君を想う

ゆっけ

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婚約破棄編

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「大丈夫だよ。ジルベルトの言葉を信じているよ。…と、言ってるけど?ロイト?」

 レナードは、ジルベルトに向けていた微笑みを消し、振り向き様にロイトへと射るような視線を向けた。
 
「レナード、私達の言葉を信じてくれないの?」

 可愛らしい声でレナードに話しかけたのは、ライラだ。今までロイトの陰で震えていた彼女は、ピンク色の瞳を潤ませてレナードを見詰めるが、レナード本人は不快そうに眉を片方上げている。

「失礼。貴女は?」

 レナードの不快そうな様子に気付かないままに問われたライラは、フワッと花が咲き誇るような笑顔で答えた。

「私はライラです。レナード」

 先程までの儚げな様子から一変、頬を染め、自信に溢れたような振る舞いに益々、レナードは顔を顰める。その表情も一瞬だけで次の瞬間には薄ら笑いを顔に貼り付けるとライラへと向き直る。

「そうですか。では、ライラ嬢。私は、これでも王族です。王族の名を軽々しく呼ばないでいただけるかな」

 いつもは、笑顔を絶やさないレナードが、しっかりと不愉快そうな顔を作り、自分に見惚れるライラに注意する。

「え?」

 レナードの返答が理解できないのか、ライラは一瞬呆けた。
 というのも、初めて会った時にロイトもジョナサンもケネスも彼女が、笑顔で名前を呼ぶだけで頬を染めたからだ。彼女は、その経験則から笑顔で自分が名前を呼ぶと自分に好意を持つと知っていたから今も、また笑顔でレナードの名前を呼んだのだが、彼は好意どころか嫌悪感をライラに示している。

「叔父上!俺の婚約者だぞ!!」

 レナードのあまりの対応にロイトが激昂するが、レナードは、そんなロイトにも咎めるような藍色の瞳を向ける。

「ロイト、彼女は王族ではないのだよ。身分という常識が、まるでわかっていない。私に対しては『様』か『王弟殿下』等の敬称をつけるべきなんだよ。それと身分の低い者は…」

「彼女は、婚約者だ!!」

 顔を赤くし喚きながらレナードに食って掛かるロイトだが、レナードはどこ吹く風で彼の言葉をいなすとロイトを窘める。

「だから、なんだというんだい?ライラ嬢とジルベルトの婚約を勝手に破棄したからと言って、ロイトと婚約はしていないだろう?婚約するのにも様々な手続きをしなければならないがロイトはそれをこの場で正式に行ったのかい?行っていないだろう?ならばライラ嬢はただの男爵令嬢なんだよ。仮にロイトの婚約者だろうと彼女は結婚していない今の状態ではまだ王族ではないんだよ。そんなたかが男爵令嬢が私に話しかけて良いと思っているのかい?本当は話し掛けるのも私からなんだよ。それと上位の者の話を遮ってはいけないよ。これは君に言っているんだよロイト。私は王位継承順位第一位だ。王太子でもないロイトは第二位なのだからね」

「……」

「と、言うけれど私は君と違って王族としての力を無闇に振り回したりしないよ。今回は忠告だけにしておくよ」

 レナードの正論にロイトは反論出来ないでいるのを確認したレナードは、長い睫毛を伏せて顔に影を落とし、嘆息するとジルベルトを組み伏せているケネスに話し掛けた。

「で?君は、いつまで無実のジルベルトを苦しめるんだい?」
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