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三百六話 光6
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魔王の言う通り、タチアナには
自分が人間であるということを
証明できる物がなかった。
本当に私は......人間ではないのか......?
もしも、この魔王の言っていることが
正しいとしたら......私は......私は......
一体何の為にこれまで生きてきたのだ。
そう思うと体の震えが止まらなくなる。
もはや、自分のことを信じることが
できなくなったタチアナに、魔王は更に
続けて言った。
「本当は貴様にも思うところが
あるのであろう? 自分が人間でないと。」
「......」
そんなことはない。
それすら、タチアナは言えなかった。
なぜなら、魔王の言う通りタチアナには、
自分は周りの人とは何か違うところが
あると思った時が多々あったからだ。
並外れた魔力。魔族に関することにだけ
よく働く勘。
そして、この金髪。
金色の髪をした人などタチアナは
自分以外で目にしたことなど無かった。
「認めろ。そして、我を受け入れよ。」
「......」
「何を躊躇っておる。
それ以外に貴様に選択肢などない。」
魔王はタチアナの顔から戦意が失われて
いくのを確認する。
「まさか、貴様はまだ人間として生きて
いけるとでも思っているのか?
もし貴様がそう思っているのであれば、
我が直々に言ってやろう。
それは無理だ。なぜなら、ここにいる
貴様らの仲間は、先程まで貴様を
生かすか殺すかで、仲間割れをして
いたのだからな。今、貴様が
大事に抱いているその下等生物の傷も、
我ではなく貴様の仲間が負わせたものだ。」
タチアナの目から光がどんどん無く
なっていく。
「つまり、もはや貴様には
帰る居場所など何処にもない。
貴様はただその身体を我に
譲るしか他に選択肢など無いのだ。」
絶望の淵に落とされたタチアナに
魔王は更に続ける。
「何を躊躇う。当然のことだ。
貴様は偶然に生まれた産物。
元々この世に生を受けるはずの
無かった存在だ。
そんな貴様が我にその体を返すのは
当然のことであろう?」
「......」
「さあ......我を受け入れよ。」
「......」
「その体を我に──」
魔王はタチアナの顎をくいっと
上げる。
魔王はもうタチアナに
抵抗する意志など無いことを
その表情から察して、今度こそ
完全に乗り移ろうと試みた、その時。
「......ならば!!」
タチアナは自身のナイフを手に持った。
「何を──」
「貴様の言った通り、もしも私の
この体の中に魔王の心臓があるの
なら!! 私は今ここで! このナイフを
私の心臓に突き刺す!!
貴様などにこの体をくれて
やるくらいなら! 私はここで
死んでやる!!」
自分が人間であるということを
証明できる物がなかった。
本当に私は......人間ではないのか......?
もしも、この魔王の言っていることが
正しいとしたら......私は......私は......
一体何の為にこれまで生きてきたのだ。
そう思うと体の震えが止まらなくなる。
もはや、自分のことを信じることが
できなくなったタチアナに、魔王は更に
続けて言った。
「本当は貴様にも思うところが
あるのであろう? 自分が人間でないと。」
「......」
そんなことはない。
それすら、タチアナは言えなかった。
なぜなら、魔王の言う通りタチアナには、
自分は周りの人とは何か違うところが
あると思った時が多々あったからだ。
並外れた魔力。魔族に関することにだけ
よく働く勘。
そして、この金髪。
金色の髪をした人などタチアナは
自分以外で目にしたことなど無かった。
「認めろ。そして、我を受け入れよ。」
「......」
「何を躊躇っておる。
それ以外に貴様に選択肢などない。」
魔王はタチアナの顔から戦意が失われて
いくのを確認する。
「まさか、貴様はまだ人間として生きて
いけるとでも思っているのか?
もし貴様がそう思っているのであれば、
我が直々に言ってやろう。
それは無理だ。なぜなら、ここにいる
貴様らの仲間は、先程まで貴様を
生かすか殺すかで、仲間割れをして
いたのだからな。今、貴様が
大事に抱いているその下等生物の傷も、
我ではなく貴様の仲間が負わせたものだ。」
タチアナの目から光がどんどん無く
なっていく。
「つまり、もはや貴様には
帰る居場所など何処にもない。
貴様はただその身体を我に
譲るしか他に選択肢など無いのだ。」
絶望の淵に落とされたタチアナに
魔王は更に続ける。
「何を躊躇う。当然のことだ。
貴様は偶然に生まれた産物。
元々この世に生を受けるはずの
無かった存在だ。
そんな貴様が我にその体を返すのは
当然のことであろう?」
「......」
「さあ......我を受け入れよ。」
「......」
「その体を我に──」
魔王はタチアナの顎をくいっと
上げる。
魔王はもうタチアナに
抵抗する意志など無いことを
その表情から察して、今度こそ
完全に乗り移ろうと試みた、その時。
「......ならば!!」
タチアナは自身のナイフを手に持った。
「何を──」
「貴様の言った通り、もしも私の
この体の中に魔王の心臓があるの
なら!! 私は今ここで! このナイフを
私の心臓に突き刺す!!
貴様などにこの体をくれて
やるくらいなら! 私はここで
死んでやる!!」
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