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第一章ヒューマニ王国編
熊団長
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歩くスヴェンさんの腕の中で大人しくしている私はぼんやりとスヴェンさんの茶色の短髪を観察していた。固そうだと思った髪はそうでもないのか歩く度にふわふわとし、寝癖があるのを大発見した。それがぴょこぴょこと動くのでなんだか楽しくなってしまい、キャッキャッと笑うとスヴェンさんが不思議そうに覗き込んだ。
「えらい上機嫌だな。どうした?」
私の両頬を片手で摘まむと唇からぷきゅっと可愛らしい音がなった。
「ふはっ」
思わずといった風に笑ったスヴェンさんの素の笑顔は大変眼福ものだった。笑うとワイルドさが抜けて子供っぽくなるのだ。
また頬を挟もうと迫る手を阻止し、にぎにぎしてみると大変固かった。
大人の力に敵う筈もなくまた頬を掴まれ『ぷきゅっ』と音がなってしまった。
「これは第四騎士団副団長カイル様、スヴェン様、お帰りなさいませ」
スヴェンさんとカイルさんが着ている服に酷似した服を着た人が敬礼をしている。
今、騎士団って言った?副団長って言った?なんとなく強盗とか盗賊じゃないとは思ってたけど騎士だったんだ。だからスヴェンさんの掌が固かったんだね、納得。
門番らしき人の前を通り、回廊みたいな所を通り運動場みたいな場所に出ると建物を目指して歩く。もう、色々と目新しいものがあって処理が追い付かない。
建物内の奥まった位置にある両扉の前まで来ると控えめな力でノックする。すると扉の奥から応えが返ってくる。
「誰だ?」
「カイルとスヴェンです」
「入れ」
落ち着いた重低音な声に年の頃は四十代位かな?と予想する。
入ってみるとどうやらそこは執務室のようで、大きな窓の前に大きな執務机が置かれ、これまた大きな熊みたいな男の人が座っていた。
サインしていた書類から顔を上げた熊さんはグレーの髪に茶色の瞳、右目には大きな傷がある。屈強な戦士の風貌をしているが、瞳と雰囲気はどこまでも静かで少し気圧される。
「走り込みにしては遅かったな」
「はい、申し訳ありません。子供を保護しておりました」
「ふむっ」
カイルさんの言葉に立ち上がった男性が此方へとやってくると私を覗き込んだ。
「なんとも綺麗な赤子だな」
「はい、どうやら竜人の子のようですが親が見当たらず、遺棄されたのではないかと」
「彼の国がそんな事をする筈はないのだがな。それにしても…泣かんな」
顎に手を当てて首を傾げている熊さんを見上げ、なんでそう思ったのかと問いたい。
それと後半の声が小さく呟いたようだったけどバッチリ聞こえてた。多分、この熊さんみたい顔と大きな体からの圧力で大抵の子供は泣いちゃうんだろうね。
私は普通の子じゃないから泣かないけどね。私にしてみれば雰囲気は静かで落ち着いてるし、瞳は穏やかだもの。すると案外早く私の疑問は解消された。
「そうっすよね。竜人達の出生率が少ないから生まれた子はある程度大きくなるまで外には出さないって言うっすからね」
そうなんだ。ところでスヴェンさんよ、その言葉遣いは敬語ではないぞ。目の前の熊さんは多分上司でしょ。
「それでなんで連れてきた?」
「最初は乳飲み子を養っている女性から乳だけを貰って後は孤児院にでも預けようかと思ったのですが、飲んでくれず途方にくれておりました。そこに竜人だと言う情報と強い魔力しか受け付けないと助言頂き連れて参りました」
「まあ、騎士団では強い魔力は期待できんが、宮廷魔術師達がいるからな。そっちに期待するか」
「はい、そこで団長に話を通して頂きたいのです」
「ま、面倒だし、このまま行くか。どうせ用事もあるし」
話が纏まったのか三人は執務室を出た。やっぱり熊さんはカイルさんとスヴェンさんの上役で団長と言う立場だった。
「えらい上機嫌だな。どうした?」
私の両頬を片手で摘まむと唇からぷきゅっと可愛らしい音がなった。
「ふはっ」
思わずといった風に笑ったスヴェンさんの素の笑顔は大変眼福ものだった。笑うとワイルドさが抜けて子供っぽくなるのだ。
また頬を挟もうと迫る手を阻止し、にぎにぎしてみると大変固かった。
大人の力に敵う筈もなくまた頬を掴まれ『ぷきゅっ』と音がなってしまった。
「これは第四騎士団副団長カイル様、スヴェン様、お帰りなさいませ」
スヴェンさんとカイルさんが着ている服に酷似した服を着た人が敬礼をしている。
今、騎士団って言った?副団長って言った?なんとなく強盗とか盗賊じゃないとは思ってたけど騎士だったんだ。だからスヴェンさんの掌が固かったんだね、納得。
門番らしき人の前を通り、回廊みたいな所を通り運動場みたいな場所に出ると建物を目指して歩く。もう、色々と目新しいものがあって処理が追い付かない。
建物内の奥まった位置にある両扉の前まで来ると控えめな力でノックする。すると扉の奥から応えが返ってくる。
「誰だ?」
「カイルとスヴェンです」
「入れ」
落ち着いた重低音な声に年の頃は四十代位かな?と予想する。
入ってみるとどうやらそこは執務室のようで、大きな窓の前に大きな執務机が置かれ、これまた大きな熊みたいな男の人が座っていた。
サインしていた書類から顔を上げた熊さんはグレーの髪に茶色の瞳、右目には大きな傷がある。屈強な戦士の風貌をしているが、瞳と雰囲気はどこまでも静かで少し気圧される。
「走り込みにしては遅かったな」
「はい、申し訳ありません。子供を保護しておりました」
「ふむっ」
カイルさんの言葉に立ち上がった男性が此方へとやってくると私を覗き込んだ。
「なんとも綺麗な赤子だな」
「はい、どうやら竜人の子のようですが親が見当たらず、遺棄されたのではないかと」
「彼の国がそんな事をする筈はないのだがな。それにしても…泣かんな」
顎に手を当てて首を傾げている熊さんを見上げ、なんでそう思ったのかと問いたい。
それと後半の声が小さく呟いたようだったけどバッチリ聞こえてた。多分、この熊さんみたい顔と大きな体からの圧力で大抵の子供は泣いちゃうんだろうね。
私は普通の子じゃないから泣かないけどね。私にしてみれば雰囲気は静かで落ち着いてるし、瞳は穏やかだもの。すると案外早く私の疑問は解消された。
「そうっすよね。竜人達の出生率が少ないから生まれた子はある程度大きくなるまで外には出さないって言うっすからね」
そうなんだ。ところでスヴェンさんよ、その言葉遣いは敬語ではないぞ。目の前の熊さんは多分上司でしょ。
「それでなんで連れてきた?」
「最初は乳飲み子を養っている女性から乳だけを貰って後は孤児院にでも預けようかと思ったのですが、飲んでくれず途方にくれておりました。そこに竜人だと言う情報と強い魔力しか受け付けないと助言頂き連れて参りました」
「まあ、騎士団では強い魔力は期待できんが、宮廷魔術師達がいるからな。そっちに期待するか」
「はい、そこで団長に話を通して頂きたいのです」
「ま、面倒だし、このまま行くか。どうせ用事もあるし」
話が纏まったのか三人は執務室を出た。やっぱり熊さんはカイルさんとスヴェンさんの上役で団長と言う立場だった。
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