君を想う

ゆっけ

文字の大きさ
上 下
36 / 46
婚約者編

ⅩⅩⅩⅤ

しおりを挟む
 ジルベルトは準備ができるまで自分の部屋で待っていて欲しいと言い、ヴァレンティーナを部屋に残して、侍女や下働き達にヴァレンティーナが泊まるから用意して欲しいと伝えた。それを聞いた使用人達は、一瞬呆け、次に嬉しそうにお客様を迎える準備を始めた。

 ジルベルトは、厨房へ行くとヴァレンティーナは甘い物があまり得意ではないのだと伝え、ヴァレンティーナが待つ自分の部屋へと引き返した。 

 部屋ではヴァレンティーナがソファに座って本を読んでいた。
 ジルベルトが帰って来たのに気付くと本から顔を上げて、おかえりと言葉を投げ掛けてくれた。

「なんの本読んでるの?」

「特性について書かれた本です」

「難しいの?」

「あまり難しくないです。魔術師なら誰でも持っている自分だけの性質の事を長々と書いただけの物です」

 それからは魔法関連の話から逸れ、趣味や好き嫌い、お気に入りスポットなど話していると、ヴァレンティーナの部屋の準備ができたと侍女が呼びに来たので、挨拶を交わして部屋を出ていった。

 夕食の席で両親は今日は夜会に出席するのでお留守番をよろしくと言ってきた。
 夕食を食べた後、お風呂に入り、後はベッドに入るだけになった。

 今日、ヴァレンティーナが同じ屋根の下にいると再確認したジルベルトは顔がにやけて、照れくさくて、胸がドキドキするのを押さえられずにベッドの上をゴロゴロと転がっていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

 深夜を回った頃だろうか、ジルベルトは物音で目を覚ました。寝ぼけ眼で起き上がり、まだ働かない頭を一瞬、過ったのは、両親の帰宅という言葉だったが、それならば使用人が出迎えるのでこんなに静かで暗くない筈だと思い、音のした階下へと階段を降りていった。

 明かりの灯っていない廊下は薄暗い。
 今日は満月で窓から差し込む優しい月明かりだけが足元を照らしていた。

 薄暗い影の中で何かが動いているのを感じたジルベルト。恐怖を感じる反面好奇心もまた頭を擡げた。

「誰?」

 答えが返ってくる事は期待していないが、ほぼ無意識に聞いてしまう。

「青い薔薇の持ち主かな?」

 まさかの返答が返ってきた。誰?に対してのものではなかったが声の主は、ジルベルトとそんなに変わらない年頃の少年のようだ。

「そう…」

「ジル?」

 ジルベルトの後ろからヴァレンティーナが近付いてきた。月明りの為か、彼女の着ているシンプルなナイトドレスは薄い青色に見える。

「侵入者ですか」

「そうだ。青い薔薇の持ち主に用がある」

 影が蠢き、一人の黒ずくめの衣装の小柄な人物がジルベルトにも見える位置に近付いてきた。

 影に隠れているが、まだ侵入者は複数いるみたいだと感じた。

「僕に何の用?」

「青い薔薇を寄越せ」

 その言葉で誰からの依頼なのか、直ぐに分かった。

 先日のコブトーが、どうしても欲しいと恐らく暗殺者を差し向けて来たのだろう。

 それにしては、若い気がする。何故こんな子供を遣わしたのか。

「断る」

「そうだよな」

 何処か落胆とも納得とも取れる溜め息を溢す暗殺者に違和感を覚えた。
 恐らく彼等にとっては不本意な依頼なのだろう。そう感じるのは、殺気が感じられないからだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...