君を想う

ゆっけ

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婚約者編

ⅩⅩⅩⅨ

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 未だ腕の中で眠るヴァレンティーナは泰然自若として、いつも余裕綽々としていた。そんな彼女が、自分の事で動揺していたのを聞いて、愛しさが込み上げる。

「その後は、服を脱がして意識の無いジルベルト君を風呂に入れて、ちゃんと生きているのか確認したいからと上だけ裸にして、ヴァレンティーナ自身は君の匂いがするからと君のシャツを着て、ジルベルト君に密着して、鼓動を聞きながら眠ったんだよ」

(返して!僕のトキメキ!!)

 両手が使えないので、ヴァレンティーナの髪に顔を埋めて羞恥心でいっぱいの自分を隠す。途端に良い匂いに包まれる。

「…んにゃ、じる?」

 寝起き特有の寝ぼけ眼のヴァレンティーナが、舌足らずにジルベルトを呼ぶ。くしくしと目を擦る。

(なんだ!この可愛い生き物!!)

「おや、起きたのか」

「お父様なんて一生寝てれば良いよ」

「永眠かな?」

「ジルの婚約の許可なんか出すなんて、と(トンプソン・コンテンダー)う(ウォー・ハンマー)ふ(ファルシオン)の(ノルマン・ヘルム)か(カンテル)ど(ドール・バシュ)に頭をぶつければ良いのにね」

「射殺!撲殺!斬殺!兜!?馬鎧!?刺殺!酷いよ!!なんで兜と鞍が入ってるの!!それだと私は頭から武器を生やして背中に鞍乗せてる変わった人じゃないか!!!」

 ジルベルトは頭から武器を生やして背中に鞍を乗せてるグレンを想像した。
 武器が生えている事で重いのかグラグラしている頭に亀の甲羅のように背負った鞍。

 なんか、楽しそうに笑っているグレンが変なポーズしている所まで想像して苦笑した。

「違うよ」

「そうだよね。私は変な人じゃないものね」

「四つん這い」

「そこ!?体勢はそれなの!!」

「上には大仏でも乗せようか」

「私、潰れちゃうよ!!圧殺させたいのかな!?」

 頭に武器を生やしている時点で普通死んでいるんじゃないのかな?とは言わない。
 二人の会話はなのだと確信しているので口を出さないで見守るジルベルト。

「そうだね」

「そこは否定しようよ!!娘でしょ!!私、泣くよ!!!」

「……」

「無視されたぁ!!娘が酷いぃぃ!!!」

 大泣きしながら、部屋から出ていったグレンを憐れに思ったジルベルトは、ヴァレンティーナを叱る。

「ティーナ、駄目だよ。グレン様が可哀想じゃないか」

「ごめんよ」

 ヴァレンティーナはジルベルトに抱きつき、胸に擦り寄る。ヴァレンティーナの柔らかな胸が押し付けられ、彼女の体温が伝わる。彼女には珍しい甘えるような仕種が可愛くて、優しく抱き込んだ。

「もう少し寝る?」

「……うん」

 背中をゆっくり撫でていると穏やかな寝息が聞こえてきた。
 自分の腕の中で安心して眠るヴァレンティーナに胸の奥がじんわりと温かくなった。ジルベルトもヴァレンティーナの体温が心地好くて、また眠くなってきた。

「……」

 欠伸を噛み殺すが、徐々に目蓋が下りてくる。意識もぼんやりとしてきた。
 このまま寝てしまおうと完全に目蓋を閉じ、意識を手放した。



「……………」

 次に目を覚ますとヴァレンティーナがジルベルトを押し倒していた。
 ヴァレンティーナの結われていない髪がジルベルトを囲う。金色の檻に閉じ込められているみたいだと感じた。

「ティーナ?」

 頬にキス。

「ティーナさん?」

 鼻にキス。

「ティーナ様?」

 目蓋にキス。

「何してるの?」

 唇にキス。

「おはようのキスだよ」

 また唇にキス。

「そうなの。なんで僕、押し倒されてるの?」

 ちょっと長めにキス。

「押し倒してないよ」

「でも、手を拘束されてるのはなんでかな?」

「ん~…」

 ジルベルトの上に乗って手をベッドに押し付けているヴァレンティーナ。

「もう、他の女に取られたくないからね。私のものにするんだよ」

「それ普通は男が言う台詞じゃない?」

「そうかい?」

 不思議そうに首を傾げているヴァレンティーナ。ジルベルトは拘束されていた手を退かす。
 優しくヴァレンティーナの頭と腰を固定すると身体を入れ換える。

「えっ」

 今度は、ヴァレンティーナが押し倒される形になった。あまりの早業に吃驚しているヴァレンティーナ。

「結婚式延期になっちゃったそうだね」

 素直に頷くヴァレンティーナに瞳を潤ませ、目の周りがほんのりと赤く染まったジルベルトが、どこか色っぽく笑い、彼女の桃色の唇にキスする。

「ジル?あの…」

 いつものジルベルトには無い雰囲気に戸惑うヴァレンティーナ。
 彼は優しくて、いつも困ったような顔ばかりしていたのに今はどうだ。仕種の一つ一つが艶かしい。

「本当は結婚式まで待つつもりだったんだけど、もう良いよね?ティーナも期待してるみたいだしね」

「え?え?あの、ジル?」

「僕のシャツだけしか着てないヴァレンティーナは凄く無防備で可愛いね」

 うっとりと微笑み、ヴァレンティーナの顎のラインを人差指で撫でていく。その仕種に頬を染めるヴァレンティーナ。

「ジル?手馴れてない?」

「うん?そう?」

 顎のラインを撫でていた指は今度は首をなぞっていく。

「あのライラ嬢と体の関係を持ったのかい?」

「だとしたら?」

「彼女にも…こんな…」

 話ながらもヴァレンティーナの身体をなぞる手は止めないジルベルト。
 首をなぞっていた指は、鎖骨を撫で、ゆっくりとシャツの間から焦らすように手を入れていく。

 ヴァレンティーナの身体をゾクゾクとした感覚が走り、時折、ビクッと身体が跳ねる。頬を真っ赤に染め、潤んだ藍色の瞳は、確かに熱を孕み始める。

「ヴァレンティーナ」

 ジルベルトはヴァレンティーナを呼ぶ。どこか陶然としたヴァレンティーナが、潤む瞳でジルベルトを見上げる。

「好きだよ。愛してる。これからもずっとね。だから…」

 愛を囁き、ヴァレンティーナへキスの雨を降らせ、ヴァレンティーナの唇を舐める。ビクッと身体が跳ね、唇が少し開かれる。逃す隙を与えずにジルベルトは舌を差し込むとヴァレンティーナの甘い口内を味わう。

 舌を絡めながらもヴァレンティーナが着ているシャツのボタンを外していく。
 一度唇を離し、舌舐めずりすると妖艶に笑い、ぽつりと呟いた。

「やっと手にいれた」

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