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『終わりの始まり』

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「警察呼ぶ──よ」
 言葉を飲み込みそうになったのを無理に吐き出した。
 ガラスに背を預けていた少女は少女ではなく、少年だった。
 背丈は私よりも高く、不安げに揺れる瞳や眉は凛々しい。男だと理解するのにそう時間はかからなかった。
 だが、その場にいる誰よりも可憐で美しい。
 心臓の動悸が脳みそをスピーカーにして、身体中に響き渡った。
 しかし、私は、この場においては、大人であらねばならなかった。自分の感情ごと唾をごくりと飲み込んで、努めて冷淡な顔で高校生たちへ向き、帰宅を促す。
 ただ一人残された私は、感情の整理がつかぬままに呆然と一回り大きなセーラー服を見つめていた。
 やがてその姿が米粒よりも小さくなった頃、コンクリートを汚している乾いた血痕が酷く憎たらしくて、新品のスニーカーでぐりぐりと踏みつぶしては舌打ちをした。
 私は端麗な少年のあの表情、恐れを抱いたあの顔を忘れることは出来ないのだろう。
 いっそ、次は私の手で、あの顔が見たい。
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