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二百九十話 到着7
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「あんた達も強くなったね......
それともあたしが老いただけか。」
「後者でしょう。元隊長様。」
「そうかい......まさか、元部下の
あんた達に負ける日が来ようとわ。」
謎の集団の待ち伏せにあった老婆と
付き添い人の回復魔法士二人は、
数に圧倒され敗北してしまった。
「私以外の者は村の人々の救助に
向かいなさい!」
「はい!」
そして、その謎の集団の正体は
回復魔法士で、全員が女性だった。
「それでは、これは返してもらいます。」
集団のリーダーらしき女性は、
倒れている老婆からレッドブックを
奪い取り、パラパラと中身を見て、
本物であることを確認する。
「政府にでも命じられたかい?」
「......」
「あんた達がその
本を手にしたところで、何も使えや
しないよ。」
「それはあなたも同じです。」
「ヒッヒヒ......あたしはその本に
記されている魔法が使いたくて
盗んだわけじゃないよ。」
「では、なぜです?」
「......魅了されたからだよ。」
「魅了?」
「ああ。それより、今の回復魔法士の
隊長はあんたかい?」
「そうです。ですが、四、五年も
すればあなたのお孫さんが私のレベル
を超して、隊長の座につくでしょう。」
「......そうかい......あの子は
努力家だからねぇ。きっと
いい回復魔法士になれるさ。」
刻々と、老婆達のいる森にも火が
回り始め、煙が辺りを覆う。
呼吸がしずらくなった老婆は
最後にこう言い残して息を
引き取った。
「けれど、あの子にもレッドブック
は使えこなせないだろうね......」
【教会】
「回復魔法士様!! どこですか!!」
誰もいない教会に、ルドルフの声が
響き渡る。
「兄さん......もう外も火が回ってるよ......」
「大丈夫だ......リオンは僕が守る。」
そうは言っても、直にここも火の海に
なるだろう。
どうする......どこに行けば......
そうこうしているうちに、
教会にも火が回ってきた。
「兄さん......!」
こうなったら...!
ルドルフは意を決して、リオンの
手を引き教会から出る。
吸い込むだけで肺が焼けそうな
空気の中、ルドルフは必死に
リオンの手を握っていた。
「あああああっ!!!!!!」
だが、焼け落ちてきた家の残骸が、
リオンに直撃してしまい、
リオンはうめき声を上げた。
「リオン!!!」
「にぃ...さん!! いたぃ......痛いよ......」
何とかリオンを火の中から
助け出したものの、リオンは
顔と腕に酷い火傷を負っていた。
髪は抜け、皮膚は爛れている。
そんな弟を見て、ルドルフは
必死に叫んだ。
「回復魔法士様!! 助けて!!
お願いします!! どうか弟を!!」
痛みで震えている弟を
抱きしめて、声が枯れるまで
叫び続けた。
その声が届いたのか、火の中から
三人の回復魔法士達が現れた。
「生存者よ!」
「あ、あなた方は......?」
「もう安心して。私達は
回復魔法士よ。」
生まれてからずっと、神と
信じてきた回復魔法士が
今、目の前にいる。
よかった。これでリオンは......
「弟が......」
ルドルフは、抱きしめていた
リオンの容態を回復魔法士達に
見せる。
が、ここで回復魔法士達は
黙りこくってしまった。
「あ、お金なら......ここに......」
ルドルフは母から受け取った
お金を回復魔法士達に渡す。
が、それでも誰も口を開こうと
しない。
「早く治療を! でないとリオンが──」
「よく聞いて......坊や。
私達の使える回復魔法じゃ、
この子はもう救えないわ。」
「え?」
「......もうこの子は......手遅れなのよ......」
気がつけば、リオンは
一言も声を発しなくなっており、
ルドルフの服を握っていた
手にも力が入っていなかった。
「で、でも......回復魔法士様は、
金を貰えればどんな怪我や
病気も治せるって──」
「ごめんね......どんな怪我や病気も
治せる回復魔法士なんていないのよ.......
私達にできるのは、精々擦りむいた傷や
ひびの入った骨を治すことくらいなの。」
ルドルフは彼女達の言っている事が
理解できなかった。
なんでこの人達は嘘をついているんだ。
回復魔法士様は神にも
等しいのに。
ああ......そうか......
お金が足りないのか......
だから、リオンを助けてくれないんだ。
だったら......
「僕の命を......」
「?」
「僕の命をあげますから、どうか
弟だけは......リオンだけでも
助けてください......」
ルドルフは回復魔法士の服を
掴んで、泣きながら懇願する。
「僕は死んでもいいから......
リオンを......どうか......どうか......」
ルドルフは煙を吸いすぎたことに
より、ここで意識を失った。
「ごめんね......坊や......ごめんね。」
ルドルフの元に駆けつけた
回復魔法士達はルドルフと
リオンの遺体を抱えて
村を脱け出したのだった。
それから、三日後にルドルフは
目を覚まし、全てを知った。
今まで自分は騙されていたことを。
自分達の村に火を放ったのは
あの回復魔法士だったことを。
回復魔法士達の騒動に
巻き込まれて、家族が死んだこと。
村は跡形も無く、燃え尽きたこと。
そして、リオンが無力な
回復魔法士達のせいで、
苦痛の末に死んだことを。
ルドルフは知ったのだった。
それともあたしが老いただけか。」
「後者でしょう。元隊長様。」
「そうかい......まさか、元部下の
あんた達に負ける日が来ようとわ。」
謎の集団の待ち伏せにあった老婆と
付き添い人の回復魔法士二人は、
数に圧倒され敗北してしまった。
「私以外の者は村の人々の救助に
向かいなさい!」
「はい!」
そして、その謎の集団の正体は
回復魔法士で、全員が女性だった。
「それでは、これは返してもらいます。」
集団のリーダーらしき女性は、
倒れている老婆からレッドブックを
奪い取り、パラパラと中身を見て、
本物であることを確認する。
「政府にでも命じられたかい?」
「......」
「あんた達がその
本を手にしたところで、何も使えや
しないよ。」
「それはあなたも同じです。」
「ヒッヒヒ......あたしはその本に
記されている魔法が使いたくて
盗んだわけじゃないよ。」
「では、なぜです?」
「......魅了されたからだよ。」
「魅了?」
「ああ。それより、今の回復魔法士の
隊長はあんたかい?」
「そうです。ですが、四、五年も
すればあなたのお孫さんが私のレベル
を超して、隊長の座につくでしょう。」
「......そうかい......あの子は
努力家だからねぇ。きっと
いい回復魔法士になれるさ。」
刻々と、老婆達のいる森にも火が
回り始め、煙が辺りを覆う。
呼吸がしずらくなった老婆は
最後にこう言い残して息を
引き取った。
「けれど、あの子にもレッドブック
は使えこなせないだろうね......」
【教会】
「回復魔法士様!! どこですか!!」
誰もいない教会に、ルドルフの声が
響き渡る。
「兄さん......もう外も火が回ってるよ......」
「大丈夫だ......リオンは僕が守る。」
そうは言っても、直にここも火の海に
なるだろう。
どうする......どこに行けば......
そうこうしているうちに、
教会にも火が回ってきた。
「兄さん......!」
こうなったら...!
ルドルフは意を決して、リオンの
手を引き教会から出る。
吸い込むだけで肺が焼けそうな
空気の中、ルドルフは必死に
リオンの手を握っていた。
「あああああっ!!!!!!」
だが、焼け落ちてきた家の残骸が、
リオンに直撃してしまい、
リオンはうめき声を上げた。
「リオン!!!」
「にぃ...さん!! いたぃ......痛いよ......」
何とかリオンを火の中から
助け出したものの、リオンは
顔と腕に酷い火傷を負っていた。
髪は抜け、皮膚は爛れている。
そんな弟を見て、ルドルフは
必死に叫んだ。
「回復魔法士様!! 助けて!!
お願いします!! どうか弟を!!」
痛みで震えている弟を
抱きしめて、声が枯れるまで
叫び続けた。
その声が届いたのか、火の中から
三人の回復魔法士達が現れた。
「生存者よ!」
「あ、あなた方は......?」
「もう安心して。私達は
回復魔法士よ。」
生まれてからずっと、神と
信じてきた回復魔法士が
今、目の前にいる。
よかった。これでリオンは......
「弟が......」
ルドルフは、抱きしめていた
リオンの容態を回復魔法士達に
見せる。
が、ここで回復魔法士達は
黙りこくってしまった。
「あ、お金なら......ここに......」
ルドルフは母から受け取った
お金を回復魔法士達に渡す。
が、それでも誰も口を開こうと
しない。
「早く治療を! でないとリオンが──」
「よく聞いて......坊や。
私達の使える回復魔法じゃ、
この子はもう救えないわ。」
「え?」
「......もうこの子は......手遅れなのよ......」
気がつけば、リオンは
一言も声を発しなくなっており、
ルドルフの服を握っていた
手にも力が入っていなかった。
「で、でも......回復魔法士様は、
金を貰えればどんな怪我や
病気も治せるって──」
「ごめんね......どんな怪我や病気も
治せる回復魔法士なんていないのよ.......
私達にできるのは、精々擦りむいた傷や
ひびの入った骨を治すことくらいなの。」
ルドルフは彼女達の言っている事が
理解できなかった。
なんでこの人達は嘘をついているんだ。
回復魔法士様は神にも
等しいのに。
ああ......そうか......
お金が足りないのか......
だから、リオンを助けてくれないんだ。
だったら......
「僕の命を......」
「?」
「僕の命をあげますから、どうか
弟だけは......リオンだけでも
助けてください......」
ルドルフは回復魔法士の服を
掴んで、泣きながら懇願する。
「僕は死んでもいいから......
リオンを......どうか......どうか......」
ルドルフは煙を吸いすぎたことに
より、ここで意識を失った。
「ごめんね......坊や......ごめんね。」
ルドルフの元に駆けつけた
回復魔法士達はルドルフと
リオンの遺体を抱えて
村を脱け出したのだった。
それから、三日後にルドルフは
目を覚まし、全てを知った。
今まで自分は騙されていたことを。
自分達の村に火を放ったのは
あの回復魔法士だったことを。
回復魔法士達の騒動に
巻き込まれて、家族が死んだこと。
村は跡形も無く、燃え尽きたこと。
そして、リオンが無力な
回復魔法士達のせいで、
苦痛の末に死んだことを。
ルドルフは知ったのだった。
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