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二百三十七話 五年前3
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「兄様!」
タチアナの後を追って外に出れば、
そこにはタチアナの兄ちゃんと
あともう一人、目に隈ができている
女性が立っていた。
どうやら今から二人で調査に行く
様子だったらしい。
「? どうしたのだ──」
そうタチアナの兄ちゃんが
口にしようとした時、その
目に隈ができている女性が
「タチアナ!」
とタチアナに激突した。
それをタチアナはまるで犬でも
あやすかのように、慣れた手つきで
受け止める。
「どうどう。」
「おい、その勢いで妹に
飛び付くな。」
「大丈夫だよ......ね?」
その女性は上目遣いでタチアナに
尋ねると、ややため息混じりにタチアナ
は答えた。
「鬼灯。私は構わないが
いつか自分の頭を強打する
かもしれないぞ。」
「平気......私頭......丈夫。」
そう言ってタチアナの胸に
顔を埋める様子を見ると、
相当彼女はタチアナに懐いている
らしい。
俺がそう思っていると、彼女は
タチアナの胸からぱっと顔を
上げ、こちらに目をやる。
「......誰?」
「彼は私の友人で隼人と
言うものだ。選抜試験で
見ただろう? 回復魔法士の中で
唯一の男だったから皆で
注目していたではないか。」
「ふーん......」
タチアナに鬼灯と呼ばれた彼女は、
これっぽっちも俺に興味を示さず
再びタチアナの胸に抱きつく。
その無愛想な反応に俺は
えぇ......と困惑していると
「妹がジュラ島で君に世話に
なったようだな。」
タチアナの兄ちゃんが俺に
近寄って来て親切に握手を
求めてくる。
その手を少し戸惑いながらも
俺は握った。
「バーゼン・ルーベルトだ。」
「ど、どうも。」
「兄として君に礼を言うのだよ。
ありがとう。」
そのあまりの礼儀正しさに
どこか高貴な雰囲気を感じながら
「いえ。」
と簡単な返事を返した。
「......タチアナが......世話になった?」
すると、何か引っ掛かったのか、
鬼灯はこちらに顔を向ける。
「聞いていなかったのか?
昨日、俺たちにジュラ島での
ことを言っていたのだよ。」
「......言ってた?」
「私はちゃんと説明したぞ。
私は彼と共にジュラ島から
はぐれた仲間と合流したんだ。
鬼灯は兄様達と私や彼を探して
いてくれていたのだろう?」
「......そう......だった......かも。」
未だにタチアナに抱きつきながら
必死にこれまでの記憶を探って
いる鬼灯は、はっと顔を上げた。
「......て......ことは......タチアナ。」
「?」
「タチアナは......あの男と......
ずっと一緒に......いた?」
「そうだ。」
「よ、夜も.....?」
「一夜だけだが、ジュラ島では
隼人と一緒だったな。」
おい、もう止めとけって......なんか
嫌な予感するって......
俺はそう心の中でタチアナに
それ以上意味深なことを言うなと
叫んでいたが、当のタチアナは
何故こんなことを聞くんだ?
とばかりに鬼灯に返答していく。
「そ、そう言えば......タチアナの
鎧がジュラ島に......あったけど......
何で?」
「あー、あれか。後で聞いたんだが
彼が脱がし──」
その言葉を聞いて、鬼灯が
自分の懐から刀を取り出すのが
俺の目にははっきり見えた。
タチアナの後を追って外に出れば、
そこにはタチアナの兄ちゃんと
あともう一人、目に隈ができている
女性が立っていた。
どうやら今から二人で調査に行く
様子だったらしい。
「? どうしたのだ──」
そうタチアナの兄ちゃんが
口にしようとした時、その
目に隈ができている女性が
「タチアナ!」
とタチアナに激突した。
それをタチアナはまるで犬でも
あやすかのように、慣れた手つきで
受け止める。
「どうどう。」
「おい、その勢いで妹に
飛び付くな。」
「大丈夫だよ......ね?」
その女性は上目遣いでタチアナに
尋ねると、ややため息混じりにタチアナ
は答えた。
「鬼灯。私は構わないが
いつか自分の頭を強打する
かもしれないぞ。」
「平気......私頭......丈夫。」
そう言ってタチアナの胸に
顔を埋める様子を見ると、
相当彼女はタチアナに懐いている
らしい。
俺がそう思っていると、彼女は
タチアナの胸からぱっと顔を
上げ、こちらに目をやる。
「......誰?」
「彼は私の友人で隼人と
言うものだ。選抜試験で
見ただろう? 回復魔法士の中で
唯一の男だったから皆で
注目していたではないか。」
「ふーん......」
タチアナに鬼灯と呼ばれた彼女は、
これっぽっちも俺に興味を示さず
再びタチアナの胸に抱きつく。
その無愛想な反応に俺は
えぇ......と困惑していると
「妹がジュラ島で君に世話に
なったようだな。」
タチアナの兄ちゃんが俺に
近寄って来て親切に握手を
求めてくる。
その手を少し戸惑いながらも
俺は握った。
「バーゼン・ルーベルトだ。」
「ど、どうも。」
「兄として君に礼を言うのだよ。
ありがとう。」
そのあまりの礼儀正しさに
どこか高貴な雰囲気を感じながら
「いえ。」
と簡単な返事を返した。
「......タチアナが......世話になった?」
すると、何か引っ掛かったのか、
鬼灯はこちらに顔を向ける。
「聞いていなかったのか?
昨日、俺たちにジュラ島での
ことを言っていたのだよ。」
「......言ってた?」
「私はちゃんと説明したぞ。
私は彼と共にジュラ島から
はぐれた仲間と合流したんだ。
鬼灯は兄様達と私や彼を探して
いてくれていたのだろう?」
「......そう......だった......かも。」
未だにタチアナに抱きつきながら
必死にこれまでの記憶を探って
いる鬼灯は、はっと顔を上げた。
「......て......ことは......タチアナ。」
「?」
「タチアナは......あの男と......
ずっと一緒に......いた?」
「そうだ。」
「よ、夜も.....?」
「一夜だけだが、ジュラ島では
隼人と一緒だったな。」
おい、もう止めとけって......なんか
嫌な予感するって......
俺はそう心の中でタチアナに
それ以上意味深なことを言うなと
叫んでいたが、当のタチアナは
何故こんなことを聞くんだ?
とばかりに鬼灯に返答していく。
「そ、そう言えば......タチアナの
鎧がジュラ島に......あったけど......
何で?」
「あー、あれか。後で聞いたんだが
彼が脱がし──」
その言葉を聞いて、鬼灯が
自分の懐から刀を取り出すのが
俺の目にははっきり見えた。
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