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二百九十話 到着7
しおりを挟む なるほど。確かにそうかも。
あちらの世界に無いから、僕は魔法を使えないのかもしれない。
でも、確証があるわけではない。
「僕にはわからないよ」
僕の答えに、エニグマは納得した。
「だろうね。使えるのならば理由がわかるかもしれないが、使えないのだからわかるはずがない。これは、聞いた僕が悪かったね」
エニグマは軽く首を横に倒して、すぼめた肩に寄せた。
「では話を元に戻そう。君は事故をきっかけにこちらの世界に転移した。そうだね?」
僕はうなずいた。
「そう。事故で意識を失い、目が覚めたらこちらの世界に転移していたよ」
「そのとき、君の人格は入れ替わった。そうだね?」
やはりそうくるか。
仕方ない。答えるしかない。
「そうだと思う」
僕は最後の抵抗で、少しだけ曖昧な言い方をした。
だが、エニグマはそれを許さなかった。
「うん?その言い方だと確定ではないみたいだけど?」
僕は観念して首を横に振った。
「いや、間違いない。間違いなくそのときに人格が入れ替わった。これでいい?」
エニグマは満足げにうなずいた。
「ああ。今後も出来るだけ発言は正確に頼むよ」
わざとらしく釘を刺された。
嫌味なやつだ。
だが僕はそんなことはおくびにも出さずに答えた。
「ああ、わかったよ」
エニグマはまたも満足げにうなずくと、質問を続けた。
「そのとき現れた別人格は、以前から君の中にいたのかい?」
僕は少しだけ考えた。
「……いや、そのときが初めてだと思う。いや、正確に言うんだったな……ああ、間違いなくそのときが初めてだ」
「ありがとう。では次の質問だが……」
エニグマはそこで言い淀んだ。
そして、少しだけ考えてから言った。
「少し僕からの質問ばかりが続いているけど、構わないかい?」
案外そういうこと気にするんだな。
僕は意外に思いながらもうなずいた。
「構わない。僕も質問するときは矢継ぎ早になるだろうし。気になることはその都度解決したいから」
エニグマは、僕のこの回答を嬉しそうに何度もうなずきながら聞いた。
「それはありがたいし、同感だ。もちろん、君の質問の際も、続けてくれて構わないよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「では質問に戻るけど、その別人格は何故そのとき出てきたと思う?」
来た。
けど仕方がない。
どうせいずれはこの質問になるだろうし。
僕は覚悟を決めると、ゆっくりと口を開く。
「僕の脳が必要だと判断したんだと思う」
エニグマが目を細める。
「ほう、脳がね……。それは何故かな?」
僕は大きく息を吸い込み、次いでゆっくりと息を吐き出す。
そして気持ちを整えると、ゆっくりと言った。
「僕の心が現実に耐え切れないと脳が判断したんだろう。だから、本来の僕を秘密の部屋に閉じ込め、別人格を生み出したんだろうと思っているよ」
あちらの世界に無いから、僕は魔法を使えないのかもしれない。
でも、確証があるわけではない。
「僕にはわからないよ」
僕の答えに、エニグマは納得した。
「だろうね。使えるのならば理由がわかるかもしれないが、使えないのだからわかるはずがない。これは、聞いた僕が悪かったね」
エニグマは軽く首を横に倒して、すぼめた肩に寄せた。
「では話を元に戻そう。君は事故をきっかけにこちらの世界に転移した。そうだね?」
僕はうなずいた。
「そう。事故で意識を失い、目が覚めたらこちらの世界に転移していたよ」
「そのとき、君の人格は入れ替わった。そうだね?」
やはりそうくるか。
仕方ない。答えるしかない。
「そうだと思う」
僕は最後の抵抗で、少しだけ曖昧な言い方をした。
だが、エニグマはそれを許さなかった。
「うん?その言い方だと確定ではないみたいだけど?」
僕は観念して首を横に振った。
「いや、間違いない。間違いなくそのときに人格が入れ替わった。これでいい?」
エニグマは満足げにうなずいた。
「ああ。今後も出来るだけ発言は正確に頼むよ」
わざとらしく釘を刺された。
嫌味なやつだ。
だが僕はそんなことはおくびにも出さずに答えた。
「ああ、わかったよ」
エニグマはまたも満足げにうなずくと、質問を続けた。
「そのとき現れた別人格は、以前から君の中にいたのかい?」
僕は少しだけ考えた。
「……いや、そのときが初めてだと思う。いや、正確に言うんだったな……ああ、間違いなくそのときが初めてだ」
「ありがとう。では次の質問だが……」
エニグマはそこで言い淀んだ。
そして、少しだけ考えてから言った。
「少し僕からの質問ばかりが続いているけど、構わないかい?」
案外そういうこと気にするんだな。
僕は意外に思いながらもうなずいた。
「構わない。僕も質問するときは矢継ぎ早になるだろうし。気になることはその都度解決したいから」
エニグマは、僕のこの回答を嬉しそうに何度もうなずきながら聞いた。
「それはありがたいし、同感だ。もちろん、君の質問の際も、続けてくれて構わないよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「では質問に戻るけど、その別人格は何故そのとき出てきたと思う?」
来た。
けど仕方がない。
どうせいずれはこの質問になるだろうし。
僕は覚悟を決めると、ゆっくりと口を開く。
「僕の脳が必要だと判断したんだと思う」
エニグマが目を細める。
「ほう、脳がね……。それは何故かな?」
僕は大きく息を吸い込み、次いでゆっくりと息を吐き出す。
そして気持ちを整えると、ゆっくりと言った。
「僕の心が現実に耐え切れないと脳が判断したんだろう。だから、本来の僕を秘密の部屋に閉じ込め、別人格を生み出したんだろうと思っているよ」
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