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第一章ヒューマニ王国編
家出ます(sideドラゴニア帝国)
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それからと言うもの、ジュールは王宮での仕事を即断即決で決済してはノアの元へと通うと言う忙しい日々を過ごした。
「また、来たのか?」
「今日はババロアだよ」
「菓子で釣ろうとしなくとも良いのに…まあ、戴くが」
言葉とは裏腹に嬉しそうにいそいそとババロアを片手に奥へと引っ込むとお茶の用意を始めるノア。
「素直じゃないな」
「何か言ったか?」
その辺に座りながらお茶を待つジュール。積まれてあった本の一冊を手に取り、パラパラと捲っていく。
「ジュール」
「ん?」
お茶をジュールの目の前に置き、自分もその辺へと座るノア。
この家と言うよりは書庫となっている場所に置かれてある書物の数々は冒険譚であったり、過去を紐解く上で重要になるだろう歴史を綴ったものや大昔の生活が垣間見える古い日記などと多岐に渡る。
そんな中でジュールが手に取ったのは古い聖典だった。嘗て女神と共にあったノアの一族が記述されている。
遠い昔、母親から寝物語として聞かされた物語。懐かしく思い、それをパラパラと捲る音をさせながら流し読みしていくジュール。
「吾は………」
話し出そうとして、言葉が出てこないノア。今までの雰囲気とは違う事を察したジュールが文書を追っていた目を上げ、ノアへと視線を移す。
「吾は汝が来るのを楽しみにしている。だが、汝には汝の生活がある。それは分かっておるのだが、汝が此処を出て行く時、吾は確かに寂しいと感じるのだ」
「……」
「悠久を生きた吾の両親はもういない。生まれた時から一人だった我には寂しいや悲しいといった感情は無かった。汝と共に時間を分かつようになればなるほど寂しいと言う感情が大きくなるのだ。我はもう一人は嫌なのだ。汝でなくとも良い…誰でもいい。我と共にいてくれる者は居ないか?」
「やっとか」
「ぬ?」
開いていた本を閉じ、傍らへと置くとジュールはノアへと向き直った。
「寂しいだとか孤独だとかと感じていないのかと思っていたら、一人だったからそんな感情を置きざりにしていただけなんだね。良いよ。私では一緒にいる事は難しいけれど、今度次代が遣って来ると神託が下ったんだ。守護者の一人にノアを選ぶよ。女神様の話だと優しく、飽きない少女だとか…きっとノアの事を頼って、傍に居てくれるよ」
「では吾は此処を出るのか?」
「慣れ親しんだ、この家を出るのは怖いかい?寂しいかい?」
「いや、汝がいる。何より吾を必要としてくれるだろう次代に胸が踊るのだ。どんな少女なのだろうな?」
「そっか」
人懐っこく笑うジュールの笑みに吊られるように笑ったノアの笑顔はとても美しく、可憐だった。
「じゃあ、荷造りする?」
「持つべき物など何もないのでな。この身一つあれば良い」
「そう?じゃ、行こうか」
こうして、孤独なノアはジュールによって殻を破るかの如く、生まれた場所を後にした。
「また、来たのか?」
「今日はババロアだよ」
「菓子で釣ろうとしなくとも良いのに…まあ、戴くが」
言葉とは裏腹に嬉しそうにいそいそとババロアを片手に奥へと引っ込むとお茶の用意を始めるノア。
「素直じゃないな」
「何か言ったか?」
その辺に座りながらお茶を待つジュール。積まれてあった本の一冊を手に取り、パラパラと捲っていく。
「ジュール」
「ん?」
お茶をジュールの目の前に置き、自分もその辺へと座るノア。
この家と言うよりは書庫となっている場所に置かれてある書物の数々は冒険譚であったり、過去を紐解く上で重要になるだろう歴史を綴ったものや大昔の生活が垣間見える古い日記などと多岐に渡る。
そんな中でジュールが手に取ったのは古い聖典だった。嘗て女神と共にあったノアの一族が記述されている。
遠い昔、母親から寝物語として聞かされた物語。懐かしく思い、それをパラパラと捲る音をさせながら流し読みしていくジュール。
「吾は………」
話し出そうとして、言葉が出てこないノア。今までの雰囲気とは違う事を察したジュールが文書を追っていた目を上げ、ノアへと視線を移す。
「吾は汝が来るのを楽しみにしている。だが、汝には汝の生活がある。それは分かっておるのだが、汝が此処を出て行く時、吾は確かに寂しいと感じるのだ」
「……」
「悠久を生きた吾の両親はもういない。生まれた時から一人だった我には寂しいや悲しいといった感情は無かった。汝と共に時間を分かつようになればなるほど寂しいと言う感情が大きくなるのだ。我はもう一人は嫌なのだ。汝でなくとも良い…誰でもいい。我と共にいてくれる者は居ないか?」
「やっとか」
「ぬ?」
開いていた本を閉じ、傍らへと置くとジュールはノアへと向き直った。
「寂しいだとか孤独だとかと感じていないのかと思っていたら、一人だったからそんな感情を置きざりにしていただけなんだね。良いよ。私では一緒にいる事は難しいけれど、今度次代が遣って来ると神託が下ったんだ。守護者の一人にノアを選ぶよ。女神様の話だと優しく、飽きない少女だとか…きっとノアの事を頼って、傍に居てくれるよ」
「では吾は此処を出るのか?」
「慣れ親しんだ、この家を出るのは怖いかい?寂しいかい?」
「いや、汝がいる。何より吾を必要としてくれるだろう次代に胸が踊るのだ。どんな少女なのだろうな?」
「そっか」
人懐っこく笑うジュールの笑みに吊られるように笑ったノアの笑顔はとても美しく、可憐だった。
「じゃあ、荷造りする?」
「持つべき物など何もないのでな。この身一つあれば良い」
「そう?じゃ、行こうか」
こうして、孤独なノアはジュールによって殻を破るかの如く、生まれた場所を後にした。
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