方法はない。
まあ、そんなことができるのは
我しかおらぬがな。」
「......」
「どうした? いい加減我にその
体を譲る気になったか?」
タチアナにはもう何も打つ手がなかった。
私はこのまま魔王に体を奪われるのか?
なら......私は今まで何の為に......
そうタチアナが思っていたその時、
何かが自分の頬に触れた。
それは兄の右手だった。
「......タチ......アナ......」
バーゼンは微かな声を確かに発していた。
タチアナは急いでその手を
握り返し
「兄様! 私はここにいるぞ! 兄様!」
と、必死に叫んだ。
「..................」
もう目を開けることができない
ようだが、バーゼンはタチアナの声を
聞いて安堵の表情となった。
「何故......何故兄様は私を殺さなかった。
争うことなど無かったのに......」
今にも泣きそうな声を出すタチアナを
安心させるように、バーゼンは
優しくタチアナの頬を撫でた。
「どうやら......私は兄様の敵だった
ようだ......すまない......兄様......
私のせいでこんな傷を負って......。
兄様は今まで私に多くのことを
くれたのに......私は兄様に何も......
何も返せなかった......
父上や母上にも何と詫びればいい......
血も繋がっていないこの私を
ここまで育ててくれたと言うのに.....」
タチアナは震える手で、自分の頬を
撫でる兄の手を強く握る。
その手の震え具合と声から、タチアナが
泣いているのではと思ったバーゼンは
何かを告げようと口を動かす。
だが、その小さな声は今のタチアナ
には届かなかった。
「私など生まれてこなければよかった
のだ!
そうすれば......兄様はこんな目に合わず
に済んだかもしれない......
兄様......どうか私に言ってくれ!
お前など家族じゃ無いと。
お前に出会わなければよかったと。
お願いだ! 本当のことを言ってくれ
た方がましなのだ!!
こんな形で......兄様とお別れしたくない。
だから兄様......最後くらい
本当のこと──」
「......るな!!」
バーゼンは最後の力を振り絞って
叫んだ。
その声を聞いてようやくタチアナは
正気に戻る。
「......自分を......責めるな......
はぁ......はぁ......生まれてこなければ......
よかったなどと.......二度と言うな.......
俺は......お前のことを......本当の妹だと
......思っているし......あの時.....本当に......
お前に出会えて......よかったと......
思っているのだよ。」
「......そんな嘘を──」
「嘘ではない!! ゴホッゴホッ!」
声を出すのが辛いのか、バーゼンは
咳をしながら血を吐いた。
それを見て
「兄様!」
と、心配したタチアナだったが、
それでもバーゼンは話すのを止め
なかった。
「嘘ではないのだよ......なぜなら......
お前は......俺の光なのだから......」
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