3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

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二百八十二話 ヨーテルと長老5

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「な、なんで......どうして......」


長老は地面に座り込んでいる
ヨーテルに、手を差しのべたが、
ヨーテルはそれを叩いた。


「なんで助けたのよ! 私に
あんなことされたのに!
私は! 私は──」


「落ち着くんじゃ、ヨーテルちゃん。」


長老は振り払おうするヨーテルの
手を抑えて、じっと目を見る。


「......何しに来たのよ......」


「それはお主を助けに──」


「は!? 助けにですって!?
嘘つかないでよ!
あんたが私を助けて何の得があるって
言うの! ああ、わかった。名誉の為?
哀れで馬鹿な女を助けたって
皆に賞賛されたいんでしょ!
だから私なんかを──」


その時、長老はギュッと
ヨーテルを抱き締める。
ヨーテルは何が起きたのか理解
できなかった。


「かわいそうに......
一人で努力してきたんじゃろ。
もう安心せい。たとえ、他の者が
お主の才を疎もうと、これからは
わしがお主の理解者になる。」


ただ、その暖かい温もりだけが
力んだ体をほぐしていく。


「な、なに言って......るのよ......」


「お主は才能が有るばかりに、
皆に疎外されてきた。そうじゃな?」


「......」


右手に握りしめていた魔法書も
地面に落ちる。


「私は......見返してやるのよ。
私を捨てた家族や私を馬鹿にした
弱者共を......」


「そう行き急ぐな、若者よ。
お主にはまだ時間がたくさんある。
ゆっくりでいいんじゃ。
ゆっくり力をつけていけばいい。」


「......」


人に抱き締められるなんて
何年ぶりだろう。


ヨーテルは母親に抱き締められた
ころの記憶を思い出す。


忘れていたわ......この温もり......


「でも......町に戻ればあいつらが
また私を馬鹿にするわ......」


「それなら、わしとレルバ城に
来なさい。」


「え?」


「もともとわしはお主をレルバ城に
招待するために来たんじゃ。」


「ど、どういうこと?」


「この町に並外れた力を持った
少女がおると噂を聞いての。
今は少しでも戦力を集めなけば
いけない時じゃ。お主も知っておる
じゃろ?」


「それって魔族との戦争が激化してる
ってこと?」


「そうじゃ。そこでお主を
わしが呼びに来たんじゃ。
城に来ればお主のような
逸材が多くおる。
だから、お主を馬鹿にするような
やからもおらん。
どうじゃ? わしと来ないか?」


そう言って長老は再びヨーテルに
手を差しのべる。
しかし、ヨーテルはまたその手を
叩いた。
一瞬断られたかと思った長老だったが


「ま、まあ......そんなに言うなら行って
あげてもいいわよ。」


と、こちらを見ないで恥ずかしそうに
言うヨーテルの顔を見て安心した。


「それじゃ、行くかの。」


「い、今から!?」


「うむ。」


「......わかったわよ......
そう言えばあんた、名前は?」


「皆はわしを長老と呼んでおる。」


「そう......長老!」


長老はヨーテルの力のこもった声に
振り向く。


「私は長老が私より強いことを
認めてあげる。」


すると、ヨーテルは小走りで顔が
見えないように長老よりも前を歩く。


「その代わり! 私以外の
誰かに負けないで! 私が長老を
超すまで、あなたは最強の存在で
いて! 約束よ!!!」


バッと振り向いたヨーテルの顔は、
恥ずかしそうに赤面していたが、
どこか嬉しそうでもあった。
その顔を見て、長老は顔をほころばせて


「......約束じゃ......」


と言ったのだった。







                   【魔王城】



「どうして......こんなに......こんな
に胸が痛いの......?」



カクバ達が魔王と戦いを繰り広げて
いる中、ヨーテルには経験した事の
無い悲しみと喪失感が押し押せて
いた。


「......許さないわ......
絶対に魔王だけは!!!!!!」


そして、それは怒りに変わるのだった。



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