3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

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百三十四話 誓い4

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青く光る海のなかを、私は
自慢の尾びれをひねらして、
泳ぎ回る。


けれど、あるところでその光は
消えてしまう。


「あとこの辺りに植えれば、
完成ね。」



私はすいすいと海面から出て、
小さな海の真ん中にある小さな
岩に腰掛ける。



「姫様。」


私が濡れた髪を乾かしていると、
彼の声がした。


「ナギ?」


「また今日も来ていたんですね。
あまり頻繁にここに来ては、
魚人の皆さんが心配してしまいますよ。」


「いいじゃない。王室での生活は
楽しくないもの。ここでこうやって
のんびりしないと、過労死して
しまいそうよ。それよりも、
今日も持ってきてくれた?」


「はい、ここに。」


ナギは手に持った多くのファラリオを
まだ植えていない海の場所に、海に潜って
淡々と植えていく。


それを見た私は再び海に潜って彼に
近寄る。


人は水の中では呼吸ができないらしい。
なんとも嘆かわしい体だけど、彼は
それを全くもろともしないで、
私が近寄ってくるのを見ると、
軽く笑って泳いで逃げた。


私はそれを追いかける。


流石に人である彼が尾びれを持った
私から逃げれる訳がない。
これは単なるお遊びだった。


「はい、捕まえた。次はナギが鬼ね。」


「......別に僕は遊んでいるわけでは
ありませんよ。」



そう言うと彼は海から上がる。


改めて彼を見ると、出会ったころ
から随分と成長した。


人魚や魚人族と比べると人の成長は
とても早いし、本当にあっという間に
彼は成人をむかえた。


今ではガッチリとした青年と
なっている。


ナギは海から上がるとその場に
座り込む。
私もその隣によっこいしょと陸に
不向きな尾びれで座った。



「大きくなったね......ナギ。」


「そうでしょうか......僕にはあまり実感が
わきませんが......」



「出会ったころの貴方は
弱々しくてプルプル震えていたのよ。」


「そんな時もありましたね......
ですが......」


彼は何かを言おうとして口を
もごもごさせる。


「? どうしたの?」


すると突然彼は震える手で
私の手を握ってきた。


「姫様。誓います。どんなことが
あっても、僕はあなたを守ると。」


彼は顔を真っ赤にしている。


「す、すみません! 僕なんかが
人魚姫様に対してこんな無礼なこと──」


「ううん、嬉しい。」


最初はただ話し相手が欲しかっただけ
なんのかもしれない。
だけど、彼とここで、誰もいない
秘密の場所で接していくうちに、私は
ナギという人間に恋をした。


そのことを彼は気づいているのか
いないのか、ナギは私の言葉に
心底嬉しそうに笑ってくれた。


人魚が人と恋をする。
そんなのいままで聞いたこともないし、
他の人に言えるはずもない。


だけど、ここだけでいい。
この秘密の場所で、ナギに
こうやって寄り添えるだけでいい。




私はそれだけで、幸せだった。







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