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婚約者編
ⅩⅩⅩⅤ
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ジルベルトは準備ができるまで自分の部屋で待っていて欲しいと言い、ヴァレンティーナを部屋に残して、侍女や下働き達にヴァレンティーナが泊まるから用意して欲しいと伝えた。それを聞いた使用人達は、一瞬呆け、次に嬉しそうにお客様を迎える準備を始めた。
ジルベルトは、厨房へ行くとヴァレンティーナは甘い物があまり得意ではないのだと伝え、ヴァレンティーナが待つ自分の部屋へと引き返した。
部屋ではヴァレンティーナがソファに座って本を読んでいた。
ジルベルトが帰って来たのに気付くと本から顔を上げて、おかえりと言葉を投げ掛けてくれた。
「なんの本読んでるの?」
「特性について書かれた本です」
「難しいの?」
「あまり難しくないです。魔術師なら誰でも持っている自分だけの性質の事を長々と書いただけの物です」
それからは魔法関連の話から逸れ、趣味や好き嫌い、お気に入りスポットなど話していると、ヴァレンティーナの部屋の準備ができたと侍女が呼びに来たので、挨拶を交わして部屋を出ていった。
夕食の席で両親は今日は夜会に出席するのでお留守番をよろしくと言ってきた。
夕食を食べた後、お風呂に入り、後はベッドに入るだけになった。
今日、ヴァレンティーナが同じ屋根の下にいると再確認したジルベルトは顔がにやけて、照れくさくて、胸がドキドキするのを押さえられずにベッドの上をゴロゴロと転がっていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
深夜を回った頃だろうか、ジルベルトは物音で目を覚ました。寝ぼけ眼で起き上がり、まだ働かない頭を一瞬、過ったのは、両親の帰宅という言葉だったが、それならば使用人が出迎えるのでこんなに静かで暗くない筈だと思い、音のした階下へと階段を降りていった。
明かりの灯っていない廊下は薄暗い。
今日は満月で窓から差し込む優しい月明かりだけが足元を照らしていた。
薄暗い影の中で何かが動いているのを感じたジルベルト。恐怖を感じる反面好奇心もまた頭を擡げた。
「誰?」
答えが返ってくる事は期待していないが、ほぼ無意識に聞いてしまう。
「青い薔薇の持ち主かな?」
まさかの返答が返ってきた。誰?に対してのものではなかったが声の主は、ジルベルトとそんなに変わらない年頃の少年のようだ。
「そう…」
「ジル?」
ジルベルトの後ろからヴァレンティーナが近付いてきた。月明りの為か、彼女の着ているシンプルなナイトドレスは薄い青色に見える。
「侵入者ですか」
「そうだ。青い薔薇の持ち主に用がある」
影が蠢き、一人の黒ずくめの衣装の小柄な人物がジルベルトにも見える位置に近付いてきた。
影に隠れているが、まだ侵入者は複数いるみたいだと感じた。
「僕に何の用?」
「青い薔薇を寄越せ」
その言葉で誰からの依頼なのか、直ぐに分かった。
先日のコブトーが、どうしても欲しいと恐らく暗殺者を差し向けて来たのだろう。
それにしては、若い気がする。何故こんな子供を遣わしたのか。
「断る」
「そうだよな」
何処か落胆とも納得とも取れる溜め息を溢す暗殺者に違和感を覚えた。
恐らく彼等にとっては不本意な依頼なのだろう。そう感じるのは、殺気が感じられないからだ。
ジルベルトは、厨房へ行くとヴァレンティーナは甘い物があまり得意ではないのだと伝え、ヴァレンティーナが待つ自分の部屋へと引き返した。
部屋ではヴァレンティーナがソファに座って本を読んでいた。
ジルベルトが帰って来たのに気付くと本から顔を上げて、おかえりと言葉を投げ掛けてくれた。
「なんの本読んでるの?」
「特性について書かれた本です」
「難しいの?」
「あまり難しくないです。魔術師なら誰でも持っている自分だけの性質の事を長々と書いただけの物です」
それからは魔法関連の話から逸れ、趣味や好き嫌い、お気に入りスポットなど話していると、ヴァレンティーナの部屋の準備ができたと侍女が呼びに来たので、挨拶を交わして部屋を出ていった。
夕食の席で両親は今日は夜会に出席するのでお留守番をよろしくと言ってきた。
夕食を食べた後、お風呂に入り、後はベッドに入るだけになった。
今日、ヴァレンティーナが同じ屋根の下にいると再確認したジルベルトは顔がにやけて、照れくさくて、胸がドキドキするのを押さえられずにベッドの上をゴロゴロと転がっていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
深夜を回った頃だろうか、ジルベルトは物音で目を覚ました。寝ぼけ眼で起き上がり、まだ働かない頭を一瞬、過ったのは、両親の帰宅という言葉だったが、それならば使用人が出迎えるのでこんなに静かで暗くない筈だと思い、音のした階下へと階段を降りていった。
明かりの灯っていない廊下は薄暗い。
今日は満月で窓から差し込む優しい月明かりだけが足元を照らしていた。
薄暗い影の中で何かが動いているのを感じたジルベルト。恐怖を感じる反面好奇心もまた頭を擡げた。
「誰?」
答えが返ってくる事は期待していないが、ほぼ無意識に聞いてしまう。
「青い薔薇の持ち主かな?」
まさかの返答が返ってきた。誰?に対してのものではなかったが声の主は、ジルベルトとそんなに変わらない年頃の少年のようだ。
「そう…」
「ジル?」
ジルベルトの後ろからヴァレンティーナが近付いてきた。月明りの為か、彼女の着ているシンプルなナイトドレスは薄い青色に見える。
「侵入者ですか」
「そうだ。青い薔薇の持ち主に用がある」
影が蠢き、一人の黒ずくめの衣装の小柄な人物がジルベルトにも見える位置に近付いてきた。
影に隠れているが、まだ侵入者は複数いるみたいだと感じた。
「僕に何の用?」
「青い薔薇を寄越せ」
その言葉で誰からの依頼なのか、直ぐに分かった。
先日のコブトーが、どうしても欲しいと恐らく暗殺者を差し向けて来たのだろう。
それにしては、若い気がする。何故こんな子供を遣わしたのか。
「断る」
「そうだよな」
何処か落胆とも納得とも取れる溜め息を溢す暗殺者に違和感を覚えた。
恐らく彼等にとっては不本意な依頼なのだろう。そう感じるのは、殺気が感じられないからだ。
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